バカとウチと本当の気持ち   作:mos

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part H

「おい明久。これはどういうことだ。島田は風邪で休んでいるんじゃなかったのか?」

 

 雄二がこめかみから血をだらだらと流しながら僕を問い(ただ)す。

 

 ……まず治療してもらうべきなんじゃないかな……ここ病院だし。

 

「そうじゃ。説明してもらうぞい」

「…………返答次第では抹殺」

 

 ロビーに集まった秀吉とムッツリーニも僕に説明を求める。

 

 ごまかしようがないし……そのまま状況を説明するしかないか。

 信じてもらえるか分からないけど……。

 

 僕はソファに腰掛け、説明をはじめた。

 

 今朝、美波が突然訪れたこと。

 看護を買って出たこと。

 検査から戻ったらベッドで寝ていたこと。

 

 ありのまますべてを説明した。

 もちろん屋上でのことは伏せておいたけど。

 

「なるほどな。それにしても島田が学校をサボるとは意外だな」

「……愛は全てに優先」

「島田は一途じゃのう」

「…………(コクコク)」

「ボクは美波ちゃんの気持ち分かるな~」

 

 皆が口々に感想を述べる。

 僕を攻撃する様子は無さそうだ。

 良かった。信じてくれたんだね。

 

 それからあまり気にしていなかったけど、雄二の傷がいつの間にか手当てされてるね。

 秀吉が救急箱を持っている所を見ると手当てをしたのは秀吉かな。

 いつの間に手当てしたんだろう? さすが秀吉だ。手際がいいね。

 

 ん? あれ? そういえば姫路さんが来ていないみたいけど……。

 

「雄二、姫路さんは?」

「姫路はどうしても外せない用ができてしまったらしくてな。だから代わりに翔子と工藤が来たんだ」

「……吉井。怪我は大丈夫?」

「ボクは吉井君の入院姿を見てみたくてね~。ピンクの入院服と~ってもよく似合うよ? あははっ」

 

 霧島さんは心配してくれてるみたいだ。

 それに対して工藤さんは面白半分みたいだ……。

 

「皆ありがとう。怪我は大したことないよ。明日には退院できるらしいんだ」

「……そう。良かった」

「なんだ明久。もう退院できるのか」

「なんだよ雄二。残念そうだね」

「もうちょっとからかいたかったんだがな」

「なん──!」

 

 っと……いけない。姫路さんに言われたんだった。ここは我慢だ。

 平常心平常心……。

 

「お? なんだ明久、言い返さないのか?」

「ふっ……僕はもうそんな挑発に乗ったりしないよ」

「チッ、つまんねえな」

「……雄二は吉井と遊びたいからわざと意地悪してる」

「なっ!? 何言ってやがる翔子! ンなわけねえだろ!」

「雄二は子供だね。僕が退院したらいくらでも遊んであげるよ?」

「……でも雄二は渡さない。雄二は私のもの」

「いや。霧島さん、僕はこんなのいらないです」

「てめえら俺を物扱いすんじゃねえ!」

「あははっ、君たちってホント仲いいよね~。ね、ムッツリーニくん?」

「…………なぜ俺に振る」

「ボクたちも仲良くしようよ。ねぇムッツリーニくん?」

「…………断るッ!!」

「冷たいなぁ~。せっかくナース服姿を見せてあげようと思ったのにな~」

「…………お前のナース姿になど興味は……無いッ!!」

 

 忽然とムッツリーニの姿が消えた。

 逃げたか、ムッツリーニ。

 

「それじゃあ何で逃げるのかな~?」

「…………ついてくるなッ!」

 

 声のする方を見ると、あの二人はロビーの向こう側を走り回っていた。

 さすが工藤さん。ムッツリーニを見失わなかったようだ。

 

 でもあの人たち何しに来たんだろう……。

 

「ところで明久よ。今日もお土産を持ってきたぞい」

「……また課題?」

「んむ! しっかりやってくるのじゃぞ!」

「酷いよ秀吉……」

「はっはっはー。何を言うか明久よ。これも友を思ってのことじゃ!」

 

 ……絶対に嘘だ。顔がニヤけている。

 

「あぁそうだ明久、俺からも土産だ」

 

 え? 雄二が僕にお土産?

 どういうことだ? 雄二がそんな気遣いを見せるなんて気持ち悪いぞ?

 あ……まさかコイツも課題を持ってきたなんて言うんじゃないだろうな。

 

「本当は俺じゃなくて姫路からなんだがな。ほら受け取れ」

 

 そう言うと雄二は二十センチくらいの篭を渡してきた。

 中には……クッキー?

 

 ────────── 神よ。貴方は僕に天に召されよと申されるのか。

 

「来られなくなった姫路から頼まれてな。残さず食えよ明久。ただし退院してからな」

「いやー。僕一人じゃ勿体ないから雄二も食べてよ」

「いやいや。明久のために姫路が愛情込めて作ったものを俺が食べるわけにいかないだろう?」

 

 「「…………………………!!」」 ←ガンのくれ合い

 

 くっ……ダメだ。

 今の僕の体は雄二とやり合うほど動ける状態じゃない。

 

 くそっ! いつか騙して口に放り込んでやる!

 

「んむ? ムッツリーニと工藤の姿が消えたぞい? どこへ行ったのじゃ?」

「……あそこ」

 

 走り回っていた二人が消えていることに気付いた秀吉が問うと、霧島さんがロビーの隅を指差した。

 その先ではムッツリーニが鼻血を噴いて倒れている。

 その横では工藤さんが慌てて輸血パックを取り出していた。

 また看護師さんを追っていたみたいだ。

 

「何をやっているんだあいつらは……」

 

 雄二が額に手を当てて呆れている。

 

 ……僕もそう思う。

 

「さて、んじゃそろそろ帰るか。用も済んだしな」

「そうじゃの」

「……吉井。お大事に」

 

「ありがとう霧島さん。皆も気をつけて帰ってね」

 

「おーいムッツリーニ、工藤、帰るぞー」

「…………(ブシャァァァ!!)」

「ムッツリーニくーーーーん!」

 

 ……病院も学校も光景が変わらないってどうなんだろう。

 

 ムッツリーニは秀吉と工藤さんに両脇を抱えられて出ていった。

 最後にロビーから出ようとした雄二は足を止めて振り返り、僕にこんな言葉を残していった。

 

「あぁそうだ、明久」

「うん?」

「姫路には今日のことは黙っておいてやる。だが島田に無理をさせるなよ。あいつも貴重な戦力だからな」

「う、うん。分かった」

 

 雄二がこんなことを言うとは思わなかった。

 クラス内の混乱を増やしたくなかったのかな。

 

 でも確かに美波もそろそろ帰らないと両親や葉月ちゃんも心配するだろう。

 


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