魔王生徒カンピオーネ!   作:たけのこの里派

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第四話 修行と師匠と家族旅行

 青い空に白い砂浜。南国の常夏の様な世界で聳え立つ一つの塔で、少年は両の手を地面に付け這いつくばっていた。

 

「はッ……かはッ……ッ!」

 

 薄着により露出した肌からは、溢れんばかりの汗が吹き出し、その表情は疲労に満ち、誰の目にもその少年が限界であることを解らせていた。

 だが、

 

「まだだッ……!!」

 

 少年は立ち上がる。

 それは正義の為だとか、世界の為だとか、そんな仰々しい理由でも崇高な理由でも無い。

 自分の為、自己満足などといった意地汚いものでしかない。

 しかし、少年の立ち上がるその姿を見て、軽蔑する者も居なかった。

 両手にも満たない年端もいかない少年が今、雄叫びと共に立ち上がり、目の前の試練に向かって走り出した。

 

「──────うぉおおおおオオオオオオォあああああああああああああああああああッ!!!!」

 

 少年は駆け抜けた。

 目の前の強大な存在へ。

 敵わない。勝てるわけがない。そんな事実は、少年自身でも解りきった事だ。

 だけど、だからこそ。少年はこの場から逃げる訳にはいかなった。

 

 数十秒後、少年を蹂躙した綺麗長い金髪をなびかせる存在は、そんな少年を見下ろしながら口を開いた。

 

 

 

 

 

「──────普通だな」

「その感想が一番キツいと思うのは俺だけかねッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 四話 修行と師匠と家族旅行

 

 

 

 

 

 

 

 エヴァンジェリンの別荘。

 ダイオラマ魔法球と呼ばれる、見た目は模型の様な非常に希少で高価な魔法具だ。

 

 一度入ってしまえば24時間経たなければ出られないという制約はあるものの、魔法球内と外は時間の流れは異なり、魔法球内での一日が外では一時間しか経って居ないため、デメリットは無きに等しい超便利グッズだ。

 

 つまり精神と時○部屋である。

 

 しかも魔法球内の情景は様々な設定が可能であり、エヴァの魔法球は俺が知る限り『常夏の海辺』。『極寒の雪山』。かつてエヴァ自身が根城にしていた『ルーベンス城』。

 こんな代物を所持している辺り、エヴァの規格外さが見てとれるのだが……。

 

「魔力量魔法素質共に並。体力はその歳からすればある方だが、それでも精々中の上といった所か」

「あんまりや! 別に俺Tueee出来るとは思ってへんかったし、落ちこぼれなら反骨精神も沸きましたとも!! 何やねんフツーて!?」

 

 思わず関西弁になってしまったではないか。

 しかしなんという凡骨具合。俺の苗字は城之内じゃないぞ。

 創作物の物語で、こんな奴が主人公しても誰も注目しねーよ。

 

「まぁ慌てるな。これだけなら私は直ぐ様破門していたさ」

 

 開始一日で破門とはきっついデゲスねエヴァにゃん。

 

「私は貴様のその身のこなし、強いて言うなら身体の動かし方に注目した」

「身体の動かし方?」

 

 エヴァが言うには、人間に限らず動物には身体の最適な動かし方が有るとのこと。

 分かりやすく言えば、球技等のパスフォームやシュートフォームは、永い年月を掛けて培われたその行為を最も効率良く、より効果的に行う為の“動き”だ。

 武術に至っては武術そのものがソレだ。

 それと同様、どうやら俺はエヴァの魔法の矢の壁から逃れる際に、無意識の内にその動き方をしていたらしい。

 翌々考えてみれば、幾ら他人より体力がある程度で、同い年のアスナを抱えて二時間も歩き回れる訳もなかった。

 なんかチートな予感……! 

 

「前世の記憶は何時から持ってる?」

「赤ん坊の頃からだけども」

「ソレだな」

 

 曰く、本来そこまで動く事が出来ない赤ん坊の頃から動こうと努力して、更に拙いながらも教えてもらった肉体強化によりスケールが跳ね上がったのが『原初の体術』のタネらしい。

 原初の体術と聞いて某ヤンデレ屍を想像した。

 

「その歳だからこそその程度だろうが、肉体強化の精度が上がるか肉体が成長すれば化けるだろうな」

「何そのべた褒め」

 

 俺自身はそんな一々自分の動きを確認できる余裕なんぞ皆無だった為、自覚は無いが。

 なるほど、精神は肉体に依存するとは言うが、どの分野に於いても子供は褒められれば嬉しいモノだねコレ。

 

「獣染みた、という表現も適切では無いな。あの時は驚いたぞ。思わず本気で魔法の矢を撃ってしまったな」

「俺がボロ雑巾になった理由はそれかッ!!」

 

 肉体強化を教えてもらって上がったテンションが急降下したわ! 

 アレ最早弾幕というレベルじゃなかったし! 壁だし!! 

 

「……しかしまぁ、そんなやべェ動きをしていたとはね。でも小坊がそんな動きしてたらキモくね?」

「キモいかキモくないかは兎も角、シュールではあったな。

 兎も角、それは貴様の才能だ。取り合えず当面の貴様の課題は、その動きを常に行うこと。そして体力と魔力……いや、気の方が良いな。ソレの制御と向上だ。まぁこれから属性の系統適性を調べんと始まらんからな。まぁあまりそちらは期待は出来んだろうが、私が教えられるのは西洋魔術だけだからな」

 

 スイマセンね、魔力量並で。フツーで。

 あ、個人的には人形師のスキル欲しいかも。

 糸で切り裂きとか、中二心を擽る響きがいいね。いいか? 

 

「ククク、やることは山積みだ。まずは基礎を徹底的に叩き込んでやる」

「その徹底的は良いんだが、他意は無いんだよな? そのトテモイイ笑みがあまりにも楽しんでぇぇええあああああああああああああああああああ!!!?」

 

 その後、俺は再び破れたボロ雑巾同然になったのは、言うまでもない。

 

 

 ────この時には、既に片鱗は出ていたのかも知れない。

 エヴァンジェリンの本気の魔法の矢を「ボロ雑巾程度」で凌ぐことが、何れだけ異常なことなのか。

 この時の俺は理解していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近皐月がおかしい」

「ほえ?」

 

 ウチは友達の女の子の言葉に、思わず声が出てもうた。

 女の子の名前は、かぐらざかアスナちゃんゆうて、蜜柑みたいな綺麗な髪にお目めの色がそれぞれちょい違う、おとなしい顔して案外あぐれっしぶな女の子や。

 

 朝もいいんちょとケンカして勝っとったし。

 

 そんなアスナちゃんが言うた皐月くんてのは、ウチがまほらに来てから初めて出来たお友だちや。

 おじいちゃんがいるゆうても、他に私は誰も知らへん。

 おとうさまもせっちゃんもいいひん。

 そんなウチがクラスで隣に座っとるのが男の子いうんは、結構厳しかったんやで。

 

 男の子言うても、なんや綺麗な顔しとったから、女の子みたいやからマシやったんやけども。

 ウチの顔を見てえらいビックリしたと思たら、しばらく『わかんねぇ……何が起こってるのか、俺にはサッパリわかんねぇ……!』とか呟いたりしとったけども。

 

 まぁそんな男の子が、水原皐月くん。ウチはつっくんて呼んどるんやけどな。

 まぁそのあとは、なんやスッキリというか、自棄になったというか、ウチが話しかけたらちゃんと返してくれて、今は親友やっとるくらいや。

 親友といえば、京都にいるもう一人の親友のせっちゃんにも会いたいなぁ。

 

 まぁ、そんなつっくんにアスナがご執心やいうんは、大分クラスの共通認識なんやけども……。

 

「変て……つっくんが?」

「うん。何だか疲れてるみたいだけど、周りの事に敏感になった」

「あぁ、最近クラスの人が驚かそうと後ろから近付いた時、えらいはよう反応しとったしなぁ」

「……変。それに皐月の────」

 

 その先を、ウチは聞き逃してもうた。

 つっくんが何をしているか、ウチはこの時全然知らんかったんや。

 

『────皐月の体、知らない女の魔力の残滓がこびりついてた』

 

 なんや、修羅場なニオイがするえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海外旅行?」

 

 俺がエヴァの別荘でボロ雑巾になり、日常生活に支障が出ない程度に休んでから帰宅する生活を続けてはや数ヵ月。

 別荘を多用している俺は既に体感一年以上エヴァの下で修行を行っている。

 お蔭で周りのクラスメイトと比べ頭一つ出た背丈に成長しているのだ。

 そんな俺に、愛すべき今生の両親はそんなことをおっしゃた。

 

「は? 何時? 何処に?」

「一ヶ月後、ノルウェーからアイスランド辺りを観光しに行くぞ」

「北欧!?」

 

 ま、まぁ。明日行くとか、書き置き残して消えるとかフザケンナ的展開じゃないから全く持ってマシなんだけども。

 

「しかし何でまた……」

「あら? 皐月くん来月が誕生日だって忘れてないかしら?」

「強いて言うなら、私と観月の結婚記念日でもある」

「へぇ……」

 

 誕生日じゃなくて結婚記念日ね。

 といっても誕生日だが、ぶっちゃけ前世と混同してじぇんじぇん覚えてないんだけどねっ。

 

「結婚記念日だから何処か旅行を考えた時に、ノルウェーのお義母さんが誘ってくれてな。皐月に会うのを楽しみにしてくれている様だ」

 

 さいで。

 ────さて、遅れながら俺の愛すべき今生の両親を紹介しよう。

 

 父親の名前は水原和俊。

 現役の警察官であり、役職は総務部長という、まぁお偉いさんの一人だ。

 黒髪黒眼の、極めて日本人らしい容姿で整った顔付きのイケメンだが、その眼力が強すぎると供述しておこう。

 一度母さんと職場姿を見たことがあるが、もし眼力に物理的干渉力が存在するならば人間を軽く射殺せそうな程ヤヴァかった。

 アンタ警察だろと言いたい。

 大体どんな感じかというと、キセキの世代の主将(キャプテン)とか想像してくれればいい。

 ツリ目ヤベェ。俺もだけど。

 

 俺は顔付きは母親似らしいのだが、それ以外は父親から受け継いでいる。

 事実アスナとこのかで、公園にて遊んでいる時にイチャモン付けてきた上級生を眼の威嚇だけで退けられた事がある。

 

 母親の名前は水原観月。

 おっとり且つしっかり系の、我が家のヒエラルキーのトップに君臨する専業主婦。

 整った中性的な顔立ちで紺碧の髪に赤い瞳、北欧系のハーフらしい白い肌。

 ぶっちゃけ金色の目とか前世では有り得なかったが、この世界はオレンジやら青とかも居るから違和感が無いのだ。

 

「丁度一ヶ月後は春休みだ。問題は無いだろ?」

「旅行自体は三日程度だから、皐月さんが友達と遊ぶ時間はキチンとあるから安心してね」

 

 安心してねっ、ね、ね…………。

 

 

 

 

 

 

「────との事なんだけども……どうしよエヴァ」

「わ、私に聞くのか!?」

「だって師匠ォ、俺をフルボッコにするスケジュール組んでんのエヴァなんだし。あ、コレ酒ねチャチャゼロ」

「ケケケ。サンキューナ」

 

 狼狽えんなロリ。

 何でそんなに狼狽えてんだろう? 

 

「アレ? もしかして一緒に行きたかった?」

「そっ、そんなことはない! それに日本の京都や奈良でもないアイスランドなど、厭きるほど行っておるわ! それを……」

「ケケ。ゴ主人最近オマエガ早ク来ナイカ、ソワソワシテルグレェ楽シミニシテルカラナ。寂シインダロウゼ」

「ななななな何言ってやがるこのボケ人形!!!?」

「口調変ワッテンジャネェカ」

 

 あらヤダこのロリカワイイ。

 そんなロリよりチビな俺はショタなんだけども、最近漸くキチンと気の強化とか出来る様になったから忘れるんだよなぁ。

 しかしそれでも某忍者漫画のアカデミー生より少し上辺りなので何とも言えないが。

 チャクラ、恐ろしいモノよ。

 

「まぁ、なんだ。今度俺も変態(アルビレオ)に頭下げるからさ、呪い解いて貰おうや。そんでカラオケでも行こ」

「違うと言っているだろうバカ弟子! 何だその気の使い方!?」

 

 閑話休題。

 

「一応魔法発動体はくれてやる。鎖を遣るから首から下げておけ。魔力制御の鍛練はやっておいて損は無いからな」

「指輪型とか胸熱。つっても一ヶ月後だから今から急いで用意しても、ぶっちゃけ旅行自体は三日程度だからアレなんだが」

「それもそうだな。では早速虚空瞬動でも覚えて貰おうか」

「えー……。瞬動この前覚えたばっかりなのにナニその無理ゲー」

 

 こうして俺はこの日も、エヴァンジェリンの別荘でいじめという名の鍛練を受けた。

 

 

 俺はこの時、思い違いをしていた。

 それは仕方の無い事なのだが、しかしその思い込みは致命過ぎるほど致命的だった。

 この海外旅行を行くか行かないかで俺の人生は大きく変わってしまうのを、俺はこの時皆目見当もつかなかった。

 ネタ風に言えば、こうだろう。

 

 

 

 

 

 

 ──────────『一体何時から、この世界が「ネギま!」だと錯覚していた』────? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一か月後、アイスランドにて未曾有の大災害が発生。

 春休みが明けても、俺は学園に帰って来なかった。

 

 




ようやっと次回からはカンピオーネ要素が入って来ます。
まぁ、次は短い閑話ですが。


修正点は随時修正します。
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