~~~~~~ 今朝の学校 ~~~~~~
「まさかあの吉井君が交通事故とは……西村先生も驚いたでしょう」
「えぇ、あのバカは無駄に体力とすばしっこさがありますからね。交通事故なんか無縁だと思っていましたよ」
えっ? 吉井って……アキのこと!? アキが交通事故!?
うそ……うそでしょ……?
「それで西村先生、入院先は分かったのですか?」
「第一総合病院の201号室と聞いています。しかし我々には行っている時間が……」
アキが入院!? 何かの間違いでしょ!?
うそよ……!
「ん? 島田か。風邪は治ったのか?」
「西村先生! アキが! 吉井が交通事故って! 入院したって本当ですか!?」
「ん? あぁ、本当だが……?」
「っ──!」
「お、おい島田! 授業が始まるぞ! 戻ってこい! 島田!」
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「……結局授業サボっちゃったんだね」
「うん……。で、でも今日はアキの看護をするって決めたから! 玲さんからも頼まれたし! それに……! ウチも看病してもらったから……だから……」
どこか辛そうな顔をして美波が言う。
一昨日、僕が看病したことを気にしているのだろうか。
別にそんなの気にしなくていいんだけどな。
僕がそうしたかっただけなんだし。
でも美波の決意は硬いみたいだ。
もう断る雰囲気でもないな。
「分かったよ。じゃあよろしくね、美波」
「うんっ! それじゃあ、えっと……まずは……。アキ、今日の予定分かる?」
「予定? 何の?」
「入院してるんだから検査とかあるんでしょ?」
「あぁそういうこと。それなら午後に検査かな。午前中は何も無いよ」
「朝食は?」
「あ……忘れてた」
「じゃあ……ウチ、お弁当作ってきたから食べる?」
「え? でもそれ美波の分じゃないの?」
「ううん。ウチのは別にあるの。これはアキの分よ」
「ほぇ? 僕の分……? 僕の分を作ってくれたの?」
「う、うん。そうよ」
「そっか。じゃあ食べる! ……あ、でも病院食以外を食べていいか先生に聞いてみないと」
「そうなんだ。じゃウチ聞いてくるわね」
そう言って美波はポニーテールを左右に揺らしながら駆けて行った。
美波がこんなにしてくれるなんてな……。
なんか変な感じだ。
しばらくして美波が戻ってきた。
「オッケーだって。アキ、屋上行こ」
「うん」
屋上の見晴らしのいいところで食べようというのだろう。
こんな殺風景な病室よりずっといいはずだ。この提案には僕も賛成だ。
確か屋上へはエレベーターで行くんだったな。
僕はベッドから降りようとした。
そして足を地に着けた時、左足に妙な違和感を感じた。
そうか。左足にはギプスを巻いてるんだった。
盛り上がっていてうまくバランスが取れないな。
「あ……足……本当にごめんね。ウチのために……」
な、なんだ? ホントに今日の美波はおかしいぞ!?
どうしてこんなに自分を責めるんだ?
「ち、違うって! これは美波のせいじゃないって! そんなに気にしないでよ! 大丈夫! ほら、僕ならこの通りなんともないからさ!」
いつもと違う美波に戸惑い、咄嗟に思いついて、その場で軽くジャンプしてみせた。
怪我が軽いことを見せればきっといつもの美波に戻ってくれると思ったから。
ところが────
「うぐっ──!」
慌ててジャンプして見せたものの、足首に鈍い痛みを感じて思わず尻もちをついてしまった。
「大丈夫じゃないじゃない……」
「うぅ……いててて……」
ねんざってこんなに痛いものだったのか。
昨日は気にならなかったのにな。
これじゃ怖くて足を踏み出せないじゃないか。
やっぱり松葉杖借りておけば良かったかな。
でも今さら借りに行くのもかっこ悪いしなぁ……。
「アキ、立てる?」
そう言って美波が手を差し出す。
……松葉杖よりこっちの方がかっこ悪いな。
僕は美波の手を取り、起こしてもらった。
「大丈夫? ほら、肩に掴まって」
そして美波が僕の腕を担ぐように肩に回させる。
ポニーテールの先端が僕の腕をくすぐる。
美波の顔が近付いて……とてもいい匂いがしてきて……。
「さ、行きましょ」
「う、うん」
なんか……ドキドキする……。
僕はこのまま美波に担がれながらエレベーターへ向かった。