……なんだか落ち着かない。
シンと静まり返った美波の家での留守番。
僕は課題が手につかず、物思いに
この数日の言い知れぬ不安の正体はなんなのだろう。
なぜこんなにモヤモヤした気分になるのだろう。
いつも通りに雄二たちと騒いで、鉄人に捕まって指導を受けて。
いつも通りのはずなのに……。
……くそっ! なんなんだこの感じ!
頭の中に霧がかかったようなモヤモヤが思考を遮る。
僕はその感覚に苛立ち、頭を掻きむしった。
その時、不意に後ろの扉が開く音が聞こえた。
驚く間もなく、続けて聞こえてきたのは聞き慣れた女の子の声。
「お母……さん……?」
えっ? 美波の声?
振り向くと、そこには髪を下ろしてパジャマ姿の美波がいた。
「みっ、美波!?」
「えっ!? ア、アキ!? な、なんでアンタがここに────」
ここまで言いかけて美波はその場に崩れ落ちてしまった。
「美波!!」
僕は慌てて駆け寄り、抱き起こした。
「美波! 大丈夫! しっかりして美波!!」
「う、うるさいわね……耳元で騒がないで……だ、大丈夫よ……ちょっとびっくりしただけ……」
美波は強気な言葉を放つものの、いつもの健康的な姿からは想像も付かない青白い顔をしている。
それに少し
こんなに弱々しい美波を見るのは初めてだ……。
「お母さんは……?」
辛そうに言葉を発する美波に僕はお母さんが仕事に出かけてしまったことを伝えた。
とにかく今は美波を寝かさないと……。
「美波、今はベッドで寝ていないと。歩ける?」
「う、うん……」
美波はそう返事をして立ち上がろうとしたが、腰が抜けたように尻もちをついてしまった。
どうも足に力が入らないみたいだ。熱のためだろうか。
……仕方ない。
僕は美波の両足と背中を抱え上げ、気合いを入れて立ち上がった。
「よっ──って、あれ? なんだ、美波って軽いんだな」
持ち上げた美波の体は拍子抜けするくらい軽かった。
いつも関節技を掛けられている時は跳ね除けることもできないのに……。
「ふぁ……アキ……」
青白い顔を赤らめた美波が恥ずかしそうに目を逸らす。
その拍子に長い髪がふわっと広がる。
なんて艶やかなんだ……。
僕は鼓動が早まるのを感じながら、美波をお姫様抱っこ状態で部屋に運んでやった。
☆
美波を部屋のベッドに寝かせてやると、その苦しそうな表情が目に入った。
肩で息をしていて、とても息苦しそうだ。
「美波……早く良くなってよ」
弱々しい美波を見ていると僕の中でモヤモヤした感じが膨らむ。
それを払いたくてこんな言葉を掛けてみたが、僕の心に掛かった霧は晴れなかった。
「アキ、どうして……ここに……?」
「あ、えっと、鉄人から課題を渡すように言われて届けに来たんだ」
「それがどうして……留守番なんかしてるのよ……」
「あー。うん。その、なんというか……」
「……お母さんたらアキを利用したのね……まったく……ケホッケホッ」
僕が答える前に美波は察したようだった。
絞り出すような声はとても辛そうに聞こえる。
こんなの美波らしくない……。
いつもみたいな元気な姿を見せてくれよ……。
でもそれには風邪を治すしかないよな……。
……
僕に何かできることはないのかな。
えっと……風邪を治すには、薬で熱を下げるんだったな。
枕元に薬の袋が置いてあるから薬は飲んでいるだろう。
となると、あとは栄養を取って寝ることか。
そうか! 僕にできることがあるじゃないか。
「美波、お腹すいてない?」
「うん。ちょっと……二日間ほとんど食べてないし……」
「よしっ! じゃ何か作ってくるよ。ちょっと待ってて」
「うん。ありがと」
な、なんだ? いつもの美波と違ってしおらしい。
熱で弱気になっているのか?
「じゃ、じゃあちょっと台所借りるね」
素直な美波の反応に戸惑いながら僕は部屋を出た。
な、なんで顔を赤らめてるんだ僕は……。