バカとウチと本当の気持ち   作:mos

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part D

 汽車を降りたら太陽はもう真上に来ていた。

 そろそろお昼の時間かな。

 

「美波、そろそろお昼にしない?」

「そうね。そうしましょ」

 

 如月ハイランドはお弁当の持ち込みが許可されている。

 レストランとかの飲食店以外に、持ち込み食事用のテーブルが屋外に用意されているのだ。

 ただし、飲み物は持ち込みを禁止されている。

 

 これは前にスタッフとして潜り込んだ時に教わったのさ。

 

 テーブルは園内の各所に点在している。

 僕たちは空いているテーブルを探しに、中央通りへ戻って来た。

 すると噴水横の広場でいくつかのテーブルが空いているのが見えた。

 

 意外に空いてるもんだな。あそこを使わせてもらおう。

 

「美波、あそこにしよう」

 

 僕たちはそのテーブルで昼食を取ることにした。

 

 っと。飲み物を買ってこないとね。

 

「飲み物買ってくるよ。何がいい?」

「あ、うん。じゃあお茶でお願い」

「りょーかい」

 

 僕は近くの自販機で小さいお茶のペットボトルを二個買った。

 

 街で買うのよりちょっと高いな……。

 けど持ち込めない以上しょうがないか。

 

 

 テーブルに戻ると美波はお弁当を広げようとしていた。

 でもその広げようとしているお弁当は僕の持ってきたものじゃないみたいだ。

 

「あれ? 美波もお弁当持ってきたの?」

「ウチ『も』ってことは、アキも持ってきたの?」

「うん。サンドイッチを作って来たんだ」

「ウチはおにぎりよ」

 

 僕と美波はお互いに持ってきたお弁当を見せ合った。

 

「……そういえばお昼ご飯をどうするか相談しなかったね」

「そ、そういえばそうね……」

 

「「……」」

 

 僕たちはお弁当を手に呆然と見つめ合ってしまった。

 

「「あ、あはは……」」

 

 僕は苦笑いするしかなかった。

 美波もほぼ同時に困ったような笑いを見せていた。

 

 お互い初めてのことだから勝手が分からない。

 当然と言えば当然だけど……でも失敗したなぁ。

 ちょっと考えれば相談しなきゃいけないって分かりそうなもんなのに。

 朝は完全に浮かれてたからな……。

 これからはちゃんと前もって相談しないといけないな。

 

 でもどうしたもんだろう、コレ……。

 

「じゃあアキ、こうしない?」

「うん?」

「ウチがアキのお弁当食べるから、アキはウチのお弁当食べるっていうのはどう?」

「なるほど。お互い交換するのか。いいね、そうしようか」

 

 って……それは一人分ずつ余っちゃうのは解決してないよね?

 

 そのことを言おうとしたら、美波が嬉しそうに自分のお弁当を差し出してきた。

 

「はい、じゃあアキのをちょうだい」

 

 その笑顔を見たら、お弁当が余ることなんてすごく些細な問題な気がしてきた。

 

 もうこの際、細かいことは言いっこなしだ。

 単純にこの時間を楽しもう。

 

 僕は持っていたサンドイッチの袋を渡し、美波のお弁当を受け取った。

 

 美波のお弁当にはおにぎりの他に、から揚げ、玉子焼き、ポテトサラダ、ミニトマトが詰められている。

 うん。おいしそうだ。

 

「「いただきまーす」」

 

 美波のお弁当はやっぱりおいしい。

 おにぎりの塩加減も絶妙だ。

 

 

 

 もうじき冬の青空の下でのご飯。

 

 学校ではクラスの皆とちゃぶ台を囲んでのお昼ご飯。

 今日は美波と二人でテーブルを挟んでのお昼ご飯。

 

 僕たちはいつものように学校での話に花を咲かせる。

 でも、今日はいつの間にか料理の話題になっていた。

 

 ……あれ?

 

 高校生の男女が料理の話題で盛り上がるって普通なのかな……?

 

 

 

 僕たちがおしゃべりをしながらお弁当を食べていると、隣のテーブルに男女のカップルがやってきてお弁当を広げはじめた。

 新婚夫婦だろうか? ずいぶんと仲がいいみたいだ。

 

 その新婚夫婦らしきカップルは僕たちの横のテーブルでイチャイチャはじめてしまった。

 お互いに箸で「はい、あーん」なんてやっている。

 見ているこっちが恥ずかしい……。

 

「す、すごいわね……」

「そっ、そう……だね……」

 

 僕と美波は横目で彼らの行動を見て呆気(あっけ)にとられていた。

 

 ん? そういえば……。

 

 僕も美波が風邪で休んでいた時にあれと同じことをしたんだった。

 それで僕が入院した時も同じことを美波がしてくれて────

 

「アキ」

「……ハッ! な、なに?」

 

 何を思い出しているんだ僕は!

 

「あーん」

 

 美波はそう言いながらサンドイッチの切れ端を僕の口元へ持って来た。

 

「へ……? えぇぇっ!? ちょ、ちょ、ちょっと待って!」

 

 まさか彼らに対抗しようって言うのか!?

 さすがにこんな人目のあるところじゃ恥ずかし過ぎるよ!

 と困惑していたら、

 

「なんてね。冗談よ」

 

 そう言って、美波はその切れ端を自分の口に放り込んだ。

 

「な、なんだ冗談かぁ……。酷いよ美波……」

「欲しかったの?」

「あ……いや! そ、そうじゃなくて……」

「ふふ……やっぱりアキの反応って面白いわ」

 

 どうやら僕はからかわれているみたいだ。

 昨日からからかわれっぱなしな気がするな。

 

「それはそうと、この後どうする?」

「ん。そうだなぁ……美波は行きたい所ある?」

「ウチはさっきの二つに乗れたから今は特に無いわ」

「僕も汽車に乗れたから特に無いなあ」

 

 うん? 今は?

 後で行きたい所が出てくるかもって意味かな?

 

「そうね……。じゃあ案内図見てみる?」

「そうだね。って……そういえば案内図貰ってくるの忘れてた」

「え? 最初入ったときに貰わなかったの? もう……何やってるのよ」

「ご、ごめん。美波があんまり急ぐもんだからすっかり忘れてたよ」

「なによ。またウチのせいだって言うの?」

「あ……いや、そういうわけじゃ……」

「しょうがないわねアキは。まぁいいわ。中央通りに戻れば案内板があるはずよ。そこで見てみましょ」

 

 なんか僕のせいになっちゃったけど……まぁいいか。

 ここで反論しても怒らせるだけだし、今日はそういうのは無しだ。

 美波の言うとおり、ご飯が終わったら案内板でどんなアトラクションがあるのか見てみよう。

 

 それにしても……。

 

「はい、あ~ん」「ん~おいちい!」

 

 ……

 

 やっぱり落ち着かない……。

 

 隣のカップルは僕たちがこうしてる間もずっとイチャイチャしっぱなしだった。

 僕たちはお弁当を食べ終わると、そそくさと席を立った。

 

「い、行きましょアキ」

 

 美波も落ち着かなかったみたいだ。

 


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