子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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皆さんお久しぶりです。やっぱりなんだかんだで遅くなってしまいました。まさに予定は未定、出来ない予告なんてするものではないですね。
今回で龍猿との戦闘&アスタロトとのギフトゲームは終了です‼︎

それではどうぞ‼︎


ギフトゲームの報酬

暗黒武闘(スーパーミルクタイム)”を発動した男鹿は先程までの苦戦から一転、対等以上に龍猿達と戦闘を繰り広げていた。魔力強化した身体能力を駆使して龍猿四体の連携と渡り合い、拳は躱し受け流すことで蒸気の噴出による拳打の近接加速を対処する。拳打の近接加速は強い弱いの問題ではなく、下から掬い上げるように打ち出されてしまえば物理的に耐えることが難しいのだ。

龍猿の数が五体から四体に減っているのは、“暗黒武闘”によって上昇した戦闘力を確認されていない初手に不意を突いて仕留めたからである。“暗黒武闘”発動後、瞬時に龍猿の一体と距離を詰めた男鹿は反応させる間もなく“魔王の烙印(ゼブルエンブレム)”を叩き込んだ。それも十数発と紋章に拳を打ち込み爆発力を増強させた状態で、である。如何に全身を堅固な鱗で覆われていようとも零距離で強化された爆発を受けた衝撃は殺し切れなかったようで、“魔王の烙印”を食らった龍猿はその場に崩れ落ちて動かなくなった。

とはいえ別に圧倒しているというわけではない。蒸気の噴出による拳の近接加速は対処しているが、蒸気の噴出自体は抑えようがなく依然として猛威を振るっているのだ。戦闘中の動きの全てにその爆発的な推進力が付加されることを想定し、その都度対応できるように力配分をコントロールしておかなければならないため攻め切れずにいた。

 

「らぁっ‼︎」

 

男鹿は龍猿達の連携の隙を突き、至近の相手へと数発の拳を一息に叩き込んで体勢を崩した。やはり体勢を崩したり殴り飛ばすことはできても、全身を堅固に覆っている鱗が邪魔をして決定的なダメージは通らない。短時間で龍猿を各個撃破できない最大の要因はこの耐久力にあるだろう。

体勢が崩れた相手の足を払うことで完全に転倒させた後、その倒れた身体に向けて紋章を展開させた。そして無防備となった龍猿の一体に“魔王の烙印”を打ち込もうとしたところで、蒸気を爆発させて加速した他の龍猿が襲い掛かってくる。

仕方なく“魔王の烙印”を中断してバックステップにより強襲を回避した男鹿は、すれ違いざまに回し蹴りを放とうとした。が、音もなく真上から襲ってきた別の龍猿が剛腕を振り下ろしてきたためそれも中断し、標的を変更して振り下ろされる剛腕へと回し蹴りを繰り出し軌道を逸らす。

その直後に目の前の龍猿も蒸気を噴出させ、瞬く間に男鹿との距離を取りつつ背後を陣取るように移動した。最初に仕留めようとした龍猿は既に体勢を立て直しており、またしても龍猿を仕留めることはできなかった。

短時間で倒せない以上に長期戦にもつれ込んでいる原因として、五体のうちの一体を倒してしまったが故に龍猿達の連携が“暗黒武闘”を発動する前よりも一段と厳しくなっていることが挙げられる。特にその一体を倒した“魔王の烙印”ーーーというより“紋章術”はかなり龍猿達の警戒心を引き出してしまったらしい。

 

(……チッ、いい加減になんとかしねぇとジリ貧だな)

 

龍猿達の連携と男鹿の戦闘力。両者は均衡を保っているように思われるが、実のところ男鹿には現状を覆せるだけの手札があったりする。鉄壁の防御力を誇る身体を持ち、それによって相手の攻撃を悉く無効化するーーーそんな魔王を相手に先日勝利を収めたばかりなのだから。

 

 

 

“心月流無刀・撫子”ーーー衝撃を一点に集中して貫通させるこの技は、“魔遊演闘祭”にて拳を交えることとなった“嫉妬の魔王”・レヴィアタンにも通用した。その時は格上であることを考慮して共闘していた邦枝葵とともに“撫子”を打ち込んだのだが、個々の実力は下である龍猿相手ならば一人で“撫子”を打ち込んでも十分に効果を発揮するだろう。

にも関わらず未だに勝負を決められていない原因として、“撫子”を打ち込むための条件が安定していないことが挙げられた。“撫子”を打ち込むのに必要なのは力ではなく、力の伝え方・呼吸・姿勢・タイミング・集中力と言われている。連携の繋ぎ目に反撃できるだけの隙はあるものの、“撫子”を完璧に打ち込めるだけの隙はなかった。仮に“撫子”を打ち込んで龍猿を一体だけ倒せたとしても、残った龍猿三体から“紋章術”と同様に“撫子”も警戒されてしまい返って当てにくくなる。

 

「あーもう、チマチマ邪魔くせぇ。いい加減に決着(ケリ)つけてやる」

 

そうこうしている間にも右に左に襲い掛かってくる龍猿達を迎撃しながら、男鹿は勝負に出た。連携で縦横無尽に四方八方から攻撃され続ければ嫌でも身体は慣れる。連携の隙を突いて反撃するタイミングを合わせるのもかなり掴めてきた。

が、それは相手も反撃に慣れるだけの回数があったということでもある。先ほどは拳を数発叩き込んで体勢を崩し、足を払って転倒させることができるだけの隙があった。しかし今回は拳を一発打ち込んだ時点で蒸気の噴出からの突進による邪魔が入り、明らかに対応する速度が上がっている。

 

「ーーーハッ、待ってたぜ‼︎」

 

そして、それこそが男鹿の引き出したかった対応であった。

龍猿達は高速で移動する時、取り分け反撃を受けて危険に陥った仲間を助ける時に蒸気を噴出させて自己加速する。しかしその際に加速する方向は一方向のみであり、片腕を向けている直線上にしか行われていないのだ。両腕を同時に噴出させて方向転換や加速の倍加はできないのか、それともやらないのかはこの際どうでもいい。重要なのは、少なくとも今回の戦闘中では一度もやっていないということである。

男鹿はこれまでずっと躱し受け流してきた拳と真正面から対峙し、その迫り来る拳に向けて紋章を展開した。

 

『……‼︎』

 

「ゼブルーーー」

 

男鹿の意図を察した龍猿であったが臆することはなく、それどころか噴かしていた蒸気をさらに爆発させて加速してきた。今この瞬間からでも両腕を使用して回避されることも考えられたが、龍猿は堅固な鱗と蒸気の推進力を活かした正面突破を選択したようだ。完全なるガチンコ勝負である。

 

「ーーーエンブレムッ‼︎」

 

龍猿が加速したこともあってお互いの距離は瞬時に詰まり、それぞれの拳が激しくぶつかり合う。その瞬間に展開されていた紋章が爆発し、その爆煙が男鹿と龍猿の姿を覆い隠した。粉塵を巻き上げられて視界を遮られ、その隙を狙われて吹き飛ばされた“暗黒武闘”発動前の意趣返しのようである。

だが今回の違うところは、意外にも爆発の中心にいた双方ともに相手を認識できる近距離で向かい合っていたことだ。男鹿の拳と“魔王の烙印”の爆発、龍猿の拳と蒸気の推進力がぶつかり合ったことで攻撃がある程度相殺され、結果としてあまり吹き飛ばされなかったのである。男鹿としては“魔王の烙印”で吹き飛ばし、爆発の衝撃で動きを鈍らせたところで懐に入り込んで“撫子”を打ち込むつもりだったのだが、想定よりも龍猿の突進が強く吹き飛ばしきれなかったのだ。

 

「じじい直伝ーーー」

 

尤もこの状態は思い描いていた展開よりも都合が良く、ある意味では結果オーライの内容だと言えた。吹き飛ばされなかった分だけ距離を詰める必要がなく、爆煙の中にいるため他の龍猿からの邪魔が入る可能性は限りなく低い。

男鹿は一歩で相手に肉薄すると、腰溜めに腕を構えて防御をさせる間も与えず一気に突き出した。

 

「ーーー撫子‼︎」

 

腹部に突き刺さった拳から伝えられた衝撃は見事に内臓へとダメージを与え、目の前にいる龍猿を沈めることに成功する。そして爆煙が晴れた時、立っているのは男鹿一人という状況は残る龍猿達の動揺を誘うこととなった。

その隙を見逃すような男鹿ではない。足下に紋章を展開してから踏み込み、爆発させて最も近い相手へと加速する。しかし既の所で相手も蒸気による加速を行い、男鹿の踏み込みは躱された。それでも男鹿は手を緩めることなく、手に雷電を纏わせて雷撃を放とうとする。

また仲間が倒され相手に戦いの主導権を握らせてしまった龍猿達であったが、男鹿の追撃を目にして少しの余裕を取り戻していた。拳を躱された後の雷撃による追撃、そのシチュエーションは既に対処したことのある攻撃だ。しっかりと見極めれば雷撃を回避できるというのは動揺から立ち直るのに十分な事実である。

そんな通用しない攻撃を繰り返すほど、戦闘においては男鹿も馬鹿ではなかった。

 

魔王の咆哮(ゼブルブラスト)ォォ……ッ‼︎」

 

放たれた“魔王の咆哮”は標的に突き進む収束型ではなく周囲を照らし出す閃光型……つまり目眩しだ。雷撃を見極めようと注視していた龍猿には堪ったものではない。

 

『ーーーッ⁉︎』

 

そしてそれは連携を取ろうとしていた周りの龍猿達の視界をも遮り、短時間ではあるがこの場でまともに動けるのは男鹿のみ。即座に拳を躱された龍猿へと再度迫った男鹿は、再び腕を引き絞って“撫子”を打ち込んだ。それによって三体目の龍猿も立っていられずに倒れ込む。

これで最初は五体いた龍猿も残り二体。ここまで来れば龍猿達の連携も儘ならず、男鹿と龍猿単体の戦闘力を考慮しても策を弄する必要はないだろう。そう考えながら倒した直後にら次の襲撃を待ち構えていたのだが、予想に反して全然襲い掛かってくる気配はない。その事に疑問を抱いていた男鹿のところへ、戦闘の構えを解いた龍猿達が歩み寄ってくる。

 

「……あん?どうした、戦らねぇのか?」

 

『あぁ。お前の実力は十分に理解できた。既に我々の勝ち目は限りなく低い。無駄に負傷者を増やす前に負けを認めよう』

 

龍猿の一体がそう宣言した瞬間、空から一枚の“契約書類”が男鹿の手元に降りてきた。男鹿は不思議に思いながらも手に取り、その内容を確かめる。

 

 

 

【ギフトゲーム名 “テリトリーの奪取”

勝者:守り手側。“契約書類”は以降、“テリトリーの開拓”に関与する命令権として使用可能です】

 

 

 

「……なんだこりゃ?」

 

「ーーーそいつは()()()()()()()()()()()()()()やで」

 

首を傾げながら呟いた疑問の声は龍猿達へ向けて発したものだったが、それに答えたのは気付かないうちに接近していたアスタロトであった。

 

「お前、今まで何処に……つーか龍猿?ってこいつらだよな。こいつらが受けてたゲームってのはなんだ?」

 

「あぁ、あの畑あるやろ?あれを耕して守るんが守り手、守り手を倒して奪おうとしてんのが攻め手っちゅう感じでな。その役割に合わせたギフトゲームを二種類、それぞれ両サイドに課したんよ」

 

男鹿に課された“テリトリーの開拓”は畑を耕すだけだが、龍猿達に課された“テリトリーの奪取”は男鹿(守り手)を倒す必要があった。そして攻め手である龍猿達が仕掛ければ守り手である男鹿は迎撃するしかなく、互いの事情を知らないからこそ突発的な実戦に近い状況で男鹿の実力を試すことができたのである。

アスタロトの思惑を聞いた龍猿達は納得がいったようで、戦闘前のことを思い出していた。

 

『なるほど、そういうことか。初めは守り手に戦闘の意思を感じられず不審に思っていたが、やはり知らされずに守り手を担っていたのだな』

 

「ったく、いい迷惑だぜ。こっちはまだ畑仕事が半分近く残ってるってのによ。無駄な体力使わせやがって」

 

当然ではあるが男鹿は辟易としながら愚痴を漏らしていた。慣れない畑仕事を数時間、訳も分からず戦闘に巻き込まれ、これから戦闘前と同程度の畑仕事をしなければならないのだから無理もない。

 

「あぁ、それやったら心配せんでええよ。龍猿達にも手伝わせればええんやから、残り半分くらいならあっという間や。何やったらゆっくりしとったらどうや?」

 

その漏れた愚痴を拾ったアスタロトが何とはなしに解決策を口にした。

 

「あ?何言ってんだよ。俺のやってるゲームの参加者は俺だけだろ?」

 

言われた男鹿はズボンのポケットから“契約書類”を取り出し、記載されているプレイヤー一覧を見ながら訊き返す。正確にはベル坊も記載されているが、労働力にはなり得ないので数には入れていない。

そんな男鹿の至極真っ当な疑問に対し、アスタロトはあっけらかんと言い放つ。

 

「せやから、今さっき手に入れた命令権で従わせればええやん。謂わば一時的な隷属関係、寧ろそのための命令権やねんで?」

 

アスタロトが言うには、男鹿本人が知らなかったとはいえ“テリトリーの奪取”に関与して勝利を収めたのだから報酬が与えられるのは当然とのこと。その報酬としてアスタロトの設定していたものが“テリトリーの開拓”をクリアするための労働力であった。

 

「そういうことなら遠慮なく使わせてもらうぜ。……てめぇらも文句はねぇな?」

 

『無論、そういう契約で参加したギフトゲームだからな。我らもあれは手に入れたかったが……報酬はお前のものだ』

 

龍猿の言葉を聞いた男鹿は、それによって自分が参加しているギフトゲームの報酬を知らないことに思い至る。その口振りからして龍猿達と同じ報酬だったようだが、ちょうどいいのでアスタロトに訊いておくことにする。

 

「……そういや訊いてなかったが、畑仕事の報酬は何なんだ?」

 

「あれ、言ってへんかったっけ?君にあげるつもりの報酬はーーー君が耕してる土壌そのもの、その名も“神壌土”や」




戦闘を書くのは好きですけど、基本オリジナルになるので筆が乗るまでが大変ですね。
戦闘以外だったらまだ会話や描写をストーリーの流れに合わせればいいんですけど。

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