子連れ番長も異世界から来るそうですよ?   作:レール

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いつもより少し遅くなってしまいました。
やはりオリキャラ・オリストーリーって難しいですね。

それではどうぞ‼︎


“魔遊演闘祭”

大魔王から手紙が届いてから五日が経ち、“ノーネーム”一同は噴水広場前に集まっていた。いよいよ“魔遊演闘祭”の開催される北側へと出発だ。

転移門が開く五分前には必ず着いているように出発したのだが、その待ち時間に飛鳥が呟く。

 

「北に向かうとはいえ、東でこの服装は少し暑く感じるわね」

 

という飛鳥の服装はイヤリング型の防寒のギフトがあるために本格的な冬服というわけではないが、何時もの赤いドレスに合わせた赤いダッフルコートを着ていた。

そのダッフルコートのフードにはメルンが入っており、顔を出してキョロキョロと楽しそうに周りを見ている。

 

「でも冬の気候でいつもの私達の格好じゃ、見てる方が寒く感じる」

 

耀はブレスレット型の防寒のギフトをスリーブレスのジャケットの代わりに着ているベージュ色のトレンチコートのポケットから取り出して腕に嵌めていく。

いつも一緒の三毛猫は“寒いとこは勘弁やでお嬢”と言って“ノーネーム”で留守番しているため此処にはいない。

 

「皆さん、外門のナンバープレートはちゃんと持ってますか?」

 

黒ウサギが境界門に青白い光が満ちていくのを確認して列に並びながら聞いてくる。ナンバープレートとは境界門の出口となる外門へと繋ぐためのものである。

そんな黒ウサギは黒いファーコートを着てモコモコしており、まさにウサギを連想させる格好だ。防寒のギフトはピンバッジ型で下の服に着けている。

 

「ほら、男性陣もナンバープレートを確認して並んでくれ」

 

白色のムートンコートを着たレティシアが、自らのナンバープレートを確認しながら離れていた男鹿達に声を掛けた。ナンバープレートを取り出した右手の中指にはリング型の防寒のギフトが嵌められている。

男性陣はみんな黒の学ランなのでそれに合わせたコートや防寒のギフトをそれぞれ着けており、ジンは元から並んでいて鷹宮も黙って列に並んでいたが、他の面子はまだ来ない。

 

「おぉ、ちょっと待て。急げベル坊」

 

「ダッ」

 

男性陣が列から離れて何をしているかというと、まだ残っていた“フォレス・ガロ”を象徴する虎の彫像にベル坊が落書きしているのを見守っていた。

そして完成した落書きはそのままに列へと並んでいく。

 

「今更だけどあれって器物損壊罪じゃ・・・」

 

「ヤハハ、日本の法律なんて箱庭で通用するかよ。いずれは撤去させるんだから好きにさせとけ」

 

「ん?撤去させる?されるんじゃなくてか?」

 

「あぁ。チャンスがあれば近いうちに俺達が撤去できるようにするぜ。どうやってかはその時のお楽しみだ」

 

十六夜はまたも水面下で“ノーネーム”復興のために策を巡らせているようで、話している古市も既に具体案を浮かべている十六夜に感心してしまう。

そうこうしていると境界門の準備が整ったようで列の順番が進み、ついに“ノーネーム”一同は境界門を潜ったのだった。

 

 

 

 

 

 

境界門を抜けた先、“ノーネーム”一同の目に映った最初の光景は一言で言えば氷の祭典という様相だった。

 

「わぁ、綺麗・・・」

 

飛鳥の惚けるような言葉も無理はない。

一番目立つ場所には巧緻に形成された氷の城に様々な幻獣の氷像が警備のように並び、その周りにも凝った氷像が色々と作られている。

 

「これは祭りの間だけの展示なのかしら?少し勿体無いわね」

 

「おいお嬢様、あっちで新しいのが作られてるぜ」

 

十六夜が指し示す方向を見ると今まさに作業をしているところだった。雪をかき集める作業を飛ばして何匹もの氷狼と思しき幻獣が雪を吐き出し、側に控える女性がその雪を大まかな形に固め、職人だろう人達が細工を施していく。

氷狼と女性の仕事はそれで終わりなのか、女性は氷狼を撫でている耀と楽しげに会話していた。

 

「ーーーって耀さん⁉︎ いつの間に⁉︎」

 

気付けば離れていた耀に黒ウサギが即座に反応して走り寄っていく。最初にウサ耳を引っ張った時といい、好奇心旺盛なのに気配を感じさせない独特な移動だ。

十六夜達も走っていった黒ウサギに続いて歩いて近づく。

 

「申し訳ありません‼︎ 我々の同士がお仕事中にご迷惑を・・・‼︎」

 

「い、いえ、気にしないで下さい。休憩時間のお相手をして頂いてこちらも楽しかったですから」

 

女性は青み掛かったロングヘアの銀髪に氷の結晶の形をしたヘアピンを付けており、水色の瞳が申し訳なさそうな黒ウサギを優しく見つめていた。丁寧な口調と合わせて落ち着いた雰囲気の女性だ。

 

「私も少しは考えてる。氷狼に触っていいかどうか、ちゃんとフルーレティさんに確認して邪魔にならないようにしてる」

 

黒ウサギの子供扱いとも取れる言葉に、耀は少し頬を膨らませて不満を訴えている。

 

「フルーレティ?ってことはそれなりに上位の存在じゃねぇか。なんでこんな雑用みたいなことしてんだ?能力柄か?」

 

女性ーーーフルーレティの名前を聞いて十六夜が質問を口にする。

フルーレティを知らない人からすれば十六夜の質問の方に疑問を覚えるだろう。

 

「フルーレティはグリモワールによって詳細は異なるが、罪源の魔王であるベルゼブブ配下の長みたいな存在だ、って言えば分かるか?伝承による能力は雹を降らせること。つまりは空気中の水分を凝固させ、氷を操ることだ」

 

特に外界組がそのような雰囲気だったので情報を追加して簡単に説明する。

細かく言えば、グリモワールの一つである“大奥義書”の階級構造ではルシファー・ベルゼブブ・アスタロトを地獄の支配者とし、その配下にあたる六柱の一角にフルーレティが存在する。

確かにこれならば実力があると推測できるが、それでも彼女は否定するように首を横に振る。

 

「貴方は博学な方のようですね。ならばフルーレティが箱庭においてどのような存在かはお分かりでしょう?それに仕事をすることは嫌いではないので」

 

「ふぅん、まぁそういうことにしておいてやるよ」

 

十六夜の取って付けた言い回しにフルーレティも苦笑で応える。

二人の会話が終わったのを見計らってレティシアが声を掛けた。

 

「ところでフルーレティ殿。我々は“主催者”への挨拶に向かいたいのだが、どちらに向かえばいいのか教えてもらえないか?」

 

「どちらのコミュニティに招待されたのでしょうか?」

 

「いや、コミュニティではなく外界に行ったベルゼブブ・・・大魔王個人からの招待なのだが」

 

「あぁ、それでは皆様が先代ベルゼブブ様ーーーいえ、今はベルゼバブ様でしたね。に呼ばれた“ノーネーム”の方々でしたか。あの方のご子息もいらっしゃると聞き及んでいますが、いったいどちらに?」

 

「ベル坊なら後ろの赤ん坊が・・・」

 

レティシアがベル坊を紹介しようと振り返って言葉を失ってしまう。

気付けばベル坊どころか、男鹿と古市までいつの間にか姿を消していた。

 

「・・・なぁ主殿、辰巳達は何処へ行った?」

 

「さぁ?なんかベル坊にせがまれて反対側に行ったぜ?」

 

「貴之君は辰巳君の監視について行ったわ。ちょうど貴女達はフルーレティさんの方に向かったから聞きそびれたのね」

 

男鹿はともかく、古市はきちんとした理由があって姿を眩ましたようだ。タイミングが悪く、走り出した黒ウサギに続いて先頭にいたジンやレティシアも耀に気が向いていて気付かなかったようだ。

 

「あぁ、もう‼︎ 耀さんといい辰巳さんといい、行動が自由過ぎますよ‼︎」

 

「どうするお嬢様?俺達もそろそろ何処かに行くか?」

 

「そうね。春日部さんも辰巳君も好きにしてるし、いいかしら?」

 

「よくありません‼︎ お願いですから“主催者”へ挨拶に行くまでは大人しく着いてきて下さい‼︎」

 

さらに姿を眩ませそうな十六夜と飛鳥に対し、もう勝手はさせないとばかりに黒ウサギは無駄に気合いを入れ、耀を含めた問題児三人の行動に目を光らせている。

 

「ハハハ・・・仕方ありません、僕達は先に挨拶に行きましょう。レティシアさん、辰巳さん達を探してきてもらってもいいですか?」

 

「了解した」

 

「俺も行こう」

 

ジンの指示でレティシアが男鹿達を探しに行こうとした時、意外にも今まで黙っていた鷹宮が反応して着いてくると言ってきた。

 

「珍しいな、忍から行動を共にすると言い出すなんて」

 

「挨拶に行くのが面倒なだけだ。それに・・・」

 

鷹宮は言葉を区切り、境界門を出て歩いてきた方向ーーー男鹿達が行ったという方向を見上げる。

 

「そっちの方が退屈しなさそうだ」

 

 

 

 

 

 

「アイッ、アイダッ‼︎」

 

「だあぁッ、分かったから大人しくしてろ‼︎」

 

「ベル坊の奴、はしゃいでんなぁ。はぁ、これ絶対気付いたら迷子になってるパターンだよ。てか現在進行形で迷子だよ・・・」

 

ベル坊が男鹿の頭の上で興奮しているのを見ながら古市は呟く。

初めて来る知らない場所で土地勘もなく、外界からやって来た古市達だけでの単独行動。挙げ句の果てに何処に行けばいいのかも、別れた黒ウサギ達が何処に向かったのかも分からない。どう考えても迷子フラグが立ってしまっていることに古市は溜息を吐いてしまう。

 

「おら、止まったみてぇだぞ。お前も混じってこい」

 

「ダッ‼︎」

 

そして迷子フラグの原因となったのは三〇cm程度の歩く雪だるまである。興味をもったベル坊にせがまれて後ろを着いて行けば広場のような場所に出ており、そこでは複数の雪だるまと子供達が遊んでいたのでベル坊を下ろして好きにさせてみた。

ちなみにベル坊の格好は裸ではなく、服は嫌がったことから霜焼け防止のために靴と手袋、後はニット帽とマフラーも着てもらっている。

 

「ーーー元気な子供だね。こんな雪国で裸なんて」

 

「あん?」

 

突然後ろから掛けられた活発そうな女性の声に二人は振り返る。そこにいたのは紫色のセミロングの髪から尖った耳が覗いている、声の印象通りに活発そうな笑顔を浮かべた女性だった。髪の色と同じ紫色の瞳がこちらを面白そうに見ている。

 

「あ、いきなりゴメンね。この辺りでは珍しい格好だったから、つい」

 

「この辺りっていうより常識的に考えて珍しいと思いますけどね」

 

「アハハ、それもそうだね」

 

女性は初対面にしてはかなり親しみやすい雰囲気で、古市の切り返しに対しても楽しそうだ。

 

「此処にいるってことはお前も悪魔なのか?」

 

「うん、そうだよ。あの雪だるまを作ったのも私だし」

 

女性は広場を指差しながら言い、実演とばかりに水を生み出してだるまの形に整える。その水を凍らせて形を固定し、周りの雪を操ってだるまにコーティングすることで雪だるまの完成だ。

 

「後は霊体の下級悪魔が憑依して、動く雪だるまの出来上がり‼︎ 中身は氷だから丈夫だし、外装は雪だから固すぎて危険って訳でもないから子供にも安心ってね」

 

得意そうに解説している女性に対して、男鹿は女性から感じた魔力に少し興味を抱いていた。箱庭で魔力を使える悪魔は基本的に強い悪魔だけだと聞いている。雪だるまを作る程度の小さな力を行使するだけで魔力が発生したのだから、この女性もそれなりの実力者だと考えられた。

 

「ねぇ、折角のお祭りなんだし暇なら私とギフトゲームしない?」

 

「なんだ、喧嘩でもしようってのか?」

 

女性の発言に、彼女の実力を考えていた男鹿が野蛮と言ってもいいような確認をする。

 

「違う違う。そういうのは“魔遊演闘祭”のメインギフトゲームに任せればいいよ。私達のは謂わばリトルギフトゲームってところかな?」

 

苦笑しながら手を振って否定し、活発そうな表情に何かを企んでいるような笑みを加えて言葉を続ける。

 

「そうだなぁ。君達のことは気に入ったから、私が勝てばお祭りの間は私の相手をしてもらおうかな。君達が勝てば何か情報をあげよう。例えば・・・」

 

そこで言葉を溜めて、決定的なことを口にする。

 

 

 

「七大罪のこととか・・・ね?」

 

 

 




“魔遊演闘祭”が始まると同時にオリキャラの登場です‼︎
“サウザンドアイズ”の一行はいつ登場するのか。十六夜とフルーレティの会話にはどういう意味があったのか。男鹿達の出会った悪魔娘はいったい何者なのか。
それら全てはいずれ、というか近いうちに明かせると思いますので気長にお待ち下さい。

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