IS学園特命係   作:ミッツ

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HERO見てたら投稿が遅れちゃいました。
なんだかんだ言ってやっぱ面白いですよね。

今回は会話多めです。作中の出来事はすべてフィクションですのであしからず。


織斑一夏の事情

「…本当にこれは二年前の『モンド・グロッソ』に関する物なんですか?」

 

 そう杉下に聞いたのは亀山の後ろに立つ一夏だ。その問いに対し杉下は即答する。

 

「ええ。僕のドイツ語に間違いがなければ、このデータは二年前に行われた『モンド・グロッソ』決勝当日の警備情報です。」

 

 杉下の答えを聞くと一夏はゴクリ、と唾を飲み込み杉下と亀山の間に視線をさまよわせる。そして、何か言おうと口を開くが、結局何も言えずにそのまま口を閉じた。その表情には苦渋が浮かんでいる。

 

「……亀山君、明日も仕事があるので今日のところはお暇します。」

 

「えっ!もう帰るんっすか?」

 

「ええ。その前にこちらのデータを印刷させてもらってもよろしいですか?」

 

「いや…。まあそれは構いませんけど…。」

 

「ありがとうございます。それと、明日以降について話がありますので、少し付き合ってもらってもよろしいですか。」

 

「…分かりました。」

 

 亀山が了承の意を示すと、杉下は亀山を連れて玄関を出る。

 

 

 

 廊下に出ると杉下は辺りを見渡し、人がいないことを確認すると亀山に向き直った。

 

「亀山君、先ほどのデータを見てどのように思いましたか?」

 

「どう思いましたかって…。正直何のことやらさっぱりですよ。なんで一夏はあんなもん渡されたんすかねえ…。」

 

 亀山は首をかしげる。杉下の話によると、あのUSBの中にあったのは外務省がまとめた警備データらしい。それがなぜ、一介の男子中学生である織斑一夏と結びつくのか?亀山には見当もつかない。

 

「確かに外務省が作成したデータと一夏君の間に関係性を見出すのは難しいでしょう。しかし、先ほどの彼の様子から、一夏君には何やら心当たりがあるようでしたねえ。」

 

「ああ、それは俺も思いました。なんか気が付いていたみたいですけど、結局何も言いませんでしたんすよね。」

 

 流石警察官というべきか、二人は杉下がデータの内容を話した時、一夏の様子がおかしかったことに気づいていた。一夏の反応が余りにも分かり易すぎたこともあるのだが…。

 

「実を言いますと、先ほどのデータの中に要警備対象邦人の中に、政府関係者に交じって一夏君の名も含まれていました。」

 

「えっ!一夏がですか!?」

 

 この事実には亀山も驚きを隠せない。思わず声を上げてしまった亀山に対し、杉下は口の前に指を立て、声を自制するように亀山へ指示する。慌てて亀山は口を閉じ、左右を見渡したが、幸いにも亀山の声を聞いて顔を出す住人はいないようだ。一先ずホッと安堵する。

 

「話を続けます。もし仮に一夏君が何か知っていたとして、それを話すことが出来ない理由があると考えるべきでしょう。しかも、それは外務省が作成した資料と関係があるとみて間違いない。彼が事情を打ち明けないのが個人的な理由からなら問題ありませんが、政府機関が関わっているとなると、一夏君を通して情報が漏れたと分かった場合、彼や織斑先生に何かしらの迷惑をかける事になるかもしれません。背景が不透明な以上、無理に話を聞くのは今のところ避けた方がいいでしょう。」

 

 杉下の言うことは尤もだ。外務省が関わっているとなると、下手をすれば日本国内に留まらず、国際問題に波及する恐れがある。亀山が聞けば一夏は強く拒絶することは出来ないだろうが、その結果として一夏が責めを受けることになっては元も子もない。

 亀山にとっては非常に歯がゆい結論であったが、一夏を守るためだと納得するほかない。

 

「そもそも今回の出来事は一連の出来事の一コマにすぎません。偶々織斑先生の家に空き巣が潜入し、偶々一夏君が亀山君の家に泊まることになり、偶々織斑先生が急な出張をしなくてはいけなくなり、偶々一夏君が知らない女性から謎のデータを渡され、たまたまそのデータの中に一夏君の名前があった。これらを全て、偶然で片づけられるものですかねえ?」

 

「…まず、普通ならあり得ないっすね。」

 

「ええ。僕の知り合いの警部補の方も、偶々が続いていいのは二回まで。それ以上は何かしら人為的な作用がある、と仰ってました。その理論から言いますと、今回の事も裏で糸を引いている者がいると見ていいでしょう。」

 

 ちなみにその警部補は現在休職中である。一部では、あまりにも警察官に見えない言動から、杉下右京に並ぶ警視庁きっての変人と呼ばれている。

 

「もしかして右京さん、何か心当たりがあるんですか?」

 

 亀山はそう聞くが、杉下はその問いに対し目を伏せて首を横に振る。

 

「残念ながら、現在のところ黒幕に結びつく情報は得ていません。ですので…。」

 

 そう言って杉下は口の端を上げてみせる。その様子はどこか楽しげだ。

 

「おそらく、何かしらの情報は得ているであろう人物に明日会ってみようと思っているのですが、亀山君もどうですか?」

 

 亀山の答えなど、とうに決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、何でこんな朝早くにわざわざ僕のところまで来たの?」

 

 小野田は不機嫌さを隠さずに二人に問いかける。場所はもはやおなじみ、警察庁にある小野田の政務室だ。

 杉下と亀山は午前中の授業を他の教師に代わってもらい、登庁したばかりの小野田のところへ押しかけたのである。そのせいで1年1組は担任と副担任がまとめていなくなり、生徒や他の教師に多大な迷惑かけてしまい、二人は後に校長からこっぴどく叱られることになるのだが、ここではあまり重要でないため割愛させていただく。

 

「申し訳ありません。どうしても官房長に至急確認したいことがあったもので。こうしてお時間をいただき、心より感謝しています。」

 

「そんな形ばかりの言葉はいいから、早くその要件とやらに入ってもらっていいかしら。前も言ったけど、僕だって忙しいんだからね。」

 

 頭を下げる杉下に対し、小野田は半ばやけ気味に言葉を投げかける。どうやら登庁直後に訪問されたことがかなりお気に召さなかったようだ。

 

 そんな小野田に杉下は昨日印刷したデータの用紙を渡す。怪訝そうに用紙を受け取った小野田であったが、内容に目を通すと一転、いつになく真剣なまなざしとなり熟読し始めた。

 

「……これはいったいどこで?」

 

 一通り内容を吟味した小野田の第一声である。

 

「その前に、ひとつ確認したいことがあります。官房長から見て、これは本物でしょうか?」

 

「…間違いなく外務省が作成したものだ、とは言えないけど、かなり信用性の高いものだとはいえるね。」

 

「なるほど。では、ここに書いてある織斑一夏の名前について…。」

 

「それよりも、僕の質問にも答えてよ。お前たちはどこでこれを手に入れたのかな?」

 

 杉下は一瞬考えるそぶりを見せたが、自分たちが知っていることについて、すべて小野田に伝えることにした。下手に包み隠した言い方をして情報を出し渋られては敵わないと思ったのだ。

 

 織斑家に空き巣が入ったことから、織斑一夏がこのデータを渡されるまでの経緯について杉下が話し終えると、小野田は机の上で指を組み、杉下を見据える。

 

「このデータを織斑一夏に渡した女ってのは、誰だかわからないの?」

 

「はい。今のところ白人女性という事以外は分かっていません。」

 

「ふーん、まあ仕方ないね。ところでさ、杉下…。」

 

 小野田は椅子から立ち上がると、杉下を見る目を細くした。

 

「お前、もう大体のことは見当がついてるんじゃないの?」

 

「……はい?なぜ、そう思われたのでしょうか?」

 

「しらばっくれるんじゃないよ。これだけ材料がそろってるんだ。推理の一つや二つ、もう出来上がっているんだろ。僕やお前もボケちゃいないんだから。」

 

 ある意味これは、小野田の杉下に対する信頼の証と言ってもよいだろう。小野田は自身こそ『杉下右京』という警察官について、最も熟知している者だと自負している。彼からすれば、この程度の真相など杉下右京なら放っておいても勝手に行き着くと確信している。

 なのに目の前にいる此奴は全く見当がつかないと云った振りをしている。おそらく、あえて真相に行き詰っているように装って、こちらから協力を申し出るように仕向けているのだろう。もちろん杉下もこの程度の茶番など、小野田なら見破ることは承知しているだろう。見破ったうえで、茶番に乗ってくることを見越しているのだ。

 だがしかし、今日ばかりは小野田も茶番に付き合う気などなかった。理由は二つ。一つ目は、最初に行ったようにあまり時間がないためだ。小野田は現在、表に出せないあるプロジェクトに奔走しており、連日にわたって有識者や警察幹部と非公式の会合を開いている。今は一秒でさえ惜しく、杉下の芝居に付き合う余裕などなかった。

 

 そしてもう一つの理由とは、そんな忙しい中で小野田の貴重な癒しのひと時である孫の送り向かいを、昨日突然かかってきた訪問の伺いのせいでキャンセルしなければいけなくなったためである。どうしても会って話さなければならないことがるというので、渋々孫との触れ合いを手放さなければならなかったのだ。確かに案件としては重大なものだが、ある程度見当がついてるのであればわざわざ会って話すようなことではないじゃないか、というかなり個人的な理由、というか完璧な八つ当たりだ。そんな小野田の胸中など杉下は知る由もない。

 

「…分かりました。では、簡単な推論を一つ。」

 

 そう言って杉下は、自身がここまで得た情報から導き出した推理を語り始めた。

 

 

 

「まず重要なのは、この警備データが二年前の『モンド・グロッソ』の時のものだという点です。そしてここにある要警護対象者の中に一夏君の名前があります。このことから、外務省が一夏君は警護が必要な状況にあったと判断していたことがわかります。ではなぜ、そのような判断に至ったのか?その答えはこの大会の決勝戦が関係しています。」

 

 杉下は懐から新聞の切り抜きを取り出す。そこには太字で「織斑千冬 決勝を棄権!」と、大きく書かれている。

 

「決勝戦当日、日本の国家代表であった織斑千冬さんは決勝戦を急遽棄権しています。機材トラブルや、体調不良などと言われていましたが、彼女は棄権の理由を明言していません、もしこれが、機材トラブルなどではなく、彼女の家族である一夏君の身に何かがあったとしたらどうでしょう?」

 

「…唯一の家族のために織斑千冬が決勝を棄権したってこと?」

 

「大きな国際大会の場合、試合が賭けの対象となり、有力な選手の家族などが犯罪組織に誘拐され、試合で手を抜いたり棄権するように脅されることがあると聞きます。第一回『モンド・グロッソ』で優勝していた千冬さんは間違いなく有力選手と目されていたでしょう。そうなると、一夏君が警護対象者の一人になっていた理由がおのずと解ります。」

 

「でも実際問題、織斑千冬は決勝に出なかった…。」

 

「そこなんです。その理由が一夏君が犯罪に巻き込まれたためであったとすると、外務省は彼を要警護者にリストアップしていたにも拘らず、彼の身を守れなかったことになります。そこに現れたのがこのデータです。本来ならこれは厳重に保管されてしかるもの。それが外部に流出した挙句に外国語に翻訳されている。そのことから導き出される答えは一つです。」

 

「警護データを外部に売りとばしたユダがいるってことね…。」

 

「そして、そのことを千冬さんに伝えようとしている女性がいます。」

 




小野田さんと右京さんが話し出すと薫ちゃんの存在感が薄くなります。ていうか、今回後半はセリフ無いじゃないか!!

いったいどうしたものか・・・。

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