IS学園特命係   作:ミッツ

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明日からゴールデンウィーク後半だー。でも普通に仕事があるぞー。あれれー。
 
すいません、更新はできるだけ間が開かないようにします。


ある家族の物語

「右京さん、本当にここで合ってるんすか。」

 

 亀山は杉下が電話で教えた場所を地図で確認し困惑した。なぜなら、杉下が示したその場所というのが、

 

「ここ、何にもない場所じゃないっすか!」

 

 そう、杉下が当たりを付けた、校内では最も隅にあるアリーナの北側は地図上では全くの白地、ただの更地であることが記されている。しかし、杉下は確信めいた様子で、亀山に語り掛ける。

 

『はい、確かに現在のIS学園の地図ではそこは何もない場所です。しかし、IS学園が建設される前の地図ではそこに学園と外部をつなぐトンネルがあるんです。』

 

「ど、どうゆう事ですか?」

 

 亀山は混乱した。IS学園は各国の軍事機密が集まる場所であり、当然出入りは厳しく制限されている。地図上に記されていない場所に外部と出入りができるトンネルなど本来ならあってはいけないものだ。

 

『IS学園が建設された場所はもともと県が作った埋立地を国が買い取ったものです。本来ならこの場所は海底に地下鉄を通し、一大観光都市として機能させるはずでした。しかし、国際IS委員会からIS操縦者育成施設の設立を要請された日本政府によって買い取られ、現在の形になったのです。工事はかなりの突貫で行われたらしいですから、作られたまま放っておかれたトンネルがあったのではないか。そう思ってIS学園が建設される前の地図を探してみたところ…。』

 

「あったんですか?」

 

『はい。三木島トンネル。これがIS学園の校内にまで伸びている唯一のトンネルです。それと、柳原が勤めていた建設会社の名前がIS学園の建設に関わっている企業の欄にありました。彼がこのトンネルの存在を知っていてもおかしくありません。』

 

 その言葉が終わると同時に亀山は走り出していた。生徒の避難は順調に進んでいるようだが、爆弾の場所や規模が分からない以上けが人が出ないという保証はない。なんとしても、爆弾が爆発する前に止めなければならない。そのためには爆弾の場所を芝浦たちから聞き出す必要がある。それに楯無のことも心配だ。すでに彼女が姿を消してだいぶ時間が過ぎている。最悪の事態が頭をよぎるが亀山はそれを掻き消して疾走する。

 

「無事でいろよ…、楯無…。」

 

 

 

「僕たちにとって、ISは夢だったんだ。」

 

 そう楯無に語り掛ける柳原の眼は相変わらず黒く濁り切っていたが、僅かに悲しみの色が見える。

 

「だってそうだろ。あんなにすごいパワードスーツは今までなかったんだから。ISがあれば危険な現場でも低コストで安全に作業ができるようになる。宇宙や海底でだって問題ない。本当に素晴らしいものが生まれたって思ったね。例え、数が限られ、女性にしか扱えないものだとしてもね。」

 

 そういうと柳原は手の中でライターのような形をしたものをもてあそんでいる。おそらくあれが爆弾のスイッチなのだろう。楯無は先程から、何とかして手錠を外そうとしているがうまくいっていない。せめて、クリップの一本でもあれば。そう思って周囲に目をやるが、役に立ちそうなものは落ちていない。

 その間も柳原は楯無の方を見ようともせずにしゃべり続けていた。

 

「IS学園建設の仕事を任された時は本当にうれしかった。妻もここで教師をすることが決まって、純一も将来はISの研究者になるんだなんて言ってね。僕たちは子供たちの未来の礎を作ってるんだと思いあがってたのさ…。」

 

 柳原は手を止めると、わずかに声を低くした。

 

「純一が死んだときは身を割かれる思いだったよ。何度も学校を訪れて、原因を調べてもらおうとしたけど禄な回答はなかった。そんな時だよ。偶々学校の近くのファミレスで食事をして、あの子たちの会話を聞いたのは。彼女たちは笑いながら話してたよ。柳原のやつのことが表沙汰にならなくてよかった。ちょっと驚かせたくらいで落ちやがって、わざわざフェンスを越えてまで教科書取りに行くかなってね。」

 

「まさか、柳原純一は…。」

 

「そう。純一はあの子たちが屋上のフェンスの外に置いた教科書を取ろうとしたところを、驚かされて落ちたんだよ。」

 

 楯無は絶句する。柳原純一の死は事故でも自殺でもなかった。明確な殺意さえないものの、これは立派な殺人だ。柳原純一は文字通り高原詩織によって殺されていたのだ。

 

「でも一番ショックだったのはその後だよ。彼女たちはISの適性が高くてよかったね、といったんだ。この意味は分かるかな?」

 

「…高原たちはISの適性が高かったから見逃されたってこと?」

 

「そう、その通りだよ。だって普通に考えて、いくら学校が必死に隠ぺいしたって警察の目を誤魔化せるわけないでしょ。高原って子のIS適性はA+。その才能を惜しんだ日本のIS委員科会関係者が圧力をかけたみたいなんだ。これは妻の推測なんだけどね。」

 

 ISをいかに使いこなすことができるかの肉体的素質を計るIS適性。最高でSまでの適性値のうち、A+という名はかなり高いものだ。Aでさえ世界中で千人に満たないとされる中で、Sに及ばないもののその存在は貴重だ。その才能を保護するという名目で、犯した罪を見逃すというのは有り得ない話ではない。その罪が人の命を奪った所業であたっとしても。

 

「僕らは絶望したよ。自分たちが築こうとした未来のなれの果てがこんな世界だったなんて…。きっとこのままだと純一のような子供がもっと増える。それだけは阻止しなきゃいけないんだ。それがこの世界を作る手助けをした僕たちの使命なんだ。」

 

「…そのためにIS学園を破壊するっていうの?」

 

「ああそうさ。そうすれば人々は嫌でも直視しなければいけなくなる。今のこの世界を。ISが作った歪みから目を逸らし続けることはできなくなるだろうさ。そうすれば、二度と純一のように死ぬ子供は生まれない!」

 

 柳原は狂ったようなに笑みを浮かべてそう言い切った。その表情はどこか自分に酔っているように見える。対する楯無は彼に恐怖も同情もしていなかった。ただ、急速に頭が冷えていく感覚がしていた。

 

「じゃあなんで高原さんをわざわざISで殺したの?」

 

「ん?ああそれは彼女に自分の犯した罪を分からせるためだよ。自分を救ってくれたISに今度は殺される。そうして初めて彼女は己の犯した罪を自覚できる。そう思ったんだけど?」

 

「なるほどそういう事だったのね。これで分かったわ。やっぱりあなた達は世界を変えようなんて気は全くないのね。」

 

「……なんだと?」

 

「だってそうじゃない。口では息子と同じような目に合う子供が出ないようにするためとか言いながら、その当事者に対してはその人にとって屈辱的な方法で殺してるじゃない。世界を変えるなんて聞いて呆れるわ。」

 

「…黙れ。」

 

「大体こんな方法を使ったところでいじめはなくならないわ。暴力に対して暴力で対抗しようなんて戦争と同じじゃない。こんなことで世界を変えようなんてチャンチャラおかしいわ。せいぜいあなた達のような悲しい親が増えるだけよ。」

 

「黙れ。」

 

「あなた達の復讐は高原詩織を殺したところで終わったのよ。これ以上はただの八つ当たりよ。!」

 

「黙れと言っているだろ!」

 

 柳原が楯無の首筋にナイフを突きつける。その表情にさっきまでの余裕はなく、怒りで顔を赤く染めている。それでも楯無は柳原の顔を正面から睨み返しながら続ける。

 

「目を逸らしているのはどっちよ!純一君の死をISのせいにして、彼がいじめられてることに気付けなかった罪悪感から顔をそむけている。こんなことをしても何も変わらないわ!今すぐ爆弾を止めてっ!」

 

「う、うう、うるさいっ!」

 

 楯無は柳原に殴られて地面にたたきつけられた。口の中に血の味がにじむ。だが、その目は死んでいない。むしろ、それまで以上に生気に満ちているといってもよい。それは頭に血が上ったせいなのか。それとも、更識家当主としての意地か。ただ一つわかっているのは、これ以上この人たちに罪を重ねさせてはいけないという事だけ。死んだ柳原純一のためにもこの人たちを止めなくてはならない。

 楯無は芝浦の方に視線を向けると叫んだ。

 

「芝浦先生!あなた本当にこのままでいいんですか。学園が爆破されるんですよ。生徒が死ぬかもしれないんですよ。なのに何も感じないんですか!」

 

 楯無は柳原とのやり取りの間、ずっと無言だった芝浦を観察し一つの確信を得ていた。

 

 彼女は悩んでいる。その眼には柳原のように狂気で染まっていない。あるいは自らの手で一人の命を奪ったことで心に罪悪感が生まれたのか。いずれにしろ掛けるならここしかない。楯無は左頬の痛みに耐えながら必死に言葉を送った。

 

「芝浦先生、お願いします!これ以上罪を重ねないでください。今ならまだ間に合います。罪を償って、またやり直すことだってできます。純一君のお墓はどうするんですか。誰が守っていくっていうんですか。先生!」

 

「………………それでも私はこれ以上家族を裏切ることはできない。」

 

 芝浦の言葉に楯無は自分の血の気が引いていくのを感じた。芝浦は悲痛な顔で続ける。

 

「楯無さん、あなたにはわからないでしょう。子供を見殺しにされた親の気持ちが。それに気づくことのできなかったやり場のない怒りが。私にはこの人の気持ちが痛いほどわかるの。いっそのこと狂ってしまった方がましだと思う気持ちも。だから私は夫を裏切ることはできないの。」

 

「でも、それじゃあ!」

 

「ええ、わかっているわ。こうなった以上、私もこの人と一緒に地獄に落ちるつもりよ。それが私なりの贖罪なの。」

 

 楯無は彼女に自分の言葉は届かない事を悟った。彼女の決意はあまりに固い。悲壮と言ってもよい覚悟がそこにはあった。

 楯無はただ、歯を噛みしめることしかできなかった。結局自分は何もできていない。杉下たちの命令に逆らってこの場所を見つけたというのに、こうして手足を封じられ地面に転がされている。

 せめて、芝浦の心変わりをさせることができないかと頑張ってみたがそれも上手くいかなかった。何が更識家当主だ。楯無は己の無力さに打ちひしがれていた。その眼には涙がたまっている。

 

「誰か助けて…。」

 

 無意識のうちにそんなつぶやきが漏れる。このままでは爆弾が爆発する。大勢の人が傷つくかもしれない。学園の守護を任された者としてはとても情けない姿であったが、楯無はそう呟かざるおえなかった。

 

「お願い誰か…。」

 

「楯無、無事か!」

 

 突如、トンネル内にそれまでになかった声が響く。驚いて声のした方を見ると、薄明かりの中に見慣れたフライトジャケットが見えた。

 

「大丈夫か楯無!?助けに来たぞ。」

 

 IS学園教師にして元警視庁特命係、亀山薫がそこにいた。




あと三話とか言いながら三話で終わる気がしない…。
これからはもっと計画的に進めます。

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