ネタ短編集   作:龍牙

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ハイスクールV×D ライド2

「寝坊した」

 

 その日、四季は項垂れていた。その理由は学校に遅刻しそうだから……と言う物ではない。寝坊してしまったせいで詩乃と一緒に登校出来なかった事に有る。まあ、四季の足なら走れば十分に間に合う時間だが、四季にとって遅刻など二の次……詩乃と一緒に登校できる事に朝の時間の意味は有る。

 

 それでも、流石に遅刻は拙いと思いつつ家を飛び出していく四季だった。

 

 受け継いだ光と闇の剣を守るべき相手に預けた光と影の剣士四季の朝はこうして始まった。

 

 

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「仮面の騎士、ね」

 

 リアスは手元に有る資料を読みながらそう呟く。

 

 “此処一年の間に活動を始めた賞金稼ぎ……分かっているのはパートナーが居る事と、聖剣と思われる白い剣と魔剣と思われる黒い剣を操る事。聖剣と魔剣の二つを操る姿から、何らかの方法で 魔剣創造ソードバースと 聖剣創造ゾード・ブラックスミスの二つの 神器セイクリッド・ギアを所有しているものと思われる。”

 

 などと数少ない四季の目撃情報から、彼に対する推測が書かれた資料だが、推測は大ハズレである。

 

「他の地域だとS級のハグレ悪魔の討伐にも何度も成功している、か。でも」

 

 仮面の騎士……四季の姿を撮影した数少ない数枚の写真に目を通す中、一枚だけリアスの目に留まった写真があった。全て写真の中の服装は違うが学校の帰り道での突発的な戦闘だった時の姿を不運にも悪魔サイドに撮影されていた。

 実家へ最近何者かが自分の領地内で何体もハグレ悪魔を討伐している事について、心当たりが無いとか言う連絡をした結果送って貰った資料だが、して良かったとリアスは考えていた。

 

「ふふ……これで少なくとも貴方がこの学園の生徒だと言う事は分かったわ」

 

 それが突発的な戦闘だと推測すれば、仮面の騎士は駒王学園の生徒だと言う事が分かる。

 そう魅力的に微笑みながらリアスが取り出すのは騎士の駒。写真に映る仮面の騎士が木場と同じタイプの神器を宿しているなら、彼とあわせて騎士の両翼が出来る。少なくとも、単独でS級のハグレ悪魔を討伐できる事から、戦闘力の高さは既に証明されている。

 

 結果的に一誠の努力で婚約破棄にはなったものの非公式とは言え、初のレーディングゲームの結果は敗北に終ってしまった。レーディングゲームのタイトル制覇を夢見ている彼女にとってあまり良いスタートとは言えない。

 まだ彼女の元に未使用の駒は騎士と戦車の駒が残っている。彼女の実力不足として扱えない事になっているもう一人の僧侶は兎も角……格上相手に不利な状況で戦ったのだから、敗北と言う結果は当然だろう。一誠も右手を犠牲に一時的な禁手には至ったが、将来性は兎も角まだまだ戦力としては弱い。……そんな中で掴んだ即戦力となる仮面の騎士の情報は彼女にとって魅力的だ。

 

「逃がさないわよ。貴方は私の眷属にしてみせるわ」

 

 既に騎士の剣は 己が主君ヴァンガードに預けられているとも知らずに、リアスは写真の中の駒王学園の制服を着た仮面の騎士へとそう呟く。

 

 

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「何で剣道に?」

 

 体育の授業……剣道部の練習場を利用しての二クラス合同で行なわれている授業の男子の部である剣道。……序でに女子は体育館でバレーボールとバスケの選択らしい。急遽元々の予定からの変更らしいが、何故か嫌な予感がしている。

 

 竹刀を振りながらそんな疑問の声を呟く。日々剣術の修行は欠かした事のない四季だが、今は体に染み付ける様に何度も繰り返した技が出ない様に細心の注意を払っている。

 

 理由は別のクラスの生徒である木場の存在だ。妙に周囲の様子……と言うよりも他の生徒達の動きを注視している素振りが見える。

 

 先日のハグレ悪魔との戦闘の後から自分と同じ剣士であると言う彼の推測と、リアスの実家から届いた仮面の騎士についての資料からの推測を照らし合わせた結果の、仮面の騎士の正体を暴く為の手段だ。

 

(気付かれた? いや、同じ学校の生徒の可能性に気が付いて、取り合えず剣を振らせて見よう……って所か?)

 

 時折自分へと向く木場の視線に気付かない振りをしつつ、そう考える。別に正体が知られたところで、それで両親が人質になろうが両親との間に溝が有る現在では知った事では無い。問題は詩乃が危険に晒される事だ。

 ……彼女自身にも力はあるが、それでも彼女が危険に晒される事は極力避けたい。

 

(派手に動き過ぎたかな)

 

 そうは思っても賞金稼ぎの活動を緩める気などない。命懸けの商売だけに賞金稼ぎは利益が大きい。生活費以外にも色々と目的が有って幾ら稼いでも足りない気分だ。

 二組になって試合をする中、四季の視線は彼のクラスメイトの一誠と何かを話している木場の方へと向く。リアス・グレモリーと一緒に登校したり、木場にオカルト研へ呼び出されたりと彼から悪魔の気配がする様になってから付き合いが増えただけに、一誠とリアス等の関係は簡単に推理できる。

 

(グレモリー先輩か、会長さん辺りが自分の眷属の戦力の増強でオレ……正確にはオレが変装している仮面の姿に目をつけた……って所だろうな)

 

 まあ、彼女の眷属になる気など最初から無いが。飽く迄四季が剣を振るうのは詩乃の為だ。それ以外の誰かのために……しかも、タダ働きで剣を振る気は無い。

 そんな事を考えていると木場と一誠の視線が四季へと向けられる。

 

 

 

(やっぱり、彼の動きは剣道とかのスポーツの物じゃない。実戦形式の剣を学んだ動きが時々だけど見える)

 

 適当な相手と試合を消化する中、彼の動きを観察していた木場がそんな感想を持つ。生徒会まで巻き込んで体育の授業の中に急遽剣道を追加した訳だが、一番最初に当たりを引いた上に、それに木場が気付けたのは幸運と言えるだろう。

 

 自分が直接参加する授業以外は使い魔を通じて観察させる予定だったが、その心配も無くなったと考えて良いとも思っている。

 

 巧妙に隠しているが四季の動きからは時折剣道と言うよりも、実戦を積んだ剣士の動きが見える。明らかに他の生徒とは一線を隔した動きだ。四季自身が無意識の内での行動からの推測だが、彼が今の所のもっとも仮面の剣士の条件に近い。

 

「(この事は部長に報告するとしても)少し、彼の事を調べた方が良いね」

 

 木場はそう結論付ける。……四季の姿は一番黒に近い。

 

 

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「部長!? あいつ適で良いですよね!? 取り合えずぶちのめして良いですよね!?」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいイッセー。……何が有ったの?」

 

 その日の夜、オカルト研の部室で一誠は血の涙でも流しそうな表情でリアスに向かって叫んでいた。当然ながら、理由の分からないリアスは何が有ったのかを……一誠と一緒に仮面の騎士の候補である四季の尾行をしていた木場に聞くが。

 

「そ、それは……」

 

 苦笑しながら木場はリアスの質問に答える。……一言で言えば、詩乃と一緒に下校とそのまま買い物も兼ねてのデートしていた四季だった。寧ろ、尾行している自分達に見せ付ける様に見えたが、あれは明らかに分かっていてやっていた。

 下校の途中で四季の視線を木場と一誠の方に向けた事から間違いなく、最初から尾行に気付いていたのだろう。……時折嘲笑うような笑みを彼ら……と言うよりも一誠へと向けていた事から最初から見付かっていたと言う事だろう。

 

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

 まあ、一誠経由で変態三人組の仲間である友人の二人にも伝わり、後日その二人も同じ様に絶叫する事になるが、それは特に物語に関係ないので省略する。

 

「それにしても、気付かれるなんて……益々怪しいわね」

 

 

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 時間は僅かに遡る。主に一誠と木場がデートの監視をする破目になった時まで遡る。

 

「ちょっ、行き成り何するのよ!?」

 

 突然抱きしめられて顔を真っ赤にして抗議する詩乃。そんな中で四季は周囲に聞こえないように小声で話しかける。

 

「しっ。誰かにつけられてる」

 

「え?」

 

 はっきり言って態々抱きしめる必要は無いのだが、こうして彼女の温もりを感じていると改めて戦うべき理由が再確認できる。大切な人の為に勇気も覚悟も彼女に預けている。

 

「誰が」

 

「二人。自分の行動を振り返ってから夢を語るべきな変態と、もてそうなのに女気が無い同性愛疑惑の有る色男」

 

 無言だが四季の言葉に納得したと言う様子の詩乃さん。まあ、四季の妙な説明、それで誰かと言うのが分かるあたり、色んな意味での有名人二人である。

 

「よく気付いたわね、そんなに正確に」

 

「いや、二人からの悪魔の気配と神器の気配でな」

 

「うん、私には無理」

 

「……変態の神器なら簡単に分かるさ。……本人の力量とはアンバランスな強過ぎる力だからな」

 

 一誠の気配を探るならば、一誠自身よりも彼の神器の気配を探った方が分かり易いと言う事だ。

 

「オレ達の事に気付かれたか、まだ疑われているだけか……」

 

「そう……じゃあ、暫く控える」

 

「いや、寧ろ逆効果になりそうだ。寧ろ、向こうがこっちを監視している間に動いた方が疑いは晴れそうだしな」

 

 寧ろ、炙り出そうと思ってハーレムハーレム言っている一誠を刺激するために詩乃を抱きしめたわけだが……。

 

(やっぱり、詩乃の体温を感じていると再確認できるよな……戦う理由を)

 


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