やっと“ノーネーム”の本拠に着きましたよ。
いったい一巻分はどれ位掛かるのでしょうか?
それではどうぞ‼︎
白夜叉とのゲームを終えて本拠に向かっていた一同。
“ノーネーム”の居住区画の門を開けるとみんなの視界には一面の廃墟が広がっていた。
「っ、これは・・・⁉︎」
「はい。魔王との戦いの名残です・・・」
町並みに刻まれた傷跡を見た飛鳥と耀は息を呑み、十六夜はスッと目を細める。
男鹿は近くの木材に足を置くが、直ぐに乾いた音を立てて崩れていった。
「・・・形が残っているだけだな」
「アゥ・・・」
「・・・おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのはーーー今から
「僅か三年前でございます」
「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この
そう、十六夜の言うように彼ら“ノーネーム”のコミュニティはまるで何百年という時間経過で滅んだように崩れ去っていたのだ。
「・・・断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はあり得ない。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」
「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」
「・・・生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」
二人の感想は十六夜の声よりも遥かに重い。
「・・・魔王とのゲームはそれ程の未知の戦いだったのでございます。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないように屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ・・・コミュニティから、箱庭から去って行きました」
黒ウサギの説明と眼前に広がる街並みに飛鳥も、耀も複雑な表情で続く。
しかし十六夜は不敵に、男鹿は獰猛に笑って呟いていた。
「魔王ーーーか。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねぇか・・・‼︎」
「まったくだ。魔王全員、土下座させてやるぜ・・・‼︎」
★
居住区画の水門前で貯水池に水樹を設置して水路に水を通す。
その時に男鹿達を紹介されてコミュニティの子供達はテンションが上がっていたが、そんな中で十六夜とジンは何やら真剣な顔をして話していたのに周りは特に気付いていなかった。
その後にホテルのように巨大な屋敷に向かい、着いた頃には既に夜中になっていた。
「遠目から見てもかなり大きいけど・・・近付くと一層大きいね。何処に泊まればいい?」
「コミュニティの伝統では、ギフトゲームに参加できる者には序列を与え、上位から最上階に住むことになっております・・・けど、今は好きなところを使っていただいて結構でございますよ」
黒ウサギの言葉でそれぞれ近場の部屋へと決めて、“今はともかく風呂に入りたい”という要望の下、湯殿の準備を進めるが、
「一刻ほどお待ちください‼︎ すぐに綺麗にしますから‼︎」
と叫んで掃除に取り掛かっていく黒ウサギ。
どうやら一目見て酷い状態だと判断できる程には使用されていないようだった。
★
「まだ掛かりそうだから俺はテキトーに屋敷内を散歩してるぞ。先に風呂に入ってろ」
しばらく貴賓室で待っていた男鹿は散歩という
その意図に気付いたのは十六夜だけである。
「ったく、男鹿は勝手な奴だな」
しかし、気付いているのが自分だけならわざわざ女性陣に教える必要はないだろうと考える。
「本当ね。時間的にももうすぐ終わるでしょうに」
『なぁお嬢、ワシも少し散歩に・・・』
「駄目だよ。ちゃんと三毛猫もお風呂に入らないと」
一般の猫らしく三毛猫もお風呂が苦手なのだろう。
男鹿に便乗して逃げようとする三毛猫を耀が捕まえている。
飛鳥の言葉通り、それから五分もしない内に黒ウサギが呼びに来た。
「ゆ、湯殿の準備ができました‼︎ 女性様方から・・・あれ?辰巳さんはどうしたのですか?」
一人、男鹿だけその場からいなくなってきたので質問した黒ウサギに飛鳥が少し呆れたように答える。
「待ちきれなくて屋敷内を散歩ですって」
「そうでしたか・・・では後で誰かに呼びに行ってもらいましょう。では女性様方からご案内します‼︎」
「ありがと。先に入らせてもらうわよ、十六夜君」
「ああ、男鹿も先に入ってろって言ってたし、俺は二番風呂が好きな男だから特に問題はねぇよ」
女性三人は大浴場に向かい、一人になった十六夜はそのまま少し寛いだ後、
「さてと・・・そろそろ俺も
★
十六夜がコミュニティの子供達が眠る別館の前に来たとき、そこには土下座をしているボコボコにされた侵入者と思しき獣人達を前に仁王立ちしている男鹿であった。
「ヤハハ、なかなか御目にかかれない景色だな。いっそ清々しいぜ」
「うむ。悪い事をしたらこれだよこれ」
「で?こいつらはなんだって?まぁ、十中八九“フォレス・ガロ”の連中だろうけど」
「いや、取り敢えずぶん殴ってから話を聞こうと思ってたから知らん」
「成る程、俺も状況次第ではそうするな。手っ取り早いし」
具体的には石を第三宇宙速度で投げつけて爆撃したりしそうな十六夜である。
「辰巳さん、十六夜さん。そろそろお風呂・・・ってなんですかこの状況⁉︎」
ジンが黒ウサギに言われて男鹿を探していたところ、二人の声が聞こえて来てみれば自分が見たこともない光景が広がっていた。
「侵入者っぽいぞ。例の“フォレス・ガロ”の連中じゃねえか?」
取り敢えず聞かれたことに状況を説明する十六夜。
その侵入者は男鹿のギフトすら使っていない様子の実力に戦慄いていた。
「な、なんというデタラメな強さ・・・‼︎ 蛇神を倒したというのは本当だったのか」
「・・・で、何か話をしたくて男鹿に土下座させられてたんだろ?ほれ、さっさと話せ」
十六夜はにこやかに話しかけるが、目は笑っていない。
侵入者は互いに目配せした後、さらに額を地面に付けて、
「恥を忍んで頼む‼︎ 我々の・・・いえ、魔王の傘下であるコミュニティ“フォレス・ガロ”を、完膚なきまでに叩き潰して欲しい‼︎」
「嫌だね」
決死の言葉を一蹴され、侵入者も聞いていたジンも言葉を失う。
十六夜はそんな空気関係ないとばかりに話を続ける。
「どうせお前らもガルドって奴に人質を取られて、命令されてガキを拉致しに来たってところだろ?」
「は、はい。まさかそこまで御見通しだとは露知らず失礼な真似を・・・我々も人質を取られている身分、ガルドには逆らうこともできず」
「ああ、その人質な。もうこの世にいねぇから。はいこの話題終了」
「ーーー・・・なっ」
「十六夜さん‼︎」
流石に今度はジンも慌てて割って入る。
しかし十六夜はそんなジンにも冷たく接する。
「なんだよ。お前らが明日のギフトゲームに勝ったら全部知れ渡ることだろ?」
「そ、それにしたって言い方という物があるでしょう‼︎」
ジンが十六夜に詰め寄っていると、後ろから男鹿に声を掛けられる。
「おいジン、逆廻の言う通りならこいつらが今まで誘拐してたんじゃねぇのか?」
男鹿に言われて、はっとジンは侵入者を見る。
彼らが命令されて人質を拉致していたのは今回だけではないという可能性に思い至ったのだ。
「そういうことだ。悪党狩りってのはカッコイイけど、同じ穴のムジナに頼まれてまで俺はやらねぇよ」
「そ、それでは、本当に人質は」
「・・・はい。ガルドは人質を攫ったその日に殺していたそうです」
「そんな・・・‼︎」
侵入者は全員その場で項垂れる。
重たい空気の中、十六夜は悪戯を思いついた子供のような笑顔を浮かべていた。
「お前達、“フォレス・ガロ”が憎いか?叩き潰されて欲しいか?」
「あ、当たり前だ‼︎ だが、我々には力がない。それにアイツは魔王の配下だ。万が一勝てたとしても魔王に目を付けられたら」
「その“魔王を倒すためのコミュニティ”があるとしたら?」
え?と全員が顔を上げる。
十六夜はジンの肩を抱き寄せると、
「このジン坊っちゃんが、“魔王を倒すためのコミュニティ”を作ると言っているんだ」
侵入者一同含め、ジンでさえ驚愕していた。
男鹿は事の重大性を理解していないのか興味が無いのか、黙ったままである。
「魔王を倒すためのコミュニティ・・・?そ、それはいったい」
「言葉の通りさ。俺達は魔王のコミュニティ、その傘下も含めて全ての魔王の脅威から皆を守ってやる。そして守られるコミュニティは口を揃えてこう言ってくれ。“押し売り・勧誘・魔王関係御断り。まずはジン=ラッセルの元に問い合わせて下さい”」
「じょ、」
冗談でしょう⁉︎ と言いたかったジンの口を塞ぐ。
十六夜は何処までも本気である。
「それを明日のギフトゲームで証明する。さぁ、コミュニティに帰るんだ‼︎ そして仲間のコミュニティに言いふらせ‼︎ 俺達のジン=ラッセルが“魔王”を倒してくれると‼︎」
「わ、わかった‼︎ 明日は頑張ってくれジン坊っちゃん‼︎」
「ま、待っ・・・‼︎」
ジンの叫びも届かず、あっという間に走り去る侵入者一同。
腕を解かれたジンは茫然自失になって膝を折るのだった。
今回はちょっと男鹿らしくありませんでしたかね?
説明の場面で男鹿が入る余地が無い為に少し頭を使った男鹿になりました。
箱庭生活一日目終了で切りがいいので今週はここまで。
もしかしたらもう一話投稿するかも?
それではまた今度‼︎