台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題 作:まかみつきと
アニメ設定継続中。
※アニメ設定とは。
・楽俊は慶の大学に留学中。
・あわせて、バイトと実務をかねて金波宮に内豎(ないじゅ・女史の男性版)として出仕。
・あくまで身分は学生なので昇仙はしていない。
というアニメ版独自の設定を拝借しております。
原作至上主義の方はご理解のうえご覧ください。
「ああ、やっと肩の荷が下りた」
太師である遠甫宅の
「久々に腕をふるえるって喜んでた人の台詞じゃないわよ」
「喜んでいたわけじゃないわ、これも外交。慶の面目のかかっている大事な仕事だもの、手を抜くような真似なんてできないでしょ」
「あらそお?」
揶揄するような合いの手に、からかわれた祥瓊がちょっと唇を尖らせる。
「もう。鈴は範の方々がどんなだか知らないから」
「いろいろがすごいって話だけは聞いたけど」
「すごいなんてものじゃなかったわ」
柳眉を寄せた祥瓊に真正面から迫られた鈴は一瞬息をのみ、ついで吹き出した。
「それは、おつかれさまでした」
「……まあ、鈴も李斎様の看病があったんだものね」
軽く息をついて椅子に背を預けた祥瓊が、腕を伸ばして身体をほぐす。
「ああ、本当にいろいろあったわ。こんな大騒動、和州の乱以来じゃないかしら」
「そのときの主犯格が、今度はふりまわされたわけね。因果は巡る糸車」
「鈴だって御同様でしょ」
しようのない応酬に笑いあっていると、扉が軽く叩かれた。
どうぞ、と応える声が重なって、またふたりで笑う。共有の場所である堂にはいるのにわざわざ叩扉するような律儀者は、彼女達の知る限りひとりしかいない。
「おつかれさま、楽俊。陽子の方はいいの?」
労う祥瓊に、椅子に腰を下ろしながら楽俊が首肯する。
「ああ。仕事の区切りがついたから、泰台輔のところに行ってみるってさ」
お茶を差し出した鈴がくすりと笑った。
「目を醒まされてなによりだわ。台輔が朝議を投げ出してすっとんでいったそうじゃない」
「あの景麒が?」
四角四面の仏頂面、と陽子が公言してはばからない慶の麒麟が朝議を中座するなど、前代未聞の椿事である。祥瓊の疑念は無理もない。
「陽子が行ってこいって尻叩いたんだと。台輔もずいぶん御心配なさってたし、なによりここで泰台輔に一番御縁があるのは景麒だからな」
「そうね」
頷きながら、祥瓊は
酷くやつれ、顔色も悪かった。
目を醒ましたからとて、これですべてが片付いたわけではない。むしろこれからが正念場といえるが、それでも命あってこちらに戻ってこられただけでもよしとするべきなのだろうか。
先のこともいろいろと気にはなるものの、難事を極めた捜索を終え手を貸してくれた王たちも帰還して、まずは安堵の息をつく。
思えば、こんなふうに仲間達が顔を合わせるのも久しぶりだった。
「祥瓊! あ、楽俊もいた」
勢いよく堂に飛びこんできた
「なんだ桂桂、おまえも一休みか」
金波宮唯一の子供である桂桂は、身近なおとなたちに可愛がられまた皆によく懐いてもいるが、ことに楽俊について歩くことが多い。
より近しい年回りの夕暉が暁天の少学に行ってしまっているから、今は楽俊が一番年の近い兄になるわけだ。そうでなくても面倒見のいい楽俊のこと、桂桂が慕うのも当然だろう。
椅子を引いて手招いた楽俊のところに、まっすぐ駆け寄った。
「飛燕の世話が終わったところ。ねえ、楽俊」
利発そうな子供の顔が幾分曇る。
曇るというよりは、年にあわぬ難しいことを懸命に思案するように、きゅうと眉が寄った。
「西園て、外宮なんだよね?」
突飛な問いに、傍に膝をついた楽俊がその顔を覗き込んだ。
「ああ、そうだ。けど、なんでいきなり西園なんだ?」
「ええと……普通の官の人は外宮までで、内宮には入って来られないんでしょう。じゃあ内宮の人は……天官はっていうことだけど、外宮に行く用事なんてあるの?」
「天官?」
祥瓊が怪訝そうに子供を見やる。こくりと頷いた桂桂の肩を、楽俊が両手で引き寄せた。
「桂桂、何を見た」
「ちょっと、楽俊」
鈴が制止したが、楽俊は振り向きもしない。
「西園に、誰かが行ったのか?」
聞いたこともないほど真剣な声に、同じ顔で桂桂が先刻より強く頷く。
「内宰のかただよ。ぼくはあんまりお会いしてないけど、遠甫のところにいらしたことがあるから、お顔を知ってる。淹久閣のほうに向かってたと思う」
「他には。何人いた」
「十人くらい。だから変だと思って祥瓊に聞きにきたの。それと」
子供の瞳に緊張が浮かぶ。
「違うかもしれないけど---剣を持ってるみたいだった」
淹久閣は掌客殿のひとつ、さきに範主従が逗留していた場所で、泰麒が帰還してからは彼に譲られている。
そして、いまは陽子が
慶国の天官である内宰が他国の麒麟に用のあるはずはなく、またたとえあろうとも十人からの数で、あまつさえ帯剣してまみえるなど、万にひとつもありえない。
あってはならない。
だとすれば、目的はひとつ。
「よく知らせてくれた、桂桂」
小さな肩を叩いて、楽俊が立ちあがる。
「祥瓊、浩瀚様と桓魋に知らせてくれ、至急だ!」
「わかった!」
緊迫した祥瓊の返事を背に、楽俊は扉を突き倒すような勢いで堂を飛び出していく。同じように血相を変えた祥瓊も、ひるがえる裾に構わず駆け出した。
「鈴」
顔を強張らせた桂桂がすがるように見上げるのを、鈴はしっかりと抱き寄せる。
「大丈夫、馬鹿な人達の好きなようにはさせないわ。絶対に」
燃えるような大きな瞳で中空を睨み、さあと子供を促がした。
「急いで遠甫に知らせないと。台輔にも」
「うん!」
初稿・2005.07.11
てなわけで(え)続きものになりました。
長くなりそうだったので。ごめんなさい。
いやもう、全然まとまらなくてこの体たらく。
前振りゼロでやろうとするから大変なのだよ、とかねー。
初稿ではお題73でネタ振っとくはずだったのを忘れたんですが、改稿にあたりほんのすこしだけ足してみました。(73で言いなさいよ)