ヘリに乗っているからだ。
ヘリの音がうるさい。
だから私はヘリが嫌いだ。
しかし、出撃命令が出た以上逆らうわけにはいかない。
ターゲットは「オーロワーム」
自分のテリトリーを持ち、その領域に侵入した生き物を片っ端から喰いつくす。
特徴的なのは体中にある目。
ただの攻撃馬鹿ではないのだ。
こいつには発信機がついており、一定の範囲内に近づくと私たちアルツェの戦闘部隊が動く。
入ったといってもアルツェまでの距離はおよそ300キロ。
はじめは100キロほどだったのにあいつの存在によって移動を余儀なくされた。
だから上層部としては何としてもあいつを葬りたいのだろう。
私たち精鋭部隊12人をすべて搭乗させ、向かわせた。
途中、ある危険地帯が心配だがヘリに乗っていれば何とかなると信じたい。
彼女は片手に鎌を握りながら景色を眺めていた。
「冗談だろ…」
正影は立ち尽くしていた。
彼らは今危険地帯の手前に立っているのだ。
つまり、いつ敵が現れてもおかしくない。
たいていの敵なら、この状態でもなんとかなるがもし、さっきのようなタイプが来たら…。
「パパ…、どうする?」
穂香の疑問は最もだ。
だが、正影はどうすればいいか分からない。
ここで立ち止まっていれば敵が来ないと分かっていれば間違いなく止まっている。
だが、その保証はない。
もしかするとあと10秒後に、1秒後に、または既に出現しているのかもしれないのだ。
あまりに危険すぎる。
「…穂香、調子はどうだ?」
「えっ?…体は変わらないけど、武器はちゃんと出るよ」
試しに拳銃を取り出す。
武器は出るが身体能力があった時と同じようになっているのだ。
これはどういうことか?
メディアトールの効果が切れたのか。
「…穂香、腕を出せ」
「うん」
腕を出す。
意図は分かっているらしく、袖をまくった。
サバイバルナイフを取り出し、以前と同じことをする。
穂香から血を取り出し、正影はなめる。
自分の腕をつねり、血を取り出し穂香に飲ませる。
前と同じく苦い顔をした。
「どうだ?」
「…地面叩いてみても大丈夫?」
「ああ。多分あいつはいないはずだ」
深呼吸をする。
ただ地面をたたくだけ。
それだけのことなのに今までにない緊張。
力が戻っていれば間違いなく、結構な音がし砂煙が上がる。
「…えい!」
拳を振り下ろした。
聞こえたのはぽすっという音。
砂煙も上がらない。
「…」
ここで正影は選択を迫られた。
このまま突っ切るか、体力を戻してから進むか、死ぬか。
集落に帰るという選択肢はない。
理由はあのワーム型のオス。
おそらく、今戻って戦った場合正影は死ぬだろう。
あいつと穂香を守りながら戦うのは不可能。
でも、進む場合は急がなければならない。
いつ穂香が専用武器も使えなくなるか分かったもんじゃないからだ。
ただの一般人となった場合、この場合も正影は助かるかもしれないが穂香は死ぬ。。
つまり、2人とも助かるには今行くしかない。
「…穂香」
「大丈夫だよ、パパ。私はいつでも行ける」
身体能力が下がった穂香は今、かなり死に近づいている。
それを知りながら、穂香は構わないという。
ここでいつもの正影ならおそらく止めていた。
だが、今彼に選択肢は残されていなかった。
「…すまない」
「何言ってるの。私の能力が下がってる理由は分からないけど今行くのが最善策なんだよ?パパは何も悪くないよ」
そう。
これが最善策。
死ぬ確率は限りなく高い。
でも最善策だ。
正影は覚悟を決めた。
刀を取り出し、穂香をひもを使って自分の体にくくりつける。
もちろん集落でもらったものだ。
こんな形で使うとは夢にも思っていなかった。
「穂香、落ちそうじゃないか?」
「大丈夫!これで私は撃つことに専念できるよ」
スナイパーを取り出し笑顔を見せて構える。
しかし、身体能力が下がってしまった穂香。
スナイパーの反動に耐えられるはずはない。
「穂香、ハンドガンの類にしろ」
「え~…、それじゃオスは倒せないし足止めにもならないよ?」
「スナイパーを使ってみろ。間違いなく反動に耐えられず照準が定まらないぞ?」
指摘されて穂香も黙る。
穂香自身も分かっているのだ。
「分かったなら頼むぞ」
「…うん」
ハンドガンに持ち物を変える。
人に対しては十分な殺傷能力を誇るがオゥステム相手ではほとんど意味をなさない。
既存の銃よりははるかに高い殺傷能力を誇るがそれでも届かない。
3,4m級だってコアに当たらなければ何十発、何百発という球を要する。
正影は穂香が落ち込んでいるのを感じ取っていた。
だが、何もできない。
だから話しかけなかった。
ただ歩き、危険地帯へと近づいていく。
(すまないな、嬉々…)
死をも覚悟した死闘がはじまろうとしていた。
――――――――――――――――――――――――――――――
正影が歩き出し、危険地帯へ近づきつつあるときある指令室で動きがあった。
規則正しく並べられたコンピュータの前にオペレーターが座っている。
オペレーターたちはあわただしくパソコンも前でキーボードを打ち続けている。
一番奥の壁には大きな画面が1つあり、画面に「Emergency」と赤く、でかでかと映し出されている。
1人、上官と思われる女が入ってくる。
入ってくると同時に指揮を執っていたと思われる女が駆け寄る。
「一体何事だ?」
「アクリス菌反応が出ました。場所はぺリコラムです」
「あのオス大量発生地帯か…」
上官が難しい顔をする。
アクリス菌は現在人の手にはない。
普通の人はアクリス菌に感染してもすぐ細胞に変わってしまうのだ。
今に至っては生まれてくる子どもははじめから細胞状態で保持しているので持つことはない。
「どの裏切者《プロディター》か調べたか?」
「はい。ですが今まで現れた2件とはどちらとも一致しませんでした」
「…新種か」
「おそらく」
苦い顔をする。
さっき、「オーロワーム」が出てきたばっかなのに次はプロディター。
責任者である彼女としては問題が起きすぎだ。
「全員、こいつのもとを調べろ!もしかすると進化を遂げたオスかもしれん。今まで倒し損ねたオスのデータもすべて照らし合わせろ!」
『はい!』
全員がアクリス菌保持者の特定にあたる。
「まさか、ロスを適合率30%以下で調べてないなんてことはあるまいな?」
「それは一番最初に。ですが一致したものはありませんでした」
話を聞きながらいろいろなパソコンに目を向ける。
すべてのパソコンに「Not Found」と映し出されている。
一致するものが見つからない。
莫大な量の情報があるここでも見つけられないのだ。
「…新種とみて間違いないようだな」
「いかがいたしましょう?今あちらにはオーロワーム討伐のためαチームを送っております。もしものために退却させるべきではないかと」
「しかし、オーロワームを討伐したいのも事実。あいつが発信機で探知出来る範囲に入ることは少ない。そして今も範囲内にいる。このタイミングを逃すわけにはいかない」
「しかし―――」
上官に対して何か言いかけた時、1つの画面に「Found」という文字が出てくる。
「21番!分かったのか?」
「嘘?そんなわけ…」
21番に座っている人は画面に現れた答えが信じられないのか声が届いていない。
「21番!質問に答えろ!」
もう一度呼びかけ、ようやく反応した。
「は、はい!一致したのはNo.5の正影です」
一部がざわつくが、ほとんどが理解していない。
「No.5?何を言っている?そんなオスの報告は聞いたことないぞ」
「いえ、…オスではありません」
「何?」
失礼だとはわかりながらもパソコンから目を離さない。
画面に「95%」と文字が出される。
「…嘘」
「どういうことだ?意味を教えろ」
「No.5正影は…10年ほど前に行方不明になったはずのロストチルドレンです!」
部屋全体がざわつく。
ありえない話だ。
「ば、馬鹿を言うな!調べなおせ!」
「ですが、3回読み込みなおしました!でも結果は同じです!」
「…なんでお前のパソコンだけに結果が出た?」
「私のパソコンには事情があってロスのデータが入っています。100%バージョンのデータです。3年前、他のパソコンからは消去されましたが私のには残っていたので…」
「ならデータをすべてのパソコンに転送しろ。それを見て考える」
「はい!」
再びオペレーターたちがキーボードをたたき始める。
「…司令、あり得るのでしょうか?ロスが…」
「分からん。だが、正影?という奴は行方不明者だったのだな?」
「はい。未だに死体が見つかっていない者の1人です」
やがて数々のパソコンで結果が出る。
すべてに同じ結果が出た。
21番のパソコンが壊れているわけではないようだ。
「結果は…なるほど」
司令は決めた。
「これよりロスと思われる生物の回収にαチームの作戦を変更する!オーロワームは無視し、ロスの回収のみに力を注げ!詳細は私が自ら伝える!青羽《あおば》、後は任せる」
「了解しました」
女上官が指令室を出て行った。
「全員、できる限りの情報を集めて!カメラは近くにないけどどんなルートでも構わないわ!他のオスにも注意しながら情報を―――」
「青羽室長!ロスと思われる者の近くにオスが出現!大きさ、型ともに不明です」
「こちらでも確認、敵は増え続けている模様」
「…急いだほうがいいのかもね」
と、21番に座っている真理奈がそわそわしているのが目に入る。
「21番!仕事に集中しろ」
「あっ、はい。すみません…」
近づいていく。
「真理奈、今は押さえて。もしこれで正影じゃなかったり、あるいはそいつが死んで帰ってきたらどうするの?」
「…」
「嬉々を悲しませるだけだよ。だから今は言わないで。安全が確認されて初めて報告するべきだよ」
「…はい、申し訳ありませんでした」
改めて画面に目線を戻す真理奈。
「生きて帰ってもらわなくちゃ困るわよ…!」
真理奈は自分にできることをし始める。
――――――――――――――――――――――――――――――
一方、違う場所にあるモニタールームのようなところでも動きがあった。
「おお?獲物が来たぞ♪」
スキンヘッドの男が喜びの声をあげる。
フラテッドはいやそうな顔をしている。
「マジか…。今時こんなところに立ち寄る奴がいるとは」
「大型発生装置《ディグネラ》を使うなんて久しぶりだぜ。どんな姿で死ぬのか見ものだな」
キーボードを打ち始める。
起動の準備をしているらしい。
「フラテッド、俺は起動準備するからお前はさっさとリレグ様に報告してこい」
「…面倒だ。俺が起動準備をするからお前が行ってこい、和人《かずと》」
「お前、どうせやんねぇだろ?俺にすべてやらせるなんて絶対嫌だからな」
和人はすでにここを離れる様子はない。
しかし、ここで根競べをしていてはリレグに何を言われるかわからない。
フラテッドはその部屋を後にした。
「ふんふん♪こんなに気分が上がるのは久しぶりだぜ」
笑顔でそうしゃべりながら、彼は起動のスイッチを押した。
どうも~。
こんな趣味で書いているものを読んでくれている方々どうもでーす!
次はいよいよ拠点への帰還なるか?
そこのところはまだ決まってません。
これからもよろしくです。