生まれた国と育った国
どちらを貴ぶべきか
配点(選択)
表向きは小さな一軒家。実際は旧派の集会所。
そんな場所でジュゼッペ・キアラはアリアダスト学院の渉外委員からの接触を受けていた。
「ご存知だとは思いますが、生徒会が本交渉を行う前の情報収集や根回しをするのが我々渉外委員なのです。そして私はK.P.A.Italiaの担当でしてね」
「……お前の思惑は分かるよ」
現在M.H.R.R.に占領されているK.P.A.Italiaだが、歴史再現を進めればM.H.R.R.は衰退し、羽柴は松平に取って代わられる。
恩を売る絶交のチャンスだ。
その為にK.P.A.Italiaとパイプを持った人間を味方に引き込みたいのだろう。
「どうすっかなー」
ジュゼッペ・キアラの聖譜記述を鑑みれば協力すべきか。
彼は幕府による取り調べにより棄教し、以降は幕府への情報提供などを行っている。
何故そんな人物を名乗っているかと言われれば些か入り組んだ事情がある。
二十年前に教皇総長が画策した武蔵への旧派進出。
その際に武蔵で布教する為に派遣された宣教師がキアラやフェレイラの父だ。
彼等は進出が失敗した後もTsirhc奏者の纏め役として武蔵に留まり続け、禁教令に従って布教しないという意思表示の為に聖譜記述で棄教する事が決まっていたクリストファン・フェレイラやジュゼッペ・キアラを襲名した。
そこに不満が一切なかったとは思えない。Tsirhc教譜は棄教する人間には冷徹だ。
篤信な彼等にとって形式的とはいえ棄教するのは屈辱だっただろう。それでも武蔵に残る事を望んだ。
その内面を推し量る事はキアラには出来ないし、意味がない上に無粋だ。
そして彼等が相次いで亡くなった時に名を引き継いだ。
二人とも葛藤があったようだが悩んでいるのを放っておくほど親不孝ではない。
自分達から引き継ぎを申し出た。その際、いざという時は信仰より命を大切にしてほしいと言われたが、
……あれでフェレイラ君は変に意固地になっちまったんだよな。
それはさておき、返答をどうするかとキアラは腕を組む。
渉外委員としては武蔵の為に働く人材を求めているだろう。
その観点からすると自分は微妙だとキアラは思う。
長年暮らして武蔵に愛着はあるが、K.P.A.Italiaにも思い入れがある。
信仰を金稼ぎに利用した事に思う所はあるが、K.P.A.Italiaは衰退していた。元は孤児で金の大切さが身に染みていたキアラには当時の教導院の判断も理解出来る。
むしろ自国民の事を考えれば当然の事だろう。だからK.P.A.Italiaを追い詰めるような真似はしたくない。
…………。
「……まあ、いいか」
これまで数度に及ぶ本多・正純の交渉を見てきた。
彼女は自分達の利益だけを考えるのではなく相手の立場も尊重し、共に進もうという姿勢だ。
彼女が交渉役をやっている限りK.P.A.Italiaがそう悪い事にはならないだろうという信頼がある。駄目だったら自分が何とかすればいい。
協力する事を告げると渉外委員は破顔した。
「ありがとうございます。貴方なら協力してくれると思っていました」
「へえ。何でだ?」
興味本位で尋ねると渉外委員は笑みを崩さず、
「貴方、三河争乱で何もしませんでしたよね。武蔵とK.P.A.Italiaのどちらにも付かずに中立を保った」
「……優柔不断だ。褒められたもんじゃない」
キアラは僅かに表情が引き攣るのを感じた。
P.A.Odaや改派の猛威に晒されているK.P.A.Italiaの戦力が充実する事を喜ぶ反面、武蔵が完全支配下になるのを厭う気持ちで身動きが出来なかっただけだ。
「そうでしょうが、貴方はどちらが勝っても受け入れる覚悟があった。我々としてはそういう両国の事を考えられる人材が欲しいんですよ。出来るだけ遺恨は残したくないですからね」
「……ふん」
よく調べている。面白くないものを感じながらキアラは立ち上がる。
「怪傑曽呂利の続きが読みたいんでもう帰る」
曽呂利が重大な場面で屁をこいてしまった所で面会の申し出があったので中断している。続きが気になるのでさっさと帰ろう。
と、出口に向かうキアラの背中に声がかかった。
「……これからよろしくお願いします。この協同で多くの幸いが得られれば良いと思います」
「――Jud.、用がある時は岡本・三右衛門宛てに連絡をくれ」
口元を緩ませつつ答えて帰路につく。その足取りは軽かった。
ついでだからフェレイラやキアラ関係の設定放出。
同じ頃にフェレイラが拷問されてます。