今回はリハビリがてら短めで。それとも、これぐらい短い方が読みやすかったりするんですかね?
ハワイ州、オアフ島。ヒッカム空軍基地。
その上空を漂う一つの白銀の姿。全身を白く輝く装甲で身を包み、頭部と接続された巨大なウィング状のユニットを従えたその細身の姿は、ISに間違いない。だが、そのデザインラインや外見からみてとれる技術系はは、既存のあらゆるISに一致しない。
それもそのはず。そのIS,シルバリオ・ゴスペルは、アメリカ・イスラエルの合同研究によって開発された、最新鋭のISである。つまり、第三世代機だ。
二国による合同研究、というのはISにおいては非常に珍しいケースである。これには、イスラエルとアメリカが盟友と呼べる深い関係である事ももちろんだが、イスラエルの国土事情も介在している。
イスラエルはその国防姿勢に現れているように、”守るために攻める”事を前提としている。それは国土が狭く、万が一敵の直接侵攻を許した場合、一気に首都近辺まで陥落させられかねないという問題があるからであるが、この首都、という点をIS研究施設に置き換えれば理解できるだろう。現在、国際社会の裏においてはIS技術を巡った様々な謀略が飛び交っており、時には実弾をも良しとするそれらの問題に対してイスラエルの国土、国防への姿勢は適切ではなかった。故に、信頼できる盟友国家であるアメリカの研究施設を借りる形でISの研究を行うこととなったのだ。
アメリカからすれば、自国にない独自の技術を取り入れる機会であるし、何よりISコアの保有数が国力に比例していない現状、一つでもコアのサンプルは欲しいところ。イスラエルの提案はまさに渡りに船だったのである。
そして誕生したシルバリオ・ゴスペルは二大国家の技術の粋をそそぎ込まれただけの事はあり、ほかに存在しない未知の技術の結晶体として存在している。兵装関係の安定性に大きな問題があり、イギリスのブルー・ティアーズやドイツのシュヴァルツェア系列に遅れをとったものの、IS学園から提供されたデータを元にその問題を解決、来月には正式なお披露目を行う予定である。
そんな機体が何故、米国の最前線たるハワイ州基地まで出向いているのか。それは偏に、ある存在を受け入れ、監視するためである。
「きたわね」
シルバリオ・ゴスペルのオペレーター、ナターシャ・ファイルスが仮面の下で呟く。その視線は、水平線の向こうから迫りつつ巨大な島影を捉えている。
IS学園だ。その超巨大なメガフロートは、広大な太平洋にあってもなおその異様を示し続けている。
搭載されているISコア、その数30。防衛設備における弾薬類の総量は百トン以上、おまけに核融合炉が三つ。それはあくまでIS学園を学園たらしめるために必要な”最低限”の装備ではあったが、装備だけをみればまさに移動する海上要塞、その気になれば世界すら征服できる存在である。たとえその内情をよく把握していても、だからこそ、建前としてナターシャが監視と歓迎に向かわなければならなかった。何せ、今回は用件が用件であるからして。
そう。IS学園生によるトーナメント。それがこのハワイにおいて行われるのだから。
何故、と問われれば、先日の件が大きな問題になったからにほかならない。大国によるスパイの進入と武力行使に貴重なコアと人材の強奪、その少し前にはIS学園への直接的な武力行使まである。
トーナメントという大規模な催し物を行えばそのぶん警備がゆるむのはどうしても避けられない為、再発防止の為にはIS学園では力不足なのは事実。故に、学園長代理である千冬の知り合いであるナターシャというツテをたどって、アメリカに今回のイベントにおける警備担当を委託するという事になったのだ。
アメリカとしては断る理由がないどころかむしろ頭を下げたいぐらいの吉報である。なんせIS世界大会ではイマイチ成績が振るわず、第二世代機は強奪され、再起をかけた第三世代機では盛大なやらかしをかまして半ば隔離状態。国力の強さそのものよりもISの技術レベルが国家の発言力を決定しつつある現状において、アメリカは大きく劣っていると言わざるをえない。だが、ここで警備担当を勝ち取り、生のIS同士のトーナメントのデータを得る事ができれば、その状況は大きく好転できる見込みがある。何せ、出自不明とはいえ進んだ技術によって建造された甲龍、ドイツや日本の最新鋭機、熟練した国家代表候補生のデータを生で手に入るのだ。これで躍進できなければ只のアホである。
無論、それらの話は無事にトーナメントが完了してからという話もよく彼らは理解している。故に、自国の最新最強の戦力であるシルバリオ・ゴスペルを、わざわざアメリカ本土から出向させているのだ。その本気度も計れようと言うもの。
「……でも面倒なことになる予感しかないのよねえ……」
「おお! あれがハワイか……!」
一方のIS学園側といえば、まあのんきな物だった。多くの生徒はそれぞれ外界をのぞける位置をそれぞれ陣取り、思い思いの様子で近づいてくるハワイの様子を堪能している。
まあ、これは仕方ないともいえる。いくら国際色豊かといえど、ハワイ出身の人間はそういない。そしてなんだかんだでIS学園は日本ベースの文化圏といえる環境であり、南国の楽園ハワイ、一生に一度はいってみたいハワイ、結婚旅行はハワイ、という印象は強い。恋に恋する年頃の乙女としては、大いに興味をくすぐられる事だろう。
それはいわゆる一夏組も例外ではなく、中でも一般市民代表の箒が率先してノリノリで楽しんでいた。双眼鏡やらパラソルやらまで屋上に持ち出して雰囲気だけでも楽しむ気まんまんである。
「箒……。それは流石に子供っぽすぎる」
「まあまあ。いいじゃないか、たまにはこういうのも」
「そうだな。それに狙撃を警戒する身としては、こういう遮蔽物があるというのはありがたい。防弾製ではなくとも身を隠せるだけでだいぶん違うからな」
「そういう話をしている訳でもないのですけども……」
「というかどっからもってきたのよ、パラソル」
嘆く簪に、一夏にラウラにセシリアに鈴。チーム一夏全員集合である。なお、響子は自分がチーム織斑だとは認めてないし、シャルロットは獅子身中の虫である上今朝から行方がわからない。
「それはいいとして、いいのか箒にラウラ。大会の準備の方は」
「問題ない。すでに簪女史と完璧な計画を立てている。そちらこそどうなのだ、一夏。先日、急に監視ネットワークから離脱した時は本当に焦ったぞ。あれだけ迷惑かけたのだから、それなりの結果はえられたのだろうな?」
「おうよ、そのあたりはまかせとけ。新必殺技をひっさげた俺の勇姿を見せてやるぜ」
「あらあら。これはトーナメントの組み合わせが完全ランダムなのが口惜しいですわね。ネタバレは自分の身で味わってこそといいますのに」
「セッシー、ちょっとは戦闘狂なのを隠しなさいよ……気持ちは分からないでもないけど。こっちは残念ながら持ちネタないのよねぇ、甲龍と息をあわせるので精一杯だったわ」
「(技術者としてはそれが一番不可解なのだけど。ISコアとの意志疎通に恣意的な同調率向上とか、血涙ものの貴重なデータなんですけど。けど)」
それぞれ、大会にかける意気込みを語る。一様に、誰もが自分が勝つ、その為に知恵と技を磨いてきた。戦うからには勝利する、それはあくまで前提だ。ただ戦って勝つだけではない、そこからより多くの物を得て、より高次元に羽ばたく為に。若者達は、だれもが底なしに貪欲で強欲だ。
それが、若さというものなのだと、自覚がないままに。
「…………」
一方、一人で一夏達とは行動を別にしているシャルルの姿は格納庫にあった。大会に備えて整備士やその卵達が機体のセットアップに余念がない中、一人候補生に与えられた専用ガレージで愛機を前に佇んでいる。
本来彼女は国家代表候補生であり、機体は常に量子化された状態で自身とともにある。だが、彼女の勿論として機体のクセ、偏り、そういった状態を完全に把握するためにはやはり手作業が最後に物を言うというものがあった。
本人の言うところの拘り。それに従って、自らの手で愛機を整備し機体状態を肌で知る。決戦を前にしての、ある種の儀式である。
「うん、今日もよい調子だね、リヴァイヴ。ファインロータス社のシリコンオイル、いい感じなのかな」
ゴトン、と油で鈍く輝くパーツを置いて鼻をこする。その表紙に顔に油がついてしまい、気がついたシャルルは慌ててタオルで顔を拭った。
「危ない危ない、人間はISみたいに再量子化で汚れは落とせないからね。……僕はそれでもいいけど、困る子もいるしね」
ちらりと横目で整備室の入り口を見やれば、数名の女子生徒が隠れてこちらを伺っているのが見て取れる。シャルルが彼女らに微笑みかけると、全員が顔を真っ赤にしてわたわたと逃げていった。
「恥ずかしがり屋のお嬢さん達だ」
くすりと笑って、整備の完了した愛機を見上げる。
ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ。オレンジ色の鮮やかなカラーリングと大型の副腕が特徴のその機体は、念入りなメンテナンスによって新品のような輝きを放っていた。いや、各部に使い込まれたからこその味がある事を考えれば新品以上か。それは、機体の事を設計者以上に知り尽くしていなければできない事だった。
「……勝つよ、リヴァイヴ。僕たちは、その為にここに来たんだ」
相棒を前に呟く貴公子の目によぎる闇。それはただ呪いと憎悪に満ちた汚泥ではなく、新月の夜のようなどこまでも透き通った汚れない黒。漆黒の決意。
「待ってて、父さん。僕が必ず……」
ブッ、とスピーカーに入るノイズ。直後、IS学園全体に、トーナメントの組み合わせの発表が通達された。
第一試合。
織斑一夏&シャルル・デュノアVS篠ノ之箒&ラウラ・ボーデウィッヒ。
いきなりの、本命対決。動揺と期待に揺れる学園の中、それぞれのチームは、秘めたる秘策と決意を胸に自らの勝利を誓った。