IS学園特命係   作:ミッツ

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今回は解説回です。


治外法権

「なるほど、被害者はIS学園を受験してたわけっすね。」

 

 亀山はそう言って腕を組み目を閉じ黙考し始めた。そして、考えがまとまったのか目を開け、口を開いた。

 

「右京さん。」

 

「はい?」

 

「すいません。やっぱりよく解んないんで詳しく説明してもらってもいいっすか?」

 

「……そういった素直なところは君の良いところだと僕は思いますよ。」

 

「……すいません。」

 

 申し訳なさそうに頭をかく亀山に対し、右京は仕切りなおすかのように中指で眼鏡を押し上げると亀山にもわかるように説明を始めた。

 

「国際IS委員会がISの国家間での取り扱いについてまとめたIS運用協定、通称アラスカ条約というのを君も一度は聞いたことがあるでしょう。」

 

「ええ、ニュースとかでもよく取り扱ってますよね。確かISが軍事利用されないように定めたものでしたっけ?」

 

「はい。このIS学園もアラスカ条約に基づきISの情報開示と共有、研究のために設立されたものです。そして、アラスカ条約はIS学園をいかなる国家、組織に属さない独立した組織であり、いかなる国家、組織はこれに干渉することはできない、と定めています。」

 

「ふーん、そうなんですか。あれ、じゃあ学園の中で事件が起こったらどうするんですか?」

 

「それについては学園内で問題が起きた場合、それがいかなる問題であっても日本が公正に介入し、協定参加国全体が理解できる解決をすることを義務付けるとしています。しかし、問題が学園外部で起きた場合ですと話が違います。学園外で起きた事件に学園関係者が関わっている可能性があったとしてもIS学園があらゆる国家、組織の干渉を受けないとしている以上、学園は捜査員が学園内に入ることを拒むことができるのです。つまり、学園関係者が学園外で殺人を起こした疑いがあったとしても、その容疑者が学園内にいる限りよほど確定的な証拠がない限り警察は容疑者に手を出すことはできないんです。」

 

 まさに現代の治外法権とも言ってよいある種の聖域。

 亀山は杉下の話を聞いて今自分たちのいる場所が本当に学校なのか疑いたくなるような底しれなさを感じていた。

 

「それじゃあ、この女子中学生が殺された事件も…。」

 

「被害者である高原さんは事件当時、制服を着ていたとあります。ましてや高原さんはIS学園を受験している。学校関係者に呼び出され、IS学園に向かっていた途中事件にあったと考えて当然でしょう。にもかかわらずいまだ捜査の手がここに伸びていないということはアラスカ条約が影響しているのでしょう。」

 

「じゃあどうするんですか?このままじゃ事件が迷宮入りしてしまいますよ。」

 

「そこで僕たちの立場が生きてくるわけです。いいですか、僕たちは今IS学園の教師です。学園内である程度自由に動き回ることができます。もし、僕たちが殺人犯につながる証拠を発見しそのことを学校を運営している日本政府に告発した場合、それは学園内に殺人犯がいるという学園内の問題を提起することになります。そうすれば、警察も学園に捜査員を派遣する口実を得ることができるのです。」

 

 これを行うにはどうやって捜査員を教師として学園に送り込むかという問題がある。いったい小野田はどうやってそれをクリアしたのか杉下には解らなかった。

 それと同時にもう一つの疑問が杉下の頭に浮かんでいた。そもそも、なぜ特命係をつぶしてまで自分たちを派遣したのか。小野田の部下には自分たち以外にも優秀な捜査員が多くいる。むしろ、たびたび組織としての範疇を超えた動きをする自分たちよりも、こうした捜査に適している者もいるのにだ。

 

(いったいあの人は何を考えていることやら。)

 

 小野田に対する杉下の疑念は消えることがなかった。

 

 一方亀山はというと、警察官としての使命感に燃えていた。

 最初はとんでもない厄介ごとを任されたのではないか、と考えてはいたが杉下の話を聞いて自分なりに考えをまとめた結果、自分たちはほかの捜査員にはできないような任務を任されたとの結論に行きついた。もともと亀山は杉下が言うように素直で単純な男だ。こうした特別な仕事を任せられたという事実が彼の功名心を刺激している。さらに、被害者がいたいけな少女というのも彼の正義感を熱くした。未来ある若い女なの子が無情にもその命を奪われたとなれば警察官でなくとも犯人に対する怒りがこみあげてくる。亀山は心の中で必ず犯にを逮捕してみせると亡くなった少女に誓うのだった。幸いにして始業式は明日で、今日はこれ以降特に予定は入っていない。善は急げとばかりに犯人につながる証拠を探すべく、亀山は勢いよく立ち上がった。

 

「そうと決まれば話は早いっすよ。一刻も早く捜査を始めましょう!」

 

「待ってください。すでに米沢さんに頼んで事件ついての詳しい資料を用意してもらっています。おそらく、近いうちに届くでしょう。それよりも…。」

 

 そう言って杉下は足元のかばんをあさりだした。

 

「君はISについていささか知識不足のようですねえ。捜査のことも大切ですが僕たちは今日からIS学園の教師です。ISのことを最低限生徒たちに教えられるくらいには知っておくべきです。そこで。」

 

 杉下は鞄から数冊の参考書を取り出した。その一冊一冊がそれぞれ電話帳と見間違うほどの厚さを誇っていた。

 

「今日は帰るまでの間ISについて勉強しましょう。大丈夫です僕も一緒にやりますし家でも真面目勉強してれば一週間くらいで基礎理論について簡単な説明ができるくらいにはなるはずです。」

 

 そう言って不敵な笑みを作っている杉下に対し、亀山は青い顔で分厚い参考書を受け取ることしかできなかった。

 

 

 

「ただいま。あー、疲れたー。」

 

 あの後亀山は杉下のスパルタIS抗議のもと定時になるまでの間、食事休憩をはさみひたすら参考書とにらみ合っていた。そして、鬼教師から解放され片道2時間かけて漸く愛しのわが家へと帰ってきたときには亀山はすっかり疲れ果てしまっていた。

 あんなに勉強したのは高校の受験の時以来になる。大学はスポーツ推薦だった亀山にとってはそれくらい久しぶりの頭脳労働だった。

 

「お疲れ様。ご飯できてるわよ。」

 

 疲労困憊の亀山を出迎えたのは彼の妻の美和子だ。亀山が食卓に着くと美和子は亀山の反対側の椅子に座った。

 

「で、どうだった。初めての女子校は。」

 

「言っとくけどな、今日はまだ学校は始まっていないから生徒とは一人もあってないぞ。」 

 

「でも先生はみんな女性なんでしょ。美人の先生がいて鼻の下伸ばしてたんじゃないでしょうねえ。」

 

 その言葉に亀山は思はず顔を苦くする。ここ数日、美和子の機嫌は非常に悪い。原因は自分が女ばかりの場所に飛ばされてしまったことなので始末が悪い。いくら上の決定であって自分にはどうしようもないといったところで妻は納得しない。この女、普段はさばさばした気の強い性格をしているが実のところ結構嫉妬深い一面もあるのだ。

 

(まあ、そういったところがかわいいんだけどな。)

 

 亀山は惣菜を口に入れながらそう思うのだった。

 

「ねえ薫ちゃん聞いてる?。」

 

「あ、ああ聞いてる聞いてる。」

 

「ほんとに?じゃあ結局美人なお嬢様方とは合わなかったの?」

 

「ん?いや、なんかすごいきれいな人とは話したけど…。」

 

「ほらやっぱり会ってるんじゃない!変なことしなかったでしょうねえ?」

 

「してないって。ほら、あれだよ。織斑千冬。お前も知ってるだろ。その人がIS学園で教師やってて学校を案内してくれたんだよ。」

 

 慌てて弁明すると美和子は意外そうな顔をした。

 

「織斑千冬って元IS日本代表選手の織斑千冬よね。ドイツにいるって聞いてたけどいつの間に帰ってきたんだろ。」

 

「さあ、そこまでは聞いてないからわかんねえな。ていうか、織斑千冬ってドイツにいたのか?なんでそんな。」

 

「日本とドイツの間で密約があったなんて噂もあるけど詳しいことはわからないわ。でも、引退してすぐにドイツに渡ったのは確かよ。」

 

 美和子の話を纏めると織斑千冬は第二回IS競技大会『モンド・グロッソ』の決勝を突如棄権した後選手として引退を宣言。その後すぐにドイツに飛びそこで軍事関連の仕事をしていたらしい。

 亀山は一連の千冬の動きがどうも気にかかり、明日右京さんに話してみよう、と決めた。そうしているうちに夕飯を食べ終えていた。

 

「じゃあ、風呂入ってくるから。」

 

「あ、ちょっと待って!」

 

 美和子に呼び止められ、どうした?と問いかけるもなぜか美和子は言いにくそうに顔を赤らめもじもじしている。やがて意を決したように口を開いた。

 

「あのね、たまには一緒に入らない?お風呂。」

 

「……お、おう。急にまたどうしたの?」

 

「ほ、ほらここ数日私ちょっと冷たくしちゃってたじゃない。薫ちゃんは悪くないのに。それに、よくよく考えてみれば薫ちゃんみたいなおじさんなんて若い子は見向きもしないだろうし、心配するだけ無駄だと思って。」

 

 

 亀山が呆気にとられていると美和子は慌てたように言い訳を始めた。その様子を見ているうちに亀山の中に何とも言い難い感情が湧き上がってきた。愛する人が恥ずかしがりながらも仲直りのきっかけを作ってくれたのだ。これを無碍にするほど亀山は男を捨ててはいない。

 亀山は妻に近づき手を取った。

 

「よし、そういうことならさあ行こう!すぐ行こう!」

 

「ちょ、ちょっと薫ちゃん!そんな急がなくてもいいから、手を離してよ。」

 

「断る!誘ってきたのはお前だ。それに」

 

 亀山は美和子の耳元に顔を近づけるととささやくように言った。

 

「最近ご無沙汰だったせいで俺も結構たまってるんだよ。」

 

「…薫ちゃんのスケベ。」

 

 大人たちの夜は長い。




原作ISのはずがISのキャラが一人も出てこないとは…
今は反省している。

後半は相棒のヒロイン、美和子さんと薫のイチャラブ。
相棒らしくないとは思ったがどうしても書きたかった。
反省はしていない。

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