真剣で私に恋しなさい!-きみとぼくとの約束-   作:chemi

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『東西の激突!-それぞれの戦い-』

 朝の校庭には生徒全員が集まっていた。壇上に立った鉄心は皆をぐるりと見渡したあと、ゆっくりと喋りだす。

 

「今週の週末に福岡にある天神館が、修学旅行のためこちらにくることになっておる。そこで、学校ぐるみの決闘を申し込まれたので受けておいたぞい」

 

 その言葉に生徒の多くはざわめきだす。

 

「天神館って言えば、西ではかなり有名な武闘派のところだな。凛はなにか知ってるか?」

 

 大和が後ろを向いて凛に問いかける。

 天神館――鉄心の高弟であった鍋島正が福岡の天神に設立した学園で、主に西日本から広く人材の募集を行っている。教訓は弱肉強食。現在では、東の川神西の天神と言われるほど有名になった――は、東高西低と言われている現状に我慢ならず、修学旅行にかこつけて勝負を挑んできたのだ。そして、京都出身の凛は西により詳しいと思っての大和の問いだった。

 

「んーそうだな。俺たちと同じ年代で、西方十勇士が久々に全員揃ったって噂に聞いたな」

 

「西方十勇士?」

 

「中学のときから、各県で有名だった奴らが天神に集まったらしい。俺の知り合いも誘いを受けた人がいたしな。で、そいつらが天神館に入ってから、文武においてそれぞれが優秀な成績を残してるから、その10人を総称してそう呼ぶようになったんだと」

 

「ってことは、その十勇士と戦うことになるのか?」

 

「みたいだな。っと前向け大和」

 

 ざわめきが収まらないため、先生たちの注意が入り、また静けさを取り戻す。

 

「うおっほん、決闘はこの週末に川神の工場で行うぞい。学年ごとに200人ずつだしての集団戦、敵大将を倒せば勝ち、ルール無用の実戦形式3本勝負じゃ。これを東西交流戦と名づける!」

 

 生徒の大半は、好き好んで川神に入ってきた者達であり、勝負となれば当然勝ちをとりにいこうとする。校庭は、鉄心の声に呼応するかのように静かな闘気に包まれた。中には、今から楽しみで仕方ないのか一層濃い闘気を纏う者もいたようだ。

 そして、昼休み。2-Fの教室でファミリーの男たちは、昼飯を食べていた。ソワソワする翔一は、今朝の話に興奮を隠せないようだった。

 

「おいおい! なんかおもしろいことになってきたなぁ。週末が待ちきれないぜ!」

 

「でもかなり急な話だよね。先週くらいに伝えてくれてもよかったのに」

 

 卓也はそう言うと、やきそばパンをかじった。隣にいた大和もそれに同意する。

 

「だな。これじゃあとれる手段があっても時間がない」

 

「天神館かぁどんな奴らが来るんだろうな?」

 

 噂は聞いたことがあったが、実際に会ったことがない西方十勇士の面々。凛は弁当をつつきながら、岳人に話を振った。そしてそれに彼が答える――そんないつもの昼食になるはずだったが、彼が凛に吠えることでそれは打ち破られる。

 

「可愛いお姉さまだといいよな……って、俺様はスルーしないぞ! 凛! おまえ朝はそんな弁当持ってなかったよな!?」

 

 岳人は、ビシッと凛の持っている弁当を指差した。そうされると嫌でも意識は、その弁当に向けられる。それは、タコさんウインナーやらアスパラの肉巻きやら、色合いも考えられたものだった。そこで、何かに気づいた卓也。

 

「そういやそうだね。それにやけにカラフルな可愛いお弁当……まさか凛!」

 

「言うなモロ! 自分でこの話を振っておいてなんだが、負けが見えている」

 

「んーなんだよ? ただの弁当じゃねーか。でも確かに変だな。朝は弁当持ってる風には見えなかったし、それどうしたんだ?」

 

 卓也の一言を懸命に抑えた岳人だったが、風を抑えることは不可能だった。

 凛がそれに答えようとすると、岳人は耳をふさぎながら「あーあー」と声をあげ始める。

 

「1年生の女の子がくれたんだ。すごい一生懸命だったから、断るのが忍びなくてな」

 

「うおおおおーーーーーー! 聞きたくなかったよ、そんな言葉! キャップどう責任とるんだよ。もう何話されても自慢話にしか聞こえなくなるぞ」

 

 それでも結局聞こえた岳人は、雄たけびをあげて身をくねらせた。教室にいた羽黒からは「静かにしろ!」と大声でどなられ、その羽黒は千花から「口に物入れたまま喋らないの」と注意を受ける。

 

「なにがだ? その弁当うまそうだなー。よかったな凛、食費が浮いたじゃねーか」

 

「……まぁそうだな」

 

 しかし、岳人の気持ちは翔一には理解できなかったようだ。大和が一連の流れを見て、感想を述べる。

 

「なんか勝手に盛り上がってるガクトが可哀想にみえてくるな」

 

「しょせんこの世は顔なのか!? 顔なのかよ凛!?」

 

 岳人は涙を流しながら凛に詰め寄るが、卓也がなんとかそれを抑えてくれる。

 

「詰め寄ってくるな! 俺はそれにどう答えろと!? でも、ガクトは1年生にはそこそこ人気なんだって聞いたぞ?」

 

「ふっ俺様はモモ先輩のような年上がいいんだよ」

 

「ならば、なぜ弁当にそこまで反応した」

 

「それとこれとは話が別だろ。俺様もそうゆう場面を経験したいんだよ! ガクト先輩、これ私が作ったんですけど、よかったら食べてもらえませんか。みたいの経験したいんだよ!」

 

 凛の疑問に対して、岳人がわざわざ一人芝居をはさんで説明するも、長くなることがわかった大和は早々に話題を変える。

 

「で、凛。朝の話だけど、もうちょい詳しく西方十勇士のこと教えてくれないか?」

 

「俺もそこまで詳しいわけじゃないが……」

 

「無視かよ!」

 

 岳人が再び身を乗り出して、皆の顔を見渡した。翔一と卓也も彼の話に付き合うと、長くなると思ったのか、大和の話にのっかる。翔一の場合は、ただ単に興味があるほうになびいただけとも考えられるが。

 

「おお俺も知りたいぜ。しかも西方十勇士とか、かっこいいな」

 

「大和、僕もできるだけ情報集めてみるから」

 

「聞けよ!」

 

 賑やかな昼食は続く。

 そして時間はどんどん進み、東西交流戦の前日。放課後となり、秘密基地には誰ともなく人が集まりだし、結局全員が揃ったことで、金曜集会ならぬ木曜集会が行われようとしていた。

 

「遂に明日か。やっぱり時間が足りなかったな」

 

 大和はため息をもらした。

 

「誰が来ようと自分は全力を尽くすのみだ。大和もそう気をおとすな」

 

「そうよ大和。私達が揃えば、負けないわ」

 

「なんてったって風間ファミリーは無敵だからな!」

 

「それに今回は大型補強がなされているわけだし」

 

 クリスを皮切りに、一子、翔一が大和を励まし、京の言葉に全員がある人物に注目する。その人物は、隣に座る武神をなんとかなだめようとしていた。

 

「あの……モモ先輩、楽しみなのはわかりましたから、もう少し気を抑えましょう」

 

「おまえは細かいなぁ。ハゲるぞ! ハゲのように。そして、じじぃのように!」

 

 百代はそう言うと、凛の頭をツルツルしたものを触るように撫でる。

 

「あぁそうなったら、責任とってモモ先輩にお嫁さんにもらってもらおう」

 

「おっなんだ? それは遠まわしに、私と付き合いたいということか? どうしようかなぁ。私ほどの美少女は安くないからな」

 

「いやここは冗談で返すところでしょう? しかし、少しいい返事を期待してみる。わくわく」

 

 2人は言葉遊びに興じていた。その合間に名乗りをあげた岳人だったが、毎度の如く百代に一蹴される。その様子を見た大和は、ふっと肩の力を抜いた。周りの熱くなっていた雰囲気が穏やかなものへと変わっていく。

 

「んーなんとかなりそうな気がするな。姉さんと凛を見ていると。あと岳人、年上は姉さんだけじゃないから頑張れ」

 

「あの二人、気負うって言葉を知らねえな。さすがだぜ」

 

 松風の言葉を受け、大和は初日を戦う由紀江に調子をたずねる。

 

「そういえば、まゆっち1年生は大丈夫そうなのか?」

 

「どうでしょう? 一応、大将はS組の武蔵さんに決まったんですが……その、なんと言いますか……」

 

「決闘とか見てる限り、不安しか感じねえ」

 

 由紀江が言いづらそうにしていると、松風がズバッと答えてくれた。大和はクラスと名前だけでしっかりと認識できたようで頷く。

 

「凛と決闘してたあの子か。確かに突っ走っていきそうだな」

 

「私もお力にはなるつもりですが……」

 

「あとは始まってみなきゃなんとも言えないか。姉さんはどうなの?」

 

 言葉遊びを終えて、くつろいでいた百代に大和が話をふった。凛も隣でグデッとソファに体を沈みこませ、ストローでジュースをちびちび飲んでいる。

 

「何かおもしろい技とか出してくれるといいな。私をあっと驚かすようなやつ。そして、それを圧倒的な力でなぎ倒す!」

 

「あははは、さすがモモ先輩らしい」

 

 本当にそれをやり遂げる実力があるため、卓也が苦笑で返した。そこに、京に餌付けされていた一子が、お菓子を食べ終え会話に混ざる。

 

「お姉様なら楽勝よ。凛は私たちが勝てると思う?」

 

「とりあえず、大将とられなきゃ負けないからな。俺は大将を守る。あとはファミリーの力を信じてるよ」

 

 凛は体を起こし少し前のめりに座りなおすと、ファミリーを見渡しながら告げた。その言葉に翔一が立ち上がり、それに皆が次々に応える。

 

「まかせとけ! ここらで一つファミリーの力を凛に見せ付けてやろうぜ!」

 

「俺様の活躍も目に焼き付けとけよ!」

 

「頑張るわ!」

 

「自分も大将首をあげてやるぞ!」

 

「大和のためなら」

 

「確かに凛が大将を守ってくれると安心して、攻勢にでられるな。でも大将は2-Sの九鬼英雄だから、本陣は2-Sの連中ばっかりになるだろうし、凛平気か? 今回は共同戦線になると思うんだが、戦線が組めなければS組の中に残ることになるかもしれないぞ」

 

 やる気になっている皆の横で、大和が懸念を示すが、凛はあまり気にしている様子もない。

 

「九鬼くんか。そういやまだ挨拶してなかったな。学校にいなかったときも多いみたいだし。ちょうどいいから挨拶しとくよ。孤立したならしたで、2-Sが目立てないほど俺が活躍するってのはどうだ?」

 

「この調子なら大丈夫じゃない? なにかあったら、すぐに言ってよ。力になれることは少ないかもしれないけど」

 

「ありがとうモロ。それとあまり自分を卑下しなくていい。モロもファミリーの一員で、武術だけが必要なわけじゃないだろ? な、大和」

 

「ああ、後方支援だって重要なことだ。それに要は適材適所だ。俺たちは情報を戦いの中で集めて、みんなを勝利に導こう」

 

「そうだぜモロ。いざとなれば女装をいかして、だまし討ちなんてなどうだ!?」

 

 岳人は少し大げさに卓也と肩を組みながら、案をだした。

 卓也は、それが岳人なりの元気付けだとわかるため、笑いながらそれに反論する。

 

「だからそのネタもういいから!」

 

「女装か。大和や凛も似合いそうだな。どうだ?」

 

「「やりません」」

 

 百代からの提案に、2人は声を合わせてきっぱりと否定する。交流戦を直前に控えたファミリーの集会は、戦いの前とは思えないほどゆったりと過ぎていった。

 そして翌日の夜、東と西の戦いの火蓋は切って落とされた。まずは1年生の部。まだ組織として動くことに慣れていないためか、駆け引きのない全員のぶつかり合いといった様相を呈している。凛と大和は、そんな光景を見晴らしの良い場所から眺めていた。

 

「大和。なんかまゆっちと話したあと、大将が御自らご出陣なさってるんだが、俺の見間違いか?」

 

「大丈夫だ凛。俺にも確かに、間違いなくそう見えてる」

 

「よかった。幻覚にでも苛まれたかと思った。囲まれてボコられてる……まゆっち、力になる前に勝負終わったな」

 

「ああ、なぜ飛び出した大将」

 

 1年生の部(天神館○―川神学園×)。

 続いて、3年生の部が始まる。こちらはさすがに奇襲あり伏兵ありなど手馴れたものだったが、大半の戦力はある一箇所に集中していた。その集められた戦力――明らかに200人を超える人数だったが、交流戦が始まる前に双方の承諾があった――は、武神の目の前で闘気を高めている。このときばかりは、1対多を卑怯だとは誰も言わない。むしろ、それほどの強さを持ち合わせているからこそ、百代は武神と呼ばれているのだ。

 

「天・神・合・体!」

 

 掛け声と共に一つになっていく天神館の勢力。凛が柵に手をおき、身を乗り出す。

 

「おい大和! 1000人くらいいたのがどんどん合体していくぞ! どうなってんだ? しかもでかい。でかい分動きがとろいし! そんなんじゃモモ先輩倒せないぞ」

 

「もうなんでもありだな」

 

「これはキャップに報告して、俺たちも習得する必要があるな。掛け声はドッキング! こんな感じでどうだ?」

 

「いやいらんだろ。それにしてもあんなでかくなって、姉さん喜んでるだろうな」

 

 一つの巨大生物は、凛と大和が見上げなければならないほど巨大だった。彼らがそのまま目線を足元に向けると、それを嬉しそうに見上げる百代がいる。そして彼女の右手は、夜空の星を掴んでいるかのように光り輝いていた。まもなく放たれたそれは、一条の光となって巨大生物の胸を貫き、夜空へと消えていく。

 

「おお! モモ先輩がかめは○波だしてる! 大和、かめは○波! あれって人間がだせる技だったんだ。俺も子供の頃練習したけど、あんなすごいのでなかったぞ。これから練習しとこう」

 

 凛のテンションは最高潮に達していた。しかし、大和はあくまで冷静だった。見慣れている分、感動も少ないのかもしれない。

 

「いやあれ川神流の技の一つで、星殺しあるいは川神波と呼ばれるものだから。それより、凛は子供の頃から姉さんレベルではないにしても、それらしいのはできたんだ」

 

「合体した人達が崩れ去っていく。まるで巨○兵が溶けていくようだ。結局、あの巨○兵は技ださなかったな。口からビームとか期待したんだが。……まだ成熟していないのに、卵の中からだすから、あんなことになる」

 

「まるっきりジブ○作品に影響うけてるな。まぁ俺も見たけど」

 

「せめて一撃くらい技出させてあげようよ、モモ先輩! ビーム対かめは○波見たかった」

 

「いやかめ○め波じゃなく、星殺しね。それか川神波。そこ間違えちゃダメだから」

 

 巨大生物が崩れ去ったことで、勝負の先は見えた。人数だけなら天神館がまだ有利と思われたが、あの巨大生物は形作るだけでも疲労がハンパではないらしい。ほとんどの人間が、膝をついたり寝転がったまま動かない。弓子や彦一が先導し、残存部隊の掃討にとりかかる。

 凛が哀愁漂う目をして、その戦場から顔を背けた。

 

「あーあとは残存兵力の掃討戦になるな。むなしい戦いが残るだけだ」

 

「凛さんなんかの役になりきってる。戻ってこぉい」

 

 顔を背けたと思ったら、知り合いの姿を見つけて、なりきっていた役を放り投げる凛。

 

「あっ矢場先輩と京極先輩だ。頑張れー。大和も応援だ」

 

「人の話聞いてないね」

 

 あくまでマイペースの凛に、ため息を一つつき大和も応援に加わる。

 

「矢場先輩はさすが弓道部の部長だけあって、必中って感じだな。それに、京極先輩の言霊ってのも、なんていうの補助系魔法みたいな感じ? 攻撃力一定時間1,5倍ってやつ、やりようによっては強力な技だな」

 

「確かに。今も生徒10数人の動きが一斉に変わったな」

 

 ここで何かを思いついた凛が、笑いをこらえながら大和に話しかける。

 

「モモ先輩に攻撃力1,5倍とかしたら大変なことになりそうだ。地球割りとか言って地球にチョップするとか。割れるよな? 某アニメ作品のように割れる……くくっ」

 

「笑ってるおまえもできそうで怖いがな。……てなんか姉さんこっち見てた気がする。俺は何も言ってませーーん」

 

 大和は、百代の視線を感じたのかすぐに無実を叫んだ。すると、不思議なことに彼に対する刺すような視線が消えうせる。凛も遅れながらにそれに気づいたようだ。

 

「!? そういうことは早く言ってくれ! モモ先輩美少女――――すてきー――!」

 

「「エイエイオーーーー!!」」

 

「勝鬨で凛の声は空しくもキレイにかき消されたな」

 

「なんでだ!? 軍師、策はなにかないか?」

 

「こういうときは……」

 

「こういうときは……」

 

 凛はゴクリと生唾を飲み込み、その言葉の先を待つ。頼りになるのは、長年の弟分を務めた大和しかいない。しかし、出てきた言葉は期待していたものとは正反対のものだった。彼の肩に優しく置かれた手は、まるでどこかに送り出すように慈愛がこもっている。

 

「諦めろ。逃げられない。大丈夫だ。凛なら何をされても」

 

「…………感じる。モモ先輩が俺の命(タマ)狙ってる。撤退する!」

 

「ちゃんと帰って来いよ。明日は俺たちなんだからな!」

 

 大和の声を背に、凛の逃走と百代の追撃が始まる。3年生の部(天神館×―川神学園○)。1勝1敗となった東西交流戦は、2年生の部がその勝敗を左右することになる。戦いは明日の夜。

 

「モモ先輩、ジョークですよ。ジョーク。だから、その目の笑ってない笑顔やめてください。いつもの可愛い笑顔を見せてください。うぉ! あぶない!」

 

 凛は五体満足で駆けつけられるのか。それは百代のさじ加減次第。

 


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