舞台裏の出演者達   作:とうゆき

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武蔵の転生者

人生にもう一度があるとしたら

その意味は何だろうか

配点(転生)

 

 

 

 皆さんは転生という現象を信じるだろうか。

 多くは荒唐無稽だと思うだろうし、俺もかつてはそうだった。

 しかし今は認めるしかない。何故なら自分の身で体現してしまったからだ。

 

 俺は元々東京の私立学院に通う、ごく一般的な男子だった。

 そして忘れもしない十二月二十五日。聖夜。

 撥ねられ、カップルどもを呪いながら死んだ筈なのだ。

 

 が、気が付けば聖譜に従って過去の再現しているこの世界に一極東人、秋元・連(あきもと・れん)として生を受けた。

 

 最初は転生した原因や身の振り方で色々悩んだが、一日で飽きた。

 

 原因はあれだ。俺の嫉妬パゥワーが冥府(タルタロス)とか輪廻転生とかそういう概念となんかこう、アチョー! な感じで作用したのだろう。多分。

 隣のクラスの同人作家が昔書いてた小説でもよくある設定だ。未来で復活とかアーサー王とかオジェ・ル・ダノワっぽくて格好良い。

 

 身の振り方も、仮にもし転生に理由があったとしても、そのうち理由の方からやって来るだろう。

 

 そして世は戦国。何だかんだあって航空都市の方の武蔵にやってきたのだが、平成育ちの常識人である俺にとって変人が跋扈する武蔵は些か辛かったりもする。

 

    ●

 

 一般的に宝くじの共同購入は避けた方が無難とされる。

 高額当選によって人間関係が破綻した例が幾つかあるからだ。

 だがしかし。

 先月は財布がピンチだった事、金額が一定以上だと送料が安くなる事、同じエロゲを欲しがっていた奴がいた事、等の理由で俺達は数人でエロゲを共同購入した。

 別にこの行為に問題はない筈だった。

 ただ、一万個に一つの確率で同梱されているレアフィギュアが当たった事が発覚するまでは!

 

 そのフィギアが同梱されているエロゲを購入したのは俺ともう一人。

 過去の歴史をやり直している世界。しかし俺達は過ちさえ繰り返してしまったのだ。

 

「ふふふ、ウッキー君。大人しく「ギシギシ和●伝」付属1/10卑弥呼フィギュアを渡してもらおうか!」

「それは拙僧の台詞だ。今なら先にプレイする権利を譲ってやろう」

 

 間の机の上にエロゲとフィギュアの入ったクリアケースを置き、隣のクラスのキヨナリ・ウルキアガと向かい合う。

 

「姉キャラなんてどんなジャンルのエロゲにもいるが、巫女キャラはレアなんだよ!」

「何を言う! 普乳で弟や妹がいると明言される姉キャラは意外に少ない。そっちこそ、コスプレだけで付加されるお手軽属性なのだからここは拙僧に譲れ!」

 

 俺達の話し合いはいきなり平行線に突入した。

 

「二次元に拘らず三次元に目を向けたらどうだ? 巫女が好きというならうちのクラスの浅間は」

「萌えと恋愛は必ずしも=じゃねえんだよ! 第一、あれはMIKO(Mad Indiscriminate Killing Opa-i)とかそんな感じの新生物だろ?」

 

 それに、最近様々なプランを勧めてくる。

 携帯ショップの店員にも似た鬱陶しさだった。

 

「貴様、地味に酷いな」

「葵の姉が普通の胸だったとして、告白するか?」

「……」

「……」

 

 沈黙が生まれ、不意にどちらからともなく笑う。

 そしてがっちり手を握り、無言で頷き合う。

 人間は分かり合えるのだ。

 

「じゃあ感銘を受けたついでに卑弥呼たんフィギュアは貰うぞ」

「……」

「……」

 

 握手はそのままアームレスリングじみた力比べに発展した。負けた。

 おのれ。

 

    ●

 

 慌ただしくも平和な日々。

 俺はこんな日常がいつまでも続くと思っていた。しかし、そんな日々は儚く崩れ、終わりを迎える。

 

    ●

 

 テンション上がりすぎた三河の君主、松平・元信公が花火と一緒に爆発してしまい、キレたイタ公とスペ公が嫡子であるホライゾン・アリアダストを拉致。

 武蔵内では揺れたり百合ったり脱げたり踊ったり、そんなこんなを経て意思決定がなされた。

 

「……物好きが多いな」

 

 臨時生徒総会を終え、ホライゾン・アリアダスト救出に向かう葵・トーリの後を追う同級生や警護隊の面々を見ながら呟く。

 俺のような復活戦隊テンセイジャーのレッドならまだしも、命がけの戦場によく赴く気になるもんだ。

 八大竜王が二人に武神とか、敗北確定のイベント戦闘だと勘違いしそうになる。機竜がいないのは不幸中の幸いだが。

 

「お前もそうだろ」

 

 後ろからの声に振り向く。

 そこにいたのは頭に六角形の模様が付いた手拭いを巻き、口には釘を咥えたガテン系男子。同じクラスのソウコウだ。

 俺の友人で、巫女好きにも理解を示してくれる。

 

「お前か。姿が見えなかったけど、何やってたんだ」

「総長が開けた壁の穴の修繕」

 

 何度壊せば気が済むんだかとぼやきつつ、その口調にはそれほど怒りはない。

 大工志望のソウコウは修理を楽しんでいる面があるように思う。修繕費も生徒会持ちらしいしな。

 

「お前も行く気なんだろ?」

 

 改めてソウコウが問い掛けてくる。

 友人だけあって見抜かれていたようだ。

 

「……俺は最近、気付いたんだ」

「……何を?」

 

 ああ。

 

「学園物でエンドに辿り着こうという考えが甘かった。よく考えれば巫女キャラの√は戦闘要素がある場合が多い」

 

 これまで何も出会いがなかったのは戦いがなかったせいではないか。

 ならばこれはチャンスだ。これからの戦いは各国で中継される筈だからまだ見ぬ巫女達にアピール出来る。

 週刊巫女ジャーナル「世巫女論」によると印度諸国連合辺りのレベルが高い。

 自分の実家はその近くにあったし、何かフラグの香りがする。少なくとも武蔵が寄港するまでは乗っていようと思う。

 

「……本当に好きだな、エロゲ」

「応。ゲームの王道はRPGに有り、知略はパズルゲーム、俊敏は格闘ゲーム、速度はレースゲーム、本質はシューティングゲーム、そして情感はエロゲにあるからな」

「……」

 

 ソウコウはスルメを取り出して齧り出す。

 

「俺は時々、お前が何を言っているのか本気で分からなくなる」

「こういうのは分かろうとしては駄目だ。感じるんだ」

「……話は戻るが、お前は助けに行くという事でいいんだな?」

「死ぬ必要ないだろ、彼女」

 

 前世の自分の死に関しては自己責任の部分が大きいが、それでも俺は多大な恐怖や後悔を味わった。

 ホライゾン・アリアダストの死が他者に強制されたものであり、しかし助けるチャンスがあるなら助けてやりたいと思う。

 かといって自分が死ぬのも嫌なのでヤバくなったら逃亡するつもりだが、

 

「どっちみち、これからの戦場で勝利して初めて選択肢が得られるんだけどな」

 

 現在三河にいる戦力をどうにかしないと逃げる事もままならない。

 

「それに俺はまだ武蔵で人探しをしないといけない」

「人探し?」

「巫女神なる人物がいるらしいんだ。名前は典膳」

 

 存在を知ったのが最近なので見つけられなかったが、是非とも会ってみたい。

 どんな人物なのだろう。俺も巫女好きを自称しているが、どれほどの造詣があれば巫女神と呼ばれるのかは想像もつかない。

 

「……その人物について他には何か?」

「あと侍らしい」

 

 やはり巫女とのフラグには戦闘技能が必要なのか……

 

「おい、それって……」

 

 ソウコウが何か言いかけるが、そんな事より俺は自分が置き去りになっている事に気付いた。

 皆は既に後悔通りを通過しようとしている。

 

「ちっ、遅刻すると締まらないな。ソウコウ、行って来るぜ!」

「……ああ」

 

    ●

 

 怒号に銃声、剣戟、足音、それらが戦場という音楽を奏でる。

 戦闘は第三特務マルゴット・ナイトと第四特務マルガ・ナルゼの双嬢による武神猛鷲の撃墜、第五特務ネイト・ミトツダイラ、第六特務直政の奇襲により有利に進行していると思われたが、K.P.A.Italiaの正規戦士団や教皇総長の登場によって武蔵側が一気に劣勢に追い込まれた。

 

 そんな中、

 

「安心しろ! ――俺、葵・トーリは不可能の力と共にここにいるぜ!」

 

 馬鹿の術式が発動した。

 消耗し、使い切った内燃拝気はある程度溜まっている。

 

「ん」

 

 疲労はある。負傷もだ。

 だが不思議と体が軽い。

 

 馬鹿は、ホライゾンだけでなく俺達も救いたかったのだろう。多分。だといいな。

 そう自惚れるくらいは許されるだろう。

 代わりにとんでもないリスクを背負いこんだようだが、

 ……もし死んだらデカい墓を造って盛大に弔ってやろう。

 ソウコウも大きな建築物が造れると知れば協力してくれるだろうし。

 

「さて。そろそろ俺の出番か」

 

 つい、ゲームバランスを見直せと言いたくなる大罪武装"淫蕩の御身"の猛威も副会長本多・正純の策により今は存在しない。

 今こそ反撃に出る時だ。

 流体供給後の最初の激突で弾かれ、倒れた兵士の長槍を拾い、横にして身構える。

 ……内燃接続、熊野神社。創作術式、亜禍待臨(あかまつりん)、穂利呻(ほりうめ)。

 

 "淫蕩の御身"の解除を気にせず武蔵側を押し潰そうと進攻するK.P.A.Italiaの戦士団に対し、防盾の術式、逆になった鳥居型の障壁と長槍で押し留めようとする。

 横にした槍のお陰で同時に複数人の行動を妨害出来ているが、一人では時間の問題。

 もうすぐ破られると、敵味方の誰もが思っただろう瞬間、

 

「穂利呻、発動」

 

 鳥居型の紋章が一瞬だけ長槍の表面に現れ、その直後、プラスチックが折れるような簡素な音と共に、戦士団の先頭の盾や装甲服が分解する。

 

「後は任せる!」

 

 飛び退くと、防具を失って戸惑う戦士団に武蔵の皆が殺到する。

 うん。美味しい所はくれてやる俺って良い奴。まあ、攻撃手段がないだけなんだが。

 

 ……亜禍待臨は防御態勢でいる間はあらゆる防御効果をブーストし、穂利呻は合計十秒間接触する事で対象の防御を禊いで丸裸にする。

 正面からのぶつかり合いで幸いだった。高速戦だと十秒は長い。

 ……穂利呻は元々攻城用だしなぁ。

 

「あれ?」

 

 ふと周囲に意識を向けると、皆が円陣を組み、俺と少し離れた場所で副長ガリレオを倒したノリキに交互に視線を送り、

 

「ぶっちゃけ下位互換だよな」

「やっぱり普段からエロゲばっかりやってる男子は駄目よねー」

「なんかもう術式名から負けてる気がするぜ」

 

 ……くそ、連中は相手の弱い部分を見つけると容赦なく突いてくるからな。

 思わず、「ノリキには女装趣味がある」とかデマを流そうと思ったが、流石に大人げないので自重。

 

「……転機編とかも割と同レベルだと思うんだがなぁ」

「馬鹿言うな。華麗さや優雅さが違う」

「ちくしょう! 亜禍待臨は自分以外も対象に出来るが、お前等には使ってやらねえ!」

 

 術式名については割とノリで決めたからなぁ。

 四年前のあの日、図書室で神話やM.H.R.R.弁の本を探している途中に同人作家と出会ってしまったのが運の尽きだ。

 中二病とは再発、悪化はしても完治はしない恐ろしい病気なのだ。

 

    ●

 

「――聖譜ある世界において、結果は全て正義に満ちている!!」

「――Tes.!」

「我ら聖譜の元に行動せり!」

「我ら聖譜の元に結論せり!」

「我ら聖譜の元に規範せり!」

 

 教皇総長の鼓舞によってガリレオの敗北で萎えていた士気が一気に回復する。

 その姿はまさしく王。

 葵・トーリが皆を支え、皆に支えられる王なら、インノケンティウスは皆を率いる王として十分すぎる資質を有している。

 うちの副会長が対抗するにはまだ外道成分が足りなかったか。

 

「……初戦の相手なのにきつくねえかな」

 

 RPGの最初の洞窟で終盤のボスと出会った気分だ。

 駆け戻ってくる教皇総長に連動するように低い音の響きが大気を震わせ、こちらに近付いてくる。大罪武装だ。

 このままではまたしても武装を封じられてしまうが、それを遮る手段はない。

 

「すぐに防御態勢を取れ!」

 

 叫び、そして確認する。

 ……今すぐ敵とぶつかる連中の数は……やべ、拝気足りねえや。……代演奉納するしかないか。

 

「……武蔵で五日間の植林活動! 悪縁三つを切る! …………そして、そして一ヶ月のエロゲ断ち!」

 

 さようなら恋人達……また会う日まで。

 半分自棄になりながら亜禍待臨を発動する。

 熊野の神々よー! 俺に力を分けてくれー!

 

 味方に走る流体の青白い光を確認すると、審問艦に向かう葵・トーリに対して声を張り上げる。

 

「――行け! そんでさっさと助けてこい」

 

 俺がこれ以上の別離を経験する前に!!

 

 

 

 

 

名:秋元・連

属:武蔵アリアダスト教導院

役:下っ端戦闘員

種:近接武術師

特:転生者


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