真剣で私に恋しなさい!-きみとぼくとの約束- 作:chemi
「……はぁ……」
清楚は部屋に戻ると、そのままベッドへと突っ伏した。今までの疲れが一気に押し寄せてきたようだ。壁にかかった時計の短針は、まもなく8を指そうとしている。放課後、彦一との会話中に、緊急の呼び出しがかかり、それに応えるとこんな時間になってしまったのだった。
しかし、清楚の行動の原因はそれではない。そこで聞かされた内容によるものだった。
清楚が案内されたのは、本部の会議室ではなく、地下深く、そのまた先――初めて入る場所であった。そして、その場には彼女の他に義経、弁慶、与一のクローン組に加えて、マープル、ソフィア、桐山もいた。
そこで明かされた武士道計画の真の目的――現代に生きる人の代わりに、歴史上の英雄をトップに置き、日本を導いてもらうというものだった。
清楚は、自身の右手をじっと見つめる。代わり映えのない、いつもと変わらぬ手のひら。
「……私が……偉人を束ねる覇王? 私の正体は項羽?」
25歳までは明かされないはずであった清楚の正体も、そのときに告げられた。
西楚の覇王と呼ばれた項羽。幾多の戦場を駆け抜け、鬼神とも英雄とも伝えられる偉人。
それが彼女の正体だった。耳を疑うクローン組であったが、マープルが口にしたある一節に反応した清楚自身が、荒れ狂う気を爆発させ、自身の証明をなす。存在するだけで、大気を震わせ、傍にいる者をひれ伏させるかのような威圧感――百代と同等かそれ以上の気を秘めていた。
その余波は留まるところを知らず、辺り一帯に吹き荒れた。ギギギと悲鳴をあげる鉄骨。勢いよくはじけ飛んだ照明。パラパラと降って来る土埃。そして、誰一人として口を利かない静寂の中、清楚の声で笑う西楚。
清楚はグッと拳を握りしめる。
「もう……学校行けないのかなぁ」
感情が落ち着いた今、西楚は中へと戻り、清楚が表になっていた。2人は二重人格のそれとは違い、記憶が抜け落ちるということはない。
よって、清楚は、目的を聞いた後の義経の苦悩する顔、弁慶の不満げな顔、あくまで冷静を装う与一の顔をはっきりと覚えている。彼女自身も当然乗り気ではなかった。その中で西楚だけはとても楽しそうだった。
京極君との約束も守れそうにないな。清楚はため息をつく。
数日前、夕方の帰り道を歩いていたときに偶然目にした川神蛍。夜に見る川神蛍の話を聞いて羨む清楚に、彦一が言った。
『……夜に見かけたら、連絡しよう』
これもなかったことになるだろう。清楚は特に気にした様子もなかったが、彦一がこの台詞を口に出す前に数秒の間があった。普段の彼ならば、つまることもなかったはず――そこにはどんな思いが隠されていたのか。
「楽しみにしてたんだけどな……」
そもそも現れるかどうかもわからない。今日、少し見ることができただけでも、運がよかったのだ。清楚はそう自分に言い聞かせ、まるで約束を忘れるかのように、そっと瞳を閉じた。
計画は既に始まっており、英雄、揚羽、局は捕らわれ、紋白のみ逃亡。あずみ、李、ステイシーの姿も見当たらない。その割に、極東本部は全く騒ぎになっておらず、平穏を保っている。
明日になれば、川神――いや日本を揺るがす一大事が巻き起こる。清楚を中心としたクローン組は、その真っ只中にいるだろう。楽しかった日常も唐突な終わりも迎えてしまった。短い期間ではあったが、様々な思い出が彼女の頭をよぎる。
百代や燕との他愛無い会話。どこまでも親切だったクラスメート。賑やかな後輩たち。個性豊かな先生。
多くの挨拶の声がかかる朝の通学路。野次馬でいっぱいになる多馬大橋。活気溢れる食堂やグラウンド。静かでゆったりとした時間が流れる図書館。チョークとシャーペンの走る音が響く教室。夕日が差し込む廊下。
そして、そんな中最も長く時間を共にした人――京極彦一。
「離れたくないな……」
その声は誰にも届くことはなく、すぐに消えた。
清楚は膝を抱え、体を丸める。思えば思うほど、その気持ちは強くなっていった。
しかし無情にも、時間は一刻一刻と確実に進んでいく――。
◇
翌朝の土曜。休日ということもあって、凛は朝食後に走りこみを行い、そのついでに葵紋病院へと向かった。川神院で治療を受けた岳人が、念のため一時入院しており、その見舞いが目的である。
さすが地主の息子とでもいうべきか、個室があてがわれており、凛がその部屋の前に立つと、中から岳人と誰かが言い争う声が聞こえてきた。
扉を開いた音がしたにも関わらず、中の声がやむことはない。
「島津さん! まだ安静が必要なんですから、筋トレはやめてくださいと何度も言ったはずです! 昨日も取り上げたのに、一体どこからダンベル持ち込んでいるんですか!」
「俺様のことを心配してくれるなんて、真奈美さん! 俺様と結婚を前提にお付き合いしてください!」
院内で人気のある看護師の真奈美に、岳人が言いよっていた。
――――入院とか必要なかったんじゃないだろうか……。
「麗子さんに言い付けますよ! う……重すぎて、持ち運べない。うー!」
「華麗にスルーする真奈美さんも素敵だなぁ……やはり、今度デー」
そこまで言いかけた岳人が、部屋の入り口に立つ凛に気づき、言葉を止めた。
凛は右手を軽くあげる。
「あれだけ打ちのめされた奴とは思えないほど元気だな」
そして、凛は、真奈美が悪戦苦闘していたダンベルを持ち上げると、「あとは処理しておきますから、ご迷惑をおかけしました」と声をかけた。それに頷いた彼女は、岳人に再度忠告して部屋をあとにする。
岳人はその後ろ姿に懸命に手を振ってから、凛へと向き直る。
「おいこらっ凛! 空気読めよ。せっかく俺様が、真奈美さんとの甘いひと時を過ごしてるときに邪魔するやつがあるか」
「心配するな。角砂糖一個分の甘さというか、甘さすら存在してなかったから」
凛は近くにあった椅子を引き寄せ、それに座った。片づけられた後なのか、テーブルの上には漫画などが積み上げられている。
「ナースに恋しちゃう患者の気持ちが今なら分かるなぁ。もう天使だぜ。真奈美さんって、今フリーなのか?」
「人の話を聞かないくせに、質問するのか? あと俺がそんなこと知るわけないだろ」
「いや……彼氏がいようと関係ねぇ! 奪い取るぐらいの勢いでちょうどいいはずだ!」
凛は、一人闘志を燃やし始めた岳人を見て、大きく息を吐いた。
そして、ようやく落ち着き始めた岳人が言葉を続ける。
「で、今日はどうしたんだよ?」
「いや鍛錬のついでに、岳人の顔見といてやろうかと思ってな」
「どうせなら、清楚先輩とか燕先輩も一緒に連れてきてくれると、俺様嬉しいんだが」
「いや……おまえ、真奈美さんはどうした」
「それはそれ! これはこれだ!」
胸を張って答える岳人に、凛は再度ため息をもらした。そのまま、視線を少し下げる。
「あとな……ベッドの隙間から、ナース特集のエロ本がはみでてるぞ」
「なにっ!? …………うおおおっ!?」
個室に岳人の悲痛な叫びが響いた。
□
凛と岳人が病院で話している頃、百代も鍛錬のために、いつもの河川敷を走っていた。その彼女の前に身知った男が立ちふさがる。そして、腰に差した刀をスラリと抜き放った。
「川神百代だな……しばし、俺とのお遊びに付き合ってもらおうか」
「おまえはいし――」
百代はそう言いかけ、
「石田の姿をしているが、中身が別人だな。おまえ一体誰だ?」
油断なく相手を見つめ返した。
それとほぼ同時刻。不死川家へと向かう由紀江の前に、槍を片手にもつ男。
「黛由紀江殿ですな……御大将の命により、しばしお相手願う」
「あなたは確か、西方十勇士の島右近さん……でも」
『まゆっち、こいつ……どうやったか知らねぇが、格段に腕前があがってやがる。気配を悟らせずに、接近されるなんて、俺っち一生の不覚だぜ。気を抜くな!』
加えて、住宅街から家路に向かっていた燕の前にも、錨の形状を模した武器を持つ男。
「相手にとって不足なし! 松永燕、ひと勝負受けてもらおうか!」
「な~んか……厄介事が起こりそうな予感だねぇ。逃がしてくれそうもないし、はてさて、どうしたものやら」
口では軽い調子を装いながらも、燕の瞳はすぅっと細くなっていく。
波乱に満ちた休日が始まろうとしていた。
□
凛が病院を出ると、そこには見知った顔があった。ソフィアである。そして、その横にもう一人女性が立っていた。通りには3人以外に人気がなく、静寂が包んでいる。少し遠くでは、ヘリの飛ぶ音が聞こえた。
銀髪のポニーテールに、袖を切り落とした黄色のジャージ、キリリとした瞳をもつ女性は、その立ち姿も堂に入っている。
――――どこかで見たことがある……。
凛はそう思いながらも、ソフィアに話しかける。
「おはようございます、ソフィーさん。それと――」
「おはよう、凛君。こっちは、元四天王の一人で、現在私の監視下にある橘天衣。仲良くしてあげてね」
よろしくお願いします、凛が丁寧に頭を下げると、天衣もそれにならって会釈を返してくる。
「葵紋病院に用がある……ってわけじゃなさそうですね」
「んふふー。大正解、用があるのは凛君だよ――」
そのとき、複数の気があらゆる場所でぶつかり合ったのを凛は感じた。そのいずれも片方は、自身の良く知る気配である。彼の右手がピクリと動いた。ソフィアは相変わらず笑顔を崩さない。
――――百代はともかく、まゆっちに……燕姉まで?
同時に、梁山泊3人の気配まで微かに感じ取った。
――――ルー先生の気も。何かおかしなことになってきてる……!?
そこで意識が、ソフィアのほうへと強引に引き戻される。彼女から発せられる気配に、首元がチリついたからであった。
「さて、私たちも早速取りかかろうか。天衣もお給料分はしっかり働いてもらうよ」
「わかっている……お前に恨みはないが、私も生活がかかっているのでな。全力でいかせてもらう」
天衣はそう言い残すと、予備動作なく姿を消した。彼女の二つ名はスピードクイーン。その名に恥じぬ速度を誇っていた。
しかし、凛も負けてはいない。左側面から飛んでくる天衣の拳にきっちりと反応し、左手で受け流しながら反撃を試みる。そこへ見計らったかのように、ソフィアが右から接近してきた。
凛はたまらず後ろ跳ぶが、ソフィアはそれに合わせて方向を転換してくる。その両手には、逆手に持ち変えられたサバイバルナイフ。そのナイフが太陽の光を反射させる。一瞬の瞬き、その隙を突こうとするソフィアと天衣。それを紙一重で避けようとする凛。
「……ッ!」
そのとき、凛の背筋を言い様のない寒気が走った。直感を信じ、彼は避けることを諦め、受けとめるため両手をゆらりと動かす。右手でソフィアの左手首をはじくと同時に、左手で何かを引っ張るようにして、外から内へと引き寄せた。
弾かれたソフィアもすぐさま第2撃を繰り出そうとするが、それは右側から迫って来る物体によって阻止される。
飛んできた物体は、足を糸で絡めとられた天衣だった。彼女の首根っこを掴んだソフィアは、流れに逆らうことなく、左へ跳ぶ。その傍ら、天衣の足に絡んだ糸を切り裂いた。
気づかれている。ソフィアは、構えを解かずに相対している凛を観察した。先ほどの一撃、彼が紙一重で避けようものなら、完全に自身の勝利となっていただろう。彼女はナイフを主としているが、その本命はナイフから10センチ程伸ばすことができる自身の気である。伸縮自在で、仕留めるその瞬間に伸ばす。さすがに鉄心のように、質量をもった攻撃を行うことは未だできていないが、彼女は幸運にも他の人とは違った独特の気の持ち主であった。
『他人の気に混ざる』それが初対面の相手であろうと、長年の鍛錬を積み重ねた相手であろうと、蜂が毒針を指すように、あるいは蛇が毒牙を突きたてるように、ナイフを通した気を相手に接触させることができれば、それは瞬時に混ざりあう。この時点で、ソフィアの勝率はぐっと上がる。
玄人になればなるほど、その射程範囲を見切り、最小限の動きから反撃に移ろうとするものだ。そこにソフィアは付け入ることができる。当たる範囲が大きいほど効果も見込めるが、彼女にしてみれば、かすってくれさえすれば十分だった。
その混ざり合った気は、本来の自分の気とは異なる――青の絵の具に、赤の絵の具が混ざれば紫色になるように、たとえそれが少量であろうと、変化をもたらすからだ。戦闘を行う者で、気を扱わない者はいない。そして、その気の変質は気の扱いを困難にし、それが身体能力の低下などを招く。
かすった相手には更なる一撃を加えれば良い。傷を増やせば増やすほど、それに比例して効果も上がっていく。格上相手であろうと、効果があることも実証済みである。その相手は世界最強。
ヒュームと初めてやり合ったのは10年近く前であり、彼はソフィアの実力を見るためにも先制攻撃を許してくれたことがあった。当然、彼女はその機会を逃しはしなかった。右肩から左脇腹を切り裂くつもりでナイフを走らせる。普通ならば、凄惨なシーンとなるところであるが、相手は世界最強、うっすらとミミズ腫れを残す程度であったのも今では笑い話である。
しかし、そこから約7分。ソフィアは一方的な攻めの展開を繰り広げた。最後は結局敗れてしまったが、ヒューム相手に7分持ちこたえたことは、彼女にとって嬉しい結果であった。
それから今まで鍛錬を積み重ね、その質においてはかなりのものになっていた。それはヒュームが赤子呼ばわりしないことでも十分わかる。
ヒュームさんも今ならやれるかもしれない。ソフィアは密かにそう思っていたりもする。
そこに現れたヒュームとクラウディオの弟子、零番の後継者と囁かれる夏目凛。ソフィアの興味を大いに刺激した。もちろん、年齢が若いことも彼女にとっては、ポイントが高かった。期待通り、その実力は折り紙つきである。
しかし、同時にある問題が浮上してきた。未だ、凛はソフィアの特性を知らないが、先ほど見せた勘の鋭さから接近戦を仕掛けてこない可能性がある。
ソフィアの問題点とは、なぜかこのナイフを媒介にしないと、効果がうまく出ないところにあった。掌底を打ちこみ、同時に気を送り込んだりもしたことがあったが、まるでうまくいかないのだ。
「まぁ、それならそれでいいか」
ソフィアの役割は、凛をこの場に留めることである。
そんなことを考えていると、隣にいる天衣が早速動き出した。言い様にあしらわれて、少しムキになっているようだった。元四天王としても、何か思うところがあるのかもしれない。
天衣をフォローしつつ、隙あらば狙う。ソフィアは彼女の背中を見ながら、ナイフを今一度握り直した。
◇
どれくらいの時が流れたのか、凛は慎重になっているようで、互いに決め手に欠けていた――そのときだった。脳天を打ちぬくような凶暴な気が、3人のもとへも届いた。
彼女も駆り出されたのか。ソフィアはその気を感じながら、出所へと思いを馳せた。それに呼応するようにして、別の場所でも気の爆発を感じる。
――――百代もこれに気付いたのか……場所は川神院。もうこれ以上、時間はかけていられない。やるしかない。
凛は大きく息を吸い、そして吐く。
「事情はよくわかりませんが、邪魔をするなら押し通ります!」
凛の体表面から湯気のように気が昇ったかと思うと、突如青白い光が走った。
来る。ソフィアはそう思った瞬間、隣から激しい音が聞こえた。それに続いて、天衣のうめき声が上がる。
そんな馬鹿な――。
ありえないと思いながらも、ソフィアは感覚を頼りに下方から上方に向かって右のナイフを振るう。彼女の瞳の端に映ったのは、まぎれもない凛の姿だった。
「……くっ!」
自身が見ていた正面の影は一体なんだったのか。疑問に思ったが、それを気にしている余裕はない。とにかく一撃当てれば。
しかし、その一撃からは何の手ごたえも感じられなかった。確かにそこにいたはずであり、いくらスピードが速かろうが、避けることは不可能のはず。だが実際は、陽炎の如く目の前から消え去っている。
無意識的に、体を反転させながら、左のナイフを横一線に振るった。今度は浅いながらも手ごたえがあった。
ジジジ――。
それと同時に、久々に聞くことになった嫌な音がした。できれば、聞きたくない音でもあった。次いで、左側面の首の根元に強い衝撃と全身に回る鋭い痛み。
これじゃあまるで、凛君が2人いるみたいだ。ソフィアは何とか距離をとろうとするが、先の一撃が重すぎて、体がほとんど言うことをきかなかった。右手のナイフはかろうじて手の中にあるが、左手のナイフは地面に落ちている。左腕は感覚がマヒしているようだ。
「まったく……こんな攻撃を何度も喰らって……立つ、武神の……気がしれない、な」
「むしろ、楽しそうでしたからね。……悪いですが、このまま放置していきます」
凛はそう言って、ソフィアの前からいなくなった。
「私も、まだまだ……か。ヒュームさん……の、言った通りになったのが、悔しいなぁ」
同時に、これが未来の零番なら頼もしいとも思った。あずみに文句があるわけでもないが、武力の面から見ると、どうしても不安が残ってしまう。それは自分であっても変わらない。
九鬼帝の血を受け継ぐ子らを任せるにたる人材の発掘。それは、九鬼がこれからの将来も繁栄していく上でかかせないものだった。そして、自らの手でそれを確認することができた。
やられはしたが、気分はそう悪くない。
「あれで、手加減……したつもり、なのか。あの男は」
「目覚ますの早いじゃない? ……どう? 気分は?」
「さいあくだ……」
天衣の吐き捨てるような物言いに、ソフィアは苦笑をもらした。
□
凛は走り抜ける。
――――くっそ! やっぱり、なんか違和感がある。でも一撃を喰らう覚悟で突っ込む以外に、早く戦闘を切り上げることはできなかった……。
その間も、周りへの気配を探る。最も大きな気のぶつかり合いは2つ。
川神院から感じるものと多馬川上流から感じるもの。百代はどうやら、河川敷から移動をしていったらしい。
「上流は百代と……一体誰なんだ!? 百代に張り合える相手なんか早々いないはず。というか、あちらこちらで、気のぶつかり合いがあって、変になりそうだ」
――――百代の様子も気になるが……。
凛の迷う原因は、つい先ほど卓也からファミリー宛てに、送られたメールにあった。内容は、川神院が襲撃を受けているというものだ。
そして、百代が川神院を離れていることから、対抗しているのはルーか鉄心ということになる。しかし、ルーの気配は今感じられない。彼の身に何か起こったのか――。
「…………百代を……信じる」
――――他の皆も動いてくれてるはず。
凛は自身に言い聞かせるように呟いた。
そして、ようやく着いた先に目にしたものは、門の前に陣取る林沖と史進だった。しかし、凛は今それらの存在を無視する。
「まさか、また出逢うとは……」
「タダで通らすわけねぇだろ!!」
当然、2人もそれを阻止しに向かってきた。
――――この忙しいときに!
叫びたくなるような気持ちを抑え、凛は2人の攻撃をいなし、そのまま川神院へと突っ込んだ。中は乱戦――数は減っているものの、依然として修行僧と梁山泊が争っている。
「凛! 奥でじーちゃんが!」
一子の声が凛の耳に届く。その彼女もまた一人向かってくる者の相手をしていた。
凛は手近にいる相手をのしながら、気のぶつかり合いの中心へと急ぐ。そこは鍛錬場の最も奥であった。周りに倒れているのは、梁山泊の連中ばかり。石畳は陥没やひび割れを起こしている。
そして、凛は足を止めた。
「ハァ……ハァ……学長」
「ん? 凛か……どうやら無事じゃったようだの」
凛の視線の先には、相対する鉄心と西楚。彼女が嬉しそうに声をかけてくる。
「足止めを喰らった中での一番乗りは、やはり凛か! さすがだな! その実力をもって、お前は俺の親衛隊28人のうちの1人に加えてやる! 光栄に思え! ハハハ」
「清楚、先輩……?」
「二度も同じことを言うのは面倒だ……だが、俺は今気分が良い! 良く覚えておけ、主となる者の名を……我が名は項羽! 西楚の覇王である!!」
どこまでも響きそうな声だった。
そして、それを引き継ぐように、背後から声が聞こえてくる。
「やはり、ソフィアと天衣ではお前を抑えることはできなかったか……」
「梁山泊の2人が追いかけて来なかったのは、あなたが来たからだったんですね――」
――――なぜ、あなたが……。
凛はその背後の声の主を確認するため、振り返った。
「ヒュームさん」
お待たせしました。まだ読んでくださっている人はいるのか!?
原作の内容を色々いじってます。
天衣好きな人などはごめんなさい。あとで何らかの活躍させるつもりです。
正直、今回の一連のお話は何でもありになっていると思います。原作もスーパーな展開だったんで、こっちも負けずにスーパーにしようかと……。
清楚と彦一の恋をもっと書きたいなー!
あと凛と百代のイチャイチャも書きたいなー!
あと凄くいまさらですが、ツイッターやってるので絡んでいただけると嬉しいです。
自己紹介のところにでも掲載しておきます。