『Standing by』
ベルト型の『ファイズドライバー』を腰に巻き、携帯電話型変身ツール『ファイズフォン』を取り出しファイズフォンにスタートアップコード『555』を入力し、Enterキーを押し、浩平はファイズフォンを高く掲げる。
「変身!!!」
『…Complete』
力を与える言霊を叫ぶと共にファイズフォンをファイズドライバーに挿入すると電子音が響き、浩平の全身に赤いフォトンブラッドが流れ、彼は超金属のハイテク戦士『仮面ライダーファイズ』へと変身する。
「さーて、行きますか。」
『Ready』
ファイズフォンからミッションメモリを外し、オートバジンの左ハンドルへと差し込み、ファイズエッジとなったそれを構える。
深夜の街に光るファイズの金色の瞳と全身に流れる真紅のフォトンブラッドとファイズエッジの刃を輝かせ、ファイズは眼前のオルフェノクへと向かって行く。
「あー、やれやれ、明日も学校だってのにこんな遅くに出てくるなよな、あのオルフェノクも。」
オルフェノクとの戦いを終えて、ファイズの専用マシン『オートバジン』の座席に腰掛けながら、浩平は伸びをする。
「まあいいか、何時もの店にでも行って夜食でも食って帰るか♪」
そもそも、相手もこちらの都合に合わせて出て来てくれる訳ではないのだから、『どうせ、何時もの事だしな』と心の中で呟きく。
ここ数日、この辺で騒がれていた『灰色の怪物』の一件も原因となっているオルフェノクも退治した事で、これで解決しただろうと考えながら、オートバジンを走らせる。
自分が勝手に持ち出して別の人間に渡したデルタギアは兎も角、草加の所に有る筈のカイザギアも話によれば何者かに奪われたらしいのだから、今現在、自由に動けると同時にライダーギアを持っているのは自分だけだ。
そんな自覚があるのか無いのかは非常に疑問だが、仮面ライダーファイズ『風間 浩平』はオートバジンを走らせる。
目的のラーメンの屋台を見つけると浩平はそこの暖簾を潜る。
「こんばんはー♪」
「おう、いらっしゃい! 丁度こいつで最後になる所だったんだよ。」
「ん~繁盛してますね~。」
心の中で『給料出ないけど、オレ(ファイズ)と同じで』などと考えていたりする。
「いや、普段の3分の2しか仕入れてねえのよ。」
「どーかしたんですか?」
目の前に置かれたラーメンに視線を向けつつ箸を割りながらそんな会話を交わす。
「ほら、この近くに工事現場が有るだろ? そこに毎晩、不良共がそこに集まって何かと騒ぎを起しやがってさ、この間も通行人が巻き込まれてケガしたらしいんだよ。」
「へぇ~。」
その一件の被害者は死亡していて死亡事故なのだが、オリジナルのオルフェノクとして覚醒した事で生き返ったらしい。そして、不良達はオリジナルのオルフェノクによって殺されたが、運良く一人だけオルフェノクとして覚醒、本日浩平が退治したオルフェノクがそれに当たる。
「まったく、警察なんかあてにならねえ世の中だよ、浩平君も気を付けた方がいいよ。」
「へ~い。」
警察があてにならないと言う点ではこれ以上無いほどに同感だ。『オルフェノク関連の事件で警察があてになるなら、ライダーズギアは要らない』と言うのは浩平の弁である。
「いただきま~すっと。」
手を合わせて割り箸を割ると目の前のラーメンに箸を着けようとした時、
『あの…。』
後からそんな声が掛かってきた。そちらの方へと視線を向けると、
「ラーメン下さい。」
そこには粗末な大き目の服を着た腰…いや、膝まで伸ばした黒い髪、胸元からは一匹の黒い子犬が顔を覗かしている少女が居た。
「………。」
粗末な服を着ているが彼女の外見は十分美少女と呼べるほどの容姿をしていた。
だが、浩平が彼女が気になった理由は服や容姿ではなく、もっと別のモノ…。
(…人間とは違う…? …オルフェノクとも違うようだし、こいつ…何者だ?)
浩平のウルフオルフェノクとしての本能的な部分で感じ取れるそんな感覚。その感覚に従い僅かに警戒を露にするが、別の部分ではまったく危険を感じていないので、即座にそれを斬り止めた。
「なんだよ、金はちゃんとあるのかい?」
「ありますよ、これ…。」
そう言って彼女は小銭を差し出す。
「ん? 620円…チャーシュー麺が食えるな。」
「それ下さい!!!」
それを覗き込んだ浩平の言葉に嬉しそうに目を輝かせながら、少女はそう言うが…。ここで金銭以外に問題があった。
「ああ…悪いけど、もう品切れだったわ。」
すまなさそうにそう言う店主。…そう、浩平の分で最後だったのだ。
「品切れって……ラーメンを食べられないって事ですか!?」
「ああ、このお客さんので最後だったんだよ。」
「そ…そんなぁ!!!」
そんな少女と店主の会話を気にせずにラーメンを食べようとした時、浩平は再び手を止める。
「…………。」
モノ欲しそうな表情で『じーっ』とでも言うような擬音が付きそうなほどに少女が彼の食べようとしていたラーメンを見ていた。
「…………………………。あー…良かったら、食べるか…これ?」
「ほ…本当ですか?」
「浩平くん、そこまでしなくても…。」
「ん~…まあ…。」
浩平が言葉を続けようとした時、余程空腹だったのだろう…彼の差し出したラーメンを勢い良く食べる少女の姿があった。
「…なんなんだ…こいつ?」
己の本能の部分で人ともオルフェノクとも異質と告げているが、それとは正反対にまったく危険を告げていないという相手…。思わずそんな言葉が零れてしまう。
「最近この辺りでよく見かけるんだが、ホームレスにしては幼すぎるだろ。何やら訳有りらしいんだが。」
(…訳有ねぇ…。)
店主の言葉にそう思う。彼女から感じられる感覚から訳有りと言うのには納得行くが…。
「なんか、子供の頃を思い出すな。」
無邪気にラーメンを食べる姿から既に毒気が抜かれてしまっている。
「あんな風によく瑞華の所でオバサンの料理を食べてたっけかな。」
「あれ、君のところのお母さんは?」
「ん~…何時も親父と一緒に忙しくしてたからな~…手料理なんて食べた記憶は無かったっけかな。…今じゃ二人して行方不明だし…何処で何してんだか?」
「なんか…申し訳ない事を聞いちゃたか…。良かったら、瑞華ちゃんって子のお母さんも一緒に来なよ。お詫びに一杯奢るからさ。」
店主の言葉に浩平は苦笑を浮かべ…
「ああ、それも無理ですね~。オレの所と違って、あいつの母さんってもう居ないからな…。」
「何?」
以前瑞華から聞かされた話…それを何故かこの時話したくなってしまったのだ。後に浩平はこの時の事をこう語る。『あれを話したのは必然だったのかもしれない。』と。
「オヤジさん…ドッペルゲンガーって知ってる?」
「え?」
「よく有る怪談話ですよ。『ドッペルゲンガー』…世の中には自分と同じ顔をした人間が居て、それに有っちゃうと死ぬって話ですよ。…瑞華(あいつ)は出会ったそうなんですよ…あいつの両親が死ぬ前日に…まったく同じ顔をした…あいつの母親に…。」
そこまで話した後、『あはは』と笑いを浮かべ、
「まあ、結局オレ以外誰も信じなかったですけどね。」
…運命に『if』はない…。
「それ違いますよ。」
口を開くのは少女…。…彼女に対してその話を聞かせる事が運命が示した一つの必然…。
「それは、『ドッペルライナー』。二人じゃなくて、三人ですし…。」
「ッ!? お前…今なんて…。」
オルフェノクと退治した時のように表情を変え浩平は少女に向かってそう問いかける。
「ドッペルライナーって言うのは、共存均衡によって三人の存在が…。」
思わず少女の言葉に聞き入ってしまう。だからこそなのだろうか…。その場に現れる新しい登場人物に気付かなかったのは…。
「っ!?」
それに気が付いた時、少女の体が木材の破片で殴られた事で弾け飛び、血飛沫が飛び浩平の顔へとかかる。
(…な、なんだ?)
そこに立って地面に倒れ付す少女を見下ろすのは木材で彼女を殴り飛ばしたフードの男。
「アンタ、なにやってんだよ! こんな幼い女の子を殺す気か!? あたま可笑しいんじゃないのか!?」
店主が抗議の声を上げるが、フードの男はそれに構わず腕を振り上げ、店主に向かってそれを叩きつけようとした時、
「…おいおい…あんた…幾らなんでも遣りすぎじゃないのか?」
振り下ろされる腕を浩平がしっかりと受け止めていた。そして、そのまま受け止めた腕を始点に回転し、顔面へと回し蹴りを叩きつける。
「グゥ!」
それによって、距離が取れた事で男と倒れている少女の間に立ち店主へと向き直る。
「オヤジさん、早く警察に…。」
「あ…ああ!」
そう言ってその場を離れていく店主を見送りながら、フードの男へと向き直る。
「おいおい…子供相手にそんな物持ち出して大人気ないな…あんた…。」
「邪魔をするな。」
フードの男は普通の人間ならば動けなくなるほどの威圧感を放ちそう言い放つ。だが、
「はぁ?」
「たかが、人間(・・)の分際で…。」
「へぇ~…それで、あんたはどう言う化け物なんだ?」
浩平はその威圧感もまるで涼風の様に受け流している。
「元神霊(もとつみたま)の中で最強の獅子神一族を怒らせておいて、無事に済むと思っているのか?」
「…あー…。とりあえず、化け物さん…そいつはこっちの台詞だぜ…。」
浩平の姿と重なるのはウルフオルフェノクの姿…。
「子供相手に大人気ない事は止めて…化け物同士で殺し合いと行こうじゃないの…。化け物さん?」
「ッ!?」
浩平から放たれる威圧感に対して一歩後ずさるフードの男…。
「ッ!? バ、バカな…恐怖を感じているだと…下賎な人間ごときに…。」
「ほら、どうした…来ないのか? 負け猫一族の化け物さん? サイキョーなんだろ?」
挑発する浩平と重なる異形の影はいつの間にか姿を変えていた…。ウルフオルフェノクとは違う姿…より攻撃的で高い凶暴性を感じさせる姿へと…。
「…ラーメン。」
聞こえてきたのは、殴り飛ばされた少女の声…。少女は血の流れる額を押さえながら立ち上がる。
「私のラーメン。最後の一杯だったのに…。許せない。」
僅かながらの関わりだが今までの少女から感じさせてくれる気配とは正反対の感覚…。そして…
(頭殴られて、あれだけ派手に血を流して起き上がるか? …なるほど…あいつも普通じゃないみたいだな…。)
「この…許さないだと、生意気を言うんじゃ…。」
少女は言葉を言い切る前に男の懐に飛び込み、
「ない…!?」
男の顔面へと左のストレートを叩き込む。
「ボクシングか…あれは。」
「この小娘が、舐める…なぁ!?」
「えぇ!?」
浩平の裏拳が男の踏み込みと合わせた破壊力で鼻を潰すほどの衝撃となって叩きつけられ、同時に少女の腕を掴んでいた。
「はい、ストーップ…。はい、こっちに来て。」
そう言って腕を掴んだまま…子犬を拾い上げ男から僅かに距離を取る。
「あ、あのちょっと…待ってください。」
「き、貴様…さっきから人間の分際で人を…。」
「おお、いい男になったんじゃないの…ところで…そこ…危ないぞ。」
いい笑顔を浮かべながら忌々しげに睨み付ける男に対してそう言い放つ浩平。
「報いを…。」
男の振り上げた木材が乾いた音と共に半分に折れた。
「「…………。」」
乾いた動作で『それ』が飛んできた方向を見ると…そこには…。
「「な、なんだあれはー(なんですか、あれぇー)!?」」
奇しくも男と少女の声が重なった。
「おー、ナイスだ、相棒。」
サムズアップと共に空中を飛び車輪の中央から伸びた銃口を向けている人型ロボット『オートバジン』にそう言う浩平。
「き、貴様の仕業か!? なんだ、あれは!?」
「ゴー♪」
サムズアップしていた手をそのまま真下に向けると、
「アァァァァァァァァァァァァァァァァアアー!!!!」
男は、上空のオートバジンの前輪『バスターホイール』に内蔵された16門のガトリングマズルから12mm弾を一秒間に96発も連射され、涙目になりながら踊らされる。
「ま、街中で何てもん使ってんだお前は!?」
「ん? 銃弾よりミサイルの方が良かったか?」
「…スイマセンデシタァー!? 銃弾の方がマシですぅ!!!」
「ひ…ひぃ…。」
平然と余慶に物騒な手段を挙げる浩平に対して銃弾の雨で涙目になりながら踊らされているフードの男は土下座する程の勢いで謝り、少女は…『危険人物』を見る目で見ていた。
やがてカラカラと乾いた音が鳴ると銃弾の雨は止み、オートバジンが浩平達の下へと降りると浩平はその姿をウルフオルフェノクへと姿を変え、安心したように立ち尽くすフードの男と己との距離を一瞬の内に詰めると顎にアッパーを打ち込み、体が浮かび上がった所に廻し蹴りで無理矢理大地へと縫い付けんばかりの勢いで叩きつける。
「はい、お終い。」
「……………………。」
暫しの沈黙…。オートバジンは何故か子供をあやす様に少女の頭を撫でている。
「あ、あ…あの、ゴメンなさい!!! 本っ当にスイマセン!」
再起動と同時に少女は浩平に向かって謝り始めた。
「関係ない人を巻き込んでしまって…おケガは無いですか!?」
焦ってそう問いかけてくる少女だが、当の浩平はケガ一つしていなかったりする。
「あー、怪我はないぞ。でも、残念だったな、まだ残ってたのに…。」
「アアア! ラーメンがァ! まだスープがいっぱい残っていたのに!!!」
地面に落ちているラーメンを前にして『orz』な状態になっている少女を眺めながら浩平は思う。
(…こいつ…何者なんだ…? あまり、暖かくない、関係みたいだけどな…自称化け物さんと…。)
「どうしよう……ラーメンが…。」
「はいはい…落ちた物を食べない、食べない。」
「うぅ…。」
未練がましく食べ様としている少女をラーメンから引き離す。
『元神霊同士の戦いの最中に、こう簡単に“刹那”を許すとはな…。馬鹿が…。』
意識を取り戻した男が折れた木片を拾い上げ、男はそれを振り上げ。
「死ねぇ!!! このクソガキ!!! こいつを食らえぇ!!!」
―光斬―
「ッ!? 退け!!!」
男の行動に反応した浩平が少女を引き離し、それを回避しようとするが…。
「グァァ!!!」
避け切れなかった右腕がそれの直撃を受け、引きちぎれる。激痛と共に血が灰となって行く感覚…それを伴い、浩平は意識を手放すのだった。
「やってくれましたね…。」
『Exceed Charge』
響くのは静かな少女の声と聞きなれた電子音…。
「貴方の行い…万死に値します。」
黄色のフォントブラッドのラインを持った『α』を思わせるデザインの仮面を持った女性的なデザインのスーツの仮面ライダーが剣をフードの男の真上に投げ、両腕から伸びるフォトンブラッドのワイヤーで凪ぐと、上空で破片へと変わり破片が無数のフォトンブラッドの刃となる。
「あ、あ、アァァァァァァァァア!!」
絶叫と共に全身を串刺しにされる男…そして、浮かび上がるαの文字と共に青白い炎と共に灰へと変わる。
「あ、あなたは…。」
「…話は後です…。お互い事情は知りませんが、彼の敵でないのなら今は休戦と行きましょう…。」
ライダーはベルトを外し金色の髪の少女『茜』へと変わると、浩平へと駆け寄り少女に向かってそう告げる。
これが…後に『ロード・オリジナル・オルフェノク』と呼ばれる唯一の存在となる者『仮面ライダーファイズ』=『風間 浩平』と、『仮面ライダーアルフォス』こと『佐原 茜』…そして、元神霊の少女『クロ』の三人の出会いだった。