「この部屋使って」
案内された部屋には大きな本棚があり、外国語の本がびっしり並んでいた。
見ていると目眩いがしてくる。これはよく眠れそうだ……。
「ありがとう。とってもよく眠れそうだよ……」
「そう? よかった。それじゃおやすみ。アキ」
「おやすみ」
さて、寝よう。
って……。
「どうしたの? 美波」
僕がベッドに入ろうとすると、美波はまだ横に立っていた。
片手を胸に当て、どこか落ち着かない様子で、もじもじしている。
なんだろう?
「あのね……えっと……その……」
「うん?」
「っ――――や、やっぱりなんでもないっ! おやすみっ!」
美波はそう言うと慌てて部屋を出て行ってしまった。
なんだろう。何を言いたかったんだろう?
……まぁ、いいか。
僕はあまり気にせずベッドに入った。
上質のベッドはとても心地良い。
周りの外国語の本が眠りを誘うのか、目を閉じるとすぐに睡魔が襲ってきた。
僕はふかふかのベッドで深い眠りに落ちようとしていた。
だがその眠りはある訪問者により妨げられる。
もそっ
「うひぁっ!?」
なっ!? なんだ!? 何か生温かい物が腕に!?
驚いて布団を跳ね上げると、僕の腕に見慣れないもの付いていた。
「はっ、葉月ちゃん!?」
思わず声が裏返った。
「んふふ~。葉月はバカなお兄ちゃんと一緒に寝るですっ」
「だっ、ダメだよ! お姉ちゃんにも言われたよね?」
僕は葉月ちゃんを振りほどいて座らせ、頭を撫でながら説得した。
「いい子だから自分の部屋に戻ろうね」
でも僕の言うことは聞いてくれなかった。
「いいんですっ! バカなお兄ちゃんは葉月のお婿さんだから一緒に寝るんですっ!」
「そ、そんなわけにはいかないよ!」
「いいんですっ! いっつもお姉ちゃんばっかりバカなお兄ちゃんを独り占めなんてずるいです! だから今日は葉月が独り占めするですっ!」
「美波は僕を独り占めなんてしてないからね!? お願いだから言うこと聞いてよ」
「イヤですっ! バカなお兄ちゃんは葉月のものです! 葉月が独り占めするんですーっ!!」
ダメだ……全然言うことを聞いてくれない。
葉月ちゃんってこんなに頑固な子だったのか。
さっきのパーティーで僕と美波が学校の話しばかりしていたからすねているのかな。
って言うか僕は誰かの物じゃないんだけど……。
たまには美波みたいに厳しくしたほうがいいのかな?
よし……こんな感じかな?
「葉月ちゃんっ! あんまり聞き分けが無いとお姉ちゃんに言いつけちゃうよ!」
あ……。
ま、まずい……! 葉月ちゃんが目に涙を溜めている!
「ぐすっ……」
「あぁぁごごごめんごめんごめん! お兄ちゃんが悪かった!」
「……バカなお兄ちゃんは……葉月のこと嫌いですか……?」
うぐっ……涙目で見上げるのは反則だよ……。
「そ、そんなことないよ?」
「じゃあ葉月、一緒に寝てもいいですか?」
「うっ……そ、それは……」
「やっぱり葉月と一緒じゃイヤですか……?」
「い、イヤじゃ……ないけど……」
はぁ……まいった。泣く子には勝てないな。
仕方ない。とりあえずここは受け入れて、寝入ったところで葉月ちゃんの部屋に運んでしまうか。
「……分かったよ。じゃあ一緒に寝ようか」
「ほんとですか! 嬉しいですっ!」
ぱっと笑顔に変わった葉月ちゃんは再び腕にしがみ付いてきた。
と、とりあえずさっさと寝かせてしまおう。
僕は葉月ちゃんを腕に付けたままベッドに入った。
……
子供の体温は高いというけど、ホントにその通りだな。
葉月ちゃんの体がポカポカと暖かい。
人肌の温もりを感じながら寝るのなんて初めてだ。
ま、待て、落ち着け吉井明久! 相手は小学生だ! ドキドキするんじゃない……!
「バカなお兄ちゃん、大好きですっ」
「あは、あはは……ありがと……」
頼む。耐えてくれ僕の理性。