IS学園特命係   作:ミッツ

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タイトルの通り今回はかなり内容を詰め込んでいます。

田舎に帰ったり、GW後の仕事に追われたりとで更新が遅れたため、少しでも内容を濃くしようとした結果こうなりました。



望まれない結末

「楯無!」

 

 トンネル内に侵入した亀山が目にしたのは、手足を拘束され地面に転がされた楯無とナイフを手に血走った眼をした男であった。

 

「亀山せっ!」

 

 亀山に何か言おうとした楯無であったが、突然柳原に腕をつかまれると無理やり立ち上がらされた。その首筋にはナイフが付き立てられている。

 

「おっと、それ以上近づかないでください。この子の命が惜しかったらね。」

 

 楯無に走り寄ろうとした亀山に向かい柳原はそう言ってけん制した。落ち着きを取り戻したのか、先ほどの動揺した様子はなく、表情にも余裕が戻っている。

 

「柳原和美だな。もう逃げられねえぞ。馬鹿な真似はやめて投降しろ!」

 

「あなたは亀山先生ですよね。妻から話は聞いています。何でも警視庁から派遣されてきたとか。妻はかなり警戒してましたよ。本当は始業式に実行するはずだった計画を中止するくらいにね。でもよかった。昨日あなた達が早々に学校を離れてくれたおかげで、何の心配もなく爆弾を仕掛けられたんですから。」

 

 柳原の話を聞いて亀山は歯噛みする。あの時、芝浦に学校を離れることを伝えたことがこの事態を招いたことになったとは。知らなかったとはいえ、もう少し慎重に立ち回っておけばと思わずにはいられない。

 

「亀山先生、あと数分で爆弾は爆発します。それまで少しの間ですがおつきあいしてください。」

 

「柳原、こんなことしてもどうにもならねえぞ。これ以上罪を重ねるんじゃ…。」

 

「じゃあ純一のことはどうなるんですか!このまま泣き寝入りしろとでもいうんですか!」

 

「そうじゃない。こんな方法をとらなくても…。」

 

 

 とその時、亀山の懐から携帯の着信音が鳴り響いた。亀山は一瞬どうしようか迷ったものの、画面に示された相手の名前を確認しすぐに電話に出た。

 

「右京さん、今柳原と芝浦先生、それと楯無を見つけました。どうすれば…。」

 

 亀山は柳原達から目を離さなずに電話に対応した。柳原はその様子をいぶかしげに眺めている。やがて会話が終わったのか亀山は携帯を耳から離し、楯無の方に視線を向けた。

 

「楯無、お前は俺がどうやって特命係に行くことになったか知ってるか?」

 

 いきなり質問をぶつけられ楯無は狼狽したが、やがて何かに気づいたように頷いた。それを確認すると亀山は柳原の方に視線を向けた。

 

「柳原、俺の上司がお前と話したいとさ。ほれ。」

 

 そう言って、亀山は柳原に携帯を放り投げた。柳原は面食らったようではあったが何とか携帯を受け取ると、どうしたものかと思案しているようだが、ゆっくりと携帯を耳に近づけていった。

 

「もしもし、何か私たちに話が…。」

 

 その瞬間、電話口から大音量のクラシックが流れ柳原の鼓膜を直撃した。柳原は予想外の一撃に身を竦ませ、楯無を拘束する手がわずかに緩む。すると楯無は、手錠で繋がれた両足で思いっきりジャンプすると柳原の足の甲を踏み抜いた。

 

「ガァッ!クソッ、貴様ら!」

 

 二つの奇襲を受け完全に体勢を崩しながらも、柳原は悪態をつきつつナイフを振り上げようとする。しかし、足の痛みからか振りかぶったナイフを振り下ろすことができず顔を歪ませている。それを見逃す亀山ではない。亀山はすばやく柳原に近づくと、襟首とナイフを持った方の腕を取り、勢いよく柳原の身を地面にたたきつけた。いわゆる背負い投げである。地面に投げ捨てられた柳原は肺の空気を押し出されたのか、呼吸がうまくいかないように身動き一つ出来ずにいた。

 亀山はそんな柳原からナイフを取り上げると、ポケットの中をあさりだした。やがて手錠の鍵らしきものを見つけ、それを楯無に投げよこした。

 

「ほらよ、たぶんそれが手錠の鍵だ。お前なら一人でも開けられるだろ?」

 

「・・・ありがとうございます。でも女性に対してはもう少し優しくした方がいいですよ。」

 

「へっ、それだけ元気があれば優しくする必要はないみたいだな。」

 

 そんな風に言うが亀山の顔はどこかほっとしている。しかし、芝浦の方へ顔を向けるとそれまでの表情を引っ込め厳しい声を飛ばす。

 

「芝浦先生、そこを動かないでください。間もなくほかの先生方も来ます。このトンネルの外も人で固められてます。逃げようなんて考えても無駄ですよ。」

 

 そう言われ芝浦は諦めたように笑った。そのしぐさに亀山はわずかに違和感を感じた。すると、どこからか笑い声が響く。地べたで大の字になっている柳原だ。

 

「別に私たちは逃げようだなんて思ってませんよ。亀山先生、更識さん、タイムオーバーです。間もなく爆弾は爆発します。それを止めることは不可能です。」

 

「なんだと…。おい柳原、爆弾はどこにあるんだ!言えっ!」

 

 その問いに答えず、柳原は狂ったように笑うだけあった。

 

「芝浦先生、お願いします!爆弾の場所を教えてください!」

 

 手錠を外した楯無が詰め寄るが芝浦は力なく首を振るだけであった。

 トンネル内に二人の叫びと一人の狂人の笑い声が響く中、IS学園にSHRを知らせるチャイムが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、爆発音はいっこうに聞こえてこない。

 1分が立ったころには柳原の笑頃は止まっていた。やがてあわてたように懐からスイッチを取り出すと亀山が止める間もなくスイッチを押した。それでも、爆発が起きた様子はない。その場にいた全ての人間が困惑していた。

 

「爆弾は爆発しなかったのか?」

 

 初めに口を開いたのは亀山だった。だが、それに答える者は無い。何とも言えない空気がトンネル内に蔓延する。どうしたものかと楯無の方を見るが、楯無もこの状況を理解できていないようだ。

 もしかしたら右京さんが何とかしてくれたんじゃ、そう亀山が声に出そうとしたその時、

 

「なんで…。」

 

 柳原だったが亀山に代わり声を上げる。しかし、その表情はそれまでにない絶望が張り付いている。体全体を丸めるように折り曲げると両腕で肩を抱き縮こまった。柳原はなおも続ける。

 

「なんで、なんで、なんで…」

 

 まるで壊れた人形のように地面を見ながらただひたすら、なんで、と連呼する柳原。ほかの三人はその異様な行動にどうすることもできず、茫然と眺めることしかできない。

 

「なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで…。」

 

「お、おい、大丈夫か…。」

 

 普通ではない柳原の様子を心配し、亀山が恐る恐ると彼に近づいて居ていく。すると、

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

 柳原は唐突になんでと言うのをやめると、びくりと体を痙攣させた。そして、 

 

 

 ピチャ、ピチャ

 

 液体が地面にこぼれる音が聞こえてきた。音の出所は柳原の体の下だ。すると、ゆっくり柳原は下に向けていた顔を上げた。その口からはおびただしい量の血が流れている。

 

「なっ!」

 

「あなたっ!」

 

 亀山が驚愕する声と芝浦の悲鳴が響く。楯無も声こそ挙げていないものの顔を蒼くし唇を震わせている。

 

「あ、あ、ああ…。」

 

 柳原は声にならない音を口から発するとやがて白目をむいて仰向けに倒れた。

 

「柳原!」

 

 亀山は柳原のもとに駆け寄る。その体を抱き必死に柳原の名前を呼び掛ける。

 

「柳原!おい、しっかりしろ!柳原!」

 

「か、亀山先生、いったいその人どうしちゃったんですか。」

 

「たぶんこいつ、自分の舌を噛み切ったんだ。楯無、俺の携帯を使ってすぐに右京さんに連絡を取ってくれ。芝浦先生はそこにいてください!」

 

 その言葉を聞き楯無は亀山の携帯を取り電話をかけ始めた。芝浦はその様子をただ茫然と見ていることしかできなかった。亀山は柳原の口を開かせ、何とか軌道を確保させようとしている。それから暫くして、ようやくIS学園の教師たちがISをまとって現われた。すでに杉下から連絡を受けていたらしく、救急キットで応急処置をすると担架に柳原を乗せ、トンネルの外へと運んで行った。

 

その後、柳原和美はすぐに近くの大学病院に搬送され、一命はとりとめた。しかし、目を覚ました柳原は終始意味不明な言動を繰り返し、まともな受け答えはできなかった。医者は彼の精神は崩壊しており、とてもではないが責任能力があるとは思えないと結論付け、検察は彼を不起訴とし精神病院への送致を決定した。

 

 

 

 

 

 

 

「楯無さん、御無事で何よりでした。」

 

 そう言って、杉下はベッドの上の楯無に頭を下げた。その横にはいつものように亀山が立っている。場所はIS学園内の保健室である。楯無は頭を殴られたという事もあって当初は病院で詳しく検査をするはずだったが、本人が非常に元気であったことと警察から事情聴取される必要があったこともあり、結局IS学園内の保健室で簡単な処置を受けることになったのだ。保健室とは言ってもIS学園の保健室はかなりの医療設備が整っており、そこらの病院よりもはるか専門的な治療ができることもそれを後押しした。

 楯無は杉下たちが保健室に入ってくるのを見ると瞬時に姿勢を正した。

 

「……杉下先生、本当に申し訳ありませんでした!」

 

 楯無はそう言ってベッドの上で正座をすると勢いよく頭を下げた。所謂、土下座のスタイルである。予想外行動に杉下と亀山は思わず身を仰け反らせた。楯無は額をシーツに付けたまま続ける。

 

「私が勝手に動いたせいでこんな大事になっちゃって。おまけに犯人の人質になるなんて…。私が軽率でした。お二人にも大変ご迷惑をおかけしました!」

 

 楯無は叫ぶようにそうまくしたてた。よく見ると目尻には涙の水滴がついている。決して偽りの涙ではない、亀山はそう直感した。

 

「楯無さん、顔を上げてください。」

 

 杉下が静かにそう告げると、楯無はゆっくりと涙に濡れた顔を上げた。普段の彼女を知るものからすれば、一目でひどい顔だと言うであろう様相である。

 

「楯無さんは確かにミスをしたかもしれません。だからと言って、そのミスがこのような結末を迎えたかというとそうとも言えません。むしろ、あなたの姿が見えなくなったことで教師陣が本気で事件に対応できたと言ってもいいかもしれない。言い出したらきりがありません。あまり自分を責めすぎるのもよくありませんよ。」

 

「でも私は…。」

 

「それにいくらあなたが暗部組織の頭首だといっても僕たちから見ればいささか若すぎます。今回のことも経験不足によるものと言っても過言ではないでしょう。大切なのは今回得た経験を今後の自分の糧にすることです。もちろん反省するべきことは十分に反省するべきですが。」

 

 そう言われると楯無は何も言えない。無理やり納得させられた感はあるが楯無は杉下の言葉をしっかりと噛みしめ頷いた。それを見て、杉下は満足そうにすると何やら亀山に指示を出している。

 

「では早速反省をしていただくことにしましょう。無断で夜間に寮を抜け出したことについて、これから一週間毎日反省文を十枚提出してください。それと明日から一か月間放課後に校内全てのトイレ掃除をしていただきます。反省文は毎朝始業前に僕のところにまで提出するように。これはほかの先生方からも認められた正式な罰則ですのであしからず。」

 

 そう言っている間に亀山が取り出した原稿用紙の束を見て楯無は顔を引きつらせる。亀山に助けを求めるように視線を向けるが、亀山は気の毒そうに首を振ると視線を逸らした。

 

「…なにか質問はありますか?」

 

「…いいえありません。しっかりと反省させていただきます。」

 

 楯無はこれから自分に降りかかる苦難を思うと、身から出た錆とはいえ項垂れずにはいられなかった。ふとそこで、楯無はある疑問を思い出した。

 

「先生、ひとつ質問をいいですか?」

 

「ええ、僕達に答えられることなら。」

 

「ありがとうございます。芝浦先生が仕掛けた爆弾なんですけど、どうして爆発しなかったんでしょうか?まさか爆弾自体に欠陥があったとか…。」

 

「いいえ、爆弾自体は正常に作動していました。ギリギリではありましたが爆弾を止めることができたんです。」

 

「いったいどうやったんですか。杉下先生が何かしたんじゃ…。」

 

「いやそれもちがう。爆発を阻止したのはこの学園の先生方なんだ。なんでも教員総出でハイパーセンサーを使って校内を隈なく、かつ迅速に捜索した結果、二階の教室で爆弾を発見することができたそうだぞ。」

 

「じゃあ、爆弾の解体はどうやって?」

 

「爆弾は解体していません。ただ、爆弾の動きを止めただけです。その際、AIC(慣性停止結界)を使ったそうですよ。」

 

 AIC、その言葉に楯無も聞き覚えがあった。正式名をアクティブ・イナーシャル・キャンセラーと言い、ISのPICを発展させた物で、物体の物理的な動きを強制的に停止させる事の出来る武装だ。現在、ドイツを中心に研究されており、近々発表されるドイツの第三世代ISにも搭載されるとの噂がある。だがそれをどうやって持ち出したというのか。

 

「なんでも、織斑先生がドイツの知り合いに連絡を取り、IS学園内でデータ採取をしていた物を借り受けたらしいですよ。」

 

 楯無の疑問を先回りするように杉下がそう付け加える。それにしても、いくらドイツ軍と縁があるとはいえ試作段階の兵器を持ち出すとは…。織斑先生も杉下先生並に私の予想を上回る存在かもしれない。楯無は心の中でそうつぶやいた。

 

「解りました。それともう一つ。芝浦先生はこの後どうなるんですか?」

 

 楯無にとってもう一つの気がかり。それは芝浦真紀子の処遇である。彼女は理由があるとはいえ人の命を奪ったのだ。ただ、その理由が理由なだけに楯無は芝浦がこの後どうなるのかが気になって仕方なかった。楯無の問いに杉下は真剣な顔を作るとまっすぐに楯無の眼を見てきた。楯無もしっかりとその眼を見つめ返す。

 

「芝浦真紀子は学園内で簡単な聞き取りを行った後、警察にその身柄を移されました。学園も今回の件を学園内だけの問題として収束させることはできないと判断したのでしょう。正式に警視庁に出動を要請したようです。爆弾の処理も警察の方で行いました。」

 

 芝浦の身柄を取りに来たのが捜査一課の三人で、その際散々に嫌味を言われたのだが流石にそのことをこの場で言わないくらい亀山は空気は読める。

 

「柳原和美の方はあんな状況ですのでどうなるかわかりませんが、芝浦真紀子は今後司法によって裁かれることになるでしょう。犯罪を犯した以上、それからは逃れられません。」

 

「そうですよね…。でも、なんだかやり切れませんね。彼女言ってました。自分はもう家族を裏切ることはできないって。彼女は板挟みになっていたんじゃないでしょうか。息子が苛められていることに気付いてやれなかった。そのせいで息子は死に、夫は狂気に堕ちてしまった。その罪悪感があるせいで彼女は柳原がやろうとすることを止められなかったんだと私は思います。」

 

「…そうですか。しかし、どんな理由があろうとも彼女は柳原の犯行を止めるべきでした。そうすれば、柳原があそこまで狂ってしまうことはなかったでしょう。それに、どんな理由があろうとも殺人が正当化される理由はありません。」

 

 楯無は杉下の言葉を聞き、その表情を見ることで初めて杉下右京という警察官の根本に触れた気がした。この人は自身の正義に乗っ取り、目の前の悪を決して見逃さない人だ。例え周囲が如何に悪に染まろうとも、決してそれに流されず粛々と自身の正義を下していく。そう思わせるものが杉下にはあった。

 

「ただ、殺人を犯したとはいえそれで芝浦真紀子のすべてが否定されるかと言えばそうではありません。人は罪を犯すこともあれば、その罪を灌ぐこともできます。彼女に罪を償おうという気持ちがあれば、もう一度人生をやり直すことができる。僕はそう信じています。」

 

 そう言って杉下は僅かに微笑んだ。それは楯無を少しでも安心させようとしたものかもしれない。楯無はそれに驚いたものの杉下に微笑み返すと言った。

 

「そうですね…。そうなるといいですね。」

 

 じゃないと純一君のお墓を守る人がいないのだから。

 

 

 

 

 

 だが、楯無の願いはかなうことはなかった。

 ISによって歪んだ世界は芝浦たちに罪を償う事さえも許さなかったのだから。




いよいよ次回、IS学園特命科第一部完となります。
今やってるのは相棒的に言うとシリーズ最初のテレビSPの様なものですが、今後はエピソードごとに章管理にしようと考えていますがどうでしょうか?

ご意見をお待ちしております。

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