ある所にいつも通りふよふよと飛んでいる人形がいました。上海でした。
上海は暗くてじめじめしていかにも何か出そうな森の中を進んでいました。背が高く、葉がぎっしりとついた枝達の所為で森の中は真っ暗でした。
上海はどこか具合が悪いのかあっちへふらふらこっちへふらふらと飛んでいます。
しばらく進むと森の中に一軒の家がポツンと建っていました。家の前にはとても下手くそな字で『霧雨てい』と最後だけひらがなで書かれている看板が建っていました。
何を思ったのか上海はその家の中へと入っていきました。
家の中はとても汚く人が住んでいるようには思えませんでした。本が無造作に積み上げられ、部屋一面ほこりまみれ。よく見るとなんだがよく分からない物体までもが“生えて”いました。
そんな家の中をうろついていると一室だけ綺麗な部屋がありました。相変わらず大量の本が床に積んでありましたが、目を覆いたくなるような埃や未知の物体などは無くベットや机などがある飾り気のない質素な部屋でした。
どうやら家主はいないようです。
上海は飛び疲れたのかそのままベットに寝ころびそのまま寝てしまいました。
上海が眠ってしまった頃、部屋に白黒の服を着た少女が入ってきました。白黒の少女は持っていた箒と被っていた帽子を壁にかけ、ベットに寝ようとした時に上海に気付きました。白黒の少女は上海を持ち上げ見つめました。
「あいつの所の人形じゃないか・・・。」
そう呟くと白黒の少女は帽子をかぶり直し箒を持つと上海をポケットに突っ込み窓から飛んでいきました。
少し飛んで行くと、森の中にこれまたポツンと建っている家がありました。少女はその家の前に降りると家のドアを叩きまくりました。
「まったく・・・そんなに叩かなくても聞こえてるわよ!」
そう叫んで出てきたのは、上海が出てきた家で寝ていた少女でした。目の下に隈を作り顔も少しやつれています。
「お前が探していた上海だがな」
「上海!上海が見つかったの!?」
「あ、あぁ見つかったって。」
そういって白黒の少女はポケットから上海を取り出すと上海を手渡しました。
「あぁ上海!よかった・・・よかった無事で・・・。」
そういって少女は上海を抱きしめながら泣いています。
一通り泣き終えた少女は白黒の少女に尋ねます。
「いったい何所に居たの?」
「私の家のベットに居たんだ。朝にはいなかったからきっといつの間にか入り込んだんだろ。」
じゃあ私は行くからと言い残し白黒の少女は飛んで行ってしまいました。
「・・・ありがとう・・・。」
見えなくなった背中に言いそこなったお礼を言うと少女は上海を家の中へと運びます。
「まったく急に消えたからあちこち探し回って・・・心配したんだからもう。」
口調の割に少女の顔は微笑んでいます。そこで少女はある事に気が付きました。
「あ・・・魔力が切れてる。」
そういって少女は上海の頭に手を当て、魔力を送ります。すると先程までぐっすりと眠っていた上海が目をあけました。
「シャ・・・シャンハーイ。」
「おはよう上海。今まで何処に行っていたの?もしも何かあったらどうするの?」
「シャンハーイ・・・。」
少女はしょぼんとした上海の頭を撫でます。
「とにかく・・・無事に帰ってきてくれてうれしいわ。」
「シャンハーイ!!」
こうして上海の冒険は終わりました。このしばらく後、上海はまた冒険へ出かけるのですがそれはまた別のお話。
これにて東方旅人形を終わらせていただきます。
今まで呼んでくれた皆様、ありがとうございました。
もしまた機会がありましたら上海の冒険をご覧いただければうれしいです。
それでは、またいつか。