―夢だ。夢を見ている…。―
どこかのドーム。そこは今、大勢の観客でにぎわっている。
アリーナの中央では拘束されている瑞華がスポットライトを浴び、彼女の前には彼女を威嚇する様に咆哮するポールが檻の様に動きを阻んでいる巨大な灰色の異形、エラスモテリウスオルフェノク激情態の姿。何らかのカウントダウンを始める観客達。
―なんだ、この夢?―
カウントが0になった時、ゆっくりとポールが下がっていく。そして、完全にポールが降りる前に反対側から打ち出された光弾によってエラスモテリウスオルフェノクが後退させられる。
『待たせたな!』
浩平にとってこれ以上無いほど聞き覚えのある声…と言うよりも自分の声が響く。
『ファイズ、参上!!!』
叫びと共にファイズに変身し浩平がアリーナの中央に降り立ち、観客達からのブーイングを浴びながら時の運行を守る戦士の剣の姿の様な大見得を切ると、四面楚歌の状況を意に介する事無く、逆に挑発する様に観客達に見える様にサムズアップして見せ、それをそのまま下に向ける。
―変な夢だな。―
そんな時、ファイズに向けていた物とは別の歓声が上がり、ジェット音と共に現れる上空から降りてきた白い仮面ライダー、白き天の帝王『仮面ライダーサイガ』。
アリーナに降り立ち、勢い良くファイズに向かって駆け出して容赦なく攻撃を仕掛ける。ファイズがよろけた所でその体を抱え、その場から引き離す様に高く空中へと間上がって行く。
己の体を抱え上空に飛び上がったサイガに対してファイズはファイズフォンをフォンブラスターに変形させ、至近距離から弾丸を放つ事で引き離す。
落下しながらもフォンブラスターを背中に背負うジェット『フライングアタッカー』を狙って連射する。そして、そのまま体制を立て直してファイズが地面に着地すると同時に、サイガの体が地面に叩きつけられる。
―ナーイス♪ 流石、オレ!―
ファイズの至近距離からの射撃により、その白いアーマーの一部を黒く焦がしながら地面に叩きつけられるサイガ。フライングアタッカーにもダメージは有っただろうが、それでも致命的な物ではないだろう。サイガは余裕を見せつけながらも苛立っている様に立ち上がる。
『COMPLETE!』
アクセルメモリーをファイズフォンに装着し、胸部アーマーが展開、眼が赤く、フォトンブラッドの色も赤から銀に変わり、電子音と共に高速形態『アクセルフォーム』へと変身し、リストウォッチ型ツール『ファイズアクセル』のスタータースイッチを押す。
『START UP!』
電子音が響き、ファイズの動きが高速の世界へと移行する。通常ならば何者にも触れられないスピードの世界、だが、サイガはそれと同等のスピードで飛翔する。
―ずるいぞ! ってか、オレもあれ欲しいな~。―
どこかに誘う様に宙を舞うサイガを追って大地を疾走するファイズ。制限時間が3秒を切った時、ファイズがサイガを捉えるべく壁を蹴った。
―行け!―
遂にその一撃がサイガの背中を捉え、フライングアタッカーを破壊しながら顔面から地面に叩きつけられた。おまけに着地する序にダメ押しとばかりにサイガの背中とフライングアタッカーの片方を踏み砕く様に踏みつける。
ファイズが離れた瞬間、サイガは怒りのオーラを纏いながら操縦桿を引き抜き、トンファーエッジをファイズを睨みつける。
―はっはっはっ! 何処からでもかかって来い!―
サイガを挑発する様にファイズが指を振ると、サイガはトンファーエッジを構え、ファイズへと殴りかかる。ファイズとサイガの拳がぶつかり合おうとした瞬間、そこで浩平の意識は遠のいて行く。
「ふぁぁ~。変な夢見たな…。」
ベッドから体を起こしながら腕に触れてみたら何故か外れたので付け直して、何か胃に入れ様と台所へ降りると、
「おはようございます、浩平、よく眠れましたか? ああ、キャベツをそのまま食べちゃいけませんよ。」
「あ! もう起きれたんですね!」
制服にエプロンを着けた金色の髪の少女『茜』が子犬と一緒にキャベツを齧っている昨日の夜に出会った少女『クロ』の首根っこを捕まえながら、挨拶してくれた。
「ん~、おはようさん。」
「簡単な物ですけど、直に朝食の用意をしますから、座っていてください。」
「ん。ああ。」
茜が運んできたトーストとベーコンエッグとキャベツの千切りを添えた物が三人の前に置かれて、子犬には牛乳が出されると、
「「「いただきます。」」」
行儀よく挨拶して食べ始める。
そして、食事を終えて一息つくと、浩平は二人と一匹へと視線を向け…
「ところで…お前達…誰だ? そっちのは昨日の女の子だってのは分かるけど。」
「…今になって聞きますか?」
初めてその疑問を提示するのだった。
「自己紹介しますね。私は『クロ』。元神霊です。この子は『プニプニ』と言います。どうぞよろしく。」
「私は『佐原 茜』と言います。制服で分かると思いますが、スマートブレインハイスクールの生徒です。」
「ああ、ご丁寧にどうも。オレは風間浩平、夢を守るセイギノミカタ兼高校生だ。」
そう言って呑気にお茶を啜る三人…。
「って、驚かないんですか!? 危ない所だったんですよ、浩平さんは!?」
「ええ、そうでしたね。危うく命を落としかける所でした。ご安心ください、敵は私がトドメを刺して置きましたから。」
「ん、サンキューな、茜にクロだっけ? それで、オレに何が有ったか教えてもらえるか? これと合わせてな。」
「あわわ!!! 気を付けて下さい、まだ融合が完全じゃないんですから!!!」
「傷口から灰が零れると後の掃除が大変ですよ。それと、そんなバカな事で命を削らないで下さい。」
片腕を外しながら問い掛ける浩平に慌てるクロと平坦な様子で妙なツッコミを入れてくれる茜。
「…説明させて頂くと、その腕は貴方の物ではなく、彼女の物です。」
「切断された部分が無事とは言え…人間の再生能力では神経まで繋がる保障は……。」
「あの状況ではオルフェノクでも無理でしょう。傷口の灰化が進行しそうでしたし。どう言う方法かは知りませんでしたが、私には治療する術はありませんでしたので、彼女の手段に頼るしかありませんでした。」
「上位元神霊にも人間を治癒する能力は有りません。勝手に腕を交換した事は謝ります。完全に回復するにはまだ時間がかかりますからもう少しだけ我慢して、無闇に外さないで下さい。」
浩平は外した腕をくっつけると二、三回ほど手を動かす。オルフェノク化してみると、その腕もウルフオルフェノクの物へと変わる事は出来たが、タイムラグがある。
「なるほどな。この腕は元々お前の物って訳か? 調子も悪く無さそうだな。」
「ええ! 傷口を塞いで出血を止めて……。切り落とされた貴方の腕は私が代わりに着けました。」
そう言って包帯の巻かれた腕を見せるクロを一瞥しお茶を啜ると、妙に納得してしまう。確かにあの時は腕をやられたと言う自覚は有った。どんな方法かは分からないが、後遺症も無く腕が有るのだから感謝する以外には無い。
「はい。危なかったですけど、もう大丈夫! 私達の契約は無事結ばれました。私の腕との適合率は高いようですね。但し、当分の間は私の側を離れないで下さいね。本体の私が居ないと、腕が完全に融合する前に壊死しちゃいますから。」
「なるほどな~、外れるのはまだ融合が不完全って事か。」
「それにお互いの同期(シンクロ)も調整しないと私の能力も制限されますし……。」
「ですが、彼女の腕でも無事、オルフェノク化も出来る様なので安心しました。ファイズギアが有るとは言え、貴方の場合はノーマルファイズよりもオルフェノク化した方が高い戦闘力を得られる様ですしね。」
「んー…確かに片腕だけ生身ってのも格好悪いしな~。あと、どちらかって言うと総合的にはファイズの方が上だろ? オルフェノクの時って、スピード特化で結局は力不足だしな。」
そこまで言った後、再びお茶を啜ると……
「で、お前は何者なんだ? トドメを刺したって事は、お前もタダの人間じゃないんだろ?」
「そうですね。私はある人に言われ、貴方にこれを届けに来ました。」
そう言って茜は浩平の前に書類の入った封筒とアタッシュケースを差し出す。封筒に書かれているスマートブレインのマークを見た瞬間、浩平は表情を歪める。
「スマートブレインのね…。社長さんに言われてオレに会いに来たって訳か?」
「そうなります。」
茜の返事を聞きながら浩平は封筒の中身を空けると…
「スマートブレインハイスクールのパンフレット? それにこっちのは…。」
「転入手続きと奨学金の案内、その為に必要な書類と通学の為に会社の方で用意した住居の詳しい内容です。サインを頂いて社長の下に届ければ手続きは完了します。それと、そちらはカイザギアです。」
「へー。それにカイザギアか…。」
「はい、貴方が忘れて行ったらしい物を回収していた様です。」
「あー…そう言えば気分転換に草加から借りて、一緒に返そうかと思ってサイドバッシャーの中に乗せたままになってたよな。」
書類に眼を通しながら茜の言葉にそんな返事を返す。
一応、浩平達と全人類をオルフェノク化しようとしているスマートブレインの現社長一派とは敵対関係にある訳だが、同じオルフェノクとは言え何故態々相手からすれば裏切り者であるだろう自分にこんな好条件を提示するのかは疑問でしかない。
「まあ、向こうの狙いは分からないけど、随分と妙な事に巻き込まれた訳だな…オレも。」
「だ、だから無闇に外さないで下さい! 本当に壊死しゃいますから!!!」
「本当に…何バカな事をしているんですか、貴方は?」
外した腕を玩びながらそう呟く浩平と慌ててそれを止めているクロ、そして呑気なツッコミを入れている茜。
「いや、折角腕が外れるんだから、一度やってみようと思ってな、これを。」
「折角って、どう言う意味ですか!? それに何をする気なんですか!?」
外した腕を大きく振りかぶり軽く投げる。
「ロケットパーンチ♪ なーんてな。」
「浩平起きてる?」
「まったく、困るなあ、君は。休みの日にまで瑞華さんに心配をかけて。」
丁度浩平が腕を投げた所でリビングのドアが開き、草加が飛んできた腕をキャッチした。
「まったく、こんな物を投げて、瑞華さんに当ったら…。」
「く、く、く、く、草加君…。そ、そ、そ、そ、そ、それ…こ、こ、こ、こ、こ、こ、浩平の?」
顔を青くして草加の手の中の物を指差している瑞華の顔を見た後、草加は腕の中の物へと視線を落とし、次に浩平へと視線を向ける。
草加が見たのは、お茶を飲んでいる始めて見る少女A(茜)と、浩平を止め様としていた様に見える始めて見る少女B(クロ)。……それは良い、大き過ぎる問題は別に存在している…。
問題は…何かを投げた後の様な体制を取っている片腕の無い浩平。
そして、草加の手の中に有るのは…浩平の腕らしき物体。………と言うよりも腕。
そこから導き出される答えは…。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」
「ああ! 投げないで下さい、乱暴にしちゃダメですよ!!! どうしよう! のんびりしてないで早くくっ付けてください!!! もう、やだ~!!! 昨日やっと付けたのに!!!」
「なーんだ、外れた腕は遠隔じゃ動かないのか。」
「何を当たり前な事を。如何考えても腕が勝手に動いたら不気味ですよ。」
悲鳴を上げる瑞華と草加。慌てて外した腕を回収しているクロと、呑気にお茶を飲んでる浩平と茜。浩平の行動によって思いっきりカオスな空間が発生してしまいました。
数分後…
「「契約?」」
また面白半分で外さない様にとクロと瑞華の二人によって浩平の腕を厳重に包帯で巻き付けられた後、クロによる事情説明が瑞華と草加に二人にされました。
「はい、本来は選ばれた人間と契約を結ぶ物ですが……。この人を死なさない為に契約してしまったんですよ。」
浩平を指差しながら告げるクロに対して草加は
「そのまま見捨ててくれれば良かったのに…。」
「おー、おー、その言い方は酷いね~、クサカブル君。オレとお前の仲じゃん?」
「どう言う仲だ!? お前のせいで胃薬の世話になっているオレの身にもなれ! 大体、この間持ってったオレのサイドバッシャーを早く返せ! お前のオートバジンとお互いの苦労を慰めあったんだぞ!!!」
草加の言葉に明後日の咆哮へと視線を向けると、浩平は、
「あー…あれね。オートバジンより便利だから時々(勝手に)使おうって思ってたのに…。あれだったら、車庫にオートバジンと一緒に停めて有るから勝手に持ってってくれ♪」
「そうするよ! 勝手に持って帰らせてもらうよ!!! 大体、元々オレのだ!」
「んじゃ、また(無許可で)借りるからな~♪」
「誰が貸すかぁー!!! せめて一言言っとけ!!! 訴えるぞ!!!」
「サイドバッシャーの武器でテロリスト扱いされても知らないぞ、オレは♪ オートバジンなら勝手に逃げてくれるだろうしさ~♪ ミサイル積んでたら、絶対に捕まるだろ~国家権力にさ~?」
「お前も似た様な物だろうが!!!」
ファイズ系ライダーのバイク…そのどれもこれも警察に銃刀法違反通り過ぎてテロリストとして捕まりそうな重火器をしっかりと装備しています。
…ロボットモードを除けばある意味オートバジンが一番軽装と言えるかもしれない。………ガトリング砲が。
「まー、そんなに怒るなって、これやるから。」
「何を…って……カイザギア……。持ち出したのはまたお前だったか!? 風間浩平ィィィィィィィィィィィィィ!!!」
「なんだよ、オレだって偶には気分転換したいんだぜ~。」
「気分転換でライダーギア盗むな!!!」
さて、そんな草加と浩平を涙目で…危険人物を見る眼で見ているクロは瑞華に慰められている。哀れ、草加…クロからは浩平レベルの危険人物と思われている様子だ。哀れにも。
「えーと、話を整理すると…クロちゃんは浩平の命の恩人なんだよね?」
「あ……と、まあ、そうですかね? 簡単に言うと浩平さんの腕は私の腕なんです。」
クロの言葉に全員の視線が浩平の腕へと集まる。
「体の部位の共有交換によって契約が成立するんです。」
「「「へー。」」」
「そうなんですか。」
落ち着いた様にお茶を啜りながら納得した様に頷く浩平達四人。
「あの~、私が言うのもなんですけど、驚かないんですか? 絶対驚く所だと思うんですけど。」
「えっと…そう言われても、私達も…ね。」
「腕を交換する程度で驚いている程、平凡な人生は歩いていませんから。」
「まっ、死んだ人間が化け物になれるって言う得点付きで生き返るってのが、起こってるしな~。」
「え、えーと…私って、もしかして…とんでもない事に巻き込まれちゃいました?」
呆然と呟くクロの言葉は正しかった。
「そーなるな。まっ、命の恩人に飯と宿くらいは提供してやるからさ~♪」
こうして、二つの道は交わる。
仮面ライダーファイズ、風間浩平の物語の本当の始まり…これにて一時幕となる。
僅かに先の物語を書くとすれば…。
「お前達さぁ、猫神だか、化け猫だかしらないけどさ、覚悟は出来てるって解釈していいんだよね?」
「な、なんだ、それは!?」
草加の変身した『仮面ライダーカイザ』から向けられる殺気に追い詰められる男。
「元神霊だか何だか知らないけどさぁ、お前達やオルフェノクみたいな人間の皮を被った化け物なんて…必要ないだろう? この世界にはさぁ!!!」
第二のライダー『仮面ライダーカイザ』の変身、
「なるほど、オルフェノクでも人間でも無い存在。第三の存在、それが『元神霊』ですか。」
「そして、ファイズのボウヤ達が関係しているのね。」
「ええ、我々スマートブレインとしては、彼の行動をバックアップする事を決定しました。」
スマートブレインの動き。
「さて、遊ばせて貰うか…10秒で仕留めさせて貰うからさ?」
アクセルフォームに変身するファイズ。
そして、物語は何れ語られるべき本編へと、つづく…