魔王生徒カンピオーネ!   作:たけのこの里派

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いつも祝日に平気で大学がやってるので早起きして行ったのに、GMで容赦なく休みだった事で、予想以上に自分がアホだった事に気付いた件について。

そんな訳でその鬱憤というか、テンション上がって書いたのがコレ。
いつもより文字数多めです。
つまり修正点の山の可能性がッ!
ちなみに終盤はニコニコ動画の『ヒャッハー中尉VS白わんこ』を見ながら書いたので、あれなかんじになってます。

神考察は寛容にお願いいたしぁ┏( ;〃>ω<〃 )┓


第八話 とっておきは連射するもの

 ──────毘沙門天。

 

 梵名をヴァイシュラヴァナといい、大乗仏教に於いて、世界の中心たる須弥山の天部の仏神で、持国天・増長天・広目天と共に四天王の一尊に数えられ、北倶廬洲を護る武神である。

 

 仏教では主である帝釈天(インドラ)以上に軍神としての崇拝を集め、寧ろ単独の神としての方が有名な程の、四天王の最強の守護者。

 

 そして毘沙門天は、古代インド神話の夜叉と羅刹を率いるヒマラヤの王クベーラが仏教に取り込まれた神という説が有力視されており、毘沙門天が北方を護るとされたのはヒマラヤ山脈がインドから見て北に位置していたからだと言われている。

 

 またクベーラは本来夜叉(ヤクシャ)族の王だったとされており、戦闘神としての性格も持つ。

 が、毎日宮殿を埋め尽くされない為に有り余る財宝を焼却処分していたと云う、財宝神としての一面を持っている。

 それは毘沙門天として仏教に取り入れられた後も名残があり、福徳財宝神としても有名で、日本では民間にも膾炙していた「仏教」「神道」「道教」から、それぞれ福徳のキーワードにより集められた「七福神」の一柱としても特に有名である。

 それを知っていた皐月は、目の前の毘沙門天を始めこう評価していた。

 

「仏教とヒンドゥー教(インド神話)限定とはいえ、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)持った円卓のNTR騎士とかチートや! チーターや!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第八話 とっておきは連射するもの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我は番人、世界を見透し黄昏を告げる者なり」

 

 両者の激突は、皐月の聖句と共に放たれた毘沙門天の三又戟の神域の刺突によって始まった。

 神速に匹敵するその一撃は、長年の鍛練と修行を修めた者が得る心眼の極意たる観自在の境地に至った者でしか捉えることの出来ない打ち込みであった。

 

 もしこの世界に生まれる本来の日本初の魔王、草薙護堂がこの一撃を受ければ、確実にその心臓を穿たれて一度目の死へと至らしめられていただろう。

 そんな一撃を、しかし皐月はその眼で追い、毘沙門天の動く前に初動で勝りその槍を容易く躱した。 

 

(何────?)

 

 毘沙門天が疑問を挙げたのは、自らの一撃を完全に見切った事ではなく、完全に避けられたにも拘わらずその指を矛先に引っ掻けた事だった。

 

「痛って」

「────ッ!?」

 

 その一言と同時に、毘沙門天が彼方に吹き飛ばされた。

 まるで場所を変える為かの如く、その場から引き剥がされた毘沙門天が体勢を立て直したのは、市街地から遥かに離れた山の上空であった。

 毘沙門天が着地したのは、虚空から出現した天を翔る戦車、プシュパカ・ラタの上。

 口から血を流しながら、毘沙門天は問う。

 

「今のは、衝撃波か?」

「正解」

 

 皐月は空中を当然と言わんばかりに駆け、毘沙門天に追い付いた。

 そして皐月の足には、脹脛まで巻き付く様な形状でルーンが刻まれている白銀の靴が履かれていた。

 

 エヴァンジェリンとの仮契約で得たアーティファクト、『道化の飛翔靴(スレイプニル)』である。

 機能はあらゆる場所を歩行できるというものであり、またとある権能の補助をすることが出来る。

 ちなみにその形が、

 

「殆んど牙の玉璽(パクり)じゃねぇか!」

 

 ────絶対転生者が造っただろコレェ。

 それが皐月の感想だった。 

 まぁつい先日に得た物故に、本来の機能は使えないだろう。

 

 

 閑話休題。

 

「権能か?」

「どこぞのオサレ漫画みたいに解説とかしないぞ?」

 

 皐月が最初に殺した神は、ロキとヘイムダルである。

 二柱の神を同時に殺害したことで、皐月は二つの権能を手に入れていた。

 

 ロキから簒奪した権能は『狡知神の悪業(クラフト・オブ・ミスディード)』。

 未だ掌握出来ずにいる、ロキが北欧神話で行った、その内の四つだけ実行出来る権能である。

 今の皐月が使用可能なのは、四つの内三つの所業。その内の一つが『地震の力』である。

 

 ────北欧神話において、『地震』とは狡知神ロキが光の神バルドルを殺した罪で幽閉、拷問にかけられた際の、苦悶だとされている。

 つまりこの力を使うには痛みを伴うことが条件なのだ。

 だからこそ、避けられる一撃を態と引っ掻け浅い傷を負った。

 そして皐月が地震で想像するものは一つ。

 

「つまりグラグラの実ですね。解ります」

 

 尤も、痛みによって強弱が変わるのでかすり傷程度の痛みでは致命傷には程遠い。

 先に述べておくが、奪った権能はその魔王によって様々な姿を取る。

 皐月の権能がコレ程の物になったのは、偏に皐月の認識故であると。

 

「フンッ!」

「あぶなっ」

 

 そこから、毘沙門天の武威が存分に発揮された。

 三又戟の斬戟打撃だけではない。様々な武具を換装し、それを使いこなす。その武勇は武神に相応しく、圧倒的な技術によって振るわれた。その攻撃は音速を超え、鉄を切り裂き地を割る程の武威。

 しかし、

 

「ここまで当たらぬとはな。縮地も中々ではある、しかしそれだけでは死角からの攻撃は避けられまい。なにかしらの仕掛けがあろう」

 

 毘沙門天の攻撃は悉く避けられ、それにより発生した僅かな隙にアグニの爆炎を叩き込まれる。

 尤も、その爆炎も自在に浮遊する盾を代償にすることによって防がれている。

 もしこの場が空中でなく先程の東寺であれば、世界に誇る京都の文化財である神社仏閣は火の海瓦礫の山と化していただろう。

 

「初動の差か」

「強いて言うならば写輪眼とプラス色々と答えよう」

「その眼と耳か」

「何故耳までバレたし」

 

 ────ヘイムダルから簒奪した権能は後に『知覚超過(パーシーブド・イクセス)』と名付けられる。

 ヘイムダルは、「白い神」と呼ばれ、元はフレイやフレイアと同じくヴァン神族であったと云われている。

 そしてヴァン神族としての未来を読む力を有するとされており、同時に「小鳥よりも少ない眠りしか必要とせず、草の伸びる音も聞き分ける耳、夜間でも100リーグ(約556km)離れた場所の僅かな動きも見る眼を持ち、昼も夜もアスガルドを守っている」と云われている。

 

 つまり『知覚超過』の権能とは、圧倒的な視覚と聴覚による『未来視』である。

 死角には聴覚による神速すら見切る反響定位。そして先程の霊視も千里眼も、全て未来予測の為の情報集めでしかないのだ。

 

『視覚や聴覚が得ている情報。知性が持つ未来への展望、予想。 それらを統合し、現実の域にまで高めたモノが未来視だ。 彼らは“数分後の未来”を視ているのではなく、 現実を作り出す“数分後の結果”を視ている』

 

「いやぁ、橙子さんスゲーわ」

「誰だ」

「いやさこっちの話。続きやろうや」

「…………しかし、このままでは千日手だな……ならば」

 

 瞬間、毘沙門天が再び戦車に乗り込み、一気に距離を置いた。

 

「すき焼きィ!!」

「防ぐに決まっているだろう」

 

 皐月が即座に巨大な火球をブッ込むも、大量の盾を出現させて防ぐ。

 使い捨てる盾など山程あるのだから、消費自体は痛くも痒くもない。

 

「──―で? 距離を取ってどないすんの? AUOみたく財宝をぶん投げるか?」

「射出するのも一手だが、それだけでは先程と変わらんだろう。なので少し趣向を変えてみるとする」

 

 その言葉と共に毘沙門天がプシュパカ・ラタに手を翳した。

 

「────は?」

 

 眩い光と共に火花が散ったと同時に、戦車が姿を変え始めた。

 荷台の舟には近未来の浮遊装置の様な形が付随し、翼の様なモノが追加される。

 滑車を引いていたゾウの口は砲門へと変貌し、ゾウの長い牙は自律し、ファンネルと化す。

 ────毘沙門天は戦車を飛行機に変えたのだ

 

「通常のヴィマーナを使えれば良いのだが、流石に行者まで造るとなると時間が掛かる。なので行者が要らないヴィマーナを造ってみた」

「……毘沙門天って錬金術師だっけ?」

 

 まつろわぬ神の思考速度と同等のスピードで移動しながら撃ち出される武具の雨が、皐月を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「なぁなぁエヴァちゃん。あのFFで出てきそうな飛行機なんなん?」

「アレはインド神話で登場する飛行装置だ。レーダー探知、ジグザグ飛行、翼の展開と収縮、敵機内透視、煙幕、カモフラージュに太陽光線利用等と正に『ぼくのかんがえたかっこいい未来道具』だな」

 

 バカ弟子が、縦横無尽に翔け回る毘沙門天が放つ武具の雨に貫かれる前に、遠見の魔法を詠春の娘にリンクさせるのを止める。

 そもそもこんな子供が観るようなモノでもないからな。まつろわぬ神との殺し合いとは。

 

「ッ…………!」

『貴様はガキ扱いせんからな。黄昏の姫御子』

『当たり前……!』

 

 歯を食い縛っている神楽坂アスナに念話で念を押すが、果たして聞いているか怪しい処だな。

 

「しかし戦車を改造するとはな。毘沙門天にそんな逸話は無かった筈だが」

「ソレについては調べは付きました。皐月君の霊視が無ければ辿り着けない可能性でしたが」

「どういうこと?」

 

 神楽坂アスナが資料を持ってきた近衛詠春に食い付く。

 自分が駆け付けた処で足手纏いであることを自覚して、敵のまつろわぬ神の情報を伝える事で少しでも助けになろうとする。

 成る程、経口接触による仮契約のパクティオーカードなら、皐月に念話を伝える事が出来るだろうが……。

 

「クククッ……」

「?」

 

 随分惚れ込んでいるなぁ? アイツは厄介な女を垂らし込みやすいとみた。

 自分を厄介と自覚してる時点で私も大概だがな。

 

「何、奴は魔王だ。まとめて娶って貰えばソレでイイ」

 

 私達に目を付けられたのだ。その程度の甲斐性は見せて貰うぞ? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 皐月が戦いに赴く前に行った霊視。

 それがあの毘沙門天の正体を掴む鍵だった。

 

「────皐月君はあの時、毘沙門天のワード以外に二つ、全く関係の無い単語を口にしていました。つまりあの毘沙門天はクベーラ以外の別の神の要素を兼ね備えた毘沙門天ということになります」

「神様って、色々と元になった神様がいっぱい居るってことなん?」

「えぇ。毘沙門天の正式名は『多聞天』と言い、毘沙門天とは梵神ヴァイスラヴァンス、『Vaisravans』の音訳で、その語意の『あまねく聞く』を『多聞』にしたというのが一般的な解釈です。何故毘沙門となったのかは、神の息子(vizravas)という語を「毘沙門」に訳したという説が有力視されています」

 

 同様に多聞という点から、弥勒菩薩の語源になったとされている千の耳を持つゾロアスター教の太陽神ミスラ(Mithra)、契約を意味する梵神ミトラ(Mitra)の翻訳とする説もある。

 多聞天は北方を守護する黄身の神であるのでクベーラを前身とする説は有力だが、にもかかわらず古くからの画や像に残る多聞天も毘沙門天も厳粛な武神であって、富や財宝の観念は見えないのだ。

 要するに、毘沙門天は前身がよくわからない神なのである。

 

「ここで、皐月君の霊視で出た毘沙門天に相応しくないワードを思い出してください」

「全てをなすものと、火と鍛治」

「その通りです」

 

 四天王の内で「モン」が付くのは毘沙門天だけで、門=北方の入り口とすることはできない。

 そして毘沙門=多聞は、「モン」は漢音でmenという音の表記にこだわって命名されていると解釈できるため、モンの部分の元はサンスクリット語のmanだった可能性が強いのだ。

 

「従って、火と鍛冶の要素を持ち、梵神名としてはビシャに近い音で始まってマンで終る名前の神が、あの毘沙門天と混同している事になるのです」

 

 この条件に合う神は、サンスクリット語で『全てをなすもの』を意味する工芸神ヴィシュヴァカルマン。仏教における毘首羯摩以外に存在しない。

 

「つまり────」

「あのまつろわぬ神はヴィシュヴァカルマン起源説に影響された、ヴィシュヴァカルマンとクべーラの両方を前身とする、毘沙門天と毘首羯摩の混合神!」

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 ────一方、皐月は体に数本の剣や法具が刺さり、苦痛に顔を歪め、戦いは終盤に入りつつあった。

 

 

「ハッ……ハッ……」

「どうした? 休んでいる暇はないぞ」

「くッ!」

 

 毘沙門天はヴィマーナで移動しながら回避困難な武器の弾幕を形成し、皐月はそれを避ける為に雷化せざるを得ない。

 未来予測が出来ていても、出来る行動には限りがある。

 炎では、飛来する武器を全て一瞬で蒸発させることは出来ず、瞬動などでの回避では間に合わない。

 雷化での攻撃は、毘沙門天の鎧の装甲を突破する程の威力は『今は』出せない。

 唯でさえ『知覚超過』を常時行使している状況で、雷化に加え合計三つの権能を複数同時行使するには負担が大きすぎる。

 切り札を切るにも、当たらなければ意味が無い。

 

(……どうするッ)

「…………羅刹王と言えど、やはり童か」

「────は?」

 

(手を拱いている、打つ手を考えている)皐月を観ながら、毘沙門天は落胆の言葉を溢した。

 

 実のところ、毘沙門天は皐月のことをインド神話に於ける魔王、『羅刹王ラーヴァナ』として見ていた。

 毘沙門天の前身の一柱クベーラは羅刹王ラーヴァナと戦ったことがあり、同様に前身の一柱であるヴィシュヴァカルマンは自ら造った武器が巡り巡ってラーヴァナと関係するなど『羅刹王ラーヴァナ』とこの毘沙門天は深い関わりを持っていた。

 まつろわぬ神となった理由も、羅刹王たる魔王が日本に誕生したというのが一つだった。

 尤も、顕現に至ったのはとある真なる神の成り損ないが京都に訪れたのが原因だが。

 兎に角、毘沙門天は皐月を羅刹王と重ねて見ていたのだ。

 なるほど皐月は魔王にたる力を持っている。

 しかしラーヴァナと比較してしまうと、毘沙門天には少し小さく見えてしまったのだ。

 

 

 

 ──────毘沙門天の失敗は、そんな失望と落胆に満ちた眼を、皐月に向けてしまった事だろう。

 

 

「………………つまり? あの両面宿儺のなんちゃって進化野郎に、俺が劣ると? ッふふふはははァ、ェァハハハハハ……! ァァァアハッハッハッハッハッハッ!!」

 

 その眼を見た皐月の頭の中で、ブチリ、と何かが千切れた音がした。 

 

「──────ッ!?」

 

 瞬間、皐月から溢れる呪力が爆発したかのように膨れ上がり、毘沙門天がヴィマーナから横殴りに吹き飛ばされた。

 

 

「────────ふざけンじゃねェぞッッ!!! 舐めやがってェええええええええええええええッッ!!!!

 

 

「なッ!!?」

 

 咄嗟に態勢を立て直そうとヴィマーナを引き寄せようとするも、再び雷と衝撃波に飛ばされる。

 盾を出現させようとするも爆炎と違い衝撃波の場合、足場のない状況では盾ごと吹き飛ばされてしまう。

 そこから吹き飛ばした毘沙門天に神速で回り込み再び衝撃波をぶつける、ソレがあと十は繰り返された時。

 

「ごッ……がっ──……まさか、貴様ッ……!!」

 

 そんな乱撃に、毘沙門天は自分ごと爆発させることを選んだ。

 ヴイシュヴァカルマンの武器は太陽神スーリヤの光を削り取って造られた神々の武器。

 つまり毘沙門天が行ったのは武器を光に戻して、自ら傷付いてでも猛攻を止めるという選択だ。

 

「クッ……! 貴様がヴィマーナの速度に追い付くのは、雷に転じなければ不可能。衝撃波は神速時でなければ有効打にならないはずだッ……」

 

 しかし、そうなれば前述したように三つの権能を同時行使しなければならない。何の負担もなく行うことなど、最古の魔王ヴォバン侯爵でも不可能だ。 

 つまり負担を承知で皐月は雷化でヴィマーナを追い越し、衝撃波を叩き込んだのだ。

 

「バカなっ! 権能の三重行使など、どれだけの負担があるか……!」

「あァ、ドタマカチ割れるぐれェイテェよ。今すぐのたうち回りてェぐれェにはなァ。だがよ、ソレがどういうことか解ってンよなァ?」

「!」

 

 ロキの権能の一つ。

 痛みが強ければ強いほど、『地震の力』はその威力を増していく。

 皐月は権能同時行使による負担を利用したのだ。

 

「正気か……? ソレがどれだけ危険な事か理解しているのか?!」

「正気だァ!? そんなモン神ブッ殺した奴が持ってると思ってンのかァ!!」

 

 コレこそが、皐月を魔王足らしめた真骨頂。

 痛みも感じる。リスクも承知。

 しかしそれらを、キレた皐月は度外視して戦闘を行うことができる。

 それが皐月の持つ異常性だ。

 

「つゥかどォでもイイ、どォでもイインだよンなこたァッッッ!!!!!! ンな風に会話してられるほど、余裕アンのかテメェはよォッ!!?」 

「クッ!」

 

 皐月が再び雷と化して神速に至る。

 しかしそう何度も懐に潜らせる程、毘沙門天は容易くは無い。

 

「我は多聞! 同じことが何度も通じると思っているのか!!」

 

 神速に至った皐月の動きを見切り、毘沙門天は先程とは違いヴィマーナを足場にし、確りと突っ込んでくる方向に盾を構える。これで先程の様に、吹き飛ばされる事はなく、即座に反撃に移れる。毘沙門天本来の武勇を見せる事ができる。

 だが、

 

「薄ッせェンだよ壁ッ!! そんなンで防げるとでも思ってンのか! あ゛ァッ!!?」

 

 皐月は盾などお構い無しに、毘沙門天へその拳を叩き込んだ。

 その拳は盾を容易く破壊し、鎧をも無視した攻撃だった。

 

「なッ──────」

「ハッ! 地震ってのはつまり『振動』だろォがよ。ソレを衝撃波だけでしか使わねェとでも思ったのかよダホがッ!!」

 

 ────『炎神の息吹(アグニッシュワッタス)』。それがその技の名である。

 

 皐月が行ったのは、分子振動によるあらゆる物体の破壊である。

 熱とは分子が高速で運動している状態を指す。そして全ての物体は、分子の高速運動でその形を維持できなくなる。

 権能を同時に行使すればするほど頭痛は増していき、そして振動は強くなる。

 その振動は、最早超分子振動を容易く行える程にまで増大していた。

 そしてその攻撃は毘沙門天の鎧を易々と蒸発させ、内臓をグシャグシャに沸騰させた。

 

「がァああああああああああああああッ!!?」

「おぉォおぉ、イイ感じの悲鳴を上げんじゃねェか。じゃァ追加と行こォかねェ!!」

「ぎッ!?」

 

 皐月は自分を貫いていた武器を引き抜き、毘沙門天の体の同じ箇所に突き刺した。

 

「お次は火炙りプラス振動破砕と行こォかなァ!!」

「──────ッッ!?!?」

 

 突き刺した二つの刃が振動波を直接送り、共振現象を起こして毘沙門天の体内を破壊していく。

 分子振動で内臓を沸騰させられ、振動破砕で全身の骨をぐちゃぐちゃにされてしまい、更に炎で外を焼かれる。

 

「クッ……ハッハッハッ!! どんな気分だよ! なァ教えてくれねェか? さっきまで調子ブッこいてたッつゥのに、イキナリこんなガキに一方的にボコられる気分ってェのはよォ!!」

「ぐっ……ぉぉおおおおおおおお!!」

 

 それでも毘沙門天が更なる追撃を受けずに猛撃から逃げられたのは、武神故だろう。

 そしてまつろわぬ神とは、ここで終わるほど容易い存在ではない。

 

「ぜえっ……ぜえッ、良いだろう。貴様がなりふり構わぬと言うのなら、此方も実行するだけだ!!」

 

 毘沙門天が大破寸前のヴィマーナで、遥か上空まで翔け上る。

 太陽を背に、毘沙門天が虚空より出現させたのは黄金の弓だった。

 聖仙アガスティヤから英雄ラーマに授けられた黄金弓ブラフマダッタ。

 だが毘沙門天の意図は弓にはなく、弦にかけられた光の矢にあった。

 

「ハッ、────我は終える者、世界の災厄」

 

 矢の名はアグネア。

 インド神話において様々な不落の都市を何度も一撃で地獄に変えてきた。

 インド神話が出鱈目と呼ばれる要因の一つ、『核兵器』である。

 ソレに対して、皐月は静かに聖句を唱える。

 

「万象を灰燼に帰す、破滅の枝を産み落とす者なり」

「無駄だ羅刹王! 如何なる技も、この矢が放たれれば全て無為に帰す!!」

 

 それは文字通りの意味だろう。遥か上空から撃たれたソレは、皐月ごと大地を焼き、放射能の雨を浴びせることだろう。

 日本では禁忌の、間違いなく悪夢が繰り返されてしまう。

 

 

 

 

「────当たり前だけどよ、ンなモン射たせると思ってンのかタコ」

 

 

 

 

 瞬間、毘沙門天に刺さっていた二本の刃から、天を焦がすほどの莫大な黒炎が噴き出した。

 

 

「なっ────にィ!?」

「敵に喰らったものは直ぐ抜くべきだったなァ?」

 

 

 燃え上がる黒炎は毘沙門天を容易く呑み込んで、毘沙門天の『全て』を燃やし尽くす。

 

「がぁぁあああああああああああああああああああああ!!? 呪力がッ、燃やされてッ……何だこの炎はッッ!?」

「アハハハハハハハッ! 忘れたかよ!? 俺はロキのルーンを使えるンだぜ!! そして神の権能は解釈によってその姿を容易く変える! 俺がコレを造れる可能性を考えるべきだったなァ!!」

 

 毘沙門天を呑み込む黒炎を生み出しているその刃には、人間には理解不能なルーン文字が刻まれていた。

 

 ────諸君は、破滅の災枝(レーヴァテイン)という言葉に一体何を連想するだろう? 

 

 本来、ソレは北欧神話のエッダ詩の一つ『フィヨルスヴィズの歌』で登場する、極めて不鮮明な言い方でロキが冥界の門の下でルーンを彫って造ったと云われる、巨人スルトの妻シンモラが保有する魔法の剣である。

 しかし、こと日本において、その魔剣は全く違う認識だろう。

 

 ────そう、炎の巨人スルトの持つ世界を焼き尽くした炎の魔剣が真っ先に来るだろう。

 

 ソレ以前に北欧神話を知らない人間は、レーヴァテインはロキが造ったことなど知らないにも拘わらず、炎の剣という答えが帰ってくるかもしれない。

 それは、ファンタジーゲームや北欧神話を題材とする創作物において、武器やアイテムとしてかなりの確率でレーヴァテインが炎の剣として使用されているからである。

 

 ただし、この「レーヴァテイン=スルトの剣」説に、明確な根拠は一切ない。

 そのような神話伝承はおそらく存在せず、推論・推測の域を出ないものである。実際、有り得ない可能性だってある。

 

 そして、まつろわぬ神は民衆の認識やイメージの変化に左右されてしまう。

 

 毘沙門天のヴィシュヴァカルマン起源説も、原作に於けるランスロットが伝説の変化に影響されるであろうという推測があった様に、容易く姿を変える。

 もしコレが皐月以外の、日本人以外の人間がロキを殺したとしても、恐らくレーヴァテイン=スルトの剣説は成り立たず、違う姿を見せていただろう。

 つまり皐月は、世界を燃やし尽くした炎(レーヴァテイン)を造ることが可能なのだ。

 だから破滅の災枝(レーヴァテイン)は、この世の万物を燃やし尽くすことができる。

 例え鋼だろうと、権能だろうと。

 

「いやァ、イメージって大切だよなァ」

 

 最早毘沙門天は体の大半を燃やし尽くされ、立っていることも難しい状態に陥っていた。ソレでも、アグネアを構え続けたのは神としての矜持か。

 しかし、皐月はそのまま反撃をする可能性を放置するほど甘くは無いし、寧ろ戦いに於いては外道である。

 

 皐月は一瞬雷に転じ、あるものを地上から集めていた。

 それは、二十本の小枝である。

 

「キッ、サッ……マァ……」

 

 皐月はそれらにルーンを刻みながらこう呟いた。

 

「取り敢えず二十発追加な」

「羅刹王ォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!」

「華々しく散らせてやるから感謝しろ」

 

 薄れ行く意識の中毘沙門天が最期に視た光景は、二十発もの数投擲された破滅の災枝(レーヴァテイン)の弾幕だった。

 

「────あばよクソ野郎」

 

 着弾と同時に凄まじい爆発が起こり、大空を黒い爆炎で染め上げる。

 

「にしても汚ェ花火だなァ、どう思うよザーボンさん」

「誰がザーボンだ誰が」

 

 そして皐月は自身の存在に何かが重なる感覚を覚えながら地上に落下していき、美しいプラチナブロンドの女性に抱かれる感覚に包まれながら、意識を落とした。

 

 

 




権能解説ぅ~

:ロキ
狡知神の悪業(クラフト・オブ・ミスディード),craft of misdeed』
 ロキが北欧神話で行った、その内の四つだけ実行出来る権能。現在掌握しているのは「三つ」。
・『激痛の慟哭(アースクェイク・ペイン)
 皐月の受けた、感じた「痛み」に比例した振動を発生させる権能。
 振動自体は「衝撃波」「分子振動」「振動破砕」とある程度応用可能。
・『ルーン魔術』
 文字通り神代のルーン魔術を扱えるようになる権能。
 皐月はもっぱらレーヴァテインを造ることが一番多い。
・『破滅の災枝(レーヴァテイン)
 権能ではなくその副産物。
 直接剣や槍の様に使用すれば自滅不可避だが、皐月は飛び道具として使用している為自傷することが無い。ちなみに副産物なので呪力さえあれば無限に生産可能。

:ヘイムダル
知覚超過(パーシーブド・イクセス)
物体が移動する際生じる超音波すら知覚可能な聴力に、写輪眼も脱帽する視覚情報処理能力と動体視力によるほぼ完璧な未来予測。
 同時に二柱殺害したのが原因か、この権能のみ他の権能と同時行使しても負担が無い。

権能:アグニ
遍在する炎(ユビキタス・ブレイズ)
 「太陽」は癒しや生命力を操ることが出来、空が晴れていることが発動条件。
 「稲妻」は雷化による神速が可能で、エヴァの『氷の女王』と同様呪圏内なら一部の上級を含めた以下雷属性魔法を無詠唱無制限に放ち続けられる。ただし魔法を習得していなければならない。地面に接触していないのが発動条件。
 「浄火」は魔法的なモノを焼却可能な火炎の操作。発動条件は無し。

以上が、今回登場した権能の説明補足でした。
ロキの権能はもう一つ掌握済みですが、現状では制約故に使い物にならないので登場しませんでした。
うん、チートですね。

まつろわぬ毘沙門天は、ヴィシュヴァカルマン起源説に影響された混合神でした。
つまり英雄王とNTR騎士にエミヤを足した権能というこれまたチート仕様に。皐月は特攻によるゴリ押しで倒した感じです。負担無視で多重権能同時行使なんてキレてないと無理です。

アーティファクトについては、また次回に説明入れるかと。
ではまた次回に。

修正点は随時修正します。
感想待ってます!(*´∀`)


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