バカとウチと本当の気持ち   作:mos

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part M

 僕たちは中央通りに戻ってきた。

 

 辺りの建物はどこも看板がイルミネーションで彩られている。

 昼間同じ店を見ているはずなのに全然違う印象を受けるから不思議だ。

 

「ねぇアキ、あのお土産屋さん寄っていかない?」

 

 美波はそう言ってお土産の店を指差した。

 葉月ちゃんにお土産を買ってあげたいのかな。

 もちろん反対する理由は無い。

 

「うん。行こうか」

 

 店内に入ってみると、そこでは様々な商品を扱っていた。

 ノインとフィーとアインが描かれた如月ハイランド限定クッキー、同じく限定Tシャツ、限定アクセサリも置いてあった。

 限定商品以外にも饅頭やチョコレートなどの一般的なお菓子やシルバーアクセサリ、それ何故かパーティーグッズなんかも置いてある。

 これは選ぶのも大変だな。

 

「ウチ、ちょっとあれ見て来るね」

 

 店に入るなり、美波はそう言うとアクセサリコーナーへ走って行ってしまった。

 なるほど。葉月ちゃんのためじゃなくて自分が欲しいのか。

 

 美波はアクセサリのコーナーで目を輝かせている。

 

「これ可愛い~! あ、これもいい! でもちょっと高いわね……」

 

 よかった。すっかり元の美波に戻ったみたいだ。

 僕もいつまでも暗い顔してちゃいけないな。

 よし。じゃあ僕は葉月ちゃんへのお土産でも探してみようかな。

 

 何がいいかな?

 ぱっと思いつくのはアクセサリだけど……ちょっと変わった物の方が喜んでくれるよね。

 と言っても、やっぱり限定ものがいいかな。ここでしか買えないんだし。

 えぇと、店内に置いてある物で言うと……。

 

 限定クッキー……は量が多いし値段も高いな。

 限定Tシャツ? でも小学生の女の子へのお土産にはちょっとな……。

 意表を突いてパーティーグッズ……ありえないね。

 

 うーん……。どうもしっくり来ないなぁ。

 やっぱり小物のアクセサリが無難かな。

 ひとまずどんなものがあるか見てみるか。

 

 僕は限定アクセサリのコーナーで女の子向けの可愛らしい物が無いか探すことにした。

 

 ずいぶん沢山の種類があるんだな。

 えーと、葉月ちゃんに似合いそうな物は……。

 

 お。これは……。

 

 ノインのキーホルダーだ。小さくてポーズも可愛らしい。

 これが良さそうだな。美波に聞いてみよう。

 

 僕はキーホルダーを持って目を輝かせている美波の元へ向かった。

 

「ねぇ美波、ちょっと見てくれる?」

「ん? なぁに?」

「これなんだけど、葉月ちゃんへのお土産にどうかな」

「え? ダメよアキ」

「あ、もしかして葉月ちゃんこれ持ってる? じゃあ別のを探してくるよ」

 

 そりゃ持ってる物を貰ってもあんまり嬉しくないよね。

 僕はアクセサリコーナーへ戻ろうとしたが、それを美波が呼び止めた。

 

「待ってアキ」

「ん?」

「そうじゃなくてね、お土産なんて買って帰ったら葉月を置いてきたことがバレちゃうじゃない」

「あ、そうか……」

 

 美波の言うとおりだ。

 確かに置いてきたことがバレたら葉月ちゃんはきっと怒るだろう。

 それに昨日のように駄々をこねられたら僕の手には負えない。

 可哀想だけどお土産を買うわけに行かないか……。

 

「あ、でもウチが一日家にいないから何か感づいてるかもしれないわね。あの子、結構勘がいいから」

「う……そりゃまずい……」

「そうね……。勉強会に行ってきたってことにでもしようかしら」

「なるほど。それならさ、お土産もスーパーとかでも売ってるような物ならいいんじゃない?」

「そうね。それなら勉強会の帰りに買ってきたとでも言えばいいし」

「でも騙すのはなんか気が引けるね……」

「そんなこと言ったってしょうがないじゃない。チケットは二枚しか無いんだから。……それに……デートなんだし……」

「あ……。そ、そう……だね……」

 

 すっかり忘れてた。

 そういえばデートしてるんだった……。

 

「あ、葉月へのお土産はウチが買うから気にしなくていいわよ」

「いや、騙すようなことするわけだから、せめてこれくらいは僕に買わせてよ」

「まったくアンタは……いいからウチに任せて」

 

 やっぱり美波は譲らないみたいだ。

 こういう時の美波には何を言っても聞かない。

 ここは大人しく言うとおりにしよう。

 

「分かったよ」

「うん。それとね、ウチもうちょっとここを見て行きたいから待っててもらってもいい?」

「構わないよ。ゆっくり見ててよ」

「うんっ! ありがと!」

 

 美波は視線をアクセサリに戻すと再び目を輝かせはじめた。

 

 完全に女の子してるな。

 さて。僕はどうしようかな。

 もう一度店内を見回してみるか。

 

 ん? これは……。

 

 その場を離れようとした時、ふと目に入ったアクセサリに僕は目を見張った。

 

 これ……美波に似合いそうだな……。

 

 値段もそんなに高くない。

 美波には謝りたいことが沢山あるし、昨日のパーティーのお礼もある。

 物で誤魔化すつもりは無いけど……。

 でも言葉だけじゃ気持ちを伝えるのに足りない気がする。

 

 よし。これをプレゼントしよう。

 

 ……こんな物を買うところを見られたら絶対に誰にあげるのか聞いてくるよね……。

 

 僕はチラっと横目に美波の様子を確認してみた。

 美波はアクセサリに夢中で、僕の行動にはまったく気付いていないようだ。

 今なら気付かれずに済みそうだ。

 

 内緒で買って……そうだな……ゲートを出た辺りで渡そうかな。

 それで言うべきことは……。

 よし……。

 

 僕はこのアクセサリを持って、こっそりレジに向かった。

 

「プレゼント用にラッピングしますか?」

 

 アクセサリをレジに出すと、女性店員にこんなことを聞かれた。

 そうか。男の僕がこんなアクセサリなんか買ったら当然誰かに贈る物だと思うよね。

 

「えっと……いえ。すぐ渡すので」

「でしたらケースをサービスしておきますね」

 

 女性店員はそう言ってアクセサリをちょっと立派なケースに入れて渡してくれた。

 僕は受け取ったケースをポケットに押し込んだ。

 

 よし……準備完了だ。

 

 レジから戻ると美波はアクセサリコーナーで難しい顔をしていた。

 

「結構高いものなのね……」

 

 どうやら欲しいアクセサリを買うには予算が足りないようだ。

 僕の買ったアクセサリとは違うものが欲しかったみたいだけど……受け取ってくれるかな……。

 今更だけど、そんな不安が過った。

 

「あ、アキ。ごめんね。すっかり夢中になっちゃって」

「いやぁ、やっぱり美波も女の子なんだなって思ったよ」

「なによそれ。どういう意味よ」

 

 あ……し、しまった……!

 

「そ、それよりさ! 葉月ちゃんには何を買って行く?」

「そうね……チョコレートなんてどうかしらね。葉月の好物だし」

 

 よかった……誤魔化せた……。

 

「なるほどね。それくらいなら僕が買うよ」

「いいってば。ウチが買うわよ」

 

 もう一度押してみたけど、美波の返事は変わらなかった。

 仕方ない。ここは美波に任せるか。

 やれやれ。僕も押しが弱いな。

 

 

 結局、美波はアクセサリを諦めてチョコレートだけを買ったようだ。

 


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