魔王生徒カンピオーネ!   作:たけのこの里派

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中等部編
第十八話 いじめ、カッコ悪い


 

 

 

 

 

 

 

 ─────中学生。

 義務教育最後の三年間であり、小学校から中学校へ場所そのものを移し新たな環境の変化でもある。

 同時に、それは人間、特に日本人にとって世界で一番馬鹿な時期だ。

 

 反抗期と厨二病が同居し、つまり頭が基本オカシイ。

 ウンコウンコ連呼して爆笑していた段階から一個上に上がった処で、面倒が増えるだけ。

 小学生から中学生となり、自分は大人になったのだと錯覚し、何でも出来るのだと誤認する。

 厨二病は自身を増長させ、社会への反抗という名の親を筆頭とした大人への反抗という遊びをし出す。

 そして人格形成最後の時期。

 

 故に繰り返そう─────。

 

「ウゼェんだよお前!」

「いっつもイイコちゃんぶりやがってよぉ!」

「調子のってんじゃねェよ!」

 

 ドゴンッッッ!!! と、黒髪の少年に暴言を叩き付けていた三人の男子生徒達が、二人の少女によって教室の壁に吹き飛ばされた。

 

「脳味噌がポークピッツにも劣る容量の分際で皐月を罵倒とは。足下から徐々に頭まで斬り潰して、苦痛の中で死ぬのが然るべき罪状」

「然り。アスナさんの言う通りです。王への暴言、極刑に値する。楽に死ねると思うな劣等共」

「お前ら此処男子校舎」

 

 ─────中学生とは、人生で最もアホな生き物なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十八話 いじめ、カッコ悪い 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、皐月一行は魔法世界で創造主の鍵(グレートグランドマスターキー)を発掘。

 そのまま、『完全なる世界』の残党に遭遇することも、メガロの暗部と遭遇することも、某剣が刺さらない英雄に絡まれる事もなく、そのまま魔法世界を後にした。

 

 そこから彼等の数年間は比較的平穏だった。

 

 六年生の時に某狼王がこのかを拐い、集めた媛巫女達を生け贄にまつろわぬ神を招来しようとして、それを阻止しようとした皐月と、神を横取りしようと現れた七人目の魔王である某剣王が乱入。

 結果的に儀式場が焼け野原になる、後に狼王と剣王、そして正体不明の憤怒の炎を纏った魔王による『魔王の狂夜(ヴァルプルギス)』と呼ばれている戦いが勃発したが、それでも五体満足誰一人が欠けずに彼等は初等部を卒業し、無事中等部に進級できた。

 

 麻帆良学園は高校までエスカレーター式。

 大学から選択受験制だが、中等部に進級したことでこれまでとは大きく違う変化がある。

 

「お前ら女子。ここ男子校舎。居るのオカシイ。OK?」

 

 それは、男女分けである。

 

「ルールは破るもの」

「皐月様以上の法などございません」

「アスナは黙らっしゃい。アカリ、俺が法っつンならこのアホ娘連れてさっさと家に帰りんしゃい」

「畏まりました」

 

 女子中等部の制服に身を包んだ、あからさまに日本人離れした容姿の二人の美少女が、皐月の─────というか、先生方の頭を悩ませていた。

 

 鈴の付いたリボンで、綺麗な長いオレンジの髪をポニーテールで纏めた、明らかに他の同期の女子生徒より発育が早い美少女。

 ─────ヒャッハー系無表情型少女、神楽坂明日菜。

 

 もう一人は、かつて短かった金糸の如く美しいブロンド髪は、サイドポニーに束ねるほどに伸びている。

 中学一年生にしては身長が高く、その発育の速さはアスナより上である。

 エヴァンジェリンが正式に養子として引き取った、別荘によって皐月達と同年代まで体を成長させ留学生として編入した、クール系猟犬型少女。

 瑞葉 燈(アカリ・スプリングフィールド)

 

 そんな二人を、皐月は放課後に詰問していた。

 

「というか、このかと刹那は一体何を……」

「このかさんはサムズアップしながら私達を送り出していましたし、このかさんが止めようとしていない時点で刹那さんは抑えられていました」

「雪広は!?」

「他の方々で手一杯な様子でした」

「……」

 

 このように皐月は男子中等部、アスナ達は女子中等部と別れたのだ。

 にも拘らずローテーションの如く、何時ものメンバーが皐月の元にやって来る。

 

 そんな、女子と遊んでる奴。という事に気に入らない連中もいる。当然だろう。

 今の皐月では彼等の精神構造を理解することは叶わないが、しかし『まとめ役ぶって女を侍らせる軟弱者』というイメージだと予想する。

 もしくは『美少女侍らせてるハーレムクソ野郎』かも分からんが。

 

 しかし、例えそんな言葉を彼に直接投げ掛けたとしても、『うちの子達が欲しいだと? だったら先ず養えるだけの安定した収入と財源を用意して、俺を倒してからにしろ』と、何を言ってるのか解らない返答が返ってくるだけだろう。

 

 幸い今のところ授業中に乱入することは無いが、流石にこうホイホイ来られては困る。

 何のための男女別なのだ。

 

 彼女達を帰らせた後に大いに溜め息を吐き出して、皐月は扉の向こうから騒ぎを聞き付けた整った顔立ちの優男教師────瀬流彦に頭を下げる。

 

「すいません先生。身内が迷惑を掛けました」

「そ、そうかい。まぁ大事に成らずに済んで良かったよ。彼等も気を失ってるけど、大した怪我は無いみたいだし」

 

 そう瀬流彦は言っているものの、口端は引き攣っている。

 この教師、実は魔法先生────即ち裏の人間である。

 故にアスナ達が何れ程の力量か、気絶している生徒達を見て朧気に分かってしまったのだ。

 

 そんな彼を尻目に、皐月は目を回している自分に敵意を持っていた生徒達の首根っこを掴み上げた。

 

「保健室に連れていくのかい?」

「いえ、このやり取りが続いて無関係な生徒にとばっちりいかないようにお話しようかと」

「…………えっ」

「それにしつこい様だと、ついイラッと来た拍子に加減間違えて、クラスメイトが再起不能とか、嫌ですし? 俺だけならまだ良いですけど、もし他の誰かが自分のとばっちりなんかで虐められるのは正直気分悪いですし」

 

 虐めとは中学に上がってから激化する。

 小学では仲間外れ程度で済むが、中学では陰湿さが付いて回る。

 今やいじめは社会問題だ。自殺者も出ている以上、馬鹿にすることはできない。

 そしてコレばっかりは無くすことは出来ない。

 教師や学校は全知全能ではない。

 無くす方法は皐月にも、瀬流彦にも解らない。

 故に、

 

「誰か一人が全体に虐げられるより、誰か一人に全体が虐げられる方がマシだ。そう、俺は考えるんですよ────────ククッ」

 

 その類いのまつろわぬ神を殺したが故に、元々非常に整った容姿の少年の表情を、何かのゲームのラスボスの様な瞳に変えて嗤う。

 そんな姿に、瀬流彦はこのクラスで虐めが発生しない事を確信した。

 

 結果、同様の事を繰り返した皐月によって、中等部の支配体制は確立され、付いた渾名が『中等部の魔王』。

 それを聞いた学園長の抜け毛が増えたらしいのだが、これは完全な余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────以上が、今年から警備に参加する魔法生徒です」

「ふむ、なるほどのぉ」

 

 机の上に広げられた書類を一枚一枚確認するように、学園長が手に取りながら言葉を返す。

 彼に書類を持ってきたのは、二十代半場の眼鏡を描けた女教師────葛葉刀子だ。

 

「中等部の子達も警備に参加するというのなら、恒例の顔見せが必要じゃのう?」

「今回は編入生が居りますので、その方が宜しいかと」

 

 学園の警備。

 ソレは、様々な理由で麻帆良に侵入、侵害してくる魔法使いや魔術師呪術師に対する防衛。

 ある者は、図書館島の地下に納められている魔導書や禁書を求めて。

 ある者は世界樹、『神木・蟠桃』を求めて。

 ある者は麻帆良そのもの。即ち関東魔法協会への報復として。

 

 そんな風に、麻帆良学園は様々な理由で裏の人間に日夜襲撃を受けている。

 そんな襲撃を利用して、魔法使いの授業として麻帆良に通っている魔法生徒に防衛という実践経験を積ませる訓練としているのが、麻帆良における『警備』の実情だ。

 

 勿論その際は生徒達に万が一が無いよう、腕利きの武闘派魔法教師が彼等をフォローする。

 そうして、安全な実践という矛盾を保っていられるのだ。

 そしてその警備は、中等部に進学してから参加できる。

 学園長が見ている資料は、参加を許可されるだけの優秀さを持つ生徒のリストだ。

 

「学園長……ご質問宜しいでしょうか」

「フォ? どうかしたかの刀子先生」

「今年の中等部の新入生に─────羅刹王が居る、という噂は本当なのですか?」

 

 緊張と共に、刀子が質問をする。

 

 彼女は元関西、しかも神鳴流の人間だ。

 神鳴流最強の青山宗家には流石に比べられないものの、神鳴流に列なる人間の中では熟練者、プロフェッショナルと呼ぶに相応しい力量を持っている。

 だが、そんな彼女だからこそ。

 まつろわぬ神や神殺しの魔王という、魔法使いならば知り得ない事情を知っている。

 

 この五年間、皐月の魔王としての情報は只管に秘匿されていた。

 勿論日本内では情報が漏洩してしまうのは仕方がないが、少なくとも外国には一切漏れてはいない。

 

 最古の魔王ヴォバン侯爵と末弟魔王サルバトーレ・ドニとの激闘があっても、『炎を纏った正体不明の魔王』という情報しか外部には漏れていない。

 尤も、戦った当事者であるヴォバンとサルバトーレは別だが。

 

 閑話休題。

 

 話を戻して結論だけ述べると、刀子は伝で皐月の噂を耳にした。

 魔王の恐ろしさを直に見たことはないが、まつろわぬ神の脅威は彼女も知っている。

 

 そのまつろわぬ神を殺しうる魔王に、教師として自分が担当していたかもしれない。

 彼女にしてみれば理解不能の状況だった。

 

「それについても、皆にキチンとした説明が必要じゃ」

 

 学園長は引き出しから取り出した資料を刀子に手渡す。

 それには魔王の脅威と危険性の全容が書かれていた。

 

「刀子君、悪いがこの書類を明日に集まる魔法先生、魔法生徒に配り、熟読するようにしてくれるかの。……フム、百聞は一見にしかずと言うしのぉ。彼等も明日の夜の会合に呼んでみるかの」

「これはッ……!! で、では」

「彼等の扱いを間違え、この学園が火の海瓦礫の山になるのは絶対に避けるのじゃ」

 

 珍しく閉じていた目を鋭く開き、最悪の事態を囁く。

 同時に思う。

 爆弾処理の仕事を務めている人間の気持ちとはこんなものか、と。

 

「事前情報を先生や生徒達……特に魔法世界出身の者達には確実に理解をして貰わなければ」

「彼等の中には、ちと正義感が過ぎる者達もあるからのぅ。悪い子達では無いのじゃが」

「無知は罪です。地雷原に足を踏み入れて自分だけが死ぬのなら良いですが、ソレで学園が消し飛べば一般生徒まで被害が出かねません」

 

 本人が聞けば日本の負の代名詞「誠に遺憾である」を発信するであろう扱いだが、一方で万が一にも逆鱗を踏み躙ることがあれば、確かに訪れるのはその身の破滅であるため、致し方ないとも言える。

 力無き正義など畜生にも劣る。

 

 価値観の違いは時に戦争へと発展する程なのだ。それこそ魔法世界という、世界すら違う場所で生まれ育った人間にしてみれば、魔王の全体像を知ればどうなるか。その恐ろしさを何一つ知らない状態で魔王と衝突することは想像に難くない。

 

 眩しすぎる程若い正義感は、容易く問題事の起爆剤に成りうるだろう。

 

 刀子が駆け足で退室していくのを見送った後、学園長は大きく溜め息を付く。

 これでは来年の事はどうなるのか、と。

 

「事は慎重にの。しかし……此方側にも彼等の理解者は必要か」

 

 最悪、関東魔法協会の勢力が真っ二つに裂ける。そんなことは、あってはならないのだ。

 麻帆良学園の魔法使いで彼等と関係が有るのは、精々学園長本人と出張で学園を不在になることの多いタカミチ。

 後は殆ど学園側とは言えない隠者であるアルビレオ・イマたる変態のみ。

 

 求める人材は、現在学園の魔王一派以外の人間で、かつ好意的な武闘派の裏の人間。

 

「じゃが、そんな都合よく此方の者を彼等も受け入れてくれるか────────フォ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うめぇうめぇ」

「うまうま」

「結構な御手前です、茶々丸さん」

「食材の良さもさることながら、職人の腕前を感じざるを得ません」

「フン、味わって喰えよ。コイツの料理は高級料理店でもそうは食えん代物だ」

「お粗末様です」

 

 一方、そんな不発弾扱いされている当の本人は、プロの腕前をトレースした茶々丸の料理を堪能していた。

 

「今回はこのか様も御手伝いして戴いたのもあると愚考します」

「ややわー。ウチは着いていくんが精一杯で、下手したら足手まといやったかもしれへんし」

「でも旨し。もう少ししたらこのかも追い付く。そして師匠と、ソレに追い付いた弟子が合わされば最強に見える」

「ちーちゃんも来ればええのに」

「千雨さんはどうやら皐月様の事を男性として意識し始めたようで、恥ずかしい様です」

「意識されてる本人がいる前で言うお前は鬼か」

「コレはちうたんに報告必須。愉悦れる」

「お前ら……」

 

 この場の皐月とその走狗である茶々丸、大人バージョンのエヴァンジェリンは兎も角。ソレ以外のアスナ達女子中等部陣は、ただ茶々丸の夕食を皐月と一緒にしたいが為に学生寮からエヴァンジェリンのログハウス────瑞葉家に足を運んでいるのだから大概である。

 

「────────集会?」

「あぁ。ジジイが言うに、そろそろお前の事を他の連中に教えておいた方がイイと判断したんだろう」

 

 学園側との顔合わせ。

 わーい、フラグとテンプレがイッパイだぁ。とヤケクソ気味に問題を、皐月は思考から明後日の方向に投げ棄てる。

 別に力関係は、弱いものイジメのレベルで開きがある。

 

 もし対立したところで何の問題も無いのだから、懸念要素は本来無い。

 皐月としては、六年以上麻帆良学園の生徒をやっていて分かったことなのだが、二次創作御用達の『正義の魔法使い(笑)』は少なくとも教師陣には存在しなかった。

 

 勿論正義感は強い事は確かだし、間違った事には敏感だ。

 しかし、それらは何の短所でもない。

 取り敢えず皐月の目で見て、問題視するほど過ぎている事はなかった。

 

 魔法使いとはとても言えない皐月にとって、一般的な魔法使いとの交流は興味深い。

 が、問題は其処ではなく。

 

「ソレって────何時から?」

「…………ソレは重要なのか?」

「俺やエヴァ姉なら兎も角、他のアスナ達には死活問題だ! 中学生は大事な第二次性徴末期!! 夜更かしは許しません!!」

「………………明日の10時からだ」

「………………」

 

 この後滅茶苦茶別荘で寝る用意した。




というわけで三・四年ほどキングクリムゾンして、中等部編に入ることが出来ました。
なんか更新するの凄い久し振りな感じがします。
導入その一な感じの今回は男子中等部の皐月の行動と、魔法関係者の顔合わせのための導入と言ったお話でした。

ちうたんや女子中等部、即ち後の2ーAのお話と、顔合わせまでは次回に出来ればと。

後ヒロイン四人程追加されるけども、ワシ大丈夫か……?

そして他の作品である短編集の絵が好評だった為に、皐月を描いてみました。
キャライメージは『メカクシティアクターズ』の黒コノハであります。
ちなみに男子中等部の制服が分らんかったんでUQの中等部らしき制服です。

【挿絵表示】

え? 要らない? そんなぁ(´・ω・`)

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