魔王生徒カンピオーネ!   作:たけのこの里派

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第二十六話 千雨のターン!

 ────私、長谷川千雨はごく普通の女子学生である。

 

 そう、胸を張ることが何れだけ貴重で大切なのか。私は私が通う校舎に向かいながら目の前の光景と自身のクラスメイトに思いを馳せる。

 一学校と言うには余りに広大な敷地に、敷地内に存在する小島の図書館。ギネスを易々と塗り潰すほどの巨大な大樹。

 そもそも登校時に視界が学生の登校ラッシュで覆い尽くされる時点でオカシイ。

 

 その規模はマンモス校を喩えに出すならば、この麻帆良学園はベヒーモスだ。

 学園都市などと言われるだけはある。

 キチンと調べたのは初等部の頃だからかなり曖昧だが、治外法権さえ得ていた筈だ。

 

 さて、次に語るのはそんな麻帆良学園に通う生徒達。

 と言っても私自身この学園に通って居るわけだが、先に述べたように私は普通の女子学生だ。

 少なくとも、オリンピック選手の顔色が青褪めるような身体能力を持ってはいない。

 

 そう、逆に言えばそんな漫画チックな超人がこの学園には多々存在しているのだ。

 そんな超人が、私のクラスメイトに多々存在しているのだ。

 

(────と言うよりかは、意図的に集めた様に感じるが)

 

 私の所属している女子中等部2-Aは、そんな超人達を態と集めたかのような魔窟と化している。

 

 年齢から考えれば明らかに何等かの病気か栄養失調の末の疾患かと思わしき幼さ、低身長の同級生から、一児の母と見紛う程の母性と成熟した外見の同級生。

 明らかに忍者の如き言動と能力を有する者から、現代科学に喧嘩を売っている天才眼鏡。

 それだけでなく留学生も多く、大学生の屍山を形成する拳法の達人と幾度もの戦場を潜り抜けたかの様な傭兵の如き風格のこれまた学生離れした外見の褐色美女。

 そして拳法少女には武人としては劣っているが、そんなものが霞むほどの完璧超人さを見せる前述の天才と並ぶ頭脳の天才留学生。

 

 特に頭脳特化の二人が原因で麻帆良学園内だけで技術革新が起こっているのは、テレビ等で見るそれらと比べ遥かに高スペックのロボットやドローンを、彼女達が入り浸る大学部で日々造り上げている様を見れば瞭然である。

 

 そんな彼女等には劣るものの各分野で一流の資質を持っている人間ばかりが、意図さえ感じられる程集まっているクラスだ。

 そんなクラスに、精々容姿が優れている程度の私が居ることに極めて遺憾を表明したいのである。

 

 だが理不尽な現実は如何ともし難く、何時ものように一人部屋の女子寮から学校の教室に到着した。

 相変わらずばか騒ぎ極まるクラスメイトに眉間にシワを作りながら自身の席について────その異変に、気が付いた。

 

 千雨の席は中央右の最後尾、必然教室全体を見渡せる。

 そんな彼女の視界に、有り得ない者が映った。

 

「誰だ────アレ」

 

 中央右列の前から二番目の席に、見たこともない生徒が座っていたのだ。

 

 白髪に陶器の様な白い肌。

 色素が抜け落ちたかの様な髪色の生徒など、彼女は知らない。

 だがその後ろ姿に、中等部に上がり男女別となったことで会う機会が減ってしまった幼馴染みにして想い人の自称家政婦が、何故か重なった。

 だがそんな既視感よりも、彼女の座っている席に気を取られた。

 

(彼処は……宮崎の席だったよな)

 

 宮崎のどか。

 この超人学級、あるいは箱庭学園の13組と形容できるこのクラスに於いて、かなり常識的な人物の一人である。

 引っ込み思案と恥ずかしがり屋ではあるが、寧ろ野郎共には受けるだろう。

 加えてその長い前髪と大きな眼鏡で隠れているが、その実かなりの美少女である。

 まるで乙女ゲーや少女漫画の主人公の常套染みた少女。そんな彼女の座るべき席。

 

 それを我が物顔────と言っても千雨の場所からは顔は見えないが、それでもあんな漫画に出てくるような真っ白い後ろ姿を、本来その席に座る筈の宮崎のどかはしていない。

 

 そんな違和感と思考に没頭してしまっていた最中、謎の少女に話し掛けたのは隣の席の和泉亜子。

 これまた色素の薄い短髪のクラスメイトが、千雨にとって理解不能な会話をしていた。

 

「なーなー。のどか、眼鏡かけてたっけ?」

「────えぇ、そうですね。少し視力が落ちてきたみたいでしたので」

『────────────』

 

 ────あぁ、久し振りに来たな。と、思わず伊達眼鏡を外し、目元を指で揉む。

 

 千雨が久方ぶりに感じる、この齟齬。

 認識の乖離と言うべきだろうか。

 自分一人だけが世界から弾き出されたかの様な、強烈な疎外感。

 

 だがこんな物は慣れたものだ。 

『彼』と出会う前ならば堪えられたか解ったものではないが、今の自分は『自分が間違っていない』と胸を張ることが出来る。

 この程度でSANチェックしようものなら、一年前の外道共にコスプレ趣味を想い人へバラされたあの時に直葬しているというもの。

 

 というより、訳知り顔の彼から『種も仕掛けもあるから大丈夫。まぁ、種明かしはもうちょい大きくなったらな?』と、同い年の癖に其処らの上級生よりよっぽど大人びた助言によるものなのだが。

 いい加減その種明かしをして欲しいものだ。

 

 では、もう一度目の前の光景を再認識しよう。

 

 以前は前髪で意図的に顔を隠していたのだろうか、その両目は確り見える白髪の自称宮崎のどか。

 

(いや、まだ自称はしてなかったか)

 

 眼鏡もフチの無いインテリ風な物で、ブルーライト用なのか薄い色彩が少女の蒼い瞳を彩っている。

 だがそれよりも、その人形の如き無機質な無表情が気になった。

 

「昔の────神楽坂みたいだな」

「私がどうかした?」

「うぉっ!?」

 

 背後から突然掛けられた声にビクリ! とするが、その声色から幼馴染みの者だと判断して恨めしそうに振り返る。

 そこには今まさに呟いた当の本人が、此方を覗き込むようにしている。

 

 神楽坂明日菜。

 オレンジに近い色の長髪を、ポニーテイルにして揺らしている、千雨の幼馴染みの一人だ。

 先程呟いた様に、優れた容姿に無表情が合わさって人形の様な無機質さを見せていたのだが────

 

「……今のお前は、能天気とかキチガイとかのソレだよな」

「私を褒めても何も出ないよ? あ、飴食べる?」

「褒めてないし要らねぇ」

 

 コイツも随分変わったと、呆れた視線を向けてしまう。

 一体誰に影響を受けたか丸分かりの所作である。

 

「キチガイと聴いて」

「お嬢様!?」

 

 そんな神楽坂の隣から、彼女同様の幼馴染みである近衛このかと桜咲刹那の声が聴こえる。相変わらず桜咲は苦労人しているんだなぁと、大和撫子の面をしたキチガイその2を眺めながら哀れみの視線を返してやると、泣きそうな顔して「皐月さん助けてくださいッ」と机に突っ伏していた。 

 

「で? 私がどうかしたの?」

「……あー、アレどう思うよ」

 

 それは、唯一己を信じてくれた想い人と同じくらい長い付き合いになる幼馴染み達へ千雨なりの助けを求めるメッセージだった。

 

 もし彼女達が周囲と同じならば、あの白髪の少女を宮崎のどかだと認識して返答するだろう。

 仮にそうだったとしても、違和感の無い問いだ。

 だがもし、彼女達が自分と同様に違和感を感じることが出来るならば、彼女達がこの学園と想い人の秘密への糸口になるのでは無いかと。

 何より、彼女達が自分と同じであって欲しいと願って。

 

「アレ? あぁ、暫定のどかのこと?」

「……………………暫定?」

「うん。魂が納められている以上、のどか本人に違いないんだけど」

「逆沼の男(スワンプマン)みたいな感じやな。魂という何より本質を示す証拠があっても、記憶も人格も記録になってしまって実感無い、みたいな? 

 果たしてその状態でのどか本人だと言えるんやろか────みたいな感じやったね」

「そこら辺は経過観察しか無いって、サツキも言ってたし」

「尤も、夕映はSANチェック失敗したみたいやけどなぁ」

「精神分析持ちは私達の中には居ないもんね」

「────オイ」

「ぬもっ」

「ぶむっ」

 

 先程から世間話のように核心を、小声とはいえ、ペラペラ喋っている近くのアホ共の頬を鷲掴みにして黙らせる。

 チラリと教室を見渡すと頭を抱える桜咲と飄々としながらも見たこともないような鋭い視線を此方に向けている忍者。

 笑いを必死に堪えている褐色年齢不詳女など、何人かが其々の反応を見せていることを千雨は理解した。

 

「説明────しろよな?」

「「アッハイ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二十六話 千雨のターン! 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ネタバレタイムに入ります」

 

 千雨の『にらみつける』を受け続けたアスナとこのかは、放課後にそんな事を言って千雨を連れ出していた。

 

「……コイツも付いてくるのな」

 

 学園内を歩きながら、千雨は数歩後ろから付いてくる白髪眼鏡の少女を見る。 

 先導するアスナとこのかに同行するのは刹那。

 白髪の少女を除けば、所謂いつものメンバーである。

 尤も本来はここにクラス委員長である雪広あやかやアカリが追加されるのだが、今日は珍しく欠席である。

 

「何処向かってるんだ?」

「本当はエヴァのログハウスなんだけど、それは寄り道してから」

「寄り道?」

「そやで。SANチェック失敗したみたいな夕映を拾ってからや」

「まさかお嬢様、追い撃ちを!?」

「千雨なら精神分析出来るかも思てね。てか、夕映にはまだなんも説明してないやん」

「綾瀬? アイツがどうかしたのか?」

「ちょっとね」

 

 突然出てくる、雪広やアカリ同様に欠席だったバカレンジャーと呼ばれる赤点常連四人衆の一角。

 頭は良いのにソレを勉学に向けない天才、バカヴァイオレットこと綾瀬夕映。

 確かに某真っ赤な館の図書館に居そうなレベルの本好きだが、彼女がどう関わっているのだろうか。

 

「それで、コイツは一体何なんだ?」

「千雨って、伝奇もののラノベとか読む?」

「あん?」

「魔術とか呪術とか。陰陽やら妖怪やら出てくるのとか」

「何を今さら」

 

 クラスメイトには秘密だが、千雨が隠れオタクなのは幼馴染みの彼女達なら知っている事である。

 勿論オタク(それ)が万人受けしないことを知っていながら、ソレを笑って受け入れてくれた彼女達に対しての感謝の念が気恥ずかしく顔を背ける。

 

(…………え?)

 

 ────そんな時、千雨は騒がしたがりの麻帆良学園の学内にも拘わらず余りにも静かな周囲に漸く気が付いた。

 正しく異常な、それこそいつも異常だと感じていた日常さえも平穏と感じてしまうほどの非日常が、その鎌首を(もた)げていた。

 

「……ッ」

「正直、どのタイミングでネタばらしするか困ってたんだ。サツキは変に責任感強いから結構悩んでたし」

 

 幼馴染みの声が、得体の知れないイキモノの様に聴こえる。

 同時に、小さく何かを呟いたと思ったら、アスナの手の中から惑星の様な装飾が柄にある身の丈を越えるほどの大剣が出現し、自重と重力に従い地面に突き刺さる。

 

「な────」

 

 その変化は他の少女たちも同様で。

 

 巫女装束に姿を変えたこのかの手には、鮮やかな音色の弦音を響かせる和弓が。

 宙を舞う刹那の背中からは、怪異の証たる純白の両翼が広げられていた。

 現実味が色褪せて感じてしまうほどの異常な彼女達は、ソチラ側からやって来る千雨を歓迎しているかのようだった。

 

「百聞は一見にしかず────という訳やな」

「突然で申し訳ありません」

「…………………………………………………………………………っ」

 

 思考が止まりそうになるのを必死に堪える。

 異常異常だと口にしては居たが、常識はずれ処かファンタジーが傍に存在したとは思わなかった。

 よくよく考えれば、学園長の後頭部はぬらりひょん並に異様なのだが。

 

「……何時からだ?」

 

 必要なのは平静と情報だ。

 だから暴れる心を捩じ伏せて質問した。

 一体何時からそんなファンタジーになったのか、と。

 

「私はまぁ、たぶん生まれた時からだから」

「私は烏族と人の混血ですので、そういう意味合いならば私もですね」

「ウチは実家が、所謂そっち系の名家やってな。素養が無駄にあったせいで下手したら人形扱いされそうなのを、お父様がウチを護るために京都から離れさせて、何も知らんでここでパンピーしてたんやけど、それも初等部の年少辺りでバレたって感じやな」

「……つまり私と初めて会った時には、殆ど既にソッチ側だった訳だ」

 

 意地の悪い事を言っている自覚はある。

 だがこの学園がファンタジー世界の住人の巣窟と言うのならば、数々の常識の差異は自分達の秘密を隠すための措置だと考えれば理解できる。よくある設定だ。

 だが、感情が納得しないのは仕様がないだろうと千雨は内心自己弁護した。

 そして同時に疑問が出てくる。

 

「何で、私だけ」

「んー、認識阻害については千雨自身の魔法抵抗力が元々高かったからとしか言いようがない。というか一般人の出からすればスゴいよソレ」

「とは言え、千雨さんには酷な話ですが」

「ちなみに認識阻害自体、世界樹の自己保存の為の手段の一つやから、学園側も利用しとるだけで黒幕とかや無いで?」

「なんだ、ソレ」

 

 思わず空を仰ぐ。

 千雨が苦しんだ周囲との差異は、偶々とかそんなレベルの物でしかなかったのだ。

 

「……今度世界樹殴ってくる」

「なんや世界樹にはガチモンの神様居るから、程々にせんと祟られるで?」

 

 ド畜生。

 そんな叫びが人気の無い通学路に力なく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 女子寮に到着した千雨は、しかし寮内に入る前にアスナ達に留められた。

 疑問符を頭に浮かべていたが、猿轡で言動を封じられ布団で簀巻きにされた夕映を抱えて寮から出てきたキチガイ二人を見て、思わず携帯を取り出す。

 

「ストップ千雨」

「いや、事案だろ」

「合意の下の拉致は合法やから。ただのプレイやから」

「ん────ッ!? ン────!!!!」

「拉致っつったよなオマエ」

 

 そんな犯罪現場に於いて尚冷静にソレを眺めている暫定のどかを見た夕映は、土気色と言えるほど青褪めて大人しくなっていた。

 暑苦しい状況なのに、明らかに震えている。

 

 この真っ白け少女の存在はどうやら彼女が関係しているのだと分かったが、余りにも怯えているのでソレを口にするのが千雨には憚られた。

 なので犯罪者過ぎる幼馴染み達を見て、次に自分と共に待機していた白目の刹那を流し見る。

 

「皐月さん……早よぉ来てぇ……っ!」

 

 どうやら常識人はぽんぽんが痛くなるらしい。

 このキチガイ二人を普段抑えている皐月はどんな神経をしているのだろうか。

 

「…………」

 

 恐らく話の流れ的に、彼もファンタジー────所謂裏の人間なのだろう。

 彼に恋慕を抱いている千雨にとっては中々の衝撃である。

 

 無論隠し事の一つや二つはあるだろう。

 この年頃の男女だ、寧ろあって然るべき。

 事実早々にバラされていたとはいえ、コスプレ好きを隠していたから本来どうこう言う資格は無いのだが。

 

「なぁ桜咲、何で皐月はその、『そういうの』を私に話してくれなかったんだ?」

「うぷっ……? ────それは、皐月さんも悩んでいました」

「……悩んでいましたって、なにを」

「貴女は、裏の事情の被害者で異常であることを嫌悪していました。何より精神不安は、それこそ皐月さんが見逃せないレベルだったと聞き及んでいます」

 

 成る程、と千雨は頭を搔く。

 周囲と常識との解離から来る不安と恐怖。

 そして起こった差異によって発生する排斥で、当時の千雨の精神は不安定だった。

 少なくともそれを支えた皐月に容易く依存しきってしまう程に。

 そんな千雨が依存相手である皐月に、いきなりファンタジーをポンと出されたらどうなるのだろうか。

 

「隠し事をすることの後ろめたさは私も良く解ります。ですので、何か切っ掛けがあれば、と」

「あー、つまりソッチなりの配慮だった訳か」

「尤も、少なくとも中高生になるまでは、と皐月さんは考えておられましたが」

「……そっか」

 

 顔を半分掌で隠しつつ、簀巻きを背負って突き進むアホ共を見ながら自身の不徳を自覚する。 

 彼女達や彼の配慮に、顔が熱くなる。

 

「そう言えばお前ら、私なんかに構う程にはお人好しだったな……」

「フフッ、千雨さんも大概ですよ」

「うっせ」

 

 そんな、ドナドナを歌いながら突き進むアホ共に続く千雨達を、のどか(人形)の無垢な視線は不思議そうに見詰めていた。

 

 そんな彼女達が周囲の奇異の視線を浴びながらも、とある少年を中心に集まる場所としてはお馴染みとなったログハウスに着いたのは、そう時間は経たない内だった。

 そんな馴染み深い場所も千雨にとっては万魔殿の如く禍々しく見えるのは、やはり錯覚なのだろう。

 ちなみに、夕映はもがくことが無意味であると悟ったのか、少し前から抵抗を止めていた。

 

「というか、ここ皐月────それとエヴァンジェリンと雪姫先生の家じゃ……」

「アレ? 二人が同一人物だって言ってなかったっけ」

「はぁッ!?」

「アレやよアレ、ファイヤーシスターズ実戦担当に対して振る舞った元怪異の王的な年齢変化的なスキル持ってるんだよ。エヴァも同じ元吸血鬼だし」

「……確かに、初等部の時にバラされたらヤバかったな」

 

 そう言えばあの二人が一緒に居たところを見たことがなかった。と、本気で己が節穴だったのではないかと思い始めながら、ログハウスの入り口の取手を見詰め手を伸ばす。

 

「あっ、千雨ちょい待ち」

「え?」

 

 ソレをアスナが止めた。

 何事か、と千雨は身体を硬直させるが、アスナは取手ではなくその横にある複数の鍵穴の一つに()()()()()()()

 

「なっ」

 

 ガチャリ、と彼女の指が鍵の代わりだと言わんばかりの音が鳴り、そのまま躊躇なく扉を開けた。

 

「何処でもドアかよ……」

 

 扉を開けた先には、常夏の砂浜が広がっていた。

 燦々と照り付ける太陽と、透き通った海が覗く小島から見える巨大な塔が、その存在感を見せ付けていた。

 しかし、千雨と夕映の目を引いたのはそんなファンタジーめいた別世界────ではなく。

 

 

 

 

 

「あぁアスナさん。丁度良かっガフッッ少し困ってましベチャッこれをほどいて頂けガハッ」

『────────■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!!』

 

 

 

 

 ソコには原初のルーンを始めとした様々な術式が刻み、編み込まれたロープでしこたま縛られた男。

 そんな男が、ただそこに在るだけで周囲を圧砕する程の呪力を纏っている、銀色の巨狼に引き摺り回されていた。

 

「────、は?」

 

 というかアルビレオ・イマだった。

 同時に、その処刑を眺める者たちが目に入る。

 

『ギャハハハハ! ザマァ無ェナクソ野郎!!!』

「皐月、速度が足らんぞ」

「我は終える者ww世界の災厄www終末を為す獣を生む狡知の化身なりwwwww」

「茶々丸さん、これは何という処刑方法ですか?」

「見たままかと」

 

 緊張感など、最早無かった。

 

 

 




ようやっとかけた…

 まず千雨の認識阻害云々ですが、麻帆良学園って認識阻害の結界でも無いとオカシイぐらい異常なんですよね(イマサーラ)

 しかし学園結界は兎も角、明確な認識阻害云々の描写って、人払い以外実は原作に無かったりします。
そして学園結界の内容は、高位の魔物の強烈な弱体化です。
原作におけるエヴァがこれの影響を受けていましたね。ですが、認識阻害とは明言されてはいません(たぶん) 
 認識阻害云々は魔法世界編の眼鏡ぐらいなので、二次創作から生まれたと言っても良いでしょう。
 麻帆良と外部との差異を埋めるのに最も簡単だったのが認識阻害だった訳です。

 本作では世界樹の自己保存の手段という設定にしました。
 本作では世界樹の設定をクロスの影響により元ネタそのまま持ってきているので、それぐらい可能だろ────という学園側に不要なヘイトを向けず、かつ外部との差異を簡単に表現するための判断です。
 ちなみに麻帆良学園の世界樹は本物ではありますが、正確には本物ではありません。
 fateのロンゴミニアドのように、本体ではない、というのが正しいです。
 なので作中で仄めかしている神木の主があの世界にそのまま居る訳ではありません。
 本体は幽世に存在しています。

 そして最後にヘイトを集めまくっているアルビレオですが、生憎と拷問に遭っているのはあくまで原作にも登場した端末です。
 本体は麻帆良最深部の何処かに存在しますが、主人公一行には本体を穏便に見付ける術はありません。
 図書館島の地下を抜けば話は別ですが、流石にそこまでの凶行を行うわけにはいきませんから。
 なので原初のルーンや呪符などで端末が消滅しないようにし、本体に影響が出ないレベルで苦痛を与えるのが限度だったりします。
 図書館島を消し飛ばせ、となるとただの犯罪者というかテロリストですので。

待っていてくれた方には謝罪と感謝を。
修正は随時行います。ホント、いつも誤字報告機能助かります。

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