IS学園特命係   作:ミッツ

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相棒シーズン13の最終回見てからずっと、ガチしょんぼり沈殿丸状態が続いています。
カイト…なんで超えてしまったんだよ…


デュノアの真実

 学年別タッグトーナメントがいよいよ目の前に迫ってくる中で、IS学園内でもそわそわとした空気が否応になく流れている。

 

 1年生にとっては現在の実力を計るための場、2年生にとっては1年間の成果を披露する場、3年生にとっては企業にアピールし自分の将来につなげる場でもある学年別トーナメントはある意味IS学園がその特色が最も色濃く出るイベントであり、それだけに生徒や教師たちの気合の入れようも他の行事と一線を画す。

 

 そして今回のトーナメントで最も注目を集めているのが世界で唯一の男性IS適性者である織斑一夏だ。彼を目当てにする各国のIS関係者や企業幹部によって、今年は例年の数倍に上る観戦希望申請書が届いていることからも彼がどれほど重要視されているのかが分かる。

 

 一方で生徒たちが注目するのが今回のトーナメントに際して流れたある噂である。その噂とは『トーナメントの優勝者は織斑一夏と付き合える』と言うものだ。

 出所が不確かであり、本人の了解も得られているのかさえ怪しい噂ではあったが、以前も述べたようにIS学園では異性との出会いは非常に限られている。

 そこに現れた一筋の光は青春に飢えた女子たちにこの上ない褒賞となった。特に気合が入るのは一夏に恋心を抱く「織斑ラヴァーズ」(亀山命名)の面々である。その中でもセシリアと鈴の二人は一時共同戦線を敷き、タッグトーナメントではコンビを組んで参戦してくるそうだ。代表候補生同士がタッグを組むなどほかの生徒たちからすれば迷惑以外の何物でもないが、ルール上の問題はないらしい。

 

 そして当の本人である一夏はと言うと多数の生徒からタッグを組むことを申し込まれていたが、結局は同性同士シャルルと組むことにしたようだ。この件に関して杉下はさりげなく探りを入れてみたが、どうやらこのタッグは一夏の申し出から組まれたもので、シャルルはそれを了承したに過ぎないとのことである。

 

 最後に、今回のトーナメントでダークホースと目されているのがラウラである。これまで積極的に他の生徒と関わる事はなく、授業も消極的な姿勢であったラウラであるが、その特徴的な容姿とドイツで千冬の指導を受けていたという噂で一気に注目を集める存在となった。いまだタッグパートナーは決まっていないものの、代表候補生に裏打ちされた実力でトーナメントに波乱を起こすことを期待されている。

 

 そのラウラであるが、亀山が依然目撃した後も何度か千冬と面談を行ったらしい。今のところラウラの態度に変化が現れた様子はないが、転校初日のような蛮行は犯していない。

 

 そんなわけで、生徒や教師の中には多少なりとも高揚を孕んだ緊張が高まりつつあるものの、表面上は慌ただしくも平穏な日々が続いていた。

 

 そんな時である。更識家からシャルル・デュノアの調査報告書が届いたのは。

 

 

 

 

 

「本名シャルロット・デュノア。年齢15歳。デュノア社に所属する正真正銘の女性です。」

 

 楯無の報告を杉下は彼女から渡された資料をめくりながら聞く。資料にはシャルロット・デュノアの経歴を含んだ個人情報が載っていた。

 

「資料によると、2年前に彼女はデュノア家に養子として引き取られ、その際苗字を変更しているとありますねえ。どのような事情があってシャルロットさんはデュノア家に養子に入ったんでしょうか?」

 

「その辺については現在も調査中です。どうもこの辺についてはセキュリティが強くて…ただ、彼女の生みの母は2年前に亡くなっていて、それと同時にデュノア家の人間になったそうです。」

 

「彼女の父親については?」

 

「不明です。母子家庭であったことは確かですけど。」

 

 楯無の説明を受け、杉下は再び資料に目を落とす。

 シャルロット・デュノア、旧姓シャルロット・エメリック。フランスの田舎村で片親の子として生まれた彼女は以来13年間母と二人で暮らしてきた。2年前に母親が癌で亡くなるとデュノア家の養子となり引き取られる。その後、デュノア社所属のIS操縦者になったがそれ以降の動向は不明。

 

「なんか、あんまりまともな情報がねえなあ。なあ楯無、もうちょっと詳しく調べられなかったのか?」

 

「そんなこと言ったて、こっちは指紋一つから個人を特定しろなんて無茶を言われたんですから。この情報を集めるのだって相当苦労したんですからね。」

 

 そう言うと楯無はカップに入れられたカフェラテを呑んでほっと一息をついた。

 

「私の印象じゃ、デュノア家に引き取られてからのシャルロットの情報は意図的に隠されているような気がしました。親を亡くした女の子が、ある日突然大富豪に引き取られる。何かしら裏があって、それを隠しているような気がするのよね。」

 

「それに加え、今回の一件ですか。どうもデュノア社の問題と言うよりかはデュノア家の複雑な事情が根幹にあるのかもしれませんねえ。」

 

「それは兎も角として、これからどうします?女であることはほぼ証明されっと言っていいと思いますけど、すぐにでも告発しますか?」

 

「いえ、今の状況ではシャルロットさんが男性としてIS学園に送られた背後関係が不鮮明です。最悪の場合、彼女だけがトカゲの尻尾切りにされかけません。」

 

 大企業や巨大な組織が犯罪の裏にある場合、往々にして末端の人間は切り捨てられるものだ。特命係は今までに何度もその現場を目撃している。

 今回の一件にもデュノア社やフランス政府、そして国際IS委員会の思惑が見え隠れしている。何にしても事件の黒幕、背後関係を明らかにしない限り本当の解決には至らないという信念が特命にはあった。

 

「楯無さん、今度はシャルロットさんとデュノア家の家族関係、そして過去15年間でデュノア家の周辺で起きた出来事について調べてもらってもよろしいですか?」

 

「デュノア家の家族関係と周辺での出来事ですか…分かりました。そのくらいの事なら2,3日で調べ上げられると思います。」

 

「ありがとうございます、楯無さん。お忙しい中ご迷惑をおかけします。」

 

「いえいえ、気にしないでください。生徒が安心して学園生活を送れるようにするのは生徒会長の使命ですし、楯無家の仕事でもあるんですから。」

 

「そんなこと言って、生徒会長の仕事はさぼりまくってるんだろ?虚から聞いてるぞ。」

 

「ちょっと亀山さん!それは言わない約束でしょ!」

 

 軽口をたたく亀山に対し、楯無が文句を言う。その後、いくつか確認を行ったうえで今後の調査方針が決まった。

 今後のとしては背後関係を洗ったうえでシャルロットから事情聴取と言った形で行うことになる。それまでは基本的にシャルロットにはノータッチ。学園内では特命係が、寮と学外では更識家が有事の際に対応することになる。

 さらに、証拠や証言が固まった場合にはタッグトーナメントの観戦で来日予定のデュノア社社長とフランスIS委員会関係者をその場で拘束するという決定がなされた。その際、拘束するのは更識の人間である。

 

 こうして計画は不測の事態も想定し滞りなく作成されていった。もっとも、杉下などはシャルロットが全てを告白してくれたら問題なく事態を収拾できると考えていたが今更それに期待するわけにもいかない。

 だがしかし、不測の事態と言うのは常に想定を飛び越えていくものである。特命が楯無との会合を終えた日の夜、亀山の携帯に一夏から一通のメールが届いた。

 

『薫さん、明日の放課後少し時間はありますか?相談したいことがあります。出来れば誰にも見つからないように、校舎の屋上まで来てください。』

 

 

 

 

 

 翌日、その日は梅雨時の季節にしては珍しい雲一つない青空の日であった。その青空を一夏は黙って仰ぎ見る。

 本当は約束の時間を過ぎしても現れない恩人に電話を掛けたり、所在なくその場を行き来したりしてしまうところであったが、隣で不安げな表情を浮かべるシャルロットを慮り努めて冷静でいようとしているのだ。

 

「ねえ、一夏…」

 

「大丈夫さシャルロット。薫さんはいい人だ。きっとシャルロットの力になってくれるはずさ。」

 

 一夏は何の心配もないとでもいうようにシャルロットを勇気づける。彼の言葉を受けシャルロットは僅かに頬を朱に染め頷いた。第三者から見れば、この男装の少女が目の前にいる少年に少なからず好意を抱いていることは明白であろう。

 

 そんな青春の甘酸っぱい空気は屋上と階段を隔てる扉が開く重々しい音でかき消された。そのあとすぐに聞きなれた男性の声が聞こえてくる。

 

「お疲れ。悪いな、待たせちまって。」

 

「あ、いえ、こちらこそ。急に呼んだりして。実はシャルルについて話が…」

 

 亀山に目を向けながら呼び出した理由について説明しようとした一夏であったが、亀山の隣にいる人物が視界に入ると言葉が途切れる。

 亀山の隣には、そこにいるのがごく自然であるかのように杉下が立っていた。

 

「う、右京さん!なんで、右京さんが…」

 

「一夏…お前が何について相談しようとしているのかなんとなくわかってな。俺もいろいろ考えたんだが、右京さんがいた方がいいと思って同席してもらったんだ。」

 

 亀山は落ち着いた口調で諭すように一夏に話しかける。昨日一夏からのメールを受けた時点で亀山は一夏がシャルロットの正体を知り、その事について亀山に相談を持ち掛けたのを察した。

 だが状況をうまく呑み込めないのか、一夏は亀山の言葉が全く耳に入っていない様子だ。

 それを無視して杉下は一夏達に近づくと、一夏と同じく状況を把握しきれていないシャルロットの顔を覗き込んだ。シャルロットは怖々とした様子で杉下の顔を見上げる。

 

「…こうした形であなたとお話しするのは転校初日以来ですね。シャルロット・デュノアさん。」

 

 その瞬間、シャルロットの顔に絶望の色が浮かぶ。彼女は杉下が自分の本名を呼んだ意味を瞬時に理解したのだ。

 数瞬遅れて一夏も杉下の言葉を理解し、顔面蒼白になりながらも杉下に詰め寄る。

 

「ま、待ってください右京さん!シャルロットは悪くないんです!これにはデュノア社の思惑があって…」

 

「落ち着いてください一夏君。僕は今、シャルロットさんと話しているんです。」

 

「で、でも…」

 

「一夏君、君がいくらシャルロットさんの事情を代弁したところで、彼女が自分自身の意思で話した言葉には到底かないません。彼女の無罪を願うなら、彼女の言葉で真実を話してもらうのが最良です。」

 

 杉下の叱責に一夏は言葉を失う。その間も杉下の目はシャルロットに向けられている。

 

「シャルロットさん、どうかお話ししていただく事は出来ませんか?何故あなたがこのような形でIS学園に来なければいけなかったのか。デュノア社の中で何が起きているのか。」

 

「……分かりました。お話します。」

 

「シャル…」

 

「ありがとう一夏。でもここまで来たら言い逃れは出来ないよ。たぶんこの人たちは僕が誰なのかも知っているはずだし。」

 

 そう言ってシャルロットは一夏に向かって弱弱しく微笑む。一夏は何かを言いたげだったが、シャルロットの意思を尊重してか、唇を噛み黙り込んだ。

 

「杉下さん、僕が知っている限りの真実をあなた達にお話しします。」

 

 そう言うとシャルロットは杉下の目をまっすぐに見つめ返し、ゆっくりと自分の生い立ちについて語り始めた。

 

 

 

 

「僕の母は父の愛人でした。父とは母が死んでから初めて会ったんです。」

 

「あなたのお母様は2年前に亡くなられたと、聞いていますが。」

 

「…スキルス性の胃癌でした。発見された時にはもう末期で…自分の死期を悟った母は僕に父親の存在を初めて話してくれました。もし自分が死んだら、父の事を頼ってほしいと。父に対しても死ぬ前に手紙を送ってたみたいです。」

 

「そうすると、あなたのお父様と言うのはデュノア社長だったのですね?」

 

「最初は驚きました。母が昔デュノア社で働いているのは知ってたんですけど、まさかそこの社長と付き合っていたとは思ってもみなかったです。手紙を頼りにデュノア家に行くとすぐに屋敷に通されました。そしたら、本妻の人が出てきてビンタされて、泥棒猫って言われたんです。」

 

「泥棒猫ですか?」

 

「はい。父の家族の人からはあまりよく思われないってのは予想してたんですけど………その後父が来て、今後はデュノア家の養子となって、屋敷の離れで生活するように言われました。それ以来、父とは合っていません……」

 

 シャルロットが話に一区切りをつけると、場に重苦しい空気が流れる。だが、本番は寧ろここから。なぜ、シャルロットが男性としてIS学園に入学するに至ったかである。

 

「デュノア家の養子になって暫くして僕に高いIS適性があるのが分かると、デュノア社に所属してテストパイロットをするように言われたんです。当然拒否権なんてありませんでした。そうして、テストパイロットとして生活していたある日、男としてこの学園に入学するように言われたんです。」

 

「その際、抵抗などはされましたか?」

 

「もちろんです!そんなこと無理だって何度も言いました。でも、決定事項だから覆せない。嫌なら家を出て行けって…僕には行く宛てなんてないのに…」

 

 そう言うとシャルロットは膝の上で拳を握り、その上に涙を落とし始めた。一夏はシャルロットを気遣うように肩を持つ。

 杉下はシャルロットが落ち着くのを待って口を開いた。

 

「心中、お察しします…しかし、なぜデュノア社はそこまでしてシャルロットさんをIS学園に入学させようとしたのでしょうか?あまりにもリスクが高すぎると思うんですがねえ。」

 

「デュノア社は第3世代型ISの開発に遅れてるんです。その事が政府からも問題視されてて、このままじゃISを開発するライセンスも剥奪されかねないんです。そこで、世界で唯一の男性適正者と第3世代型としては破格の性能を誇る白式のデータを欲したんです。第3世代型ISの開発に利用するために…男の振りをしたのは同性の方が近づき易いからって理由です。」

 

 シャルロットの話は事前に得た情報から特命係が分析したものとほぼ同じであった。しかし、杉下はデュノア社から感じる違和感をぬぐいきれずにいた。

 経営危機を脱する起死回生の作戦。だが、その作戦は社運をかけるには余りにもお粗末すぎる内容である。

 既に対象である男性適正者だけでなく、一部の教員たちにも正体がばれた時点でこの作戦は破たんしていると言っていい。

 仮にも大企業の社長がこんな策に会社と自身の命運を託すとは杉下には考えられなかった。

 

「……ちなみに白式と一夏君のデータはどのようにして採取するつもりだったのでしょうか?」

 

「特殊なデータ回収用USBと言うのを渡されていました。これをISに差せば自動的にデータを入手することが出来るって言われてたので。」

 

「そのUSBは今はお持ちですか?」

 

「はい、ちょっと待ってください。」

 

 シャルロットはズボンに手を入れ、黒いUSBを取り出した。杉下はハンカチを持った手でそれを受け取ると、様々な角度から検分する。

 パッと見た感じでは市販のUSBと何ら変わりない。だが、シャルロットの話によるとISに差せば自動的にデータを読み取るという機能がついているらしい。

 

「しばらくの間、これを預からせていただいても大丈夫でしょうか?」

 

「ええ。どちらにしろ、いまのぼくには扱えないですし。」

 

 そう言ってシャルロットが自嘲気味に笑うと、横で見ていた一夏がたまらなくなった様子で杉下に話しかける。

 

「杉下さん、シャルロットはすぐには罪に問われないはずですよね!IS学園特記事項第21項にも本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとするって。」

 

「確かに、IS学園特記事項に乗っ取れば外部からの干渉を受ける心配はありません。僕たちがシャルロットさんを告発せず、このまま黙って見逃せば学園に居続けることも可能でしょう。そもそも現在の刑法には企業秘密の保護のための規定は存在しないんです。」

 

「じゃ、じゃあ。」

 

「ですが、企業の保有する機密情報の違法流出に関与した場合、不正競争防止法違反の罪に問われるでしょう。その時効は3年です。シャルロットさんがこの学園を卒業したとしても逮捕起訴する時間は十分にあります。そもそも僕は目の前で起きた犯罪を見逃すような真似はしたくないんですよ。」

 

「そんな…」

 

「しかし、シャルロットさんの場合はデュノア社、それも肉親である社長からの指示によるものであり、それを拒否するのは甚だ難しい立場であったことが窺えます。加えて犯行を実行には移しておらず、これを罪に問うのは非常に難しいと思われます。」

 

「って事は、シャルロットが牢屋に入れられるようなことは…」

 

「例え起訴されたとしても、裁判でシャルロットさんの証言を立証できればまず情状酌量の余地ありとされるでしょう。少なくとも、実刑に処せられる恐れはありません。」

 

加えていうならば、シャルロットが捜査に協力的な姿勢を見せ本件の全容解明に寄与したとみなされ、なおかつ未成年であることを考慮すれば起訴される可能性もかなり低いと考えられる。

 

「そうか…シャルロットは犯罪者にならなくていいんですね。よかったなシャルロット!」

 

「うん…うん!ありがとう、一夏!」

 

 一夏はシャルロットが罪に問われない事を喜び、シャルロットは安心感からか再び涙を流し始める。その気勢を制するように杉下は鋭い声を放つ。

 

「しかしながら、シャルロットさんが犯罪に関わってしまったのには変わりありません。また、今の状態でデュノア社を告発したとしても証拠がない以上、しらを切られる恐れがあります。付きましてはシャルロットさんには今後もしばらくの間男性の振りをしていただき、デュノア社の目を誤魔化して欲しいのですが宜しいでしょうか?」

 

「…それが、僕にとって償いになるのであれば、喜んでお受けします。」

 

「ありがとうございます。」

 

 こうして、シャルロット・デュノアに関する諸問題は一先ず一段落を迎えることが出来た。しかしながら、杉下の心にいついた違和感は拭えないどころか、また一つ増えてしまっていたのだった。

 

 

 

 

 一夏とシャルロットを寮まで送った後、亀山と杉下は一旦特命係の部屋まだ戻ってきていた。杉下は紅茶を、亀山はコーヒーを入れると一息つく。

 

「いやあ、シャルロットが正直に全部話してくれて本当に良かったっすね。それにしても、自分の子供を犯罪に利用するなんて許せないっすよ。」

 

「ええ。彼女の話が真実であれば、デュノア社長の行いは到底許されるべきものではありません。しかし、どうも彼女の話には違和感を感じるんです。」

 

「違和感っすか?」

 

「シャルロットさんが初めて父親であるデュノア社長に会いに行った時、本妻であるデュノア夫人から泥棒猫と罵られたと言っていました。この場合、泥棒猫と呼ばれるのはシャルロットさんのお母上であって、シャルロットさんは泥棒猫の娘になると思うんですがねえ。」

 

「うーん、考え過ぎじゃないっすか?泥棒猫も、泥棒猫の娘も言葉としては大差ないように思いますよ。」

 

「それと、これについて君はどう思いますか?」

 

 そう言って杉下はシャルロットから預かったUSBを取り出し亀山に渡す。

 

「えーと、そうっすねえ。なんというか、普通のUSBのように見えます。俺らが普段使っているのと同じ奴と。」

 

「ええ、僕もそう思います。どこからどう見てもただのUSBです。ですが一応、楯無さんに渡して調べてもらっておいた方がいいでしょう。」

 

 杉下が言い終えた瞬間、部屋のドアが勢いよく開けられた。

 

「呼ばれて、飛び出て、じゃじゃじゃじゃーん!愛しの生徒会長、更識楯無ちゃんでーす!」

 

「おや、楯無さん、いいタイミングでした。こちらのUSBをあなたに解析してほしいと思っていたところです。」

 

「ちょっと、少しは反応してくださいよ。まるで私が馬鹿みたいじゃないですか。」

 

「楯無、今のお前、すっげえ馬鹿みたいだぞ。」

 

「亀山さんストレートすぎませんっ!」

 

 あまりにもひどい特命係の対応に、楯無はヨヨヨと泣き真似をしてみせる。当然特命係はそれを無視した。

 

「あーあ、折角昨日言われたデュノア家に関する報告書を持って来たっていうのに。」

 

「これはまた随分と早いですねえ。昨日は2,3日ほどかかると仰られてましたが。」

 

「事情が変わったんです。とにかくこの報告書を読んでください。」

 

 楯無から報告書を受け取ると、杉下は昨日と同じくパラパラとページをめくっていく。だがそこに書いてある情報を読み取ると、にわかに表情が険しくなる。

 

「これは…楯無さん、ここに書いてあることは確実なんでしょうか?」

 

「はい。ほぼ間違いないと思います。私もさすがに驚きました。一刻も早くお二人に教えないと、って思って大急ぎで仕上げたんです。」

 

「で、でも、なんで?なんでこの名前がここに…」

 

 杉下の後ろから報告書を覗き込んでいた亀山もそこに書かれている事実に混乱している。報告書に書いてあるのは、これまで特命係が集めてきた情報を根底から覆すものだった。

 

「…恐らく、これこそがデュノア社、いえ、デュノア社長の本当の狙い、デュノア家の真実だったのでしょう。シャルロットさんはそれに巻き込まれたにすぎません。」

 

 もし、杉下の推測が真実だとしたら、それはあまりにもエゴで悲しい真実であろう。だが、それが分かったところで杉下右京は止まらない。

 彼が追い求めるのはあくまでも絶対的な真実なのだから…


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