ネタ短編集   作:龍牙

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その他
IS×ヴァンガードネタ BADEND


「ちく……しょう」

 

 ブレードを杖代わりにして辛うじて立っている彼は上空に浮かぶ、黒輪を背負った白いボディに赤の線が流れる全身装甲のIS『“Я”ダイカイザー』を見上げながら悔しげに呟く。

 

 上空に浮かぶ巨大な黒輪からは目の前にいる“Я”ダイカイザーに似た意匠をした人型、獣型……果てはドラゴンまで存在している群全が次々と飛び出して行きそのまま世界中に飛び去っていく。

 “Я”ダイカイザーの操縦者が手先となり呼び寄せた異世界からの侵略者『リンクジョーカー』の軍勢は一部だけでもIS学園を壊滅させた。

 

 来賓を守ろうとして来賓ごと殺された教員部隊、逃げる途中で無慈悲にもリンクジョーカーの軍勢の犠牲となった生徒達。専用機を持った各学年の代表候補生達も“Я”ダイカイザーによって全員なす術なく命を散らしていった。

 

「……遂に終る、この世界が……」

 

「……なんでだよ、何で皆を殺したんだ! 答えやがれ、ユウヤ!!!」

 

「煩いな、いい気分なんだからもう少し浸らせろ」

 

 学園の最後の生き残りである『織斑 一夏』の絶叫を“Я”ダイカイザーの操縦者『羽崎 ユウヤ』はそう言って斬り捨てる。

 

「もう直ぐオレのこの感情も消える……最後の感情を堪能している所なんだからな」

 

「うるせぇ! なんで皆を裏切ったんだよ!」

 

 一夏の幼馴染である『篠ノ之 箒』はリンクジョーカーによる襲撃による最初の攻撃で出た犠牲の一人になった。彼女の持っていた最新鋭の第四世代のISも展開できなければ意味はなさなかった。

 学園祭と言う時期に起こった襲撃は、学園の関係者だけ出なく各国の政府や企業の関係者に、生徒達が招待した外部の人間も多く犠牲となった。三年間の学園生活に彩を添えるはずの時間は其処で生きた者達の地獄の瞬間になってしまったのだ。

 

 上空に浮かぶ黒い黒輪から押し寄せるリンクジョーカーの軍勢、突然の襲撃で学園祭と言う事で直ぐにISも出せずに多くの犠牲者が出た。多種多様の姿をしているのに機械のように無感情に命を奪っていく敵に多くの犠牲者を作り出してしまった。

 

 最初の襲撃を生き残った専用機持ち達がリンクジョーカーの軍勢を出現させている黒輪を閉じようと向かって行ったのだが、その前に現れたのが学園祭前から姿を消していたユウヤだった。“Я”ダイカイザーと呼んだ大型の全身装甲のISを纏い、彼らが抱いていた希望を一つ一つ消していくように、一人また一人と逃げる事も許さずに殺されていった。

 

 勝ち目がないと悟って命懸けで飛び込んで行った『鳳 鈴音』の命と引き換えの特攻でさえ当たる事はなく、仲間達の為に『ラウラ・ボーデヴィッヒ』はAICで“Я”ダイカイザーを止め様としたが突如ラウラの取り付き始めたリンクジョーカーの軍勢達により動けない彼女な嬲り殺しにされた。

 

 寧ろ、少しでも何かが出来た分だけ一夏の知る他の専用機持ち達に比べれば幸せだったかもしれない、“Я”ダイカイザーの力の前に恐慌状態に陥って逃げようとする者諸共消し飛ばされた『シャルロット・デュノア』。展開直後の大火力の攻撃により死んで行った者達の中に『セシリア・オルコット』の姿も有った。

 

 多くの命と引き換えに得たのは何も出来ない一夏の命一つ。

 

「ああ、皆殺しにしたのは流石にゲートを開くのにエネルギーが足りなかったから、コストに使ったわけだ」

 

 そう言って“Я”ダイカイザーは上空の黒輪を指差す。『生物の持つ感情が有無マイナスエネルギー……特に絶望の感情が効率いいらしい』と笑い話をする様に話すユウヤに怒りを覚える一夏。

 

「学園祭の時期を選んだのは丁度良かったからかな? ほら、外部からの来賓や招待客も居るだろ? 多けりゃ多い方が言いと思ったから、人が集まる時期に開くようにしたんだよ」

 

 『苦労したんだぜ~』と楽しげに話すユウヤの姿に対に一夏の怒りは爆発する。

 

「てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」

 

「ああ、あと。折角なら世界最強って奴に挑戦したかったってのも有るな。人間としての最後の思い出に」

 

 一夏の想いに応える様に最低限の飛行能力と刀の様な形状にエネルギーを収束した雪片を展開させた彼の専用機『白式』。

 

「ヴォイドソード」

 

 “Я”ダイカイザーは漆黒の刃を展開させた剣を取り出して一夏の突撃を受け止める。反応できなかったわけではない。だが、

 

「なんで裏切ったかって聞いてるんだよ!? 無人機の襲撃の時だって一緒に頑張っただろう!?」

 

「ああ、お前のバカ姉のお蔭で無理矢理参加させられた代表戦でな」

 

 『男子操縦者』にIS運用の機会を与えるためと言う理由で参加させられた代表戦。その時に起こった無人機の襲撃……ユウヤも一夏達と共に止めるのには尽力した。

 それ以前にあったセシリア、一夏を含むクラス代表決定戦も半ば千冬に無理矢理に参加させられたが、訓練機で二人のSEの半分は削れたものの……負けた。専用機相手に訓練機じゃ仕方ないと割り切ったものの、思えばその日から何処か引っかかっていたのかもしれない。

 

「何が言いたいんだ、お前?」

 

「オレ達は友達だっただろう、なんで!?」

 

「……誤解しているな。オレはお前の事を最初から友達だ何て思った事は一度もないぜ」

 

 その言葉に一瞬動揺した一夏を殴り飛ばす。とっさに雪片で受け止めたが、砕け散って行った。

 

「最初に会った時の言葉が『嬉しいぜ』だったな。バカかお前は? ……他に言うべき言葉が有っただろうが」

 

 何が悪かったのか分からないと言う表情を浮べる一夏。女子だらけの学園で唯一の男同士仲良くしたかった。それだけだった。

 

「お前のせいで自由意志も認められずに無理矢理入学させられた相手に対して最初に言う言葉が『嬉しい』、か?」

 

「何が間違ってるって言うんだよ!?」

 

「どれだけ頑張ってもみんなお前の方ばかり注目して行くのは別に良かった……。それでも、お前が知り合いと同居、一人部屋になったりしていも……オレはあのかび臭い物置の中のままだった……」

 

 学園側の思惑は貴重な男性操縦者を同じ部屋に纏めて一度に誘拐される危険を避けたかっただけだが、結果的にユウヤを差別する事に繋がっていた。

 ……二人は知らない事だが、学園長も二年に進学する頃にはちゃんとした部屋を出来る所だったらしい。

 

「簪やのほほんさんまで……」

 

「ああ、二人には救われてた……なんて思っていたけど、勘違いだったな。まあ、こうして力を得るまで生きてこれたって点じゃ感謝してやっても良いけどな」

 

 『どこに有るかな?』等と言い切るユウヤに尚も一夏は言葉を向ける。

 

「簪はお前のこと、本当に……」

 

「ああ、感謝するだろうな。お前のせいで未完成なISを完成させる手伝いをしてやったんだし」

 

 『お前のせいで』と言う所を強調して言葉を告げられて一夏は一瞬言葉を失う。

 

「それで、専用機が完成したら掌を返したようにお前に擦り寄っていった恩知らずが感謝していた……で?」

 

「違う! 簪はお前の事を……ガハァ!」

 

「いい加減うぜぇよ」

 

 これ以上付き合いきれないとヴォイドソードで一夏をISコアごと真っ二つに切り捨てる。

 一夏の言う『更識 簪』は本当はユウヤのことが好きだった。訓練機でも専用機相手に立ち向かう姿も、必死の努力で僅かでも食いついていける姿も……一緒に彼女の専用機を作った事も、彼女にとっては格好良く見えた。

 一夏に近付いたわけでは無く、ただ専用機のことで勝手に恨んでいた事を謝った事と、丁度一夏と同室になっていた姉と仲直りしたいという相談だった。

 ユウヤの姿から勇気を貰って姉と仲直りし、学園祭は彼と廻りたいと思っていた彼女は……そんな彼に、彼女の好きな『ヒーロー』の様なISで殺された。

 

「これで終る……このくだらない世界も……」

 

 世界中に出現する黒輪から出現するリンクジョーカーの軍勢達とその司令官たる『カオスブレイカードラゴン』を初めとする上級者達。

 それを止めるべく動くはずだった『次元ロボ カイザード』はすでにリンクジョーカー側についていた、共に戦うはずだったユウヤの手によってリンクジョーカーの手に落ちた。その成れの果ての姿が今の“Я”ダイカイザーだ。

 

 ほんの少しの誤解が生んだ世界の滅び。そんな中、『織斑 一夏』と『カイザード』の二人は思う。

 

 

 ―もっと早く出会えて居れば―

 ―もう少し考えていれば―

 

 

 と。リンクジョーカーの尖兵となった中で残る僅かな意思で、絶命するまでの僅かな瞬間で、彼らは渇望する。

 

 

 ―あの時に戻れたら、今度こそ失敗しないのに―

 

 

 と。

 

 狂った様に笑う声を最後にその場にある残された二つの意識は消えていった。

 

 

 

 

 

BAD END




ダイカイザーのリバース化したオリジナルのユニットを作って見ました。色々とお気に入りのユニットなので。

そして、内容はオリジナル主人公の悪堕ち世界滅亡のBADENDです。恋愛ゲーム風に言うなら選択肢が悉く間違えを選んだ感じです。悪い方へ、悪い方へ行くルートばかり。

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