IS学園特命係   作:ミッツ

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今回はこの作品独自の設定を多分に含みます(主に更識関係)

加えてかなりのご都合展開&急展開になっております。(まあ、いつものことですけど…)


過去の因縁

「う、右京さん、それってかなり拙くないっすか?」

 

 亀山は困惑した声色で二人の会話に割って入る。杉下と小野田が会話を始めてから、その内容に圧倒され亀山は一言も発せずにいた。そもそも、杉下がかなり真相に近いところまで行きついていたのさえ、今はじめて聞いたのだ。

 そして、杉下の話を聞いてるうちに亀山の脳裏にある推論が浮かんでいた。

 

「もし、右京さんが言うようにこのデータが外務省から流出して、犯罪組織に渡ったものだとしたら、犯罪組織はこのデータを狙っているんじゃ…。」

 

 自分たちの犯罪の証拠となりえるデータ。それが再び持ち出されたとなれば、組織は血眼となってデータを狙ってくるだろう。

 その推論を強固にするのが、先日織斑家に入った空き巣である。空き巣は金目のものを何も盗まなかったというが、真の目的が空き巣などではなく、このデータだとしたら…。

 

「組織は誰かがデータを持ち出し、それを織斑先生に渡そうとしていることに気づいています。もしこのデータが一夏に渡されたと知れば…。」

 

「間違いなく、織斑一夏は狙われるだろうね。」

 

「!?」

 

 小野田の言葉に亀山は思わず駆け出しそうになった。それを理性で必死に押しと止め、杉下に向かって責めるような視線を向ける。

 

「右京さん!そのことを分かってて、俺に何も言ってくれなかったんすか!?」

 

「…何分、憶測の範囲にすぎない事でしたので、無闇に口に出すべきではないと判断したまでです。」

 

「でも、それじゃあ一夏の身に危険が!」

 

 更に亀山が言葉を紡ごうとしたその時、杉下のスーツのポケットから携帯の着信を知らせるメロディが流れた。

 

「失礼。」

 

 そう言って二人に断りを入れると、杉下は電話に出た。

 

「もしもし、杉下です………はい……なるほど…ではそのようにお願いします……はい、ではまた。」

 

 携帯をしまうと杉下は亀山の方に向き直る。

 

「どうやら一足遅かったようです。一夏君が所属不明の部隊に攫われかけました。」

 

「なっ!や、やばいじゃないですか!今すぐ救出に…って、攫われかけた?」

 

 混乱した頭で亀山が杉下に問いかけると、杉下は僅かに口の端を上げる。

 

「ええ。どうやら、寸でのところで更識家が一夏君が誘拐されるのを阻止したようですよ。」

 

 

 

 

 

「どうもお待ちしていましたよ。亀山先生、杉下先生。」 

 

 二人が警察庁を飛び出し、一夏が誘拐されかけた現場へと急行してみると、そこにはIS学園の生徒会長がいた。

 

「って、楯無!なんでお前がここに!?」

 

「あら、お忘れですか?私これでも更識家の当主なんですから。こういった場合だと外出許可が出るんですよ。」

 

 そういうと楯無は『無問題』と書かれている扇子を開いて見せた。亀山達を見る目はどこか悪戯っぽさが含まれている。

 亀山が唖然とする一方で、杉下は注意深く周りを観察した。閑静な住宅街の中を通る通学路は、とてもそこで誘拐未遂が行われたとは思えない静けさに包まれている。

 いや、それどころか、いまだ通勤通学時間と言ってもよい時間帯にも拘らず、この通学路の周囲だけ全く人の気配がしない。そう、まるで人払いがされているかのように…。

 

「…なるほど。やはり、あなたは一夏君の周囲を警戒していたのですね。」

 

「えっ!どういうことですか、右京さん!」

 

「そのままの意味です。楯無さん、というよりも更識家は以前から織斑一夏、個人を警護、監視していたという事です。」

 

 杉下の言葉に亀山は驚き、楯無の方を見る。楯無はいつもと同じように扇子を口元に広げ、楽し気な笑みを浮かべているように見える。しかし、その眼は決して笑っておらず、油断なく杉下と亀山を見据えている。

 

「流石ですね、杉下先生。でも、なんで私が織斑君のことを監視していたと思ったんですか?」

 

 そう問いかける楯無の声は、普段と変わらず明るいものだ。

 

「いえ、昨日の放課後、亀山君が一夏君のことを話した後の、あなたの態度が少々気になったもので。あの時点ではあなた方と一夏君の間に何かあったと判断することはできませんでしたが、あのUSBのデータの中身を確認した時、あなたが一夏君のことを気にしていたのでは、と予想することが出来ました。そして、亀山君の自宅にお邪魔している際、不自然なまでに周囲に人の気配がしませんでした。そう、今の状況と非常に酷似しています。これも、あなた方の技術ではないですか?」

 

 杉下の回答に亀山はハッとする。確かに機能帰宅する際、自宅の周辺で人の姿を見ることがなかった。思わず玄関の前で大声を発した時も、全くと言っていい程ご近所さんの反応はなかった。もしこれらがすべて、目の前にいる少女の手によって作られたものだとしたら…。

 

「まあ、そんなところです。もしかしたらと思って警戒していたら、丁度一夏君を監視している輩がいたもんですから。今朝になって急に動き出したんですけど、何とか全員捕まえることが出来ました。あっ、亀山先生、一夏君なら無事ですよ。今頃、学校でお友達と授業を受けているでしょうね。勿論、こちらの監視はついてますけど。彼は自分が誘拐されかけたことさえ気づいていません。ところで…。」

 

 楯無は口元の笑みを引っ込めると、目を細くして二人を射抜く。

 

「…杉下先生、亀山先生、場所を移させてもらってもいいですか?国家機密にかかわる話になりますんで。」

 

 そう話す楯無の顔からは既に笑顔は消えていた。

 

 

 

 

 

 三人が移動した先は現場から五分ほど歩いたところにある喫茶店だった。三人が各々で飲み物を注文すると、タイミングを見計らったように楯無が口を開く。

 

「まず初めに聞いておきたいんですけど、お二人は二年前の事件のことはもう?」

 

「いえ、その時に何かがあったとは思いますが、詳細にまでは…。」

 

 そう言って杉下は困ったような表情を作る。本当はかなりのところまで推測しているのだが、あえてそのとこには触れず、楯無の口から詳細を語らせようとしているのだ。

 果たして楯無は探るかのような目で杉下のことを観察していたが、やがて大きくため息をつく。

 

「単刀直入に申しあげます。杉下先生、二年前の『モンド・グロッソ』決勝の日、織斑一夏は武装組織によって誘拐されています。」

 

 やっぱり!、そう声を上げかけて亀山は慌てて口を閉じる。楯無は少し怪訝そうに亀山を見やったが、気を取り直すように咳払いをすると再び口を開く。

 

「大会以前から海外で国家の代表選手の家族が誘拐される事件が度々起こっていました。そのため外務省は各組織と連携し、予め『モンド・グロッソ』前に警護が必要となる人物のリストアップと、人員を配置を行いました。その際、警護の基本計画作成と、実際の警護を担当したのが私たち更識家です。」

 

「えっ!更識家が!?」

 

 今度こそ驚きの声を上げる亀山に対し、楯無は黙ってうなずく。

 

「はい。当時の更識家の頭首は日本政府から依頼され、その依頼を受けたんです。私たちの計画はほぼ完璧といってもよかったです。警護に付いたのも更識家でも精鋭と言える人材でした。なのに…。」

 

「一夏君は謎の武装勢力によって誘拐された…。」

 

 杉下の言葉に更識は奥歯をかみしめる。普段の楯無を知る者からすれば、それはとても珍しい光景であった。

 

「織斑一夏をホテルから決勝戦の会場まで車で送迎する途中、突然黒塗りのバンに三方向から囲まれ身動きが取れなくなったところを襲われたそうです。その際、彼を警護していた二人は殺害されています。」

 

「さ、殺害されたって…。」

 

「ええ、犯人グループは最初から織斑一夏のみを狙っていたんです。彼が宿泊していたホテル、会場までのルート、いつ移動するかまで全て極秘事項にされていたはずなのに、犯人グループはピンポイントで彼を攫う計画を立て、それを実行したんです。始めから、こちらの動きを全部読んでいたかのように。」

 

 楯無はそこでいったん話を切ると大きく息を吐く。タイミングよく飲み物が運ばれ来たので、楯無は一口飲み物に口をつけると再び話を始めた。

 

「明らかに事前に情報が漏えいしているとしか思えない状況でした。犯人グループは織斑一夏を人質に織斑先生に決勝を辞退するよう要求し、彼女はそれを承諾しました。日本政府も人質の命を第一に考え、織斑先生の決断を尊重します。ただ、万が一に備え現地のドイツ軍に協力を要請することになったんです。」

 

「その際、更識家はどうしていたんですか?」

 

 杉下の問いに対し、楯無は力なく首を横に振る。

 

「完全に蚊帳の外だったみたいです。警護対象者を誘拐された上に死者まで出していたせいで現場が混乱していたこともありましたけど、責任を取らされて捜査から外されてたという方が妥当ですね。」

 

「…分かりました。では、一夏君は無事救出されたのですね。」

 

「ええ。ドイツ軍の協力のおかげで犯人達が潜伏していたアジトは早期に発見することが出来ました。けど、ドイツ軍と織斑先生が駆けつけた時には犯人グループは既に逃走した後で、残されていたのは縛られた人質だけだったそうです。犯人達につながる物的証拠は何一つ残されていなかった…。」

 

 楯無は再び飲み物に口をつける。

 

「…幸い人質には目立ったけがはありませんでした。しかし、この事件の影響は各所に現れることになります。まず、織斑先生は犯人の要求に従い決勝戦を棄権したわけですが、このことが公けになると日本政府が犯罪組織に屈したことが世界に知られることになります。そのため政府は、関係各所に緘口令を敷き、事件のことが世間に知られないように取り計らいました。被害者である一夏君も例外にありません。」

 

「そうか、だから一夏は。」

 

 昨日、一夏が見せた不自然な態度。その理由を知ることになり亀山は一夏の受けた影響を想像し、それに慄いた。一夏は目の前で人が殺される瞬間を目撃したのだ。す

 

「次に、日本政府はドイツ軍に借りを作ったことに対する対価を張らなければならなくなりました。事件を公にしたくない政府はかなりの出血を覚悟していたみたいです。ところが、ドイツ軍は日本政府に対してではなく、織斑先生個人に対し借りを返すことを求めたんです。自分たちはあくまでも織斑千冬の要請で救助活動を行ったまでだと。」

 

「なるほど。だから織斑先生は去年一年間ドイツに渡っていたのですね。」

 

「ええ。現地では創設されたばかりのIS部隊の指導をしていたらしいです。」

 

 その部隊は千冬に指導を受けたことで飛躍的に実力を伸ばし、今では欧州随一のIS部隊となっている。この功績を持って織斑千冬はドイツに対する借りを返し、本国へ帰還することになったのだ。

 

「そして最後に、更識家は織斑一夏を守れなかった責任を追及され、当主は職務を辞すことになりました。その結果、新たに更識家の当主に就任したのが私です。」

 

 楯無は杉下と亀山に鋭い視線を向けた。その瞳には強い決意、そして確かな怒りが秘められている。

 

「この事件は私たちにとって乗り越えなければならない因縁です。我々更識家の本分は日本と日本に住む人々を守護すること。しかし、目の前に我々を虚仮にした相手がいると分かっていて、何もしないわけにはいきません。やられた分は必ずやり返します。それが更識家当主、更識楯無の意地です。」

 

「…解りました。楯無さん、あなたの憤りはもっともなことです。しかし、この国は法治国家です。あなた方が法に背く行為を行った場合、僕たちはそれ相応の処置を行わなくてはなりません。」

 

「勿論それは分かっています。日本国内で活動するときは、私たちは極力この国の法に則った行いをするように努めています。ただ、私たちは警察ではありませんので、現在こちらで拘束している者たちの扱いについては正規の司法と少々異なってきますが。」

 

「…それが、あなた方の世界のやり方だとするならば、僕たちは口出しをしない方がよいのかもしれませんねえ。」

 

 杉下はどこか愁いを帯びた表情で楯無の顔を見つめる。果たしてこの二年間、彼女は暗部組織の当主としてどれ程の責務を背負ってきたのだろうか。楯無は本来、明るく、悪戯好きな少女だ。その彼女が裏の世界の顔を持つに至るまでに、何を捨ててきたのだろうか。杉下はそれを考えずにいられなかった。

 

「それじゃあ、次は杉下先生たちが今日までに得た情報について…。」

 

「申し訳ありませんお嬢様。至急ご報告したいことが。」

 

 突然現れ、楯無の言葉を遮ったのは楯無の従者をしているという布仏虚という少女だ。彼女はIS学園の2年生でもある。虚ろは大急ぎでここまで来たのか、額に汗が浮かび、若干息も荒い。

 

「何か分かったの虚ちゃん?」

 

「はい。先ほど拘束した男たちの身元を当人たち口から聞き出すことが出来ました。」

 

「!へー、いったいどこの誰だったのかしら?世界で最も強い人間の弟君を狙っていたのは。」

 

「それが…。」

 

 虚は一瞬杉下たちの方へ眼を向けたが、楯無が構わないというように手を振ると、意を決してその名を告げた。

 

「奴らが所属しているのはBND、連邦情報局。お嬢様、織斑一夏を狙っていたのはドイツの諜報員です!」


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