Fate/beyond【日本史fate】   作:たたこ

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12月1日⑥ 決着、そして

 セイバーから離れた明だが、視界が悪すぎていったい自分がどこにいるのかわからない。アーチャーや一成といた方がいいのかもしれない。しかし彼らからも二十メートル程度しか離れていなかったはずなのだが、方向さえもはっきりしない。と、どこからか自分を呼ぶ声がした。

 

「碓氷!」と呼ぶのは、土御門一成の声だ。アーチャーの気配は共にない。

「あいつ、アーチャーから離れて何やってんの……」

 

 初めて会った時から一成がそれほど手練れの魔術師ではないと看破していたため、こんな状況に自分のサーヴァントから離れるとは何を考えているのかと思う。共闘の手前、明はその声のする方へ向かって走った。すぐに神主服にコートを羽織った一成が見つかった――というより、一成が明を見つけた。

 

「よかった!無事だったんだな!」

「いやそれは完全にこっちのセリフなんだけど……ていうか元気だね……というかアーチャーは?」

「セイバーの援護を任せた!」

 

 本気で能天気な一成の言葉に明は脱力したが、一成は明よりもこの霧の中で元気だった。男であることとは別に彼の起源や属性が関係しているのかもしれない。一成は明の異変に気付いたようだ。

 

「オイ、さっきより顔色悪くないか?この霧、やばいからそのせいか?」

「まぁね。この霧、視界まで悪くするし魔力まで徐々に削り取っていくみたい……あなたは?」

「俺も魔力が減ってる感じはするけど視界はそこまででも……碓氷!」

 

 突如一成は明を押しのけ、庇うように立ちはだかった。その直後、明も何が起きたのか察知した。彼の肩越しに腕を伸ばし、魔術を行使する。「hajoaminen(分解)!」

 

 海水を魔力で固めて生成した刃が、黒霧の彼方より彼らを狙って飛来する――明の魔術はギリギリで間に合わず、真っ先に到達した凶刃が一成の右腕を掠めた。

 

「っぐ……!」

「!?大丈夫!!」

「全然平気だ!」

 

 太く練られた刃ではなかったため、一成は呻き声をもらしながらも倒れることはなかった。コートの右腕部分が赤く染まりつつあるが、すでにその刃は影も質もない。

 やはり先ほどの海水の刃だと、明にはすぐに分かった。

 

「……何だ、今の」

「バーサーカーのマスターの仕業だよ。あいつは海水を刃にかえて襲ってくる……一つ聞きたいんだけど、今この霧の中でどれだけ見えてる?」

 

 一成は明よりもこの霧の中で視界を保っている。明を発見できたこと、先ほどの水刃を早くに気づいたことからもそれは明らかだ。

 

「近づけば倉庫がどこにあるとか、壁があるとかは見える。多分、半径二十メートルくらいならだれがいるか見えると思う」

「じゃあ、なんとか移動もできそうだね。……移動するよ。バーサーカーのマスターを探そう……怪我してるとこ悪いけど」

 

 周りが見えない明は、彼に先導してもらわないと進めない。明は一成に右手を差し出した。一成は急いでその手を取ったが、視界はあれどどこを探すべきか当てがない。

 

「俺、魔術師の気配とかあんまわかんねーんだけど」

「気にしなくていい。そう遠くに行ってるわけじゃないから、やみくもでいい。それに一か所にいるとさっきみたいな攻撃がまた「碓氷!」

 

 一成が指さした先に向かい、明は影の壁を展開した。今度は間に合ったそれは、水刃をことごとく分解して消し去っていく。二人は頷くと、霧に紛れたバーサーカーのマスターを探すべく走った。

 

(それにしてもいい目をしてる)

 

 この霧の中、一成にあれだけ見えていることは嬉しい誤算だ。男であることを差し引いても、起源や魔術の素養の補助がなければありえない。しかしそれを考えている場合でもない為、明はそれを思考の隅に追いやった。

 

「碓氷、あっち!」

「はい!」

 

 走りながらも、刃は二人を狙っている。時々セイバーとバーサーカーが破壊した建物の残骸で転びそうになりながら、彼らは倉庫街でバーサーカーのマスターを探す。

 あちらも移動しているようで、今のところ見つかっていないし一成の目にも捉えられていないらしい。

 

 このまま追いかけっこを続けていると、明の魔力も一成の魔力も削られてサーヴァントもろとも死ぬかもしれない。三度刃は明たちに群れ成して襲い掛かり、防ぐべく影の壁を展開する。しかし、今度は先ほどよりもずっと数が増えており、分解しもらした数本が一成、または明の体を掠めていく。

「ッ、碓氷!」

 二人の背後から飛来した水刃に反応が遅れ、僅差で早く気付いた明はとっさに一成をかばうようにその身を挺した。ある一本が脇腹を掠め、もう一本が深々と右足に刺さっていた。

 妙に深く刃に貫かれた衝撃か、セイバーに与える魔力が乱れた。セイバーの様子を確認したく彼に呼びかけるも、当然セイバーも激闘の最中で話している余裕がないようだ。

 一成はその刃を抜こうと手を伸ばしたが、彼がそうするまでもなく刃は形を失い潮水に戻った。

「……うーん、傷口に塩をすり込む機能まであるとは」

「何のんきなこといってんだ!歩けるか!」

 本気で怒鳴る一成に対し、明は顔色を変えずに何も見えない周囲を見渡した。「土御門、バーサーカーを倒すには何が一番有効かって、言ったよね」

「……?時間をかけること、だろ」

 

 一成も油断なく周囲を見回して、焦燥した顔つきで明に肩を貸した。

 

「そう。時間」

 

「最強」のクラスとされるバーサーカー。だがその代償は、他のサーヴァントとは比較にならないほどの魔力消費量である。春日の聖杯の元である冬木の聖杯戦争でも、バーサーカーのマスターの多くは魔力を根こそぎ持っていかれ自滅したという。

 

 さらに咲は病床の身であり、余命半年と、本来なら魔術の行使どころか通常の生活さえ制限される状態だ。そのような体で魔力を生成することは想像を絶する苦行である。通常、魔力は生命力を元にして生成されるために咲が生み出せる魔力など本当に微々たるものだ。

 

 ――バーサーカーのマスターは、バーサーカーを維持する為だけでなく自分が魔術を行使する分の魔力も、人で補っている。ならば、一層魔力の消費は早い。

 

 ひたすら耐えて耐えて耐え凌げば、バーサーカーは自滅する。そういう策もあるとセイバーや土御門にも言っておいた。まさかバーサーカーの宝具の作用に視覚阻害があるとは想像しなかった為、その戦法も現実味を帯びているのだが――。

 

(……本当に魔力切れまで耐え凌げるの?)

 

「おい碓氷!アーチャーが宝具を使う!」

「は?」

 

 いきなり予想しなかったところから話が降ってきて、明は呆けた声を出した。明が影を展開する間も、一成は話を続ける。

 

「……よくわかんねーけど、使えばセイバーがバーサーカーを殺せるはずだって!」

 

 明は霧に魔力を削がれながらも、アーチャーの言葉を吟味する。今耐え続けるのは、たとえ勝ったとしてもダメージが大きい。明たちも咲を見つけられる確証はない。セイバーの宝具はバーサーカー殺しには向かない。ならば、そういうアーチャーの宝具にかけてみるべきだろう。

 

「……アーチャーってセイバーとバーサーカーの場所はっきりとはわかってないでしょ?それでもその宝具は使えるの?」

「……セイバーの剣は魔を払う剣、つか魔力を殺ぐ剣だろ?この霧の中でも魔力が薄い箇所があるから、そこだろうって。その程度わかれば大丈夫みてーだ」

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 アーチャーはアーチャーというクラスにしては目がよくない。勿論バーサーカーによるこの霧を通して戦況を完全に把握できているわけではない。セイバーの剣の効力により、彼らの位置はわかるが激しく戦う動きを追えるわけではない。

 

 それでもアーチャーは何度も、間断なく矢をつがえて放つ。

 

 矢を放つのだから、その正確さに視覚情報が重要であることは言うまでもない。だが、視界がなくともこのアーチャーが矢を射る意味はある。

 

「――運が良ければ当たるであろう」

 

 アーチャーの放つ矢は、自動的にアーチャーとアーチャーが狙う相手の幸運値による差で補正がかけられ、威力と効力が変わる。ただ、今は視力による補助がないため威力も下がるが、セイバーを補助するくらいの効力はあるはずである。

 

 ここは波止場に停留された船の上。アーチャーは、ようやっと届いたマスターからの返事に頷く。もともと遠距離型のアーチャーだが、この作戦自体セイバーに損が多くアーチャーに得が多い作戦である。能力上そうならざるを得ないのだが、あまりに動かないことはセイバー陣営の不興を招く。ここで宝具の一つでも解放し力にならなければ、あまりにおんぶにだっこに過ぎる。

 

 それに、バーサーカーはアーチャーにとっても必ず倒さねばならぬ敵であり、それに比べれば真名を示すのも致し方ない事である。

 

(セイバーはここから北東の方向、百メートルか)

 

 アーチャーはしばし眼を瞑り、己が感覚を研ぎ澄ませる。濃密な霧の中にわずか、清浄な魔力の点が存在する事を感じ取る。それがセイバーの魔力である。

 アーチャーの手には磨き抜かれ、銀色の光りを放つ脇差程度の長さの剣があった。ランサー戦では近接した時に攻撃を防ぐために使用していたが、これこそアーチャーの宝具の一である。

 

 

 平安の時代。争いなどなき時代と思われていたかもしれないが、平将門のような反乱もあり決して呑気に平和を謳った時代ではない。京に盗賊は跋扈し、旱魃が起きれば人は飢え、洪水が起きれば疫病が蔓延する。

 

 しかし、もし仮にそれらすべてがなかったとしても、人は争う。

 人は、外に敵がなければ、内に敵を見出す。

 

 

「――真に争いのない時代が来るとしたら、そこにいるのはすでに人ではない。例え人と同じ形をしていようとも、それは人以外の何かよ」

 

 形式を変え、姿をかえ、血は流れなくとも、人は争う。

 剣がなくても、人を殺すことはできる。アーチャーの戦いは、そういうものであった。

 

 

 平安時代における、内なる争いの末に頂点に立った者。古代における王朝政治の最高峰。後世のありとあらゆる貴族たちにおいて聖代と崇められ、この世の栄華を極めた男。

 

 

 聖徳太子の生まれ変わりと称えられ、その幸運を称揚された彼は一人、彼の家に伝わる皇統の象徴(レガリア)たる剣を掲げて高らかに謳う。

 

 剣は月光を受け、アーチャーの魔力を受けて今その姿を顕現す。

 

 

「我は皇統を助けし者 我は皇統を保護し者 我は皇統を長らえし者―――尊きを受け継ぎし剣(つぼきりのみつるぎ)!!」

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 変化はすぐにセイバーに伝わった。アーチャーの魔力が上乗せされたように、セイバーの魔力が跳ね上がる。まるで令呪を一画消費した、もしかするとそれ以上の多量の魔力が、その体に流れ込んでくる。

 これが皇統を助けるというアーチャーの宝具。同時にアーチャーの強い「バーサーカーを打倒する」意志も伝わってくる。

 

 神剣の回復力のために幾度も怪我を負おうと回復してきたが、さらに今まで受けた傷もなかったのように回復し、宝具を放つ、其の為だけに全てが整えられていく。

 

 ―――霧の剣は今再びその姿を月夜の下に、その清冽たる姿を曝す。同時に、向かってくる鋼鉄の狂戦士の太刀を渾身の膂力で跳ね返す。

 

 苦しめられた三体もの攻撃も、今なら何体いようと跳ね返せる―――!!

 

「ふん!!」

 

 耳を劈くような剣戟音が響き、セイバーは後ろに下がる。剣を構えなおす。この宝具は溜めの時間がほぼいらないところが利点だ。そして、同時にセイバーが危機であるほど、相手が本気であるほど威力を増す剣である。前回は住宅街のど真ん中であり、全力で撃つと余計なものも壊しかねなかったから全力では出せず、かつバーサーカーも本領発揮してはいなかった。

 

 幻想返しの剣は、相手の放った力を焔と共に跳ね返す。白い光が、セイバーの剣に収束していく。磨き上げられた剣は光の束となり、バーサーカーを真正面から向かい撃つ。

 凛とした声は、静かに、確かに闇の中へ冴えわたる。

 

「わが身を焼く、焔など無し」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ァァァァァ!!」

 

 そしてセイバーは高らかにその真名を謳う。

 

 

全て翻し焔の剣(くさなぎのつるぎ)―――!!」

 

 禍々しいほどの魔力がセイバーの剣によって、白い焔を纏った極光に変換されていく。バーサーカーの宝具の力をまるごと跳ね返すその剣は、バーサーカーから吹き上げる黒い霧を払いのけ照らし出し、全てのモノを明るみの下にさらけ出す。

 冥府の夜にも等しかった倉庫街は、月光と星々の輝く全き夜に姿を取り戻していく。

 

 だが、宝具の力により異常な耐久力を身に宿したバーサーカーは、まだ勢いを緩めることなくセイバーへとその凶刃を叩きつける。

 地獄の底から現出した大怨霊は、それしきのことで三体全てが消えることはない。

 

 

 ――それでも、セイバーが動揺することはない。

 

 その剣は瞬時に煌めきを取り戻し、担い手の咆哮に答えるべく白光を迸らせる。再び振り上げられた剣は、先ほどとつゆ変わらぬ神威を轟かす。

 

全て翻し焔の剣(くさなぎのつるぎ)―――ッ!!」

 

 

 宝具開帳・二連撃――その威力はバーサーカーの身を吹き飛ばし焼くにとどまらず黒い霧をも眩く照らし、焼き焦がす。神威を宿す焔に焼かれ、バーサーカーは断末魔の声を上げる。

 だが、セイバーは勝利を確信するでもなく奔った。

 

 彼のサーヴァントを真に殺すために必要なことはそれではない。セイバーは放たれた矢のような速さでバーサーカーに迫り、その足を払い燃える体をものともせずに踏みつけて正確にその炯炯たる目を己が剣で突き刺した。一体、二体、三体、目にも留まらぬ早業でその覆われた眼下を突き刺した。

 血が溢れ出してもセイバーは表情を変えず、何度も何度も突き刺した。

 

 そして、静かに悶絶するバーサーカーを見下ろしていた。

 

 ――もう蘇ることはあるまい。魔力の残らないバーサーカーの姿を見て、セイバーは確信する。その通り、白光の焔に焼かれ体を灰に帰していく。

 きらきらと輝く金砂のように、バーサーカーの体は儚くなる。

 

 バーサーカーの体はなくなっていき、今やのこるは大本であろう最後の一体。断末魔をあげながら残っているその手は、あらぬ方向へ必死でのばされていた。

 

 その先には、彼のマスターである真凍咲が倒れていた。肩が小刻みにふるふると震えている。

 

「あ……ア……」

 

 理性を失っているはずのバーサーカーは、今際の際まで己のマスターを救おうとしているのか。それとも悪あがきの如く、本能につき動かされているだけなのか。

 セイバーにはわからないし、どうでもよかった。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「あ、か、はっ……」

 

 真凍咲は苦しんでいた。攻撃を受けたわけではない。むしろ霧に乗じてセイバーとアーチャーのマスターを苦しめていた。彼女を苦しめているのは、絶望的な魔力の枯渇である。

 

 真凍咲は病身で自身の魔力で魔術行使が困難な状況であり、かつバーサーカーは他クラスに比べて圧倒的に魔力消費が激しい。その上バーサーカーの宝具使用によりさらに魔力消費を加速させた。

 

将門大新皇(ばんどうのてんのう)』――バーサーカーの対人宝具。周囲に黒い霧――範囲内にいる者の魔力を削り取る凶悪なモノ――を展開し、その中に置いては著しくバーサーカーを強化する宝具である。

 

 さらに、宝具使用中は残った影武者分の分身を同時に現界させることができる。分身の強さは本体のバーサーカーと同等。しかし、分身を同時に現界させている数だけ倍の魔力を消費する。

 本体と二つの分身を使役していた咲は、宝具展開中のバーサーカー三体分の魔力を消費していた。そのバーサーカーたるべき行いによって、バーサーカーは人間から回収した魂も、咲の僅かな魔力をも食らいつくした。

 最早、咲の体に一滴の魔力もない。戦い続けるバーサーカーに魔力を吸い取られきってしまったのだ。

 

 飢えのような渇きのような苦しみに、咲はどこへともなく手を伸ばしていた。視界は霞みきって、己がサーヴァントの姿も確認できていない。それでも手を伸ばした。

 

 

 バーサーカーを召喚してからは楽しいことばかりだった。

 気に入らない親も、何もかもバーサーカーが無くしてくれた。

 

 彼は理性を持たなかったけれど、聖杯で咲を救えるかもしれない唯一の味方だった。

 

 

「……ない」

 

 最初はそれだけだった。

 

「……ないよ、バーサーカー……」

 

 人間として当たり前の願いであり、本能。彼女はまず自分の現実を受け止めなければならなかった。だが、それをするまえに、もしかしたら助かるかもしれないなどという希望を目の前にぶら下げられた。

 

「しにたくない、よ……バーサーカー……」

 

 もし彼女が両親の会話を聞いていなければ、バーサーカーがバーサーカーとして呼ばれていなければ、もし彼女が親を殺していなければ、命は救えなくてもその魂はもう少し安らかであったのかもしれない。しかしそれらはすべて「もし」の話でしかない。

 

 咲の五感は失われていく。薄れゆく感覚の中で、彼女は足音を聞いた。

 人間ならざる、英霊なるものの存在が近づいてくる。

 

 人を食おうとも彼女のために戦ったバーサーカーが、助けに来てくれたのだと、彼女は笑った。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 バーサーカーの消滅を確認したセイバーは、血を振り払いもせずそのままマスターである咲の方に歩む。霧が晴れてみれば、セイバーとバーサーカーはいつの間にか明と一成のかなり近くにいた。二人は、お互いに肩を貸しながら立っている。

 

 バーサーカーは消えた。幻のように消えていくサーヴァントを見届けて、一成はぼうっとバーサーカーの倒れていた場所を見ていた。だが、隣の明がいきなり悲鳴を上げた。

 

「セイバー!!やめて!!」

 

 その声につられて一成もセイバーへ顔を向ける。その剣士は小刻みに震える咲に対し、血まみれの剣を振り上げている。一成は息をのむ。

 衝動に突き動かされるまま、明から離れて走った。明の声に剣を振り上げたまま止まったセイバーと、蹲る少女の間に一成は割って入り、少女を護るかのように手を広げた。

 

 セイバーは訝しむ視線を一成に向けた。

 

「なんのつもりだ、アーチャーのマスター」

「お前こそ何のつもりだ、セイバー」

 

 敵意をはっきり表し、セイバーは氷のような眼を一成に向けている。普段ならばこのまま一成を斬り捨てかねないが、一応の共闘関係があることと彼のマスターの制止があったために流石にしなかった。

 

「何のつもりもない。そこにいるバーサーカーのマスターを殺さなければならない」

「殺すって、もうサーヴァントは消えただろ!」

 

 激昂する一成とは対照的に、セイバーはあくまで淡々と答える。

 

「サーヴァントは消えても令呪がある。もしマスターを失ったはぐれサーヴァントがいた場合、このマスターは再契約をして戦争に舞い戻る可能性がある」

 

 セイバーの言うことは尤もだった。後の禍根を断つためにマスターまで殺しておくのはこの戦争の常套手段である。

 

「だからって……」

 

 それでも認められない。認めたくない。一成が言いよどんだとき、大きくはないが良く通る声が割って入った。

 

「セイバー、やめて」

「何故だ、マスター」

 

 戦いを終えて初めて見た明は、あちらこちらと傷をつくっていた。けれど、彼女は傷などないかのようにいつも通りである。そしてその顔はどこまでも、不自然なほどに無表情である。

 明はそのまま、バーサーカーのマスターの体を指差した。

 

 

 

「……もう、死んでるから」

 

 一成とセイバーは揃って咲を見た。少女は先ほどまで全身が細かく震えていたと言うのに、その震えはなくなっていた。涙の跡があり、薄く微笑んでいる。しかし、その肌に生気はない。

 一成は慌てて彼女の手首を取り、脈を図るが、彼の期待した結果にはならなかった。

 

 

「……っ」

 

 彼女の魂はもうここにはない。これが人を殺すと言うこと。余命半年でも、たとえ直接に手を下したわけではなくても、その最後の半年を奪ったことに責がある。

 

 人を大量に殺した殺人犯の少女であっても、一成にとってその事実は果てしなく重い。

 

「なるほど。わかった」

 

 一成とは正反対に、納得したと言わんばかりのセイバーは血を振りはらい、剣を鞘に戻した。まるでどうでもいいと言わんばかりの態度に、一成はセイバーに食って掛かる。

 

 セイバーの真名は日本武尊。幼い頃に読んだ日本神話の英雄がこれだとは信じがたいが、相手が誰であれ一成は黙っていられなかった。

 

「お前、どうでもいいってのか、バーサーカーのマスターが死んだこと」

「どうでもよくはない。死んでよかったと思っている」

「土御門、セイバー、やめて」

 

 明は二人の顔を睨みつけて語気強く言った。とにかくバーサーカーは消滅し、片はついたのだ。またすぐにこのような争いは見たくなかった。

 しかし、セイバーは口角を吊り上げてむしろ笑む。剣は振り下ろされ、一成の鼻先につきつけられる。

 

「そういえばバーサーカーも倒したことだ。もう共闘は終わりだろう。手始めにこいつから「セイバー、やめて」

 

 明は強い口調で諌めた。セイバーはこの戦争に勝ち残ることこそが目的で、それのためなら手段も選ばずどんな残酷な事だろうとためらいなく行うサーヴァントであることは重々承知している。

 

 だが、セイバーは明がやめろと言ったことは、ぶつくさ文句を言いながらもしない。文句を言いながら、明の意向を尊重してくれる。だから今回も文句を言いながらも言うことを聞いてくれる。明は重く唾を呑みこみながら、そう信じた。セイバーは大きなため息をついた。

 

 そして、次の瞬間。

 

 セイバーの剣は、鮮やかに一成の左腕を肩ごと切り落としていた。

 




【クラス】バーサーカー
【マスター】真凍 咲(しんとう さき)
【真名】 平将門(たいらのまさかど)
【性別】 男性
【身長・体重】 210CM・91KG
【属性】 混沌・狂
【パラメータ】筋力 B 耐久 A+ 敏捷 B 魔力 B 幸運 C 宝具 A+
聖杯にかける願い :――(狂化状態の為不明)

【クラス別スキル】
狂化: B 全パラメーターを1ランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。

【保有スキル】
鉄人:A+ その尋常ならざる強さゆえに、体が鉄でできていたという伝説により生まれたスキル。Bランク以下の物理攻撃を無効化する。
神性:E- 現代でも多くの神社に祭られて信仰を得ている。しかし本戦において、むしろ怨霊として現界しているためにここまで退化している。
カリスマ:E- 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。本来はBランクだったが、狂化によりここまで退化している。


【宝具】
『将門七人衆(みょうけんのごかご)』
ランク:B
レンジ:-- 最大補足 1人
種別:対人宝具
妙見菩薩が武勇にたけていたバーサーカーに与えた加護。この宝具のために将門は6回までは生き返る。
スキル「鉄人」は常に適用されているが、弱点の米神部分は鉄人スキルの適用外。そこを的確に貫くことによってのみ殺すことが可能。

『将門大新皇(ばんどうのてんのう)』
ランク:A++
レンジ:2~100 最大補足 100人
種別:対人宝具(霧は出るけどあくまで自分の強化のため)
バーサーカーで召喚された際にのみ追加される宝具。怨念の霧を周囲に展開し、敵の索敵能力を低下させ、魔力を削り取る。怨念の霧は対魔力の弱いものに害を与える(特に女には害が強い)。
同時にスキル「鉄人」に加え、Bランク以下の魔術も無効化する。また、筋力がA、耐久がEXランクに上昇する(パラメータのA+の+分)。
また、霧の中において分身が可能になる。分身体の力は本体のバーサーカーと同等。生み出せる分身の数はその時の残機数による(ex.たとえば既に2回殺されている状態であれば、分身できるのは4体まで)。よって最高で6体の分身+1体(本体)=7体。条件が整えば一騎で全陣営とやりあうことも可能。
ただし、分身体を稼働させている場合の魔力消費量
「(通常戦闘分+宝具開帳分)×バーサーカーの数(最高7)」というアホな消費量になるので、普通の魔術師なら一瞬で魔力が切れる。(咲が最初から将門大新皇をぶっぱなさなかったのは、これが理由)

正真正銘バーサーカーのラストウェポン。

【戦法】
魔力泥棒バーサーカーゆえに、マスターの力が十全だとすればまず負けることはない。だがマスターをものすごく選ぶ。というか全力で運用できるマスターとかキリエ(アインツベルンホムンクルス)くらいしかいないんじゃないか。
真名バレが致命的弱点なので、いかに秘匿するかが重要。とにかく打たれ強い。一度戦ったら殺るか殺られるか。偵察は完全に不向き。

【外見・備考】
(一言で言えば)黒い戦闘マシーン
黒いマントに黒い鎧を身につけている巨人。肉厚の反りのある太刀を振るいまくる。目元もガードで覆われているため、表情も読み取れない。理性は当然ほとんどないが、ちょっとはある。

【備考】
真名・平将門。平安時代中期の豪族。元をたどれば皇族(桓武天皇五世)。平氏内部の争いが関東一円を巻き込む争いへとなった時、国衙を襲撃し京都の朝廷に対し「新皇」を自称し朝敵となった。しかし朝廷より派遣された藤原秀郷、平貞盛によって打ち取られた。
京都に運ばれたその首は、関東目指して飛び去って行ったという。また将門の強さを見込んだ妙見菩薩の加護で六体の分身を持ち、体は鉄のように固くいかなる攻撃も受け付けなかった。だが米神だけは弱く、またその弱点を愛人の桔梗姫が藤原秀郷に漏らしたことで斃されたとも。現代でもその祟りを恐れられ、数多くの神社に祭られて信仰されている。

【他適合クラス】
ライダー(でも強さでいえばバーサクの方が上)
アライメントは秩序/善の青年で出てくる。


これ見るとやっぱりセイバーとは相性が良くないです。基本的にメチャかったい。


【名前】真凍 咲(しんとう さき)
【性別】女性     
【年齢】十三歳    
【身長・体重】150CM・38KG
【血液型】B型
【職業】中学生    
【誕生日】11月15日     
【好きなこと・もの】魔術の修行・母親の食事
【嫌いなこと・もの】無駄なこと・バカな人間
【属性】水・風の二重属性  

春日に根を張る魔導の家の一人娘。素質に恵まれており、本人も魔導に意欲を燃やしている。基本的に真面目なため、生まれて物心つくときからずっと魔導一直線。学校の成績はあまりよくない(中の下)だが、それよりも「魔術の勉強でしょ」って思ってやっていないのでやればできる。というかやれば上の上いける。
属性ゆえ得意とするのは流体操作。だがまだ年若く、ケイネス先生みたいに特性の礼装をつくるに至っていないために本戦では病院から血液をパクったり魔力任せに海水を操作して使用している。

もし病気にならず成長していたら、まっとうに魔術師になる。うっかりしない時臣、プロトのみさやな感じに成長する。「魔導を納めた特別な私がやるのが責任よ!そしてやるならば徹底的に、華麗に、でしょう?」みたいな感じ?


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