まだ日が昇らないあたりが暗闇で覆われた森の中にある一軒の家。中には大量の人形と一人の少女がいた。少女は寝間着を着てベットで寝ている。
部屋の棚には人形がたくさんあった。その中の一体――上海――と呼ばれる人形があった。金髪に可愛らしいリボンと服を着た人形だ。その上海人形はコクコクとまるで人間が転寝をする直前の様な状態になっている。そして一度頭がカクンとなるとそのまま床へと落ちてしまった。
――――ドカッ
結構痛そうな音がすると同時に上海の目が開いた。上海はぶつけたおでこを痛そうにさすってからあたりを見回した。周りには人形とこの家の家主の少女だけ。上海は一度ベットの上で気持ちよさそうにしている少女を見たが視線を外すとそのまま窓から出て行ってしまった。
上海は森の中をふよふよと飛んでいた。ふらぁ~ふらぁ~と飛んでいるとそのまま森を出てしまった。
そのまま上海はふよふよ飛び続けていると今度は湖に来てしまった。水平線の向こうからは太陽が顔を覗かせていた。上海はふよふよとその場に漂いながら日の出を眺めていた。
日の出からしばらくして上海はまた移動を始めた。湖を岸に沿って移動し始めた。
しばらく移動していると何か歌が聞こえてきた。見ると湖の中にぽつんと浮かぶ岩の上に一人の少女が乗っていた。青い髪にすらりとした手を岩に置いて歌う少女の下半身は魚で耳には何やら魚のヒレのような物が付いていた。
「~~~♪~~~♪」
綺麗な声で歌う少女は上海に気付くと一度歌うのを止める。
「こんな所に人形?」
そう言って傍に近寄ってきた上海を抱いてみる。少女は物珍しそうに見ていたがやがて上海の頭を撫で始めた。上海もそれが気持ち良かったのか目を閉じ嬉しそうに撫でられている。
「この娘飛べるっていう事はそれなりに力を持った人形なのかしら?」
少女は人形を持ち上げ話しかけてみるが返事は帰ってこなかった。
「まぁいいわ。別に気にしないし。」
そう言うと少女は上海を自分の横に奥とそのまま月を見上げる。少しばかり月を見ていたが少女はまた歌いだした。先程の歌とは違い今度は何やら軽い感じの歌だった。だがそれでも少女の声が綺麗なのに代わりは無く、軽く跳ねる様なリズム感のいい歌を少女は体を揺らしながら歌っていた。
上海はそんな楽しそうに歌う少女を見ながら自分も体を揺らしていた。
――ポチャリ、パチャリと少女は無意識に自分のヒレ水から出したり入れたりしている。
その音が少女の歌と混ざり歌に一味加える。
それを上海は体を揺らしながら聞いていた。
少女が歌い終わる。こんなに気持ち良く歌えたのはこの満月の所為かはたまた・・・・・。
そう思って自分の隣に居る人形を見るがそこに人形の姿は無かった。
「あ、あれ?」
慌てて辺りを見回すが人形の姿は見えない。
「(あれは・・・夢だったのかしら?)」
そんな事を思い若干寂しさを覚える。
例え人形であっても自分の歌を聞いてくれていた者が突然居なくなった事に対する喪失感。それを感じながら先程までの高揚していた気分は一気に沈んで行った。顔が俯いて前髪が目に掛かる。
そこに頭の上から何かが乗っかった感覚がした。
「ふえ?」
何かを手に取り見てみるとそれは湖の畔によく咲いている花で作られた花冠だった。
見上げると先ほどの人形が少女の目の前をふわふわと飛びながら見つめていた。まるで自分の上げたプレゼントの感想を求める様に・・・。
「これは貴女が?」
――――コクッ
上海は首を縦に振って答える。
「私に?」
―――コクッ
それを見ると少女は若干口元を綻ばせながら「ありがとう」と言って頭の上に花冠を乗せた。そしてもう一度歌い始める。先程と同じ軽く跳ねる様なリズム感のいい歌を体を横に揺らしながら歌っていた。
上海はそんな少女の肩に乗りながら少女と同じように体を揺らして楽しそうな笑顔で聞いていた。
やがて少女が歌い終わると、上海はふわふわと飛び上がる。
「あれ?もう行っちゃうの?」
その問いに上海は頷く。
「そう・・・。花冠ありがとう。」
そう言って微笑む少女に上海は微笑みを返して飛び立って行った。
残ったのは湖の岩の上にポツリ、花冠を乗せた少女がいた。
少女は月の光に照らされながら歌を歌っていた。
あの軽く跳ねる様なリズム感のいい歌を楽しそうに歌っていた。