「同じことを二度も言わせるな。作戦は変更。目的をある人物の救出に変える」
明季《あき》は変えられた作戦の内容を聞いて耳を疑った。
彼女たちは討伐を得意とする精鋭の討伐部隊だ。
そんな奴らに人の救出?
「…恐れながら指令。私たちは討伐部隊。人の救出は救護部隊に任せるべきかと」
「お前たちが一番近い。そいつは今ペリコラムでオスと交戦中だ。救護部隊を向かわせていては命がない。理論上通りならば何の問題もないはずなのだがな」
「…それはいったいどういうことですか?」
「確証はないが、救出するべき対象はロストチルドレンだ」
その言葉を聞いて大きく目を見開く。
「済まないが詳しい確証はない。だからその確認も含めてお前たちに向かってもらいたい。もしロスならば、ここで捨てるわけにはいかない」
「…分かりました」
「作戦の行動はお前に任せる。何としてもロスならば連れて帰れ。以上だ」
通信が切れる。
「どうしたんですか?驚いた顔をして」
隣にいた女の子に話しかけられる。
「…今から言う。みんな聞いてくれ」
寝ていた者、本を読んでいた者、遊んでいた者、それぞれがそのかけ声と同時に明季のほうを向き真剣な顔になる(あくび等もいる)。
「作戦内容が変更された。新たな作戦内容はある人物の救出だ」
全体がざわめく(大した数はいない)。
「この対象を救出し次第、作戦は終了だ」
「…なんで俺らがたかが一般市民の救出なんてしなくちゃなんねぇんだよ?」
「最もな疑問だ。答えは、そいつがロストチルドレンという可能性があるからだ」
さらにざわつく。
どこに行ってもこの反応は変わらない。
「私も詳しくは知らされていないが今それは関係ない。私たちは作戦の遂行には関係ないからな」
不満がある者もいるようだが全員が黙る。
「開始は5分後。そこから足でそこまで向かう。準備しろ!」
全員がそれぞれの武器を手に取り出し始めた。
「おおおおおおおおお!」
後ろから爆発音のような音が聞こえる。
1つではない。
5,6つ…、まだ増え続けている。
「こないで…よ!」
さらにそれに対処するための銃の発砲音。
その音はやむことなく、常に聞こえる。
正影と穂香は走り続けていた。
危険地帯の象徴である豪華客船を抜いてすぐ、敵は現れた。
初めに現れたのはクモ型のオス。
大きさは40m級はいっていた。
これくらいなら正影も対処できた。
しかし、すぐに後ろに増援を確認。
ありえないスピードでオスが現れ、あっという間に4体もの40m以上のオスが出現。
それでもこいつらを倒してあとは楽になるというのなら、正影は倒していた。
決して不可能ではない。
穂香が背中にいるため少しスピードは落ちているが、それだけ。
穂香がいて本気は出せないが、ロスの力を全開で使えば敵ではない。
多少時間はかかるが勝てるのだ。
だが、相手は無限に増えていく。
それでは勝つことなどできはしない。
だから逃げ続ける。
危険地帯を抜けるまで穂香が耐えれる速さでいくのつもりだ。
「穂香、後ろの敵の数は!?」
「1,2,3…全部で9!大きさは最低でも40mで最大60はあるよ!」
今のところ、最初を除いて後ろに出現しているのが不幸中の幸い。
足の速さに自信があるわけではないが、正影はロス。
そう簡単には追いつかれない、…はずだった。
「パパ!何か来る!」
そう言われ前を確認した後、後ろを向いた。
何かがものすごいスピードで近づいてくる。
いや、泳いでくる!?
「トビウオか!?」
それはトビウオの型を取っているオス。
しかし、あくまでトビウオなのは型だけで目は赤く体にうろこは見られない。
さっき出現した、オスと見比べると少し小さいが砂の中を水中を泳ぐようにして進み、時折地面の外に跳びはねている。
「穂香、目を狙えるか!?」
「…ごめんなさい、この状態であんな動きをされたらスナイパーでも難しい」
当然といえば当然だ。
敵が動いているだけでなく、自分自身も揺れている。
訓練を受けていない穂香にそんな環境下で小さい的を当てるように言うのは無理がある。
正影はすぐに刀を創り出す。
トビウオ型のオスは倒しておくことにした。
「穂香、援護を!」
「任せて!」
穂香から見れば狙うのは難しいはずだが威勢のいい声。
正影はスピードを少し落とし、トビウオが近づいてくるのを狙う。
すぐに隣についてきた。
正影は一歩でトビウオに近づく。
と、トビウオが地面から出てこなくなる。
これでは攻撃しようがない。
「またこのタイプか!?」
すると20mほど離れたところから相手の姿が見えた。
飛び跳ねず体を半分だけ地上に出し並走している。
「あの野郎…余裕だな」
穂香も応戦するがやはり威力が足りない。
はずれ、あたり、はずれと繰り返すがあたっても相手は無反応。
「パパ!何かしてくるつもりだよ、あいつ!」
相手の目の周りに突如、光が集まり始める。
やがてその光は一つの球体を作り上げる。
そして、そこから光線が放たれる。
正影は跳んでかわす。
光線が当たった地面から砂しぶきが上がる。
「魚のくせにレーザーかよ!」
正影は再び接近を試みるが相手はすぐに地面に潜る。
あちらは接近戦で戦うつもりはないようだ。
「あいつ、チキン野郎め…!」
「パパ、後ろの敵が近づいてるよ!」
トビウオに合わせて少しスピードを落としていたため、敵の接近を許してしまった。
再び速度を上げ離れようとするが、穂香が耐えられる速度に合わせるとどうしてもオスたちより遅くなる。
穂香がプロトでもロスでもないが故に招いた結果。
ロスの速度に一般人が合わせようものなら一般人は耐えられず死んでしまうのだ。
「…やるしかないか」
このまま逃げていても近いうちに追いつかれる。
危険地帯を抜けるのは無理だ。
「穂香、やるぞ」
「OK。私はいつでもいけるよ」
「生き延びてみせるぞ…!」
正影が走るのをやめ、オスに向かって跳ぶ。
オスたちはその行動を予測できず、正影の一太刀を許す。
クモ型が体の半分を一刀両断される。
本気は出せないため、お尻のほうはほとんど無傷だ。
それでもそのオスはそれでバランスを崩し、地面に倒れこむ。
「まず一体!」
残り9体、オスを相手にする。
――――――――――――――――――――――――――――
「すげぇ、一体切り倒しやがった」
和人はモニタールームで感心していた。
何者かは知らないがオスからしばらく足のみで逃げただけでなく、3,40mあるオスを半分一刀両断したのだ。
そこらへんのプロトでは不可能だ。
後ろでドビラの開く音がする。
「フラテッドか。見ろよこいつ、かなり面白い…ぜ?」
後ろを向くとフラテッドの他にもう一人いる。
男性のように見えるが、長い髪。
肩のあたりまである。
「リレグ様…!」
和人は立ち上がり頭を下げる。
彼らの上司にあたる人のようだ。
「そんなことはしなくていい。それより面白いとはどういうことだ?」
「はい。これなのですが…」
モニターを見せる。
一人の男が背中に女の子を背負いながら戦っているところが映し出されている。
「この状態が面白いのか?」
「いえ、こいつはこの状態で先ほどオスを1体一刀両断にしまして」
画面を変え倒れてなお、動こうとしているクモ型のオスを映し出す。
頭を真っ二つにされてもこれくらいでは死なない。
それがオゥステムだ。
「ほう…。こいつの名前は?」
「顔を見てみましたが私は見覚えがありません。新人かと」
「私にも見せてくれ」
顔をアップにする。
どこにあるカメラを使っているのかわからないがかなり鮮明な画像。
正影の顔が映し出される。
「…私は見覚えがあるな」
「本当ですか?」
「ああ…。こいつは支給武器《アルマ》は持っているのか?」
「刀、ですね。種類までは不明ですが」
「刀…」
画面を見る。
正影がまた一体斬り倒していた。
「こいつの詳細を調べておけ。こんな人材をどうやって隠していたんだか…」
「わかりました」
扉にノック音がする。
「リレグ様、報告があります!」
「急用なのか?」
「急を要します!」
「なら入れ」
扉が開き、一人の青年が入ってきた。
「先ほど討伐隊のαチームがオーロワーム討伐のため出撃」
「それくらい知っている」
「ですが、そのαチームの目的が更新されました!」
「なに?」
今、アルツェの最大の討伐対象はオーロワーム。
なかなか発信機が感知できる範囲に入らず、しかし地上で探せば間違いなく死者が出る。
だから上層部は本来この機会を逃したくないはず。
それなのにそれ以上の目的を発見した?
この危険地帯のことを一番知っているのはリレグを筆頭するこの組織。
だが、リレグはオーロワーム以上のオスを聞いた覚えがない。
「目的は?」
「ペリコラムに現れた民間人の救出となっています。表側は」
「裏は?」
「…まだ確実ではありませんが、ロストチルドレンの救出だそうです」
その言葉に3人が反応する。
ありえない話だからだ。
「お前、何馬鹿言ってんだ?」
「リレグ様の前で冗談を言う度胸があるとは大したやつだな」
「い、いえ!冗談などではありません。確実ではありませんが確かに…」
リレグが再びモニターを見る。
男、刀、容貌はおそらく日本人、そしてロストチルドレン…。
ここでリレグがようやく思い出す。
「…No.5正影」
「リレグ様?」
「お前、もう下がっていいぞ」
「はっ…!」
男がその部屋を後にする。
「リレグ様…?」
「和人、そいつは殺せ。そして死体は回収しろ」
「ま、まさか本当にこいつは…?」
「間違いない。今思い出した。私に見覚えがあり、お前にないのもこれで納得がいく」
リレグが部屋の扉の前に行く。
そして出る直前、
「そいつは昔は邪魔だったが今なら利用できる。殺せと言ったができれば半殺しが望ましい。ともかく、そいつは回収しろ」
「はい!承りました」
それを聞くとリレグは足早にその部屋を出て行った。
残った二人はすぐに行動に移る。
ロスが生きているなんて信じられないが、今はそんな疑問を持っている暇はない。
「俺は随時モニターの状況を報告する。お前は現場に向かえ」
「命令か?私に命令できるのはリレグ様のみだ」
「分かってる。だが今はそんなこと言ってる場合じゃねぇ。頼む」
「…いいだろう。準備に5分、あちらには15分で着く。それまでに準備してろ」
フラテッドもそこを後にする。
残った和人は無駄口をたたかず、急いでモニターの調整を始める。
――――――――――――――――――――――――――――――
「4体目…!」
正影がカブトムシ型のオスを斬り殺す。
残っているオスは5体。
「これなら、いけるか!?」
トカゲ型のオスが舌を伸ばしてくる。
こいつも40mはあり、こんな大きいトカゲは見たことがない。
「気持ち悪い…な!」
かわし、舌を切り落とそうとする。
が、ここで長いものが正影に迫り回避を余儀なくされる。
キリン型のオスが首を振り回してきたのだ。
「チッ!」
一度回避し、距離を取る。
敵は連係プレーを見せているわけではない。
自分たちが攻撃したいときに攻撃しているのだ。
だから仲間内で攻撃が当たったりする。
だが、オスはそんなこと気にしない。
あまりに威力が高いものに当たれば悶えたりはする。
だが、それだけ。
痛みがとれてくると正影を狙う。
敵は距離をとっても走ってくる。
正影に考えている暇はない。
迎え撃とうとする。
が、突如地響きが起こる。
向かってきていたオスたちがバランスを崩し倒れる。
「なんだ!?」
「パパ!後ろ!」
後ろに砂柱が上がっている。
砂柱の中に見える自分より大きな物体。
影と2つの赤い光が見える。
「…くそ!」
その数は増え続け、やがて10以上もの砂柱が立つ。
柱からして40mと大きすぎるものはいないがそれでも数が多い。
「…」
正影は考える。
いくらロスといえども本気が出せなければ無理がある。
しかし、本気を出すということは―――
「パパ、なに迷ってるの?」
穂香にはすぐに分かった。
自分が足手まといだということを。
「どうやってお前を生きて帰らせるか考えてる」
「もういいよ、パパ。ううん。正影さん、ありがとう。ここまででいいよ」
言葉から諦めが掴むように読み取れる。
「何言ってる?俺がお前を見捨てると思うか?」
「でも、私、足手まといだよ…。このままじゃ私たち死んじゃう。正影さん、妹に会えなくなっちゃう。それより私が犠牲になって正影さんが助かるなら…」
「馬鹿言うな!」
怒鳴る。
それと同時に2,30mと弱い敵が多いほうに跳ぶ。
「お前自分で言ったな、俺を家族だって!パパだって!」
オスの上に降り、頭と体を斬り分ける。
頭は動きを止め、体はただじたばたする。
「家族を簡単に見捨てられるかよ。お前はもう俺のかげがえのない家族だ。そしてお前の立ち位置は俺の娘。娘を見捨てる父親がどこにいる!?」
正影は体だけになったオスを掴む。
するとなんとそれを持ち上げる。
「おおおおおお、らぁ!」
それを他のオスに向かって投げつける。
「でも…このままじゃ」
「そんなことはどうでもいい!ただ一つ言えるのは俺は絶対にお前を見捨てない!」
今、穂香と正影はお互いの表情を確認できない。
だが、正影には穂香が震えているのだけは分かった。
「生きて帰るぞ」
「…うん」
穂香の震えが止まり、声に覇気が戻る。
「でもパパ。私たち、帰るわけじゃないよね?」
「…そこはツッコむなよ。せっかくいいセリフ言ったんだから」
「以後気を付けまーす」
「頼むぞ…」
正影は改めて刀を構える。
敵は数を増やし20弱。
後から出てくる敵はなぜか小さい物の傾向が多いような気がするが正影にとってそれは好都合。
後ろから40m級の敵が3,4体。
前には20m級が1,20体。
正影が選んだのは20m級の群れ。
敵が走ってくる。
そんな中、正影は深呼吸をする。
そして相手に向かって走り始める。
「おお―――」
叫びながら走り始めたとき奥のほうで20m級の敵が倒れた。
むむう…。
書いていて悪くはないと思いますが、なんかこう、うまく書けない。
まだ書き始めてから半年も経ってないけど、もう少し成長してもいいんじゃないか?と自問自答です。
読んでくれている方々はこれからもよろしくです。
ゴールデンウイークなのに逆に投稿が遅くなった…。