僕は美波の家の前まで来ていた。
少しでも一緒にいたかったから。
でも今日はここでお別れ。
大丈夫。また明日、学校で会えるから。
「明日はウチがお弁当作って行くね」
「うん。分かった。頼むよ」
「飛び切りおいしいの作って行くから楽しみにしててね」
「美波のご飯はおいしいからね。楽しみだよ。あ……でも、もう辛子シューマイやタバスコジュースは勘弁してよね」
「そうね。でもアキが約束破ったらまたやるわよ」
「うっ……わ、分かった! 絶対に約束は守るよ!」
「入れないで済むといいわね。ふふ……じゃあまた明日ね。送ってくれてありがと」
「うん。また明日」
僕は手を振って美波が玄関に走って行くのを見送った。
──あ。
僕は本当にバカだな。
一番大事なことを言ってないじゃないか。
「美波!」
僕の声に美波は足を止め、振り返った。
僕は駆け寄った。
大事なことを言うために。
「どうしたの?」
「一番大事なことを言ってなかったんだ」
「大事なこと?」
「うん」
僕は不思議そうに見つめる美波にその大事な言葉を向けた。
「僕も……。美波のことが好きだよ」
それはこの三週間、ずっと言えなかった一言。
「……」
でも僕の渾身の一言に美波は反応しなかった。
大きな目を見開き、ぱちくりと瞬きながら僕を見つめているだけだった。
あ、あれ? 僕おかしなこと言っちゃったかな? ……そんなことないよね?
そう思ってすぐ、美波は目を細め、顔をほころばせた。
「そういえばキスまでしたのに言ってくれてなかったのね。とっても今更だわ」
「ご、ごめん……でもやっぱり言葉で伝えておきたかったんだ」
「うんっ……ありがと。ウチも大好きよ。アキ」
「う、うん」
な、なんか真っ向から好きって言われると……胸をくすぐられるような感じがして……。
堪らなく照れくさい……。
僕はまた顔が熱くなってきたみたいだ。
「アキったら顔が真っ赤よ?」
美波はそんな僕を見ながらクスクスと笑っている。
は、恥ずかしい……。
僕は恥ずかしくていたたまれなくなり、目を逸らして頭を掻いていた。
すると美波が何かを思い出したように声を上げた。
「――っあ……そうだ! ウチも大事なこと言い忘れてた!」
「ん? 何を?」
「えっと……ウチと……付き合ってください」
「へ? あれ? ……んん? おかしいな……そういえばそれを言われた記憶が無いぞ……? 僕、ずっと付き合ってくれと言われたものだと思ってたよ……」
「こんなこと言い忘れるなんてね。ウチもバカだったみたい。アキのこと言えないわね」
「そんなことはないよ。なにしろ僕はバカの代名詞の『観察処分者』だからね」
「そうね。アキほどじゃないわね。ふふ……」
「美波、僕からもお願いするよ。僕と付き合ってほしい」
「……うんっ」
☆
僕と美波の気持ちは繋がった。
これから僕と美波の新しい関係がはじまる。
美波は変わってほしくないって言っていたけど、やっぱり僕は変わると思う。
だって美波の、そして僕の気持ちを知ってしまったから。
今まで通りの接し方なんてできるわけがない。
でも、無理をする必要は無い。
今まで通り、自分の感じた通りに接すればいいんだと思う。
ただ美波との関係がちょっと変わっただけなんだから。
『大切な友達』 から 『大切な彼女』 にね。
それじゃ、帰ってお弁当の献立考えようかな。
明日からの生活は今までよりずっと楽しくなりそうだ。
『バカとウチと本当の気持ち』
── 終 ──