戦う守られるべき存在達   作:tubukko

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「報告は以上です」
「そうか」

フラテッドがリレグに今回の報告をしている。
勿論ロスである正影を逃したことについてだ。

「申し訳ありません」
「いや、今回のはどうやっても無理があった。仕方ないし、機会はいくらでもある」

しかし、リレグはまだあきらめていなかった。

「何としても捕まえてみせます」
「ああ。期待しているぞ」

それを聞くとフラテッドはその部屋を後にした。

「…No.5正影。この時期に出てくるとは、幸か不幸か…」


無反応

目の前にいるのは自分より少し身長が小さいくらいの女子。

特徴が何かあるわけではなく、普通の女子。

それでも、雰囲気とその言葉があれば十分だった。

 

「嬉々…なんだな?」

「本当に、正兄?」

 

おそらくあちらから見ればいなくなったあの日と全く変わらない兄が立っているのだろう。

ペタペタと一歩一歩を踏みしめるかのように近づく。

正影からすれば嬉々の外見は別人。

ちょうど成長期を通ったのだから無理もない。

 

「あ、…ああ」

 

やがて2人はあと一歩というところまで近づく。

嬉々は何か言いたいのだろうか、口のみを動かしている。

 

「嬉々…、ただいま」

 

それを聞いて嬉々は止まる。

そのあとは正影の胸に飛び込み泣き出す。

10年以上待っていた人が帰ってきたのだ。

無理もないだろう。

 

「本当に…、正兄なんだね?」

「悪かったな、10年以上帰ってやれなくて」

「う、ぅぅ…」

 

再び泣き出す。

兄妹の再会という感動のシーンだ。

だが

 

「正影、取り込み中悪いが案内をさせてほしい。私は時間が押してるの」

「あ、ああ。悪い。ほら嬉々、泣き止んでくれ」

「う…うん」

 

明季の顔に遠慮という文字は書かれていなかった。

本来ならこんなところで時間だからなんて理由で中断させる奴は少ない。

まぁ、これもエスパー?である彼女だから出来ることだ。

 

「感動の再会は部屋に案内した後にして頂戴。この餓鬼に教えてもいいんだけど心配だから」

「餓鬼じゃない!私は穂香!」

「…ともかく、案内するわ。嬉々といったわね?あなたも来なさい」

 

嬉々は正影にぴったりとくっつきついていく。

穂香は場所を取られたと、少し不機嫌だったがここは空気をよんでくれた。

エレベーターに乗り、降りるとすぐに正影の部屋に着く。

 

「あなたの部屋はここよ。それといま、ここの施設の部屋の鍵は指紋認証になってるから」

 

明季が指さす方向に指をあてる部分であろう機械的な部分が見える。

外からの見た目はただの強固な軍事要塞だったというのに少しは発展しているようだ。

 

「そこに指をあてて頂戴。だいたい5秒」

「こうか?」

 

指をあてると5秒後

 

『登録を確認しました。ごゆっくり』

 

そう聞こえると、部屋の扉が開く。

 

「穂香、あなたの指紋認証はまた後でにして。ここはもともと1人用の部屋だから2人分の登録をするにはシステムを少し変更しないといけないの」

「分かった」

「じゃ、また後で来るわ」

「ああ。ありがとな」

 

明季はエレベータに戻り、そこを離れる。

 

正影は部屋に入っていった。

これといった荷物はないため別に荷物を置いたりはしない(以前あったかばんはペリコラムに放置)。

部屋にはそれなりの家具がそろっていた。

6畳と2人で住むには少々狭いような気もするが屋根もあり、壁もある。

風呂やトイレだってあるし、これなら文句は言うまい。

そして…

 

「ベッドだぁ!」

 

ふかふかのベッド。

走っていく穂香を正影が止める。

 

「パパ、なんで?」

「俺たちどのくらい体洗ってないか知ってるか?」

「集落で水浴びくらいはしたよ?」

「それを含めてもあの危険地帯を走ってきた。それに汗もかなりかいたし体は砂だらけ。そんな状態でベッドに寝せるわけないだろう」

「ええぇ…。じゃあどうするの?」

「まず風呂に入ってこい」

「はーい」

 

穂香が風呂場に入り部屋に2人、嬉々と正影が残る。

 

「…」

「…」

 

いざ、こう2人にされると気恥ずかしい。

 

「正兄」

「ん?なんだ?」

「結婚したの?」

「…会って早々、なかなかすごい質問だな」

 

だが、これくらいはじけたほうが話しやすい。

 

「だってあの子、パパって」

「養子だよ。正式じゃないけどな」

「相変わらずのロリコンだね」

「お前は俺のこと、ロリコンだと思ってたのか?」

「5年位前から」

「…俺がいない間に?」

 

妹にいざロリコンといわれると少しへこむ。

もはやシスコンでもないのか。

しかも、正影がいない間にその結論に達するって…。

 

「でも大丈夫。私もブラコンって言われたから」

「なんでだ?」

「…ずっと、生きてるって信じて、みんなに話し続けたからだと思う」

「…すまなかった」

 

嬉々の暗い顔。

今でも鮮明に覚えている。

正影からすれば1ヶ月たっていないのだから当然だ。

 

「ううん。別に正兄が悪いわけじゃないんだから。それに、本当に帰ってきてくれた。嘘をつかなかった」

「覚えているのか?」

「あの日の言葉を信じたから生きてると思ったの。もし何も言ってなかったら死んでると思ってたかもね」

「…つまり、そんな長い間俺はお前を縛り付けていたのか」

 

ロリコンとは言ったが、別に欲情している変態ではない。

妹思いなだけなのだ。

 

「何言ってるの!縛りつけてなんかない。その言葉があったから私は生きてこれたんだよ。その言葉がなきゃ…」

「…そうか。ともかく元気でいてくれてよかった、しっかり成長しているみたいだしな」

「そりゃ私だって10年もあればこれくらいになるもん。いつまでも子供ってわけじゃないんだから」

 

先ほどは普通で特徴がないといったが胸。

Dはあるだろう。

 

「…本当に成長したな」

「この10年の間に本当にロリコンになったの?」

「いや、今のセリフはこの場を笑いで盛り上げようと…」

「女子に男子がその話題を振るのはよくないと思うけど」

「そうか?以後「パパぁ!これ何?」」

 

突然、びしょ濡れの穂香が風呂場から出てくる。

片手にボディソープを持っている。

 

「どうした?」

「これ押したら何か出てきたの!で、体中につけたんだけど髪の毛がガチガチになったの!」

「…そりゃそうなるだろ。シャンプーはなかったのか?」

「似たような入れ物はあったよ?」

「…お前シャンプーとかリンスって知ってるか?」

「なにそれ?」

 

知らないらしい。

仕方ないといえばそうなのだが油断していた。

 

「知らないのか…。仕方ない、俺も入ろう」

「わーい!」

 

喜ぶ。

普通の家庭の事情は知らないが、9歳の女の子となればそろそろ父との風呂は嫌がる年ごろではないだろうか、と正影は思う。

 

「嬉々、悪いが話はまた今度に…って何脱いでるんだ?」

「正兄お風呂入るんでしょ?私も久しぶりに」

 

こっちは16。

もう完璧に離れている年だと思うが…。

 

「穂香、3人入れるか?」

「ちょっと狭いけど何とかなると思う。パパの妹だよね?」

「初めまして、私は嬉々」

「穂香っていうよ。よろしく」

「よろしくね。さぁ、早く入りましょ。正兄は今日はラッキーだね」

「まぁ、帰ってこれたしそうなのかもな」

「…そっちじゃないんだけど。っていうか全然恥ずかしがらないし」

 

3人は風呂に入る。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「やっぱりいいな。体が洗えるってのは」

「…」

「布団ふかふか!」

 

風呂から上がり、ゆっくりしている。

1人用の部屋だったので、椅子もベッドも1つずつしかない。

正影は椅子に、穂香と嬉々はベッドに座っている。

穂香はテンション高めなのだが、嬉々は少し落ち込んでいる。

 

「嬉々、どうした?」

「いや、…なんかちょっと自信なくした」

「何のだ?」

「自分の体の」

 

風呂に入ったとき、嬉々は体をタオル等で隠すことはなかった。

少し、正影を試すという意味も含めてだ。

自分の体には自信があった。

肌だって結構きれいなほうだし、スタイルもいい、そして胸。

ナルシストとは言われたくないが、少なくともブサイクなんかではない。

良いほうのはずだ。

 

しかし…

 

正影は全く無反応だった。

はじめ、脱ぎ始めた時も全く動じなかったので少し危険視していたがまさかここまでととは…。

目はいやらしくないし、恥じらうようなしぐさもない。

いくら妹だといってもこれはないだろう。

普通に体を洗って、風呂を上がった。

 

「いや、スタイルは良かったじゃないか。十分女らしいよ」

「あの反応でそう言われても…」

「妹に欲情するほど腐ってないということだ」

「だからって…、少しくらい何かあってもいいじゃない」

「考えておくよ。…それより、1つ話がある」

 

簡単に話をすり替えられた。

嬉々にとってはかなり重要な話だったのだが正影からすればそれ以上の話らしい。

 

「何?」

「…お前、年は?」

「16歳」

「俺は15だ」

「…どういうこと?」

 

嬉々にはまだ事情を話していないので理解できない。

ここで、正影は今まであったことを話す。

タイムスリップ。

集落。

レアさんたち。

すべてのことだ。

 

「…だから全然変わってないのね」

「本来なら26だが残念ながら俺はまだ15だ。で、ここで問題がある」

「何?」

「今の年から考えればお前は俺の妹ではなく、姉だ」

 

妹と姉では接し方が変わる。

少なくとも正影の中では。

 

「どういう立場で接するべきかと思ってな」

「成程。私が今では正兄の姉なのね。そしたら正兄はおかしいかな?正…弟?」

「いろいろと変わる必要があるかもしれないからな。どうするべきかと思ってな」

 

嬉々は少し難しい顔をしたがすぐにやめる。

 

「私は変わらずいつも通りがいいな」

「そうか、お前がそういうならいいんだが」

「今までお兄ちゃんとして接してきたのに弟に代わるのは変な感じだし。それに正兄は雰囲気的にも私より大人だよ」

 

確かに雰囲気は正影の方が年上。

いや、ちゃんとした弟にす少しはっちゃけた姉だっている。

…漫画の世界には。

 

「あっ!」

 

ここで嬉々が何か思い出したらしい。

 

「どうした?」

「ちょっと待ってて!」

 

部屋を出てどこかへ行ってしまった。

 

「嬉々さん、どうしたの?」

「さぁ?」

 

 

 

~5分後~

 

 

「ただいまぁ!」

 

元気よく声がし、扉が開く。

 

「鍵はどうした?」

「ちょっと開けて出ていきました」

「…で、なにを持ってきたんだ?」

「これ!」

 

手にココアの元になる粉を持っている。

 

「あの時の…!」

「今作るからね、穂香ちゃんも待ってて」

 

作ると言ってもお湯を沸かしてただ混ぜるだけなのだが…。

 

「パパ、あれ何?」

「ココアっていう飲み物だ」

「おいしい?」

「甘くておいしいぞ」

 

すぐにココアが出来上がる。

正影からすれば2週間ほどかがなかっただけの匂いなのだがとても懐かしい。

 

「穂香ちゃん、熱いから気をつけてね」

 

甘い香り。

まず一口。

甘さが体に染み渡る。

 

「…うまいな」

「相変わらずコーヒーはダメなの?」

「さっきも言った通り、おれタイムスリップみたいなことしたんだぞ?あんな苦いもの無理だ」

「そこだけは子供だね」

 

穂香も一口飲む。

 

「…甘い!」

 

荒廃した土地で生活してきたのだ。

チョコレートだって手に入るのは苦労しただろうし、もしかすると食べたこともないかもしれない。

 

「私これ好き!」

「なら今度パパに買ってもらいなよ。売ってるから」

「パパ!」

「…ココアくらいだったら構わない」

「わーい!」

 

夢中で飲み始める。

 

「これからお金かかりそうだな。っていうか俺一文無しだぞ?」

「働けばいいよ。仕事のことなら教えてあげるよ。正兄なら遠慮なく仕事を選べるだろうし」

「ここは自分で仕事を選べるのか?」

「そうなんだけど…、詳しいことはまたその時に教える。仕事がしたくなったら言って」

「分かった」

 

ココアを飲みながら談笑。

ペリコラム付近をさまよっていたころでは考えられないことだ。

 

「おかわりある?」

 

穂香がココアを飲み終わり、おかわりを要求。

 

「あるけど…、夕飯食べられなくなっちゃうよ?」

「夕飯…カレー!」

 

ここで穂香はカレーのことを思い出す。

 

「ここカレーあるよね!?」

「あ、あるよ」

「パパ、私カレー食べたい!」

 

穂香のもっとも願っていたことだ。

 

「今何時だ?」

「6時。ちょっと早いけど…穂香ちゃんは食べたいみたいね」

「かねてからの願いだったからな」

「パパ、早く行こうよ!」

 

すでにベッドを降り、正影の服の裾をつかみ引っ張っている。

 

「…金はかかるか?」

「私が払うわ。せっかくだし場所も教えるわ」

「妹に払わせるわけには…と言いたいところだが、ここは頼もう」

「ならついてきて。案内するわ」

「カレーだぁ!」

 

穂香のテンションが高い中、3人は部屋を後にした。




「報告は以上です」
「そうか」

青羽がラグフィートに今回の正影救出についての報告をしている。
しかし、青羽の顔は浮かばない。

「司令…なぜ上層部に報告をしないのですか?規定違反になりますよ」
「私には私なりの考えがある。嫌なら報告しても構わん」
「…卑怯です」

ラグフィートはロスのことを上層部には隠した。
彼女自身十分上の方にいるがそれでもロスのことを言えば彼女にそれを扱う権利はなくなる。
しかし、彼女はあることに使いたかった。
強い人材を欲していた。

「安心しろ。証拠なんてない。いくらでも嘘を通せる」
「…それはさすがに無理ですよ」
「知ったことか。それにそれだけ危険を冒してもやりたいことがある」
「それは?」
「内緒だ」

でも、分からない。
青羽には理解できない。
ロスを手元に置いたって実際良くなるのは討伐の要領だけだろう。
そんなことだけのために危険を冒す?
危険もなく、研究材料として使ったほうがいいに決まっている。

「オーロワームの件でしたらプロトを増やせばいいのでは?」
「いや、あんなどうでもいい事は私は気にしていない」
「となると、裏切者《プロディター》のことでしょうか?」
「それには一理あるな」

つくづくわからない人だ。
青羽はこの人に一生ついていくと決めているが未だに理解できない。

「分かりました。これ以上は今は言及しません」
「これからもお願いしたいのだがな…」
「で、どうするんです?おそらく上層部にしばらくは伝わらないかもしれませんがここのプロトはほとんどが事情を知ることになりますよ?」
「ここのプロトが知る分には問題ない。そしてあの馬鹿どもはしばらくはここに来る予定はない。その間に考えておく」

馬鹿どもとは上層部の人間だ。
こことは違う場所に住んでいて、ここよりも技術が発展している。

「頼みますよ?」
「いざとなればクーデターでも起こすつもりだ」
「冗談ですよね?」
「どうだろうな」

やりかねないのがラグフィート。
それをある程度制限しているのが青羽だ。

「では、私はこれで」
「ああ」

青羽がかすかな不安を残しながらそこを去る。
1人になったラグフィートはつぶやく。

「さぁ、始めるぞ…リレグ」

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