ネタ短編集   作:龍牙

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ハイスクールV×D ライド33

「……ふふふ……あーははははは!」

 

 狂った様に笑い始める木場。望んでいた復讐の一部の達成……だが、

 

「バ、バカな……エクスカリバーが……こんな……聖剣が一方的に……」

 

 残る復讐対象であるバルパーは目の前でエクスカリバーが砕かれたという現実が受容れず呆然とした声を上げる。フラフラとした足取りで砕けた聖剣へと一歩ずつ近付いていく。

 

「イゾルデ……モルドレッド」

 

「それは円卓の騎士の名か?」

 

 その光景を見ながら四季がそう呟くとゼノヴィアがそれを聞き返す。確かにそれはエクスカリバーに関係の深い円卓の騎士の名。だが、それは四季にとってはもう一つの意味がある。

 

「それだけじゃない。惑星クレイ……超兵装と光の守護竜が元々存在していた世界……そこに有る国家の1つ『ユナイテッド・サンクチェアリ』の騎士の名前だ」

 

 他にも円卓の騎士と同じ……または似た名前の騎士は存在している。

 

「その符合なら……超兵装はエクスカリバーなんだろうな」

 

「そうだと思うわ」

 

 四季の言葉に詩乃が同意する。騎士王の剣では無く、その側にて立つ親友の持つ剣ではあるが、エクスカリバーへの憎悪を別の世界のエクスカリバーの影と言うべき剣の力に飲み込まれた木場の姿は……

 

「シャドウパラディン……」

 

「ああ、堕ちる所まで堕ちた物だな」

 

 詩乃の呟きに四季が同意する。そんな呟きに反応した訳ではないのだろうが、振り上げた剣を振り下ろす。その先に居たのは呆然としているバルパーの姿。高速で振るわれた剣の一閃でバルパーの体から鮮血が舞う。

 真っ二つに切り裂かれたバルパーの体が地面に倒れる。……呆気ない物だが、これで木場の復讐は終ったはずだ。だが、

 

「っ!?」

 

「木場、テメェ!」

 

 木場が一直線にゼノヴィアへと超兵装ブラスター・ダークを振り下ろそうとするが、それを一誠が 赤龍帝の籠手ブーステッド・ギアで受け止める。

 

「邪魔をするな……」

 

「何やってんだよ、お前の復讐は終っただろ!?」

 

「……終った? まだ其処に残っているだろう、聖剣と聖剣使いが。……そいつを殺して聖剣を壊す、もう一人の聖剣使いを始末して、次は境界にある聖剣と行方知れずの最後の聖剣……それを壊したら、教会の関係者、天使……」

 

 狂気に満ちた笑みを浮かべながら次々と新たな復讐の対象を告げていく木場の姿に背筋が寒くなる思いのする一誠だが、

 

「バカヤロウ!? そんな事して、はぐれ悪魔になって部長に迷惑をかける気かよ!?」

 

「……部長? 何だそれは?」

 

「木場、テメェ……」

 

 聖剣を壊せれば木場は自分達のところに戻ってきてくれると思っていた。聖剣を破壊すれば元に戻ると思っていた。だが、木場は最後の最後で禁断の果実に手を伸ばしてしまった。二度と戻れなくなる禁断の果実。

 

「忘れたのかよ!? お前を……オレ達を助けてくれた人の事を!?」

 

「……知らんな、そんな事。邪魔だ、消えろ駄竜」

 

 超兵装ブラスター・ダークの石突を一誠の顔面へと叩きつけ、彼の力が緩むとそのまま腹に蹴りを打ち込む。

 

「ガァッ!」

 

 腹を抱えて蹲った瞬間後頭部へと石突を叩き付ける。『切る価値も無い』とでも言う様な姿は、まだ巨大な渦の中に飲まれている木場の意識が仲間だった者を殺さない様にしているようにも見える。

 

 だが、聖剣使いであるゼノヴィアに対しては加減する理由など無い。そのままゼノヴィアを切ろうとする木場へと向かい無数の矢が放たれる。

 

「っ!?」

 

 己へと放たれた矢に歩みを止めて切り払いながらも、対応しきれないと判断した結果後ろに飛ぶことで回避する。

 

「今よ、四季!」

 

「はぁ!」

 

 矢を放った本人……詩乃の言葉に答える様に四季が木場が飛んだ位置へと切りかかる。ぶつかり合う光と影の二つの超兵装、兜の奥の赤黒く染まった瞳で四季を睨む木場と四季の視線が交差する。

 

「いい加減、その超兵装を返してもらうぞ……三流剣士」

 

「ふん、この剣が欲しいのか? だったら、土下座でもして譲ってくださいと頼んできたら譲ってやってもいいぞ」

 

「譲る……元々オレのだろうが、それは!?」

 

 互いの剣をぶつけ合う四季と木場。何時かの再現のような光景だが、今は四季の方が押されている。力に飲み込まれている分だけ、超兵装の力を抑えている四季よりも木場の方に余裕があると言う事だろうか。

 そんな木場に対して放たれる矢が彼の隙を作り、四季が反撃する好機を与えている。剣の力で力を増している木場に対して四季は詩乃との二対一で戦っていると言う訳だ。

 

 

 

「詰らんな……」

 

 仲間割れを見ながらコカビエルが呟く。バルパーもフリードもコカビエルにとっては価値の無い捨て駒、死んだところで何の感情も湧かない。そもそも、元々一人でやれると考えていたのだから。

 

 力に飲まれて暴走した木場の事で早くコカビエルを何とかしないと町が危ない事を忘れている……と言うことは無いだろうが、この状況で三つ巴は危険と考えて木場を止めることを優先しているわけだ。

 

 だが、半ば無視されて居る様なコカビエルは退屈を感じていた。だが、木場を見て笑みを浮かべる。……伝説の剣の一振りを持ったあの男は少しは楽しめそうだと。その為に木場と戦っている四季へと視線を向ける。

 均衡を崩せば決着は着くだろう。そして、三大勢力の大戦に於ける二つの剣を知るが故に、二つの剣を持てば木場は更に力を増すだろうと考える。

 

 天使と堕天使……二つの剣を持った2人だけで悪魔に致命的なダメージを与える寸前まで行ったのだから、その二本を一人が手にすればどうなるか……堕天使が最強だと証明するには二つの伝説の剣を持った剣士を倒す。そう考えるだけでコカビエルは笑みを浮かべずにはいられなくなる。

 魔王の妹2人の首を悪魔側へ送りつけ、砕けたエクスカリバーを天使側に送りつければ十分に宣戦布告になる。そして、二本の伝説の剣を持って自らの手で天使と悪魔を滅ぼし堕天使の最強を証明する。

 

 手の中に光の槍を作り出すと四季へと視線を向ける。敗北して貰えば面白くなるであろう彼に視線を向け、彼の後ろに立つ詩乃へと狙いを定める。

 

 

 

 一瞬、コカビエルの姿が視界の中に入った瞬間、奴の手の中に光の槍が現れるのを見た。

 

(……まさか!?)

 

 イメージするのは奴の位置とその射線軸……自分も含まれているだろうが、寧ろ奴の狙いは……

 

「詩乃!!!」

 

 自分の後ろに居る詩乃だ。抑えている超兵装ブラスター・ブレードの力を解放、振り下ろされそうになった木場の超兵装ブラスター・ダークを弾き、腹へと蹴りを打ち込み突き飛ばす。

 

「間に合え!」

 

「……四、季……」

 

 四季が 瞬動ダッシュでコカビエルから放たれた光の槍に狙われた彼女を突き飛ばす。彼女はコカビエルの槍から逃れられた。だが、

 

「がはっ!」

 

 深々とコカビエルの放った光の槍は四季の心臓を貫き、光の槍が消えた瞬間、彼の胸から鮮血が舞う。かつてレイナーレと言う堕天使に刺された一誠の時と同じく、誰がどう見てもそれは致命傷となる傷だ。

 

「嘘でしょ……なんで、四季……」

 

「詩乃が、無事でよかった……」

 

「嘘よ、死なないでよ……四季……ッ!」

 

 崩れ落ちる四季の体を支えながら詩乃はそう叫ぶ。全身の力が抜ける。既に悼みは無いが……彼女のぬくもりさえも感じることが出来ない。

 

(……ごめん、泣いてる君を慰める事もできなくて……)

 

「いつも私との約束……守ってくれたじゃない……! 夏休みに一緒に旅行に行こうって、戦うのを忘れて二人で楽しい思い出を作ろうって言ってくれたじゃない!?」

 

(……ごめん、はじめて約束を破る事になって)

 

 抱きしめる事も、初めて恋人になったとき以来恥ずかしがってしていなかったキスをする事も出来ない、死を前にしてそんな事を後悔しながらも思い浮かべるのは彼女との思い出だけ。

 

(……詩乃に出会えて良かった……)

 

 全身から力が抜ける。……声を出す力も無い。だけど、最後にこれを伝えたい。

 

「詩……乃……」

 

「四季!?」

 

 最後の力を振り絞って声を出す。彼女へと残す最後の言葉、

 

「……良かった……君に……会えて……」

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

―それで良いのですか?―

 

 その声と共に意識を取り戻す四季の視界に飛び込んできたのは一体の神々しい輝きを持ったドラゴン。そのドラゴンの名はソウルセイバー・ドラゴン。何処か女性を思わせる姿と声で四季を見下ろしていた。

 詩乃だけでなくそこには四季とソウルセイバー・ドラゴン以外には誰の姿も無い。

 

「アンタは?」

 

「私はソウルセイバー・ドラゴン。貴方の神器に眠るものです」

 

「ソウルセイバー……」

 

「貴方はそれで良いのですか?」

 

 それで良いのか? そんな物は、四季の答えは決まっている。

 

「良い訳無いだろう! オレはあいつを守りたい! 詩乃を残して死ねるわけが無い!」

 

「ええ、その答えを出すと思っていました。受容れなさい、彼等の力を」

 

 ソウルセイバー・ドラゴンの後ろに現れるのは無数の戦士達の幻影。ソウルセイバー・ドラゴンの記憶する聖域の戦士達の記憶と言う名の幻影でも有り魂でもある存在。

 惑星クレイと言う星に於いて、名を刻んだ者達。影の……黄金の……光の騎士達、四季の強さを求める意思により使うことを否定していた神器の力そのもの。

 

「ああ。受容れる。詩乃を守るためなら、もう一度あいつを笑顔にするためなら」

 

 ゆっくりと四季が手を伸ばす先にいるのは王の側に立ち続ける盟友たる光の剣士。

 

 

―目覚めろ、オレの神器…… 先導者の記憶クレイ・エレメンツ!―

 

 

「立ち上がれ、至高の剣士よ! オレと共に異界の地にその名を刻め!」

 

 初めに選ぶ力は手の中に在る剣の本来の主。

 

 

―ライド・ザ・ヴァンガード―

 

 

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 光に包まれリアスが彼を蘇生する為に使おうとした騎士の駒を投げ返し、四季は立ち上がる。その身に纏うは光の剣士の鎧と、光の超兵装ブラスター・ブレード。

 

「四季」

 

 呆然として彼へと伸ばされた詩乃の手を掴む。やっと感じられた大切な人のぬくもりが彼に生を実感させる。

 

「ごめん、君を泣かせて」

 

 泣き顔だけは見たくなかった。怒った顔も、困った表情も、普段の表情も大好きだが泣き顔だけは嫌いだった。それが自分のせいで泣いていた等、嬉しい反面何より自分が許せない。

 

「約束する。もう二度と君を泣かせない。絶対に」

 

 その身に纏う力は至高の剣士のもの。惑星クレイに於いて名を捨て剣の名を貰い王の盟友として側に戦い抜いた騎士の名。

 

 詩乃にとっての 先導者ヴァンガードが四季なら、四季にとっての 先導者ヴァンガードは詩乃だ。ならば自分は常に彼女の側に立ち守り続ける。彼女を傷つける全てから。

 

 純白の鎧と超兵装ブラスター・ブレードを持って四季は立ち上がる。クレイの英雄、ブラスター・ブレードの力を纏って。


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