戦う守られるべき存在達   作:tubukko

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変質者

食堂

それは名の通り飯を食べる場所。

 

「…設備良いな?」

「そう?前からこうじゃなかったっけ?」

 

なんていうかここだけすごい。

部屋の設備がちゃっちく見える。

完璧に管理された部屋の温度。

数々のメニュー。

机1つ事には何やら機械のようなものが置いてあり、人がそこから飲み物をもらっている。

 

「いや、俺のころはまず机がこんなにきれいじゃなかった」

 

ピッカピカの机たち。

絶対に誰かこぼすことはあると思うのだが、どういうわけかそんな汚れは見当たらない。

ここにベッドがあれば完璧だ。

 

「パパ、カレー!」

 

感慨に浸っていたいが穂香は早くカレーが食べたい。

今まで我慢してきたのだ、当然だろう。

 

「分かったよ。じゃ、頼みに行きたいんだが…」

 

入り口には看板があり、メニューが豊富なのは分かる。

だが、不思議なことに売っている店が1つも見当たらない。

あるのは立ち食い蕎麦屋などにありそうな自販機だ。

メニューを押すとチケットらしきものが出てきてそれを店の人にあげて初めて作り始めてくれるはずなのだが…。

 

「正兄もカレーにする?」

「あ、ああ。そうする」

「じゃ、ここは空気を読んで私もカレーっと」

 

自販機の前で3人分のカレーを購入する。

勿論そこからカレーが出てくるわけではない。

3枚のカードが出てきた。

それを持ったまま、席に着く。

 

「嬉々、注文はどうすれば?」

「ここにカードを読み込ませるの」

 

テーブルの下にカードを差し込む部分が見える。

 

「ここか?」

「そう、入れてみて」

 

カードを入れると奥にのみこまれていった。

赤くついていたランプが緑色に変わる。

 

「あとは待てばいいの」

「…何でここだけこんなに発展してるんだ?」

「さぁ?それは気になってたけど誰も理由は知らないの」

「へぇ…」

「カレーまだ?」

「穂香ちゃん…、まだ1分経ってないよ?」

 

ここにきて、穂香の子供らしさがさらに発揮されているような気がする。

外にいた頃が少し大人すぎたのだ。

 

「ようやく子供らしくなってきたな」

「ん?」

「外にいた頃は寝る時以外、もう少し大人に見えていたが…、やはりその年ならそれくらい甘えるべきだな」

「褒めてるの?」

「好きにとれ」

「えへへ…」

 

褒めてるととったようだ。

無邪気に笑う。

この顔を見るたんびに正影は頭をなでたくなる。

いや、なでる。

 

「…昔はこうされてたんだね」

「またやってやろうか?」

「いいよ。さすがにこんな年に、しかも公衆の面前じゃ恥ずかしい」

 

人が少ない(今6時過ぎ)とはいえ、無人ではない。

まぁこれが普通だろう。

 

「風呂は普通に入ったのにそれは嫌なのか」

「人の目があると無いとではわけが違うの」

 

まぁ、そういうもんだろう。

確かに人の目は怖い。

何を言われるかわかったもんじゃないし誤解を招く恐れもある。

 

「カレ~、3つ~、持ってきたよ?」

「ああ、美嘉《みか》ちゃん。ありがとう」

「…この2人誰~?見覚えな~い…」

 

ゆっくりとした喋り。

身長はどちらかといえば高い。

そしてロングヘア―。

 

「…お前、本当にここで働いてるのか?」

「嬉々~、このしつれーな人、彼氏~?」

「お兄ちゃんよ。前から言ってたでしょ?正兄よ」

 

それを聞いてふわっとしていた美嘉の雰囲気がピタッと止まる。

理解できてないようだ。

 

「…へ?」

「だから、10年ぐらい前にいなくなった私のお兄ちゃんだよ」

 

怪訝な顔をして正影を見る。

まぁ、嬉々が言っていることが合っているならロスということになるから無理もない。

ありえないと思っているに違いない。

 

「…嬉々、冗談が過ぎるよ?この人困ってるんじゃない?」

「正兄、何か言ってあげて」

「初めまして。嬉々の兄をやってます、正影です」

「…」

 

目をぱちぱちと繰り返す。

頭の中は今ごっちゃごちゃになっているのだろう。

 

「証拠」

「は?」

「ロスである証拠。何かないの?」

「…これでどうだ?」

 

手に刀を出現させる。

ロストチルドレンにしかできないはずの特権だ。

 

「これはロスにしかできないでしょ、美嘉」

「…」

「美嘉?」

「これは驚き~」

 

口調が元に戻っている。

 

「信じてくれた?」

「信じるも何も~、これ見せられたら反論な~し。でも、なんで~誰も騒いでないの~?」

「教えてないからじゃないかな?まだ明季さんとか司令にしか会ってないでしょ?」

「そうだな。確かに話した人は少ないな」

「パパ!カレー、食べていい?」

 

パパという言葉に反応して美嘉の視線が穂香の方に移る。

 

「…子持ち」

「養子だからな」

「つまらなーい…」

「お前は会って早々の俺に何を期待したんだ?」

「生々しいはなし~」

「そんな話はない。仮にあったとしてもこの子の前では話せないな」

 

穂香の頭に手を置く。

最近、これが普通になり始めた。

 

「パパ、これおいしい!」

「そうか、たくさん食べろよ」

「うん!」

 

と、正影が気づく。

美嘉がじーっと穂香を見ている。

 

「…どうした?」

「はっ!つい、かわいー幼女を見ると涎が」

「…変なだけでなく、変態だったのか」

「とりあえず、じこしょーかいする。私、美嘉~、よろしく~」

「改めて正影だ。こいつは穂香。よろしくな」

「よぼしぐ!(よろしく!)」

「ああ…、その口にたくさん食べ物を含んでる姿もかわいい…」

 

もう、こいつの方向性が見えない。

ゆっくりな話し方がなくなったと思ったら、次は穂香に対する変な愛情。

正影も穂香と同じくカレーを食べ始める。

 

「美嘉、とりあえずゆっくりなしゃべり方やめたら?また、元に戻ってるわよ?」

「え、ええ!?…また失敗かぁ…。これはやりやすいと思ったんだけどなぁ」

 

作ってたのか、そのキャラ。

 

「もう変態でいいじゃない。十分強いキャラだと思うけど」

「なっ!私は変態じゃないよ!」

「穂香ちゃん、こっち向いて」

「ん?」

 

口の周りにカレーをつけた穂香が顔を向ける。

この年なら普通は食べ方もきれいなはずだが、環境が環境だったので箸もいまいちうまく使えない。

 

「人生最大の幸福ー!!!」

「(こいつは穂香と2人きりにはしないようにしよう)穂香顔中カレーだらけじゃないか。どうやったらこうなるんだ?」

「こうやったら!」

 

スプーンをほとんど使わず、口を皿に近づける。

いわゆる犬食いだ。

 

「スプーン使えよ」

「こっちの方が早く食べれるもん」

 

確かに早い。

正影や嬉々は話していたとはいえ、まだ結構残っている。

穂香のはもう残ってないのと変わりない。

 

「ごちそうさま!」

「とりあえず顔ふけ、ほら」

 

ティッシュを渡され顔を拭き始める。

…。

 

「なんでお前、まだいるんだ?」

 

美嘉が話も終わったのにまだ近くにいる。

目線は勿論、穂香に行っている。

 

「目の保養を…」

「お前は穂香から半径3m離れろ」

「なんで!?」

「保護者としてお前が危険だと感じた。ただそれだけだ。ごちそうさま」

 

正影もさっきまであったはずの多量の飯を平らげ立ち上がる。

 

「嬉々、俺は穂香と部屋に戻るぞ」

「疲れてるでしょ?正兄は少し休まないと」

「ああ。今日は帰ったら早いがたぶん寝る」

「分かった。じゃ、正兄また明日」

「ああ」

 

正影が穂香を連れてその場を後にする。

 

「…嬉々、いいの?」

「なにが?」

「10年ぶりなんでしょ?積もる話だってあるんじゃないの?」

 

美嘉は嬉々の心情をなんとなく察していた。

ここで働いていると求めなくてもいろいろな人の情報が入ってくる。

そんな中、嬉々は基本正影について話していた。

だから正影に対する思い入れは強いはずなのだ。

 

「…話したいことはあるよ。でも、いざ話すとなるとなんか難しくて」

「難しい?」

「今までで嬉しかったこと、苦労したこと、悲しかったこと、そして友達のこと、今の環境のこと、他にもまだまだある。でも、いざ話すとなるとなんかごっちゃまぜになっちゃって…」

「…」

 

言いたいことは分かる。

今までの出来事を厳選して話したくてもそれでもかなり膨大。

支離滅裂になりかねない。

 

「嬉々は、それでいいの?」

「うん。話したいことはある。でも、今は正兄が帰ってきてくれた。一緒にいてくれる。それだけで十分」

「…そう。嬉々がいいっていうなら良いんだけど。じゃ、私仕事に戻るから」

 

仕事場に戻ろうとして

 

「美嘉」

 

嬉々に呼び止められる。

 

「…心配してくれてありがとう」

 

それを聞くと、美嘉は何事もなかったかのように仕事場に戻っていった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

ある人が走っている。

きれいに赤い絨毯がしかれた廊下を。

その先にあるのは

 

「司令!」

「なんだ、青羽。廊下は歩けと言っているだろう」

 

ラグフィートの職場だ。

広い部屋の中に高そうな机が1つ。

 

「プロディターが、出現しました!」

「そうか」

 

青羽がこんなに焦っているのに、ラグフィートはいたって冷静だった。

 

「放置で構わん。こっちはアクリス菌保有者を手に入れた。適当にプロトでも向かわせておけ。わざわざ危険を冒して手に入れようとしなくても―――」

「違います!そういうことではないんです!」

 

青羽が叫ぶ。

近くにいるのだから叫ばなくてもと思う。

 

「だったらなんだ?」

「エリア57のアルツェがやられました!」

「何!?」

 

その言葉を聞いてラグフィートが立ち上がる。

以前、日本と呼ばれていたこの土地には多数アルツェが存在する(今も民間人は日本と呼ぶ)。

今までつぶされたアルツェは2つ。

どちらも敵の数が多く、救援要請をしてきたが間に合わなかったのだ。

基本は防げる。

そんなアルツェがプロディターという規格外相手とはいえ、1体に落とされたのだ。

驚くのも無理はない。

 

「間違いないのか?」

「今、確認のため、ヘリを向かわせていますが信頼できるスジからの情報です。間違いないかと」

 

要塞《アルツェ》にも勿論、設備上耐久度に違いはある。

だが、それでも要塞といわれるほど強固な壁を保有していることに変わりはない。

その壁が破られたのだ。

 

「現在、プロディターの状況は?」

「エリア57のアルツェを崩壊させた後、消滅。現在は所在をつかめていません」

「リレグめ…。もう動き始めたのか」

「は?」

「いや、なんでもない。こちらの話だ」

 

ラグフィートはモニタールームに向かう。

青羽が後ろに着きながら現状報告する。

 

「でも…、なんでエリア57のアルツェなんだ?」

「私たちも調べていますがそれは全く…」

「あそこに何か重要なものは?」

「いえ…、いたって普通のアルツェでした。特にこれといった噂もなく」

 

圧倒的に情報が足りなかった。

ただでさえ解明されてない、謎のオスだ。

そして消えたり現れたり出来る規格外な力を持つ。

 

「…まだ来ないことを祈るしかない」

「何か策が?」

「確実ではないがな」

 

 




みなさん、読んでくれてありがとうございます。
2,3話ほど戦いが無い状態が続いてますね…。

できる限り早く戦場に戻したいと思っているので、そちらを期待してくれている読者の方々はもう少し待ってください。


これからもよろしくです!

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