東方旅人形   作:犬上高一

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遅くなりました。周りの環境が変わったおかげててんてこ舞いの毎日になってしまい更新がかなり遅れてしまいました。
そんなこんなで始まります。


第14話 上海と蛍

それは蒸し暑く寝ずらい夜の事でした。空はすっかり曇っていて湿気が普段より多くとてもやって居られません。

 

 

そんな夜道を上海は汗だくになりながらもふよふよと進んでいました。

可愛らしい服は汗でぐっしょりと湿っていて気持ち悪いです。一刻も早く服を脱ぎすててシャワーを浴びたいと思う上海です。

 

 

そんな時上海は道の先に黄色く光る小さな光を見つけました。

空中に浮いているその光はその場をくるくると回っていたかと思うと脇道の方へと飛んで行ってしまいました。

 

 

何時もなら気になって真っ直ぐに光を追いかける上海ですが、暑さと湿気による不快感から一刻も早く涼しい場所へ行きたいと思い脇道へ飛んで行った光に目もくれません。

 

 

するとどうした事か先程の光が戻ってきて上海の目の前に飛び出しました。

クルクルと目の前を回って脇道の入り口で止まっていました。まるでついて来いと言わんばかりの様です。

 

 

全身からだるいおオーラを放つ上海でしたが、もしかしたら涼しい場所へと連れて行ってくれるかもしれないと淡い希望を抱いてその光へついていく事にしました。

 

 

 

 

 

脇道は細く暗く、所々木が倒れていて荒れ放題でした。空を飛ぶ上海には地面に倒れた木は関係ありません。あった事と言えば途中飛び出た枝に顔面をぶつけたくらいです。

 

 

そんなこんなで飛び続ける事約数分。人も鳥も獣も虫の声すら聞こえない細道を進んでいると不意に開けた場所に出ました。

 

 

そこは小さな池でした。と言うよりも小川が穴に溜まって出来た川の一部です。

 

 

「ようこそ。小さなお客さん。」

 

 

そう言って背後から歩み寄ってくるのは緑色の髪にマントを羽織り頭から触角を生やした少女です。上海は首を傾げました。

 

 

「これからショーを始めるんだ。この子が君に見てほしかったらしくてね。」

 

 

そう言って少女の掌に先程の光が乗っかります。よく見るとそれは一匹の蛍でした。

 

 

「ぜひとも見て言ってよ。」

 

 

そう言うと彼女は池の真ん中へと飛んでいきます。よく見ると少女は手に指揮棒を持っています。

 

 

「皆行くよ。」

 

 

彼女が池の周りを見渡します。上海もその視線を追ってみると周囲にはたくさんの虫や虫の妖怪がいました。見れば手に楽器を持っている妖怪もいます。

 

 

「さん、にー、いち!」

 

 

少女が指揮棒を振り出し妖怪達が楽器を鳴らします。その音楽に合わせて池の上では蛍たちが明かりを灯し空を舞って、動くイルミネーションを演出しています。

右へ左へ上へ下へ・・・。最初は単調な動きでしたが徐々に曲芸飛行の様に動き始めます。

さながら天女の舞とでもいうべきでしょうか。上海はそれまで感じていた暑さも汗の不快感も忘れてその光景に見入ってしまいました。

 

ショー自体は数分だったのですが、上海にとってはそれがとても長く感じられました。

 

 

 

 

 

 

 

 

ショーが終わり先程池の真ん中で指揮棒を振っていた少女が近寄ってきます。

 

「どうだった。」

 

「しゃんはい!」

 

「ありがとう。あの子達も喜んでいるよ。」

 

 

そう言って少女は池の上で飛び回る蛍達を見つめて言いました。

 

 

「あの子達はこの夏が終わると死んでしまうんだ。蛍の寿命は短くてね。」

 

 

そう言って少女は座り込みます。上海も少女の肩に座ります。

 

 

「成虫になって・・・空を飛べる様になったら、僕達の綺麗な姿を誰かに見てほしいって言われてね。それが今日のショーさ。」

 

 

少女は一瞬哀しそうな目で蛍達を見つめますがそれを笑顔へと変えると立ち上がって言いました。

 

 

「問題は死ぬことじゃない。死ぬまでに何もなせない事だ。確かに子孫を残すという役目はあるけれど、それだけじゃあ蛍というあくまで虫の一種としか見て貰えない。それよりも自分達が、蛍と言う種類としてでは無く蛍と言う一匹の虫としての生きざまを君に見てほしかったのさ。」

 

「しゃんはーい・・・。」

 

「そんなに悲しむ事じゃないよ。あの子達の一番綺麗で一番輝いた姿を見て褒めてくれたんだ。それだけで十分だよ。あの子達も喜んでるし。」

 

 

池の周辺では蛍達が淡い光を放ちながら飛び回っていました。




蛍の成虫としての寿命は1週間から2週間程度だそうです。

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