極東の騎士と乙女   作:SIS

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code:00 避け得ぬ運命への警鐘(2)

 

 ガコン、と自動販売機が重い音を立てた。

 

 日本限定の味、それを興味深げに観察しながら拾い上げつつ、シェリーは立ち並ぶ自動販売機に溜息をもらした。いくらIS世界大会の会場の一つとはいえ、普段は別の事にも使われている。そんな施設に無造作に自動販売機を大量に設置しておくその不用心さと、それでも問題ない日本の治安、その二つに対してだ。

 

「……なんでこんな表向きは平和な国であんな修羅みたいな子ができるのかしら?」

 

 修羅見たいな子。

 

 織斑千冬。

 

 ………決勝戦に駒を進めた、世界最強候補。現時点で、世界三位の中に入る事が約束されている女傑だ。

 

 結局、準決勝において勝利したのは織斑千冬だった。

 

 あの試合において、シェリーは勝気を逃した訳ではなかった。確実にチャンスをものにし、一撃を放った。

 

 予想外だったのは、織斑千冬の対応だ。

 

 彼女は、ライフル弾を迎撃しなかった。とはいえ、暮桜の防御力であえて直撃を許すという手段は使えない。彼女は恐るべきことに、居合いの構えのまま、己の武装であるブレード、そのグリップの底部でライフル弾を迎え撃ったのだ。当然、グリップははじけ飛び、暮桜のシールドバリアエネルギーもごっそりと奪われたが……現在、ISに使用される材質で最も高い硬度と耐久性を持つブレードそのものの素材はその衝撃に耐えきった。そして彼女はその被弾衝撃の中でもとり落とさなかったブレードを素手でつかみ振りあげ、連続瞬時加速でPorに一撃を叩き込んだのだった。

 

 はっきりいって、正気の人間がやる事ではない。それがシェリーの感想だ。一撃切りはらった段階で、Porの放つ一撃が尋常ではない事はわかったはずだ。にも関わらず、一歩間違えば即撃墜の危険極まりない策を幾つも放ち、その全てを成功させて勝利を得る。その過程で受ける損傷もまた決して軽くは無いのに。

 

 だが絶大なリスクと勝利というリターン。勝者こそが全て、勝利こそが全ての世界で、それはどこまでも正しい。

 

 正しい。が、実行するとなると話は別だ。ましてや、それが全てを失うリスクと絶大な苦痛を伴うのでは。正気の判断だとは今になっても思えない。だがそれをやった。鋼鉄の意思で、織斑千冬はその判断を是とし、実行に移したのだ。

 

 故に、修羅。

 

 平和しか知らない人間に、出来る事ではない。

 

 遠くから、歓声が聞こえてくる。

 

 おそらく、決勝戦がもうすぐ始るにあたって、何かナレーションでも始まったのだろう。

 

 織斑千冬の相手となるのが誰だったのか、シェリーは覚えていない。興味もない。

 

 何故ならば別ブロックの選手の機体はシェリー曰く「不細工」な攻撃特化。歪なまでに攻撃力に特化し過ぎたそれは、故に操縦者の存在を無視してしまっている。

 

 人機一体。それこそがISの基本であるのにそれを無視してしまった機体が、あの織斑千冬に勝てるはずもない。

 

 なのに観客はどっちが勝つのか、無邪気に予想を語りあって盛り上がっている。平和な事だ。

 

「……ま、どこの国も平和なのは表向き。中身はドロドロしてるのは一緒でしょうけど」

 

 うちの国もそうだし、と独り呟く。

 

 ISという、核兵器を凌駕する戦略兵器が各国に分配された事で、表向き世界は均衡を保っている。長く続いた紛争や宗教がらみの問題も、その両者が極めて危険な戦略兵器を持った事による自制から収束に向かい、人類は有史以来極めて安定した社会構造を現在構築しつつある、というのが定説だ。

 

 だが、少し考えればわかる事だ。何万年という長い間、環境も隣人も顧みずに闘争に明け暮れてきた人類の残虐性が、そんなもので収まるだろうか。自分の命すら省みない熱狂的な信仰、先祖代々血に刻み込まれてきた怨念がそうたやすく鉾を納めるだろうか。

 

 答えは、否。

 

 むしろISという玩具を手に入れた考えの足りない独裁国家や宗教勢力は、それこそ嬉々としてその刃を近隣の国に向けようとしたはずだ。そしてそれが実際に振るわれれば、大義名分を得た各国家が我先にとISを戦線に投入するだろう。下手をすればそのまま人類の終焉まで一直線、という事も決して心配性の妄想ではない。それだけの力をISは持っており、それを振るう人類という種はあまりにも幼稚であったはずだ。

 

 だが、現実にそのような末期的な事態は発生していない。

 

 そこにいかなる事情が存在するかを、一パイロットであるシェリーは知るすべもない。だが、少なくとも一部の勢力は武力としてISを実戦に投入したはずで、しかしその事は完全に世間から隠しきられている。どのような政治的交渉が行われたのか、そしてどのような武力が振るわれたのか。それを考えれば、今の世界の平和は表向きでしかなく、一皮剥けば爛れた人の妄執が渦巻いているなど想像に容易い。

 

 最も、考えすぎなのかも知れない、ともシェリーは思う。

 

 ひょっとしたら考えてるよりも人類は聡くて、本能によってISを欲望のままに振るう危険性に気付き本当に自粛した結果が今の世界で。シェリーも誰もが、己の思うように生きている世界がここに、あるのかもしれない。

 

 でも、それはきっと、ない。

 

 イギリス代表として、シェリーはこの第二回世界大会で、多くの国家が送り出してきた破壊の申し子と戦ってきた。それらが纏う、人の悪意、敵意、殺意。それらが具現化したかのような苛烈な攻撃を潜り抜けてきたISパイロットとしては、一つの結論を出さざるを得ない。

 

 人は、変わっていない。幾万年も超えてなお、愚かな人は。

 

 それを分かっていて尚、IS操縦者を降りる気の無いシェリー本人も含めて。

 

「ま、私も救い難い馬鹿って事ね……うん?」

 

 缶ジュースのプルトップに手をかけようとしたまさにその瞬間、シェリーの相棒であるPorが警戒シグナルを放った。手をかけたまま、目つきが戦士のそれになる。彼女は素早く視線を走らせて、死角や射線の通る位置を把握するとさりげなく自動販売機の影へと踏み込んだ。

 

 今、シェリーの周りにボディーガードはいない。だが、それは、シェリーが無防備であるという証明にはならない。むしろ、その逆。超人的な射撃センスを持ち、軍人並みに身体を鍛え上げ、そもそもISを自衛のためなら展開を許可されているシェリーにとって、ボディーガードは自身の射線をふさぎ、行動に悪影響を与える障害物でしかない。

 

 そんな文字通りのワンマンアーミーたるシェリーであったが、次に起きた出来事は彼女をしても対処が困難なものだった。

 

 近くのゲートを突き破って出現するトラック。身構えるシェリー。

 

 ガン無視で走り去っていくトラック。あれ、とそれを見送るシェリー。

 

 やがてトラックが道路の向こう側に消えていき、シェリーは若干拍子抜けしたように相棒の待機状態である指輪をこつんと叩いた。

 

「何、びっくりさせないでよ……? Por、どうしたの?」

 

 シェリーに危害がなかったにもかかわらず、相棒は変わらず緊張状態を保っている。不思議に思ったシェリー。が、次の瞬間、その真意に思い当たった彼女は、血相を変えて走り去ったトラックの方に視線を飛ばした。

 

 ……今、会場では決勝戦が今まさに起きようとしている。

 

 そして、ある程度の実力をもった者から見れば、織斑千冬が勝者となるのは確実。二回連続での世界大会優勝は、日本という国家の地位を盤石なものにしてしまうだろう。それを面白くないと思う人間も、腐るほどいるはず。

 

 だが、織斑千冬は鬼神だ。例えその戦術を完全に解析され対策を立てられて尚、決勝戦に残ってくるほどの問答無用な実力者。

 

 しかし彼女とて人間だ。無から生まれたのでなければ、両親がいて、兄弟もいるだろう。話に聞くところによると彼女には溺愛している弟がいると。

 

 まさか、と思いつつも、間違いない、と確信する。

 

「やっぱり世界は……!」

 

 シェリーは自分のスタッフ達に連絡を繋ぎながら、トラックを追って駆けだす。その体を光が包みこみ、展開された装甲が彼女を包みこむ。

 

 のっぺらとした無貌の装甲の下、彼女は怒りに顔をゆがませながら、蒼穹の空へとまっすぐに駆けあがっていった。

 

 

◆◆◆

 

 

 何故。

 

 それが、織斑一夏が考える事のできた唯一の言葉だった。

 

 彼は唯、姉の晴れ姿を応援しに来ただけだった。

 

 姉がIS操縦者なんて大それたものになっていたのを知ったのは、織斑千冬がIS世界大会モンドグロッソに優勝したというニュースを見て初めて知った事であったし、また家でも彼女はISについて全く話さなかった事から、姉が自分をISから切り離そうとしていたのはわかっていた。

 

 それでも、世界大会という自分には想像もつかない大舞台に挑む姉を前に、何かせずにはいられなかったのだ。

 

 だから、大会運営委員とやらから招待状が届いた時はそれを姉に隠してでも客席を取り、怒られるのを分かっていて出撃前の姉に会いに行ったのだ。当然予想通りにめちゃくちゃ怒られた一夏だったが、それでも彼は姉の冷たく凍てついていた相貌が柔らかくほどけていくのをちゃんと見ていた。姉の緊張をとる事ができたのなら来た意味もあったかな、と安心していた。

 

 そうして、姉の控室を後にして、人気のない階段まで来た時。

 

 気がつけば、トラックの荷台に転がされていたのだ。

 

 誘拐されたのだ、と理解するのにしばらく。そして理解した後は、一夏は己の愚かさにひたすら歯噛みするばかりだった。

 

 少し考えれば、子供でも分かる話だ。世界大会優勝者にして今大会の優勝者候補の身内が、護衛もなくうろうろしている、それがどういう事なのか。姉に悪意を持つ者にとって、織斑一夏がどう見えるのか。もっと考えるべきだった、と一夏は悔しさに涙すら流した。

 

 だが、決して一夏が愚かともいえないだろう。例えば、オリンピックや他の世界大会でも、身内に危害を加えて選手を陥れるような、そんな最低最悪の行為はそう起きる者ではない。これは、軍事兵器絡みであるが故に人の倫理が緩んだのか、だからこそ悪意あるものが集ってきたのか。結局は代理戦争である、というIS世界大会だからこそ起きた事なのかもしれない。そのあたりまで考えるほど、一夏に余裕はなかったが。

 

 やがてトラックが停車し、その衝撃で荷台に積んであったあれやこれやと一緒に乱雑に転がる事になった一夏は差しこんできた光に胡乱げに顔を上げた。

 

 逆光の中、数人の人影が見える。詳細は見えないが、シルエットから武装している兵隊のように一夏には見えた。そして、その人影が一夏に向かって武骨な何かをつきつけながら、乱暴に彼の襟首を掴んで引きずり出した。

 

「っ」

 

 引きずり出される時、荷物や荷台の縁に強く叩きつけられ激痛が走る。結構な苦痛に、しかし一夏は歯をこらえて苦悶を漏らすのだけは防いだ。これ以上情けない子供になりたくない一夏は、歯を食いしばったまま自分を掴む兵士達を見上げた。

 

 その視線が気に入らなかったのだろう。兵士は一夏の知らない言葉で乱雑に叫びながら、彼を足蹴にした。剣道をやって鍛えているとはいえあくまで中学生でしかない一夏の脇腹に、鍛えられた軍人のブーツがめり込み、衝撃が呼吸を奪った。

 

 一瞬息を止め、ついで激しくせき込む一夏。それを兵士が見下ろしながら、まるでずた袋でも扱うように乱暴に彼の首元をつかみ、引きずった。彼らの前には、古ぼけた私設。かつて宿屋か何かであったそれは激しく風化し、幽霊屋敷のようだった。

 

 その中に一夏を連れて乗り込んでいく兵士たち。一夏には、ドアもなくぽっかりと空いた建物の入り口が、まるで自分を奈落に引きずりこもうとしているかのようにも見えた。

 

「………俺は……」

 

 引きずり込まれていく。

 

 一夏の思いも。姉の栄光も。これまで二人でささやかに守ってきたはずの、いろんなものも一緒に。

 

「……俺は……!」

 

 烈火が、まだ幼げな少年の相貌に奔った。

 

 少年の細い手が、自らの首元を抑える傭兵の手に伸びた。分厚い防護服で体を覆っている傭兵は故に、少年の柔らかな手の感触に気がつく事が出来なかった。

 

 ……ここで話は変わるが、織斑一夏は一時期、ある古武術を習っていた時期がある。戦国時代から伝わるという実戦ありきのその武術を、篠ノ之流という。それは今は剣道という形をとってこそいたが、その指導内容には当然のように無手で剣を持った相手を下すための要素も多々あった。

 

 例えば、分厚い籠手の上から、相手の関節を極めて外してしまうようなものも、当然のように。

 

「があっ!?」

 

 悲鳴を上げて右手を抑える兵士の膝を、少年の腕が払った。必要最低限の力で、相手の体重を利用した教本に描いたような投げ技が、少年の倍近い体重を持つであろう兵士をひっくり返す。いくら兵士が油断しきっていたとはいえ、その技量は子供とはとても思えなかった。師が去って数年、指導を受けられなかったにも関わらずこの技量。一夏がどれだけ真摯に武道に撃ち込んできたかを物語る業だった。

 

 信じられない、とゴーグルの向こうで目を見開く兵士。それと刹那、目を合わせた一夏はざまあみろ、と目で嘲笑い。

 

 地面に叩きつけられた兵士の喉元に、追撃の踵落としを見舞った。

 

 びくん、体を跳ねさせて、そのまま沈黙する兵士。殺意すらともなった一撃は、だからこそ大人の兵士と唯の子供の体格差を覆し、兵士の意識を刈り取った。

 

「……はは、ざまあ、みろ」

 

 息を荒くして、倒れた兵士を見下ろす一夏。すかっとした気分だ、人を馬鹿にするからこうなる。これで思い残すことは無いとすら、彼は思った。

 

 今頭に突きつけられている銃に撃たれるとしても。

 

 振り向かなくても一夏には分かる。背後の兵士が、たかが子供にしてやられた怒りに顔を獣のように歪ませて、感情のままに引き金を引こうとしているのが。

 

 馬鹿な奴だ、と彼は思う。

 

 兵士たちの目的は、一夏を誘拐してなんからの形で織斑千冬に決勝戦出場をあきらめさせる事だろう。なのに、その為の人質を殺してしまってどうする。そもそも誘拐ならともかく、流石に殺しにまで発展すれば大会運営委員や政府、何よりも織斑千冬が怒り狂うにきまっている。彼らはひと時の感情で、自分達の目的どころかその後すら危うくしているにも関わらず、それに気がついていいない。全くもって三流である。

 

 まあ、心残りがあるとすれば、と一夏は溜息をついた。

 

「こんなド三流に殺されることかな」

 

 

 

『やれやれ、修羅の弟もまた修羅なり、か。おっそろしいとこねジャパニーズって』

 

 

 

 銃声の代わりに、ぐほぁ、という野太い男の悲鳴が轟いた。

 

 え、と硬直したままの一夏の背後で、さらに立て続けに殴打音。何か恐ろしく硬いもので肉を叩くような音が数回した後、背後の気配が消失した。

 

 恐る恐る振り返ってみる一夏。

 

 少し離れた処で、彼に銃を突きつけていた兵士が倒れていた。男はだらんと手足を投げ出したまま、ぴくりともしない。

 

「え、あれ……死んだ? なんで?」

 

「失礼ね。殺してないわよ、暴徒鎮圧用の奴をちょっと撃ちこんだだけ」

 

 気配の類はなかった。空気の動く流れすら。なのに突然、彼の頭上から声が降ってきた。

 

 今度こそ一夏は戦慄すらともなって跳ねるようにして振り返る。

 

 そして、言葉を失った。

 

 

 

 そこにいるのは、人ではなかった。

 

 

 

 全身を包み込む、流線形でありながら所々に鋭角を残した、生身と鎧を融合させたかのような有機的な紫のシルエット。

 

 手に持つ、武骨そのものの長大なライフル。全身に備わった、虫の目を思わせる多数のカメラ。

 

 無骨を通り越して砲台そのものやミサイルランチャーそのものと化しているISが多い第二回世界大会出場機の中では、比較的本来のISに近いシンプルなスタイリング。だがそれでも全身装甲は異彩を放ち、またそのロボット然とした姿にしては酷く華奢な印象を受ける。

 

 知っていた。

 

 一夏はモニター上で、それの名前を知っていた。だが、実際に対面した彼は、既知の存在であるはずのそれを前に言葉を失っていた。

 

 プレッシャー、とでもいえばいいのか。見えない圧力のようなものが、自らを縛り上げるのを一夏は感じていた。

 

 まるで、彼の敬愛する姉である織斑千冬が、道場で剣を構えている時のような。寄らば切る、触れれば切る。本当の達人が戦闘態勢に入った時に、意図せずとも形成してしまう絶対防衛圏に無遠慮に踏みこんでしまった時のような、息苦しさ。

 

 きゅぃぃ、とカメラのレンズが稼働する音がする。目の前に浮かぶISは微動だにせず、首すらこちらにむけてはいなかったが、一夏にはその機体がこちらを注視ししているのが手に取るようにわかった。

 

「なんで……?」

 

 それは、何に対してか。

 

 ISが動く。手に持った、長大なライフルを軽々と繰り、その銃口を一夏に向けた。

 

 呆けていた一夏はそれに対応できない。身動きできない彼を前に、長大なライフルが火を噴き……。

 

「あ……」

 

『不用心ね』

 

 どさり、と倒れ込む兵士を振り返り息をのむ一夏。無事だった兵士が自分を狙っていた事に気がつかなかった、その事に顔を青くする。

 

 そして一夏を危うい処で救った主は、ふわりと重量感を感じさせない動きで着地すると、一夏を今度こそ視線でもって見下ろした。

 

『貴方が、織斑一夏ね』

 

「……そうです。貴女は?」

 

『シェリー・アビントン。キミのお姉さんに準決勝でぶった切られた女よ』

 

 実にコメントしがたい表現である。そのぶったぎった女の弟である一夏としては苦笑いを返すしかない。

 

 困ったように頬をかく一夏を見て、シェリーも肩の力を抜いた。正直、彼女としては一夏の少年らしい表情を見て気が楽だった。織斑千冬を比較対象にしていた為、コミックに出てくるブシドーだのサムライだのみたいな人格を想定していたのだから無理もないが。

 

 ちなみにシェリーの持つ織斑千冬像が異常なのではなくて、多かれ少なかれIS乗りは織斑千冬に鬼神を重ねてみているのは、言うまでもないだろう。

 

『まあいいわ。つかまりなさい、今戻れば決勝戦には間に合うから』

 

「……ありがとうございます!」

 

 延ばされた手を一夏は握り返す。

 

 冷たい、鋼鉄の指。だけどその冷たさの向こうに、人の柔らかい暖かさを、彼は感じ取った気がした。

 

(千冬姉と同じだ)

 

 ISを纏い、出撃を控える姉。彼女が一夏の頭を乱暴に撫でた時に伝わってきた、あの暖かさ。

 

 この人は、信じられる。きっと、信じてもいい人だ。

 

 その確信と共に、一夏は躊躇う事なく手をしっかりと握り返した。

 

 

 




オリジナル機体設定

プリンセス・オーダー
分類:操作性特化
世代:準第二世代型
単一仕様能力:Which Dreamed It
製造元:SAP(シェリー・アンド・プロメテウス)財団
詳細:イギリス国家代表、シェリー・アビントンの愛機。本来は戦闘用ではなく、医療系において高い技術を保有するSAP財団がISテクノロジーの医療技術方向への応用、自社の技術力のPR向けに設計した図面がイギリス政府の目にとまり、戦闘用に調整された上で建造されたという経緯を持つ。
神経系へのインタラプト技術に得に優れたSAP財団らしく、機体制御に白騎士からの劣化コピーである脳波測定インターフェイスの他に、直接神経間にニードルを差しこみ神経間物質を読み取る事で機体を制御するニューロン・ニードルと呼ばれる技術が採用されている。それにより本気は極めて繊細な機体制御を可能としており、搭乗者であるシェリー・アビントンの能力をフルに発揮する事に成功している。反面、あくまでスペック上では大した性能をもっていない。
第二次世界大会モンドグロッソにおいて、搭乗者の狙撃能力により準決勝まで勝ち上がり、暮桜に敗北するもその設計思想と実績はIS業界に大きな衝撃を与え、後の第三世代型開発へのきっかけとなった。

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