台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題   作:まかみつきと

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金波宮バカバナシその2。


||48|| このツッコミ症候群患者めが。(景王vs景麒)

 

 こつ、と整えられた爪が書卓を叩いた。

「……景麒」

「は」

 押し殺した声に、返答は簡潔。

 文句を言うときだけ饒舌で、あとはひたすら口の足りない下僕に、卓を打つ音が苛々と数を増す。

 白磁で作られたかのような冷たく感情のない貌に、苛烈な翠の瞳が向けられた。

「はじゃない!お前の頭のなかには、学習能力ってものはないのか!」

「主上……?」

 唐突に怒鳴られて、慶の宰輔は眉根を寄せる。

 どうみても、しかめっ面にしか見えないのだが。

「仰ることがわかりかねますが」

「馬鹿」

 にべもなく切り落とされて、今度こそ景麒の眉間に暗雲が立ちこめた。

「お言葉ですが、説明を怠る主上に御責任があると思われます。自己の不明を棚に上げて、いたずらに他人を悪し(ざま)に罵ることはおやめいただきたい」

「説明が足りないのはお前のほうだろう。それに、罵詈雑言だけすらすら喋るのはやめろといっている」

「雑言とは心外な。わたしは間違ったことは申し上げておりません。主上のためを思ってのことです」

「だったら、たまには主を労ってみたらどうだ」

「国や民のために尽くすが王の使命でございましょう。労うには及ばないと存じますが」

「……お前、それでも仁獣か?」

 紫と翠の視線が真正面から睨み合う。景女王こと陽子の故国風にいうなら、メンチを切る、というやつだ。

「酢でも飲んで、そのがっちがちの石頭を少しは柔らかくしてみろ」

「臣下に無体を要求なさる前に、ご自分がなさってください」

 むうう、と怒りの振り子は規定値いっぱい振り切って。

「お前がそこまでの態度を取るなら、わたしにも考えがある」

 睨みあった姿勢のまま、ばん、と陽子の手が書卓を叩いた。

 否、なにかを叩きつけた。

「主に暴言を働いた罰だ。以降わたしがいいというまで、これを外すな」

 突きつけられた代物と王を忙しく見比べた景麒が、はてしなく途方にくれた顔で首を傾げる。

「主上、これは……?」

「マスクだ」

「……ますく?」

「本来、クイズで間違えた回答者がつけるものだが、うるさい奴の口をふさぐにもいいアイテムだからな。文句は言わさん。つけろ」

 くいずとは、あいてむとはなんぞや、という疑問は、あいにく挟む余地がない。

 それでもなんとなく状況を察して、だんだん表情を曇らせていく景麒に、陽子がめいっぱい厭味な笑顔をつくった。

「わたしが手ずから作ってやったんだ。よもや嫌とはいわないな?」

「……」

 色白を通り越して青ざめた半身に、勝ったと握りこぶしを振り上げた王の姿は、運良く誰にも目撃されなかった。 

 

 

 翌日から、大きく赤い罰印をつけた白い布で口元を覆い、憔悴したふうで仁重殿にこもる宰輔の姿があった。

 その罰則は根負けした宰輔が王に泣きつくまで続き、王以外には謎の布切れは対宰輔用の最終兵器として、慶の宝重になった……わけはない。

 

初稿・2005.03.10

 

 




お題が難しいので、またもやバカバナシに逃げました。
それにしても、うちって景麒ファンの方には非常に優しくないサイトですね。ゴメンナサイ・
モノは、言わずと知れた赤バッテンつき罰ゲーム用沈黙マスクです。
原作の陽子ちゃんは、こんな阿呆なマネしないだろうな……(遠い目)

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