真剣で私に恋しなさい!-きみとぼくとの約束-   作:chemi

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『ヒュームの課外授業と学園の日常』

 次の日の朝。ヒュームの稽古を受けたあと、凛は彼と一緒に多馬川の上流近くに来ていた。天気もよく、川沿いの道は時折ランニングする人とすれ違うのだが、特に奇異な視線を送られることもないのは、川神だからなのだろう。

 その移動中、凛はヒュームが序列何位なのか尋ねる。

 

「えっ! じゃあヒュームさん、あの従者部隊のトップだったんですか!? 零番ってなんかかっこいいですね」

 

「おまえは俺が、誰かの下で動くと思っていたのか?」

 

「……いやそれは確かにないですね。そう考えると、ヒュームさんが仕える九鬼帝様は、俺の想像を超える人物なんですね」

 

 凛は軽く人物像を想像してみるが、ヒュームが傍に仕える人物の具体的なイメージが湧いてこない。額に×があるのは間違いないが、あとは後光が差しているのではないかなどと考える。

 ヒュームがうなる凛を見ながら笑う。しかしその笑顔が、不敵な笑みを浮かべているようにしか見えない。

 

「俺が仕えてやってもいいと思えた男だからな」

 

「仕えながらもその態度、天晴れです。ところで、今どこに向かっているんですか?」

 

「確かこの辺りだ。釈迦堂刑部の名くらい、お前も聞いたことがあるだろう」

 

「確か川神院の元師範代で、壁を超える者のお一人ですよね」

 

「その男がここにいる。昔はお前同様才能の塊だったが、その才能を腐らせてな」

 

「はっきり言われると照れますね。でもヒュームさんが言われるくらいですから、釈迦堂さんは相当だったんですね。それで、俺はどうしていればいいんですか?」

 

「俺の用事のついでだ。近くで見ていればいい。鍛錬を怠ったものが、どれほど輝きを失っているかをな」

 

 目的の場所では、ちょうど食事をとる最中だったのか、鍋を中心にして4人の座った男女とその後ろに1人の中年が立っている。紫の髪にタイトな服を着こなす女性が、板垣家の長女である板垣亜巳。その左隣にいる青い髪の長身の女性が、次女の板垣辰子。亜巳の正面にいる赤い髪のツインテールの女の子が、三女で末っ子の板垣天使。亜巳と天使の間、長髪に肩から腕にかけて目立つ刺青をもつ男が、長男の板垣竜兵。彼らは、様々な食材が放り込まれた鍋を囲み談笑していた。そして、ヒュームの目的である無精ひげを伸ばした短髪の男が、釈迦堂刑部。

 凛とヒュームは、ゆっくりとその場所に近づいていく。すると、それに気づいた天使が、けんか腰で声をかけてくる。

 

「あ? なんだじじぃ。恵む飯はねえぞ! 後ろのノッポもな!」

 

 凛はそこで止まったが、ヒュームはそれでもまだ近づいていく。彼の接近に、天使が手元のゴルフクラブを持とうとするが、それを亜巳が言葉と手でやめさせた。十分に近づいたところで、彼が口を開く。

 

「いいお姉さんをもったな小娘。どつかれたら、俺は大人気なく反撃するから危なかったぞ」

 

 ――――本当に容赦なく入れるから、あの体じゃ下手すると2週間以上動けなくなるかもしれん。

 その様子を見守っていた凛は、人知れずハラハラしていた。釈迦堂はヒュームの姿を見て、誰かを思い出したようだ。

 

「てめぇ、確か昔川神院で見たヒュームとかいう……」

 

 ヒュームは、そのままここにきた目的を手短に説明する。用件は簡単だった。釈迦堂のような危険な男を野放しにしておくことはできない。そこで、就職口を斡旋するので、カタギに戻れ、ということだった。

 しかし、その言葉に素直に頷く釈迦堂でもなく、勝負で勝ったら互いの望みを聞くこととなった。彼が勝った場合は、板垣家を含めて不干渉を貫くこと。彼の自信あり気な態度に、ヒュームは少し呆れ口調で話し出す。

 

「おまえは俺を見て、実力がわからんのか?」

 

「わかるさ。強えよ。だがな、昔感じたほどではねえわな」

 

 言葉を発するやいなや釈迦堂は、真正面からヒュームに攻撃を仕掛ける。彼からは殺気と見紛うほどの黒い気がほとばしり、まるで野獣と錯覚させるほどだった。拳を交える瞬間、彼の気が一層濃くなる。

 ――――ヒュームさんが動かない。一発当てさせるのか?

 しかし、その気にも反応せず、ヒュームはその場から一歩も動かないまま、釈迦堂の一撃を受け入れる。そしてぶつかり合う二つの闘気。彼も壁を超える者と評される男である。二人のぶつかり合いは、川神にいる同じ場所に立つものたちの感覚にその激突を告げた。同様に、凛の頭の中を鋭い電流のようなものが走りぬける。反対側で見守っていた天使は、自らの師匠の勝利を疑ってないようで、喜びの声をあげていた。

 ――――才能の塊ってのは本当みたいだ。鍛錬を怠っているにもかかわらず、なかなか一撃。それでもヒュームさん相手じゃその程度ではダメです。

 勝敗は明らかだった。地に倒れ伏す釈迦堂とそれを見下ろすヒューム。彼はいつものように、首もとを直す仕草をとりながら口を開く。

 

「ふむ……ハンデで一発打たせてやってもその程度か」

 

「ぐぅ……実際は昔より強くなってるじゃねぇかっ」

 

 釈迦堂は立ち上がろうと力をいれるが、どうやら無理そうである。一撃でその体力を根こそぎ奪い取るヒュームの蹴り――凛は軽く身震いした。

 

「長期戦は苦手になったが、瞬間の鋭さは増すばかり。俺からすれば、今のお前は赤子のような存在だ。もし、おまえがきちんと鍛錬していれば、結果はまた違ったかもしれんがな」

 

 ――――ヒュームさんにそこまで言わせるなんて。手合わせをお願いしてみたかった。

 凛は静かに二人の様子を見ていたが、その目は爛々と輝いていた。

 釈迦堂がやられたことで、後ろに下がっていた亜巳は辰子――普段は眠ってばかりだが、亜巳の許可がでると桁外れの強さを発揮する――を起こすか迷うが、ヒュームが先手をうち、「やめておけ」と忠告する。そこに、姉妹達の前に立った竜兵が彼を睨みつけながら言葉を発した。

 

「それで次にてめぇはどうする気だ? その後ろにいる奴でもけしかけてくるか? 随分と弱そうな奴みたいだが」

 

「別に何も。まぁ鍋でも食べてろ、モチが固くなるぞ。就職先をいくつかリストアップしてやる、そういう約束だったはすだ。後ろの奴は俺の弟子でな、用事がてら学ばせてるだけだ。帰るぞ、凛」

 

「あ、はい。それでは皆さん失礼しました」

 

 ぺこりと頭を下げた凛は、先を行くヒュームのあとを追って走っていく。竜兵はまだつっかかろうとしたが、亜巳にとめられその場はおとなしく引き下がった。しかし、彼の目には、凛の後姿がはっきりと映されていた。

 土手を上がると黒塗りの車が準備されており、後部座席に乗り込むヒュームは、共に乗り込んだ凛に向かって話しかける。

 

「おまえは俺を失望させるなよ」

 

「期待には応えたくなる性分ですからね。それにまだまだ相手にしたい人たちもいます」

 

「元気があって何よりだ」

 

 その言葉を聞いたヒュームは、運転手の男に島津寮に向かうよう言いつけると、書類に目を通し始める。凛はその横で流れる風景を見ながら、彼と釈迦堂のぶつかりを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 昼休み。凛は、教室に戻ろうと廊下を歩いていると、前方がガヤガヤと騒がしいのに気づいた。次に、女の子の高い声が廊下に響く。廊下のいた者の視線は、その声のするほうに集まり、それは彼も例外ではなかった。

 

「ひかえい、ひかえい、ひかえおろうー」

 

「誰か殿様が現れたぞ」

 

「紋様のおなーりーーー」

 

 凛が廊下の声に一人ツッコむと同時に、準の声が響き渡る。よく見ると、廊下の真ん中を歩く一行――紋白を先頭にして準、小杉が左右に付き従っていた。

 その一行は2-Fの教室の前に着くと、外から中の様子を観察する。教室内は突然の九鬼登場でガヤガヤしていた。そして、後ろにいた準が、紋白の隣に立ち説明を始める。

 

「ここは2-F教室です。まぁ風変わりな奴の集まりですね」

 

「悪かったな、風変わりで。紋白はどうしたんだ? 2年のところに来るなんて」

 

 準の説明に突っ込みながら、凛は紋白に問いかけた。彼女は、彼の姿を見つけると笑顔で近づいていく。

 その瞬間、至福のときを邪魔したからか、準からよからぬ気を感じる凛。

 

「おお、凛ではないか。実はまだ兄上にきちんと挨拶をしていなかったのを思い出してな。今から挨拶にいくところなのだ」

 

「そうなのか、それでわざわざ準と武蔵が一緒に?」

 

「紋様在るところに我在り。我在るところに紋様在り。我、紋様の忠実なる僕なり。そして名前で呼ばれる凛……おまえが羨ましい!」

 

「ああ、もうわかったから。その怖い顔をやめてくれ。血管きれそうだぞ」

 

 凛は般若の準を押し返し一定の距離をとった。そこに紋白が提案してくる。

 

「そうだ。凛も一緒にどうだ? 我からも兄上にしっかり紹介しておきたいのだ」

 

「俺は俺で自己紹介済ませたが、紋白に紹介されるのは光栄だな。楽しそうだし、一緒に行くよ」

 

 そして、2-Sの教室前。準が、中にいる人物をかいつまんで説明してから、扉を開く。教室の中は2-Fのような騒がしさはなく、小杉は少し緊張しているのか、いつもの快活さがなりをひそめていた。

 互いの姿を見つけた英雄と紋白は、九鬼の兄妹らしい豪快な挨拶をすませる。その途中で準が彼に対して、お義兄さん発言をし、あずみにしめられていたりする。

 

「てめぇは2-Fの甘粕委員長を見てればいいだろ!」

 

「委員長は恋愛対象、紋様は仕えたい対象なんだ! 理想は委員長と結婚し、職場は紋様の部下。ああ、でも若の葵紋病院もあるんだよな。ちくしょう、俺はどうすればいいんだ」

 

「ロリコンもここまで突き抜けると、人生楽しそうだな」

 

 頭を抱えて膝をついてうなる準を見て、凛が素直な感想をもらす。そんな本気で悩む彼に、小雪が時間の残酷さを説き、彼は一人そのむなしさをかみしめていた。そんなロリコンをよそに、凛の紹介が改めて行われる。

 

「兄上、こちらが我の話していた友の夏目凛です。もう挨拶をすませたと聞いたのですが、我からも紹介します」

 

「改めてよろしくな。英雄」

 

「フハハハよろしく頼むぞ凛。紋はおまえをとても気に入ってるようだ。何度も交流戦の話を聞かされたぞ」

 

「あ、兄上。そんなことは今言われずとも……凛! そんなに何度も言ったわけではないぞ! 勘違いするな!」

 

「楽しんでもらえたようで嬉しいよ」

 

 英雄の言葉にワタワタと対応する紋白。それに反応するロリコン。

 

「ああぁ紋様、凛とした姿も神々しいが、慌てる紋様も可愛すぎて捨てがたい。神はとんでもない存在を創り出した!」

 

「準、興奮しすぎです。鼻から愛が溢れてしまっていますよ」

 

「ハゲの鼻血止めないとねー。とぉりゃぁぁ!!」

 

 冬馬はティッシュを差し出すも、小雪がロリコンの延髄に、手刀を思い切り振り下ろす。そして、鼻血をたらしたまま、失神するロリコン。彼がロリコニアという名の天国の門前で、幼女天使と戯れている間に移動した紋白は、コホンと一つ息を整え、義経たちのほうへ向き直る。彼女のSクラス訪問は、義経たちの様子をみるためでもあったらしい。そうして、いつもより賑やかな2-Sの昼休みは過ぎていく。ちなみに、授業が始まる直前にしっかり意識を取り戻した準は、少し幸せそうだった。

 そして、放課後。場所は巨人と大和の聖域――第二茶道室。その付近には、部活動の掛け声などが小さく聞こえるだけで、ひっそりしていた。凛が先にお邪魔して寝ていても、彼はもうつっこまない。いつものとおり、のんびり将棋をさす2人と丸くなって眠る猫。

 

「ああ小島先生と結婚してぇ。新婚旅行に湯河原いきてぇ」

 

「剥き出しの心の叫びですね、仲進展してないのに――――」

 

 2人は梅子のこと、義経のこと、さらに問題児の与一のことを話す。問題児の更正を大和にさせ、小島先生の得点稼ぎに使おうとする巨人。

 そして、話題が弁慶のことになり、巨人が大和に問いかける。

 

「おまえとか結構弁慶のこと好きそうなタイプだな」

 

 その質問に、大和は周囲――もちろん凛の寝息も確認してから答える。

 

「結構性的だよね。そりゃあ仲良くしたいね」

 

「あれだけ美人に囲まれてるのに贅沢ものめ」

 

「本当にそのとおりだぞ、大和。なにが不満なんだ」

 

 巨人が大和の答えに愉快そうに笑う横で、凛が彼に問いかける。突然話に入ってきた凛に驚く2人。彼はまだ眠気が残っているのか、大きく口をあけて欠伸をする。

 

「うお、ついさっきまで寝てなかったか?」

 

「いつの間に起きたんだ、夏目」

 

「ん? ついさっき。なんかでかい気がこっちに近づいてくるから、目が覚めた」

 

 その発言のあと、すぐにスタスタと足音が聞こえてきた。大和が巨人に話しかける。

 

「本当だ。誰か来るよヒゲ先生」

 

「通り過ぎんじゃね。こんな空き教室興味ないだろ」

 

「ところがどっこい興味あるんだな」

 

 その足音の正体は弁慶だった。どうやら決闘から逃げてきたらしい。ここにいさせてと頼む彼女に巨人が口を開く。凛は正体がわかると、すぐさま横になっていた。

 

「ここは俺と直江の聖域だからな」

 

「そこで横になって船を漕いでる人は?」

 

「これはこの教室ではペット扱い。てか、男しかいない聖域って薄汚い」

 

「まぁ冗談だ。好きにしろや弁慶」

 

 許可が出たことで、弁慶は将棋盤の近くに陣取り川神水を飲みだし、凛はまた寝息をたてていた。その横で将棋も再開される。彼女が彼を見やり、大和に問いかける。

 

「凛はいつもこんな感じなの?」

 

「ん? まぁだいたいはね。今日は師匠に朝からしごかれて、授業はなんとかもたせたらしいけど、放課後にギブアップ。俺がここに行くって知って、それなら帰る頃に起こしてってな具合」

 

「なんかうなされてない?」

 

 寝返りをうった凛は、少し眉をひそめている。大和が彼を見やり、苦笑をもらした。

 

「ときどきなんか言ってるな。モモがどうとか、串刺しがどうとか」

 

「こういうの見てるとイタズラしたくなるよね」

 

「やめとけ弁慶。手が赤くなるほどはたかれるぞ」

 

 そーっと移動した弁慶は、寝ている凛に手を伸ばすが、巨人が注意する。それに続いて大和も実体験を話す。

 

「俺も何度もやろうとしたけどね。ことごとく防御されたから」

 

「ふーん」

 

 ペシ。

 はたかれる弁慶の手。自分の手と凛を交互に見た彼女は、2人の言葉を信じたのか、また川神水が置いてある自分の位置に戻り飲みだした。

 すっかりここの空気に馴染んだ弁慶は、この雰囲気が気に入ったのか、これからも顔を出すと言い出し、2人も軽くOKを出した。そして、また川神水を飲みだした彼女に、大和が携帯を差し出す。

 

「仲間の作法その1。連絡先を教えあいましょう」

 

「ぷはっ、まぁお前ならいいか。節度ありそうだし」

 

 その後は、金曜集会にも似た心地よい雰囲気のまま、将棋の勝負がつくまでだらける3人と1匹。

 

「ぬぅあー復活!」

 

 日はすっかり傾き、校舎は夕日に照らされて赤く色づいている。凛はよく眠ったのか元気を取り戻していた。3人は下駄箱で靴を履き替える。近くには誰もおらず、時折外から盛り上がった声が聞こえてくるぐらいだった。

 

「元気になったみたいだな」

 

「おかげさまで。って弁慶、それはlove letterじゃないか!」

 

「なんか流暢! それに果たし状って線もあるだろう」

 

 大和が凛につっこむ中、弁慶はそれを裏返しながら確認し、ため息をひとつ。

 

「ラブのほうだ。3年生から……年上に興味ないんだよね。あと手紙は気持ちが伝わりにくい気がしてどうも……」

 

「おい大和。遠まわしに弁慶の攻略方法を弁慶自身が教えてくれてる。俺たちにはルートに入る資格があるらしい。脳内メモに記入しとこう」

 

「同期は射程範囲内みたいだな。それより、そんなところも歴史の弁慶と似てるんだな。腰越状わかってもらえなかったしね」

 

 3人は、とりとめもないことを話しながら、校舎をでた。すると、歓声が一際大きく聞こえてくる。

 

「あれ? 義経とワンコだな」

 

「決闘まだやってるのか」

 

 凛と大和が決闘を見ながら会話する。2人の構えた刃の部分が、夕日をうけてきらめいていた。それをぼーっと見つめる彼が口を開く。

 

「夕日に照らされて、刀と薙刀がきれいだな。もちろんそれを使ってる本人も可愛い」

 

「おや? 凛は義経狙い? それとも川神さん?」

 

「ワンコも義経も可愛いからな。どうでしょう? 大和くんは弁慶狙い?」

 

「それを本人の前で振るとか鬼かおまえは!」

 

 弁慶からの問いかけをかわし、凛は大和に質問した。その間も決闘は、激しさを増していく。金属同士のぶつかる音が、甲高く校庭に響き渡り、白熱した決闘に生徒たちも熱中しているようだった。そして、激しい攻守の入れ替わりから、一子が勝負を決めるための一撃を放つ。

 

「ワンコ焦っちゃダメだ。見切られてるぞ」

 

 誰に言うでもなく、そうつぶやく凛。その通りに一子の一撃は義経に避けられ、逆にカウンターをくらい敗北する。歓声が上がる中、決闘は終了した。

 

「こんなに早く決闘できたんだな」

 

 大和が観客として見守っていた京とクリスに話しかける。一子と義経は健闘を称えあう握手を交わしていた。

 

「義経がどんどん挑戦者を片付けたから」

 

「それで予定が繰り上がってな。まるで凛のときを見ているようだったぞ」

 

「あー凛もそういえば、そんな感じだったっけ。俺の知らない間にどんどん話が進んでいる」

 

 校門前で、凛たちは一子が着替えてくるのを待った。ギャラリーだった生徒たちは、決闘が終わるとゾロゾロと帰っていき、ちょうど下校時刻と重なったため、多くの生徒が門から出て行く。

 そこに紋白の声が聞こえてきた。

 

「フハハハ皆のもの、またな」

 

 1年生の学友と別れを言っているところだった。その中でも、小杉は自分の印象を強く残すためか、自分の名を2回繰り返しながら帰っていく。

 凛は、紋白とクラウディオだけになってから声を掛けた。

 

「武蔵だけは相変わらずの態度だな。紋白、今日もお疲れさん」

 

「凛! また会ったな。それとクラウ爺にも言ったが、家に帰るまでが学校だぞ」

 

「了解。気をつけるよ」

 

 そこに義経が混じる。

 

「すごいな、紋白は。義経はいたく感激した」

 

「ん? なにがだ?」

 

「馴染むのがとても早い。義経たちはまだあそこまで仲良くなっていない」

 

 その発言に一子とクリスが待ったをかけ、「もう自分達は友達だ」と義経に伝える。彼女は、それに嬉しそうに礼を言った。

 その光景を見ていた凛が、紋白に話しかける。

 

「美しい友情だ」

 

「うむ、その通りだな」

 

 隣にいる弁慶と大和も同じような会話をしていた。紋白がさらに言葉を続ける。

 

「あとは与一の問題だけだ」

 

 義経が声のトーンを落とす。

 

「主の監督不行き届きだ。申し訳ない」

 

「そんな顔をするな、みなが心配するだろう。我も一緒に考えてやるから安心しろ」

 

 先ほどとはうってかわって、へこむ義経を紋白は背中を叩きながら励ました。そこに、凛が混じって彼女の頭を撫でる。

 

「そしてそんな頑張る紋白を俺が褒める。それと俺も協力するぞ義経」

 

「なっこら、やめんか凛。……と、ちょうどいい。ここの連中を紹介してくれ」

 

 紋白は凛の手を払いながら、義経に話を促した。最後にポンポンと頭を撫でられ、上目遣いで無言の抗議をする紋白をよそに、ファミリーたちの紹介が始まる。まずは一子。

 

「よろしくね」

 

「兄からいつも話は聞いている。川神一子」

 

「あ、あはは……そっか……」

 

「兄はいつもおまえのことを褒め称えているぞ。それをなぜ!」

 

 そして、つい感情的になり問い詰めようとしたそのとき、凛が声を張り上げる。

 

「あ、流れ星!」

 

「いや今はまだ流れんだろ、さすがに」

 

「なら未確認飛行物体だったかもしれないな」

 

 それに大和が即座につっこむ。なんだか二人の息が、ピッタリ合い始めているのは気のせいではないだろう。紋白はそこで何かを思ったらしく、落ち着いて言葉を返した。

 

「いやなんでもない。よろしくな、川神一子」

 

 次に京が紹介された。彼女は一応儀礼の挨拶をすませるが、紋白は彼女に何かを感じ取ったのか、九鬼への勧誘を行い名刺を渡す。これには、さすがの彼女も驚いたようだった。続いてクリスの紹介がなされ、滞りなく終わる。そして、最後に大和の番となった。

 

「おまえとは一度目があったな。あと凛から話を聞いたことがある」

 

「よろしく。それに凛から? えーと……」

 

「紋様と呼ぶがいい!」

 

 胸を張って名を告げる紋白。

 

「ははは、よろしく紋様。それで凛から話というのは?」

 

「自分も気になっていた。なんだか凛はやけに親しげじゃないか?」

 

 凛からというので、不安に思う大和と疑問に思ったクリスが、紋白に問いかけた。ニッコリと笑った彼女は、そのことに答える。

 

「凛は我の友だからな」

 

「大和の話はなかなか好評なんだ。俺の話術が長けているからかもしれんが。あっ! 大和の日常を紋白に話していいか?」

 

「おまえ一体俺の何を話してるんだ!? しかも確認とるの遅すぎるだろ!」

 

 凛が事情を説明するも、大和はそれにくってかかった。そこに紋白がフォローを入れる。

 

「心配するな。変な話じゃないからな。色々世話になった人だと聞いただけだ。凛の言ったのは、照れ隠しの冗談だ」

 

「ああ、そうか。焦った」

 

「紋白には隠し事ができなくて困ってる。そして少し恥ずかしい」

 

「フッハハ顔を見れば、我は大抵わかるのだ!」

 

 紋白に全てをばらされて照れる凛は、すぐさま話題を変える。標的は一番だまされやすそうな相手。

 

「義経気をつけろ! 義経が隠してるアレも見抜かれてる。すぐに場所を変更しろ!」

 

「!? 本当か凛。あわわ、義経は今日帰ったらすぐにそうする!」

 

「義経、私に黙って何か隠してるものがあるの?」

 

「えっいやなんでもないぞ弁慶」

 

 墓穴を掘って慌てる義経とそれを楽しそうに問い詰める弁慶。

 その後、先に帰る紋白たちを見送り、由紀江を待つファミリーの姿だけが学園に残った。

 


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