真剣で私に恋しなさい!-きみとぼくとの約束-   作:chemi

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『転校生は磯の香りとともに』

 東西交流戦が終わった次の日。いつも通りトレーニングを終えた凛は、リビングに留まらず部屋に戻り、学園への仕度を整えていた。すると、隣の部屋から大和と京、クッキーの声と一緒に物音が聞こえてくる。

 仕度を済ませた凛が部屋を出て、大和の部屋の様子を伺う

 

「朝からドタバタと元気だな。おはよう。今日も京は大和の部屋で寝てたのか?」

 

 京はまだパジャマ――Tシャツに短パン――のままで、大和の枕を抱えながら凛に答える。

 

「おはよう凛。うん、ぐっすりと。大和が離してくれなくて大変だった」

 

「朝から何言ってんだ。クッキー、京もついでに畳んどいて」

 

 その京の後ろから、大和の眠そうな声が響く。寝起きのためか、寝癖もついたままになっていた。

 

「クッキーは、私にそんなことしないもんねー」

 

「ねー」

 

「クッキーと京は仲いいよな。それよりご飯に行こう。テレビで武士道プランのこともやるだろうし」

 

「俺顔洗ってからいくから、先行っといて」

 

 大和はそう言い残し洗面所へ足を向ける。京は彼の部屋でまだ何かをしているようだった。凛はそんな彼女に「ほどほどにな」と声をかけ、リビングに向かう。

 そして皆が揃った朝のリビング。テレビには、竜造寺と美人のアナウンサーが映る。

 

『エグゾイルNo1イケメン寺ちゃんとーーー―』

 

「どっかで聞いた声だと思ったら、西方十勇士の声か」

 

 凛がテレビを見て、戦場で聞いた絶叫を思い出し、誰に言うでもなくつぶやいた。それが聞こえた忠勝が、箸を止め問いかけてくる。

 

「どうかしたのか凛?」

 

「昨日の東西交流戦で、羽黒とこの寺ちゃんの声が聞こえてきてな」

 

「いやもういい。それだけでだいたいわかった」

 

 イケメンと羽黒の組み合わせで、忠勝はすぐに事情を察したようだった。むしろその先を考えたくなかったようである。由紀江が、みなの湯のみにお茶を注ぎながら喋る。

 

「どこの局も武士道プランのことで持ちきりですよ」

 

「新聞も一面飾ってるな。義経可愛い子だったよな。大和」

 

 凛の開いた新聞にも、一面でデカデカと武士道プランの内容が掲載されており、注目度の高さを物語っていた。焼き魚と格闘していた大和が相槌をうつ。

 

「ああ」

 

「でも京のほうが可愛いだなんて……ポ」

 

 朝食をとりながら、皆はニュースで話題になっている武士道プランのことを話した。

 

『川神と聞くと下半身のトラウマがー――――』

 

 少し青ざめた表情の竜造寺により、ニュースはまだまだ続く。

 時間通りに出発し、岳人や卓也とも合流したファミリーは、川沿いの道を歩いていく。空には雲もほとんどなく、よく晴れていた。

 普段どおりの登校――しかし岳人が風上に立ったとき、凛が異変というより異臭を察知する。

 

「おい、ガクトちょっとそれなんの臭いだ?」

 

 気づかれるのを待っていたのか、岳人は得意げな表情で説明を始める。

 

「モテ120%って香水。異性をクラクラにさせるらしい」

 

 いい終わるとすぐに、その香水を体に吹きかけた。それの臭いが、風下にいる凛へと流れてくる。

 

「なんて安易なネーミング……しかも、それ俺にも効いてくるぞ。クラクラする」

 

「んなわけねぇだろ! また冗談かよ!」

 

「いや凛の言うとおり、確かにクラクラする。磯のような香りが強すぎて」

 

 クリスがそう言いながら、岳人から距離をとった。よく見ると、女性陣は全員距離をとっている。それでも彼は全然気にせず、ドヤ顔で言葉を続けた。

 

「ネットでラスト100個って言ってたから、小遣いと大和に借金して全部仕入れたんだ」

 

「え? 冗談だろ? そんな買ってどうするんだ?」

 

「効き目を実証してから、みんなに高く売りさばこうと思ってな。凛も一つどうだ?」

 

 岳人は凛に向かって香水を一吹きする。

 

「うぉあぶねぇ!」

 

 凛は体をひねって避けた。気を抜いていたのか間一髪のタイミングだった。噴射された香水は的を失って、多馬川へと霧散していく。

 岳人が首をかしげながら追撃をかける。

 

「おまえ何避けてんだよ。ほれ」

 

「あほ! やめろ!」

 

 凛は、それも残像を作り出す速さで回避し、距離をとっていたファミリーの男連中を巻き込む作戦にでる。一直線に向かい、3人を盾にした。

 

「キャップ、大和、モロ助けて! ガクトが兵器を使ってくる」

 

「ってこっち来るな!」

 

「わぁガクト! もういいってわかったから。あっジャソプにかかった」

 

 カバンを盾に慌てる大和と落ち込む卓也。そんな様子に、1人ウキウキしていた翔一が、口を尖らせながら喋りだす。

 

「おい、お前ら! あの源義経が学校に来るんだぞ。それなのに、いつもと同じように過ごしすぎじゃあらしませんこと? 俺なんて楽しみすぎて、飛び跳ねちゃうぜ!」

 

「キャップナイス!」

 

 凛はちょうど2人の間に入った翔一を捕まえる。当然、盾とされた彼に香水の一吹きが当たり、その部分――左胸の上あたりから臭いが立ち上った。しかし、その程度で彼は動じない。

 

「……なんだこれ! 臭いぞ。いや磯か、海を思い出すなー。……よし! 今週の週末は海で修行だな」

 

「さすがキャップ、これくらいじゃ動じない」

 

 一騒動も終結したところで、女性陣が全然喋ってないことに気づいた翔一が問いかける。

 

「ところで、クリスやまゆっちはどうしたんだ? 今日はやけに静かだな」

 

「なんかいつもと風が違うんだ……ぴりっとくるというか」

 

「昨夜のうちに、街に強い奴が何人も入ってきて、川神に闘気が満ちてるって意味なんだぜ」

 

「京も感じるのか?」

 

 クリスと松風の言葉を受けて、大和が京にたずねた。その後ろでは、凛が岳人に「兵器を処分しろ」と説得している。しかし、彼は断固としてその説得に応じない。今もまた説得する彼に吹きかけようと、一旦しまった香水を取り出そうとしている。

 

「クリスの言ってる風が違うって表現はわかる。まぁ前と同じく、一人だけそれを感じても、自然体の人がいるけど」

 

 京の呆れた視線の先には、説得を諦めた凛の姿があった。

 

「モロ、気をおとすな。ジャソプでよかっただろ? 体についてたら一大事だったぞ」

 

「うん、わかってる。でも読んでると磯のような香りが漂ってくるから、全然内容に集中できないんだ」

 

 凛は卓也を励ますことにしたようだ。視線に感づいた彼が大和たちの会話に入る。

 

「そういえば、クローンの中には弁慶もいるんだよな? やっぱあれか、巨漢の大男かな?」

 

 巨漢の大男というキーワードに、岳人が鍛え上げた上腕二頭筋をアピールしながら反応する。

 

「それなら俺様がパワーで勝負を挑むぜ」

 

「腕相撲とかか?」

 

「ベンチプレスでもいいぜ!」

 

 次に大胸筋を盛り上がらせてアピールする岳人。それを目の前で見ていた凛は率直な感想を述べる。

 

「暑苦しそうだな。でも女って可能性もある」

 

「もしそうなら、俺のかーちゃんみたいなゴリラだぜ。うげぇ」

 

「案外、美人なお姉さんかもしれないぞ。どっちにしてもおもしろいそうだな」

 

 そんな話をしている最中、犬笛の音が響き、一子が川から飛び出してくる。笛は翔一が吹いたようだ。

 

「うぉ。野生のワンコが現れた! 捕まえよう」

 

「川から登場って斬新だね」

 

 それに驚く凛と卓也。一子は体を震わせ水気を切ると、みんなに近づいてくる。まさに犬の仕草だとその光景を見れば思っただろう。彼女の話を聞くに、鍛錬ついでに川に住み着く外来種確認のバイトをしているとのことだ。

 

「ワンコは癒し系マスコットだな、いや本当に」

 

 みなに可愛がられる一子を見て、凛がしみじみとつぶやいた。そして、「遅刻する」と言って一子がまた川へ戻っていくと、今度は空から人が出現する。

 

「天から美少女登場――――」

 

 言葉通りに美少女が天から降ってきた。そんな非日常の光景にも、慣れた様子のファミリー。

 

「おはようございます。お嬢様」

 

 そう言いながら、凛がふわりと百代をキャッチし地面に降ろした。降り立った彼女は、彼の頭を一撫でして大和に話しかける。そんな一連の行動に、松風が一言。

 

「この姉妹、普通に現れようとしねぇ。そして凛△!」

 

「ありがとな凛。みんなが見えたから、大ジャンプしながら来たぞ。……それから、下着は見えないように飛んだから、安心しろ大和」

 

「えっ黒じゃないの?」

 

 百代にしか聞こえなかった凛の言葉に、彼女はその返答をデコピンで返す。そして、うずくまる彼を無視し、ファミリーへと向き直った。大和が、彼女の後ろを覗き込む。

 

「おはよう姉さん。貞淑……とは言いづらいな。なぜ凛にデコピン?」

 

「ふふっ秘密だ。それより、お姉ちゃんちょっと今ハイなんだ」

 

 ハイと言ったとおり、いつも以上に闘気が満ちている百代に対して、卓也と京が話しかける。その目線は、やはり後ろでうずくまる凛に集まっていたが。

 

「格好のバトル相手がきたもんね(凛は何か言ったのかな?)」

 

「義経は遠めで見た限り、相当の使い手だよ(凛うめいてる)」

 

「美少女らしくゾクゾクしてきた。凛、当分の間、おまえの相手できなくなるかも知れないけど拗ねるなよ」

 

 百代は後ろを振り返り、衝撃から回復した凛に残念そうに伝えた。しかし、彼は平然と言葉を返す。

 

「別に構いませんけど」

 

「拗―ねーるーなーよー?」

 

 その対応に納得いかないのか、凛にべったりくっつきながら、再度問いかける百代。

 

「いや別に構いませんけど」

 

「おい凛、モモ先輩から離れろ! 羨ましい!」

 

 岳人はおいしい思いをする凛にかみついた。

 しかし、百代はそのまま凛から離れず、岳人もその間彼に呪いの言葉を送る。そんな一行が変態橋を渡っていると、一人の男が道をふさいでいた。ここで立ちふさがる人=彼女の挑戦者という図式ができあがっているため、登校中の生徒も立ち止まっている。

 

「がははは、待っていたぞ。川神百代。俺の名は西方十勇士……」

 

「てめぇ、南長万部(みなみおしゃまんべ)!」

 

 岳人が自信満々に南長万部を指差した。彼はすぐさま反論する。そして、凛はその珍しい形に誰か思い出したようだ。

 

「全然違うわ! 長宗我部だ。チョーさんとでも呼べ」

 

「おお。あの火達磨タックルしてた人! あれって技名とかあるんですか?」

 

 東西交流戦で小雪に海へ蹴り飛ばされた男だった。

 

「あれは技じゃない! ……ふぅ。交流戦で不本意な負け方をしてしまったからな。武神を倒して名誉挽回というわけだ」

 

「もう時間がないけど……」

 

 卓也が控えめに言葉をはさむが、勝負と言われればやる気をだしてしまう武神は、凛から離れてぐっと伸びをする。

 

「勝負は応じるまでだ。あー生きてるって感じするぅ」

 

 こうなれば仕方ないので、橋の下に移動した一行は、百代と長宗我部の戦いを見守る。長宗我部は、自前のオイルを頭から勢いよくかぶった。彼はレスラーでもオイルレスラー――交流戦のときは、このときにライターで着火されたため、火達磨になった――だったのだ。オイルによって、鍛え上げられている筋肉がより一層はっきりとわかる。爽やかな朝の光で、彼の全身がテカテカしていた。

 それを見た百代が言葉を発する。

 

「私がそんな技にかかったら、川神百代が寝取られたって、学校の掲示板が炎上するだろうな」

 

「俺もそこに書き込みして、デコピンの仕返ししてやろう」

 

「凛、おまえはあとでお仕置きしてやるから、そこで正座して待ってろ」

 

 百代は、ぼそっと言った凛の一言をしっかり拾い命令した。

 

「聞こえてた!? だが断る!」

 

「まぁアイツは置いといて、ヌルヌルは勘弁してほしい。よって、ここは指弾で打ち抜いてやろう」

 

 百代はそう言うやいなや指をはじいた。パチンという音が川原一体に鳴り響き、見えない空気の弾丸が長宗我部を襲う。十勇士と言えども、見えないものを避けることはできなかった。

 

「おふぅっ」

 

 長宗我部を触らずして倒す。そんな百代の荒業に、橋の上に集まっていた観客は盛り上がった。彼女は嬉しそうに手をあげ声援に応える。しかし、一方で盛り下がる人もいた。

 

「くそ! なんであの音量を拾えるんだ!?」

 

「おまえもそういう事言わなきゃいいのに」

 

「そうはいかん。やられっぱなしは嫌だ!」

 

「にしては、やり方が小さいな」

 

 凛は大和に愚痴をこぼしていたが、百代が橋の上に反応するのと同時に、ある気配を感じ視線を上げる。

 

「ん? この気は……ステイシーさんに李さんだ」

 

「なんか言ったか? ってアレ誰だ」

 

 隣の大和が発した言葉に、次は百代の方へ目を向ける。そこには、彼女をたたえる九鬼の従者――桐山鯉。従者部隊序列42位。いつも笑顔で、何を考えているのかわからない男。鍛え上げた足は壁を超える者に匹敵すると言われている。そしてマザコン――がいた。

 これからのことを考えてテンションがあがってきたのか、翔一が目をメラメラさせながら喋りだす。

 

「新顔が多くなってきて、ワクワクしてきたぜ!」

 

 その後、時間がかなりギリギリになっていたことに気づいた一行は、急いで学園へ向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「みなも朝の騒ぎは知っているじゃろう。武士道プランによって、この川神学園に6人の転入生を迎えることになったぞい」

 

 校庭では、臨時の朝会が行われていた。いつもの通り、鉄心が壇上に立ち喋っている。

 

「―――――。重要なのは、学友が増えるということじゃ。仲良くするんじゃぞ。競い相手にも最高じゃ、なにせ英雄」

 

 生徒達は鉄心の言葉に反応し、校庭の空気が緊張した。大和が後ろにいる凛に問いかける。

 

「凛もやっぱ戦ってみたいのか?」

 

「そうだな。できることならお願いしたいな。でもこの様子じゃ決闘も殺到しそうだし、時間が空いたときに頼むかな」

 

「相変わらず落ち着いてるな」

 

「何言ってる? どんな女の子が入ってくるのかワクワクしているぞ」

 

「まだ他の奴らが女と決まったわけじゃないだろう」

 

 マイペースな凛に大和は苦笑をもらした。そして、ようやく転入生の自己紹介が始まる。まずは3-Sからだった。

 

「それでは葉桜清楚、挨拶せい」

 

 学長の言葉とともに前に進み出る一人の女性。壇上に上がる動作から雰囲気にいたるまで全てが清楚だった。名前通りのそれに、男子の間からはほーっとため息がもれている。長いツヤのある黒髪を後ろで一つにまとめ、ヒナゲシの髪留めが良いアクセントとなっていた。加えて、くりっとした大きな瞳が可愛い印象を与え、親しみやすさを感じさせる。

 

「こんにちは、はじめまして。葉桜清楚です。皆さんとお会いするのを楽しみにしていました。これからよろしくお願いします」

 

 挨拶が終わった瞬間、男子たちは歓呼の声で清楚を迎える。さらに、一部女子からも歓声がとんでいた。そのあまりの盛り上がりに、先生が注意を施すほどだった。

 静かになったところで、育郎が手を挙げる。

 

「学長、質問がありまーす」

 

「何を質問する気だ?」

 

「そりゃ今するなら一つしかないだろ?」

 

 凛と大和も育郎の質問を静かに待った。学長の許可をもらい、育郎は清楚に聞こえる声で質問するため、息を深く吸い込む。しかし、その顔は喋る前からニヤけていた。

 

「ぜひ! 3サイズと彼氏の有無を……」

 

「全校生の前でこの俗物がーっ! みんなすまん、私の教え子が」

 

「だが、全校生の前であの質問ができるヨンパチは、ある意味剛の者だな」

 

 育郎が全てを言い終わる前に、梅子の教育的指導がはいった。しかし、彼は心なしか嬉しそうにそれを受け入れていたようにも見える。そんな彼を横目にしながら、凛は感心していた。あのような質問をすれば、女子の株を下げること間違いなしだからだ。

 そして、質問をされた張本人は、戸惑いながらも律儀に言葉を返す。

 

「コホン……みなさんのご想像におまかせします」

 

「かーわいいーーー!」

 

 軽い恥じらいをもちながら答える清楚に、百代が反応する。それに続いて、男子達からまたもや歓喜の声があがった。真剣な眼差しで彼女を見つめる凛が、慎重に大和へと問いかける。

 

「想像か、少し難しいが……81・57・80ではないだろうか? どう思う大和?」

 

「いや82・57・81じゃないかっていったい何を真剣に考えてるんだ! 正体が気になるだろ普通!」

 

「ん? 正体なんてなんでもいいだろ? そこにいるのが清楚先輩なんだから」

 

「何この子、今まで3サイズのこと考えてたはずなのに、かっこよく見える」

 

「えっまじか……やっぱり俺の鑑定は微妙なズレがあるのか?」

 

 恍惚とした表情の育郎にも答えを求めた凛は、自分の見る目を嘆いていた。そんな男子達をおいて、清楚の話はまだ続く。彼女のクローンが誰であるのかは、彼女自身にも知らされておらず、25歳になったときに教えてもらえるらしい。それまでは勉学に励むとのこと。そして、一通り喋り終えると、一礼して下がっていった。

 

「次に2-Sに入る3人の紹介じゃ」

 

 鉄心の言葉に2-Sのクラスがざわめいた。さらに言葉が続く。

 

「源義経、武蔵坊弁慶、両方女性じゃ」

 

「おいおい! 凛の言うことが本当になっちまったぞ。うげぇ」

 

「誰が得すんだよ。ノーサンキューもいいとこだろ」

 

 弁慶が女性という事実に、岳人と育郎は心底がっかりする。凛がそんな彼らを励ます。

 

「ガクト、ヨンパチ、まだ姿を見てないんだから、悲観するのは早いだろ。……ほら見ろ!」

 

 凛の言葉に、死んだ目をした男2人は一応顔をあげて姿を確認する。

 

「こんにちは。一応、弁慶らしいです。よろしく」

 

 ウェーブのかかった黒髪に切れ長の目、ラフにきこなした制服の上からでもわかる百代に負けないプロポーション、そこから醸し出される雰囲気はなんとも色っぽいものだった。弁慶のイメージを完全に崩壊させた美少女に、凛も驚きながら2人に話しかけようと振り返る。

 

「ほらみろ。ガクト、ヨンパチ、俺の……」

 

「結婚してくれーーーーーー!!」

 

「死に様を知ったときから、愛してましたーーーーー!!」

 

 どよめきにも負けない音量で思いをぶつける岳人と育郎。

 

「聞いちゃいないな」

 

 もう凛の声も届かないほどテンションをあげていた。千花を筆頭に女子からは、白い目で見られていたのを2人は知らない。

 

「ごほんっごほん……よし」

 

 そして、続いて出てきたのが義経。本人は少し緊張しているようだった。清楚と弁慶に励まされて壇上へ上がる。

 

「源義経だ。性別は気にしないでくれ。義経は武士道プランに関る人間として、恥じない振る舞いをしていこうと思う。よろしく頼む」

 

 こちらもこちらで、人懐こい笑顔に男子の声援やら歓迎の声がそこかしこで上がる。クリスも真面目そうな義経を気に入ったようだった。

 そして、最後に紹介されるのは、武士道プランで唯一の男だった。女子たちの期待が高まる中、鉄心がその名を呼ぶ。

 

「2-S、那須与一でませい」

 

 しかし一向にその姿を現さない。他の生徒と同じく、大和がキョロキョロと辺りを見回し、姿を確認しようとした。

 

「まさか初日からサボりか?」

 

「一応学校にいるみたいだぞ。屋上で一つでかい気を感じるからな」

 

「なんでまたそんなとこに? 挨拶ぐらいすればいいのに」

 

「なんでだろうな」

 

 凛は屋上を見たまま答えた。

 ――――ステイシーさんと李さんが那須与一に近づいていく。あと一つ知らない気配も従者の一人か?連れ戻すためかな。

 再度、鉄心が呼びかけるがでてこない。それに慌てたのは義経であり、必死に与一を擁護した。しかし、その後ろで弁慶は酒――もとい川神水を飲んでおり、今度はそちらの擁護に奔走する。彼女自身もこれを適度に飲まないと体が震えるのだと皆に説明していた。その様子をのんびりと見守る凛が大和に声をかける。

 

「義経も大変だよな。個性が強い部下をもって」

 

「だな。って病気で飲まないと体震えるってアル……フゴフゴ」

 

「まぁまぁ大和、それは勘違いだ。触れてはならんところもある。そっとしておこう」

 

 しかし、川神水を平気で飲む弁慶に対して、さすがに不平不満がでた。それについて鉄心が説明を加える。

 

「そのかわり弁慶は学年で4位以下の成績をとれば、即退学ということで念書ももらっておる」

 

 これにだまっているSクラスではない。言い換えれば、3位以上をとれる自信があると告げたも同じだからだ。Sクラスの生徒の何人かは弁慶を睨みつけたりしており、空気が凍り付いている。それを見やりながら凛が口を開いた。

 

「Sクラスのやつら、どえらい空気になってるぞ。あれが絶対零度というものかもしれないな。一部はいつもと変わらんが」

 

「うわっ本当だ。まぁSクラスの奴らは元々優秀だから、その分プライドもある。全校生徒の前で3位以内とるなんて、そんな奴らに挑戦状叩きつけたみたいなもんだろ」

 

「しかし、すごい自信だな。勉強教えてもらおうかな、弁慶先生の個人授業」

 

 その言葉を口にした瞬間、岳人が会話に割り込んできた。

 

「おお、凛それナイスアイディアじゃねぇか! そんときは俺様も誘ってくれ! 個人授業……いい響きだ」

 

「ガクトが入ると個人授業じゃなくなるな。ま、教えてもらえるようなら誘うよ。それより、ちゃんとついていけるように基礎学力をつけとけよガクト」

 

「うっ痛いところをつきやがる。だが、まかしておけ! あんな美少女と仲良くなれるなら、勉強くらい乗り越えてみせるぜ」

 

「でもSクラスだから、自分の勉強だけで手一杯って可能性のほうが高いよね?」

 

 そこからしばらく、凛と大和、岳人、卓也は関係ない話で盛り上がっていた。

 そして最後は、1年生に2人入ることになるのだが、彼らの登場に凛は今日一番の衝撃を受けることになる。

 


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