第三十五話 魔法生徒ネギま!
麻帆良学園。
ウェールズのメルディアナ魔法学校の校舎とさえ比べ物にならない規模のまさに都市、その一校舎の教室の一つに、僕────ネギ・スプリングフィールドはやって来ていました。
教壇の上で、優しい表情で僕を見守ってくれている瀬流彦先生がいるけど、そんなことより目の前の沢山の視線に、僕は串刺しにされている。
「やはりショタ……!」
「世間的にはまだ俺らもショタだろーが」
「赤毛眼鏡で将来有望イケメンとは……、裁定の必要性があるか精査せねば」
「うむ。場合によっては惜しい気もするが、あの幼い命ここで散らす必要があろうな」
「マジで飛び級とか、二次元限定じゃなかったかー」
「あれが噂の────」
「パンツはボクサーかブリーフか。はたまたトランクスか」
「身内に姉が居るかどうかである。義理ならば名誉信者の栄光を授けられよう」
「実際居て美人だったら?」
「嫉妬に狂う」
「──────オイお前等、静かにしろ。固まってんだろ」
その言葉で、ザワつきながら探るような視線を向けていた彼等が一斉に黙り込み、俯く様に視線を落として姿勢を正す。
す、すごい……魔法みたいだ!
「えー、皆には事前に伝えてあるけど……彼はイギリスから飛び級留学してきた英才だ。多分学力では下手したら僕より上だから、年下だと侮らないように。できるだけ同い年として接してあげてね」
「ネギ・スプリングフィールドです! よろしくお願いします!!」
精一杯の挨拶に、しかし彼等────2-Dの人たちは先程拘束呪文を掛けられた様に微動だにしない。
ここまで無反応だと思わず涙が出そうになるが、その前にもう一度声が響く。
「拍手。喝采しろ」
『ォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』
まるで何かに駆り立てられる様に叫ぶ、先ほどから彼等に魔法でも掛けているのかと、思わず此処には無い父さんの杖を手探りしてしまう。
ネカネお姉ちゃん、おじいちゃん、アーニャ、タカミチ、父さん。
果たして僕はここで上手くやっていけるか。
とても不安です。
第三十五話 魔法生徒ネギま!
事はネギ・スプリングフィールドの麻帆良学園編入から数か月前。
英雄の息子の編入にあたり紛糾したのは、麻帆良学園管理下にない勢力への対応であった。
即ち、神殺しの魔王への
そもそも魔王である皐月は、正史編纂委員会の総帥。
下手に問題を起こせばどうなるか。
関西との全面戦争、であった方がまだマシである。
その前に魔王の、その庇護下に在りしかも相性や状況次第では上位最強クラスにも匹敵する少女たち────より具体的には、アカリが
結城夏凛────
その大半を魔法使いで構成された麻帆良の戦力で、アカリと相対できるのは京都神鳴流剣士の葛葉刀子のみ。
それも態々馬鹿正直にアカリが真正面から戦った場合。
彼女の『殺人術』は暗殺や謀殺も含まれている。
それ以前に、アカリが刀子との戦闘を避け、他の戦闘員全員が殺された後では、そもそも戦意が失われるだろう。
刀子は関東魔法協会に対し、職務意識以上に忠誠や執着を抱いていない。
彼女が関東に来る切っ掛けであった男性と離婚する前なら別だったかもしれないが。
そんな彼女が苦戦した、サラッと2-Aに編入した結城夏凛も彼等(正確に言えばその一員である雪姫)に下っている。
最強クラスで構成された羅刹王の従僕達の総戦力は、英雄『
そこに神殺しの魔王が上乗せされれば、関東魔法協会の壊滅は必至である。
そんな恐ろしき集団だが、しかし翻れば味方になればこれ以上ない頼もしい存在である。
では、今回ネギ・スプリングフィールドの修行内容に話が移る。
「修行場所は麻帆良学園」
それは前提であった。
理想的な教育環境は完全中立国のアリアドネ―独立国だが、それを行えば流石に元老院が口を出すだろう。
メガロメセンブリアに不都合な事実を学ばれたら困るからだ。
かと言って元老院の息の掛かった場所でなど、幼く純粋培養であるが故に何色にも変わりうる英雄の卵ともいえる彼を都合の良い傀儡にされてしまう。
何せ元老院は『完全なる世界』の傀儡にされていたころを含めれば『紅き翼』を大戦時に一度、そして自分達の戦争犯罪全てをネギの母親であるアリカに濡れ衣を着せ処刑し、そして彼女を救われたが故に二度目の指名手配している。
一度目は仕方ないとしても二度目は完全に保身の為。
どのような洗脳教育をされるか分かったものではない。
故にメガロメセンブリア本国の影響下にあり、かつ比較的にまともな思想で修業ができる環境は、麻帆良学園しかなかったのだ。
なので、ネギにとって重要なのは場所であり、課題内容ではない。
そもそもネギには魔力暴走こそ致命的な欠点ではあるが、その才能は破格そのもの。
ならば余程異常な修行内容でなければ問題なくクリアできるだろう。
そう、考えた。
ならば今のネギにないものを得る、与えられる修行内容にしようと。
では、今のネギが無いモノとは?
無論色々ある。
戦闘経験を筆頭に、これといった功績は無い。
他にはそう、パートナ────
恋人と同義とされえるこの従者は、非常に重要なものの一つだろう。
英雄の卵に相応しい存在を選ぶのだ。
そんな老人達の取らぬ狸の皮算用が次元の彼方にカッとんだのが、神殺しの魔王『炎の王』瑞葉皐月の存在である。
神楽坂明日菜を筆頭に、ネギに相応しい(と勝手に考えていた)少女たちがものの見事に身内として囲われ、伸び伸びと老人たちの手に負えない程成長していったのだ。
彼女たちは勿論、もし宛がう様に何も知らない少女をネギといたずらに、下種の勘繰りのように近付けようとすればどうなるか。
平穏に過ごす一般人を、良くも悪くも平穏とは程遠いかもしれない道に引き摺り込もうとすれば、どうなるか。
『──────胸糞悪い』
最悪、その一言で全てを灰燼に変えられるだろう。
老い先短い老人が燃え散るのは兎も角、
それだけはあってはならない。
では、何が与えられる? 何か配慮できないか。
恐るべき絶対強者、人類の代表者たる神殺しの魔王。
そんな彼の庇護下に入る、あるいはそんな魔王との平和的な交流。
それに行きつくのは、ある種道理というものだった。
◇
ネギ・スプリングフィールドの麻帆良学園の生活は忙しくも楽しみに溢れていた。
「ネギ君、当たり前じゃが基本的に魔法は使用禁止じゃよ」
「え?」
学園長との会話に、彼が呆然としてしまったのは致し方ないことだろう。
別に校舎内で中級魔法をぶっ放す様なことを考えていた訳ではない。
学園長が指摘したのは、ネギが常時行使している肉体補助用の強化魔法である。
何せ魔法使いにとって魔法とは当たり前に傍らに存在するもの。
現代人に対して「携帯とネット禁止ね」といえばどうなるか。
大変不自由することは間違いないだろう。
ネギは日常的に魔法を使用していた。
魔法の秘匿が殆ど必要ないメルディアナ魔法学校では、杖で飛行しても問題ではなかったのだ。それどころか全身に強化魔法を使用し続けている。
無論戦闘用の『戦いの歌』のようなモノではないが、それでもソレを解除した素の状態が日常生活にぎりぎり支障が出ない程の貧弱さ、と言えばネギの魔法依存の度合いが分かるだろう。
しかし、そんなことが気にならないほどの問題が発生した。
「ハックションっ!!」
くしゃみによる魔力暴走。
それが『武装解除』として周囲に撒き散らされたのだ。
不幸中の幸いに男子校舎内で野郎の汚い下着が晒されただけで済んだが、学園側の受けた動揺は凄まじいものだった。
魔王の怒り以前に、魔法の隠匿段階の問題である。
旋風程度なら兎も角、下着一丁にするのは誤魔化しが効かない。
ネギは即座に呼び出され、その魔法技術の再確認が行われた。
飛び級の主席卒業者がどうなっている、と。
発覚したのは、年相応な世間知らずではあるが基礎魔法は超が付くほどの天才で、一部の高等呪文まで取得。
そしてくしゃみによる魔力暴走だけが問題という、何とも奇妙な結果であった。
げに恐ろしきは、もし魔王という細心の注意と配慮を向ける必要がなかった場合、自分達はどうしていたか。
魔法学校と同様に彼の欠点を見逃していたのではないか。
魔法先生たちは、魔王に対し必要悪という言葉を浮かべた。
別に魔王は存在そのものが悪という訳ではないが(法治国家にとっては害悪)。
以降、ネギの中指に指輪が嵌められている姿を見ることが出来た。
放課後の魔力制御の訓練以外で魔力の制限のための拘束具である。
新しい、或いは正しい環境で色々と苦労しているが、その顔には笑顔があった。
単純な勉学に関しては欠片も問題ではない。
精々保健体育が体格と魔法依存の貧弱さから苦労しているが、そこは周囲のクラスメイトがフォローしていた。
そこに嘲りや見下しは無い。そもそも年下にそんなことをすれば情けないこと極まりない上、麻帆良学園には幸いそういう気質の人間は少ない。
仮に居たとしても、そういう人種は『中等部の魔王』が間引いている。
なのでそういう『情けない事』をしない理由は、暴君を恐れてのことでもある。
もっとも、それ以外の勉強でネギから教えを得ているので、そもそもそんなことは起きないのだが。
「ケイゴさんって、英語できないんですね」
「ひでぶっ」
とはいえ、逆にネギ自身が不適切な発言もある。
所詮数えで十歳。形式上の敬語は兎も角、情緒的な発言で粗がない訳が無い。
そういう時はやんわりと、しかし悔し涙を流しながらしっかり周囲が注意をしている。
少なくとも、其処で逆上する生徒は魔王直下であるこのクラスには存在しないからだ。
そして、明確な客観的正論には素直に反省、改善を務めることができるのが、ネギ少年のデキの良さを示しているのだろう。
大戦の英雄と災厄の魔女の息子。
そんな肩書きを持つ、将来英雄にと望まれる少年の麻帆等学園での学校生活は、学園生活に限っては、しかし特筆すべき点は無かったのだ。
◇
「──────みたいな感じ」
「何だ、つまらん」
別荘の城内、中でも絶景を一望できる一室で扇情的なドレスを着た雪姫が、皐月の言葉に不満そうにワインを傾ける。
「ナギの息子と言うのならば、生徒を病院送りにするのを想像したから対策を練っていたのだがな」
「魔法学校中退のヤンキーと飛び級で卒業した優等生を比較するもんじゃありません」
学園生活では魔法を封印されたネギ少年の印象は、賢い子供程度の物でしかない。
そもそも封印された原因が魔力暴走によるものだから、どうしようもないのだが。
正直ラブコメ主人公を男子校に突っ込んだら、という感じだ。逆にラブコメイベントが発生した方が問題極まる。
加えてネギ君のスケジュールは中々に密度が高い。
放課後はそのまま魔力制御や魔法の鍛練に移行するのだから、ラブコメする相手はそれこそ女性教師に限られる。
その年齢差は原作のヒロイン達とのソレの比ではない。
もし仮にそんなことになれば、普通に女性教師側から逮捕者が出るだろう。
よって彼の男子中等部におけるラッキースケベは完全に封じられていた。
中盤からの技能も思考もバトル漫画に移行した(作者さんは狙っていたらしいが)ネギ君ならまだしも、天才という素養こそ有れど今は鍛練時以外魔法さえ使えない少年だ。
そんな彼が何らかの騒動を起こすのは不可能に近い。というかさせないが。
「お前自身はそこまで接触している訳ではない様だが」
「あぁ。その通り、知人ではあるが友人とは呼べない距離だよ」
バカ共の抑制の為にちょいちょい口出しこそすれ、クラスの連中も一度言えば理解できる。
であれば、無理に接触する理由はない。
無論、無理に疎遠になる理由もないが。
「一空が一番仲良さげなのは、超の差し金かね」
「さて、あの娘にこれ以上いらん事をする蛮勇があるとは思えんが」
一応、例の野郎剥き事件以降、魔力の封印具のお蔭かくしゃみによる暴走は起こっていない。
故に学校での彼の評価は『頭は良いがまだまだ子供』でしかなかった。
良いことではあるが、父親である魔法高校中退の英雄を知る雪姐にしてみれば拍子抜けしたのだろう。
「
「放課後や休日に魔法の修練を教わっているらしい……あの騒動で相当揺れたようだが、今のあの坊やの評判はそう悪くない」
おおよそ予想通りの返答が返ってきた。
元より英雄の息子という色眼鏡は拭い切れず、その上愛想良く素直で、天才ゆえに魔法の習得が頗る早ければそりゃ評判もいいだろう。
「私が詰まらんと思ったのは、あの坊やの弱さだな。てっきり極大呪文の一つも使えると思ったのだが」
「比較対象が悪いぞー」
片や極大呪文を乱射し馬鹿げた魔力のセンス、身体強化で帝国を蹂躙した赤毛の悪魔。
片や悪魔により啓蒙を刻まれ、魔王と伝説の魔法使いに鍛え上げられた金髪の殺人者。
おそらく蝶よ花よと育てられた英雄の卵と比べるのは、余りに酷だろう。
(まぁ、地雷が無い訳がないが)
原作でも多く言及、描写されていたが、彼の適性は負。
父親を追い求めつつ、故郷を滅ぼした
「そういえば」
「うん?」
酔いが回ってきたのか、赤みに濡れた頬を緩めながらワインを煽る雪姫が、俺のつぶやきに反応する。
「ネギ君とアカリって、もう会った?」
それはあからさまなまでの、明確な地雷であった。
うーん短め。原作主人公ということで慎重に為らざるを得ず指が進まず、申し訳ない。
今回はサラッと編入学した夏凛やネギ君の学生生活と大人の思惑でした。あんまり展開動いてないね!
原作でも修行条件の設定が妖精任せだっけ? あれこれ二次設定だっけ? と大いに混乱し、存在を無かったことにしました。
ちなみに罵倒される為だけに登場したオリキャラ浅田圭吾君。
キャライメージはブリーチの一護のクラスメイトの彼です。
よくわからん皮膚病のため初めて局部麻酔で手術を受けましたが、術後一週間程度で抜糸前に傷口が開くわ再度縫合時の麻酔の効き目が弱くのた打ち回るわと色々ありましたが、おかげで大阪地震もすっかり過去のことに。
なんて気を抜いていれば数十年に一度の大雨到来。
停電するわ恐怖の電車の全休が今回の大雨で再びやってきて、本当に辛かったです(前述故に距離を歩くのが)
川の増水や土砂崩れなど、この作品を読んで頂いている方々も本当に気を付けてください。
さて、次回はアンチされる事に一寡言ある初期ネギ君とアンチ主人公の権化アカリの、麻帆良での初会合を予定しています。
がFGO二部二章開幕に三周年イベ、EXTRA LastEncoreイルステリアス天動説とイベント目白押しです。
果たしてまともに執筆できるのか!?()
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いつも有難うございます。