台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題   作:まかみつきと

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悩めワカゾー!(違います)


||45|| もっと色付けて喋れよ。(鳴賢)

 

 

 あの子は誰なんだと聞いたとき、彼はあっさり、友達だ、と答えた。

 

 それはまあ、そうなんだろうけどさ。

 鳴賢はどこか腑に落ちない気分で唸った。

「もうちょっと、他に言いようがないもんかなあ」

 ただ友達、というにしても、いろいろあると思うのだが。

 気軽に茶飲み話のできる友人、馬鹿騒ぎする悪友、勉強や将来について真剣に話をする相手。広い意味でなら、挨拶や立ち話くらいはするけれど、堂室に上がりこんでまでは話さない人、とかも友達に入るか。

 万事におおらかで、ものを気にしないところのある奴だから、「友人」というものに定義などないのかもしれないけれど。

 なんとなく、自分を含めた友達の輪のなかに彼女を入れるのは、違う気がする。

 たんに親しそうとか仲がいいという言葉で済ませてしまうには違和感があって。

 だからといって、恋人、というわけでもなさそうだし、妹だと言われた方がまだしっくりくる。

 まあ、ぱっと見たところは弟、なのだけれど。

 もちろん、彼女がそのへんの道ですれ違う娘たちより数段綺麗であることは間違いないのだが、その格好や挙措を見ているとどうも向こうっ気の強い少年、という雰囲気が強い。

 いっそ暢気といわれそうな彼と一緒にいるから余計なのかもしれないが、その対比がまた面白い。

 彼本人は一人っ子だと言うが、だからこそ仲のよい兄弟に見えてしまうのかもしれない。

「……そういうのも、関係してるのかな」

 優しくて頭も面倒見もいい兄と、兄によく懐いたやんちゃな妹(あるいは弟)。

 なんともほほえましい光景だ。

 自分からすれば、なんとも歯がゆい気もするのだけれど。

---一応、いい年の男なんだからさぁ。

 いやまあ、男女間の友情が悪いとかいうつもりは毛頭ございませんが、と、心の中で友人にいいわけをしながら、天井を睨んだ。

 自分には関係ないといったらそれまでなのだが、友人の色恋沙汰は気になるし、これがまた中途半端に首をつっこんだあたりがたいそう面白いわけで。

 欲を言えば、ちょっと込み合ったほうがより面白みがあるのだが、そこまで期待してはいけない。

 まがりなりにも意思をもって手にしていた筆を硯に置いて、思考は本格的に勉強から離れていく。

 さしせまった試験も課題もないし、くだらないことで考え込んで時間をつぶしてももさほど困るわけではないが、勉強熱心な彼がこの状況を見たらまた溜息をつかれるだろう。

「そうやって手ぇ抜いてるから、勉強がはかどらねえんだろ! ってか」

 椅子の背もたれに体重を乗せて、くつくつと思い出し笑いする。

「ほお、わかってんじゃねえか」

「文張っ!」

 だしぬけに声をかけられ、浮かせていた足が空を蹴る。

 すばらしく景気いい音を立てて椅子ごとひっくり返った同輩を、灰茶の鼠がしらじらと眺めた。

「鳴賢、おいらお前はもうちっと運動神経いいと思ってたぞ」

「……俺も、そう思ってたよ」

 手を貸そうともしない友人に、硬い石の床にはたきつけられた後頭部をさすりながら、地を這うような声で答える。

「なんだよな、いきなり声かけることないじゃないか」

 しみじみ痛い頭を抱えて睨みつけるも、長い尻尾はちょろりとその先を揺らすだけでおそれいらない。

「おいらはちゃんと扉叩いたぞ。返事がねえから名前呼んで開けたのに、お前ときたらこっちの声にも上の空で考え込んでるし。なにやってたんだ?」

「え」

 ようやく身を起こした鳴賢は、事の前後に思い至って椅子の足にすがりついた。

 本当は堂室から逃げ出すか物陰に隠れるかしたいところだが、あいにく現状ではこれが精一杯。

「いや、別に」

 ひしと椅子を抱き込んでやたらと首を振り回す鳴賢に猜疑心でも持ち上がったか、相手は黒い目をわずかに眇めた。

「おいらの小言を笑ってたところを見ると、また勉強以外のことか?」

「また、ってのはひどいんじゃあ……」

「またでなけりゃ今度も、だ。おいらがくるたんび、勉強そっちのけで遊んでるような気がするのはおいらの覚え違いか?」

「あー、その」

 これだから口と頭の回る奴は困る。

 舌先三寸で逃げおおせる隙間がないではないか。

 どう言を弄しても自分が遊んでいたことは確かだし、考え事の内容など断じて話せない。

 こうなったら、と瞬時に対応を切り替える。

「申し訳ございません、少々息抜きの度が過ぎたようでございます。張老師」

「誰が老師だ、誰が」

「小生心を入れ替え、これより真面目に勉学に励みますので、此度のことはなにとぞご容赦を」

 へへーっとわざとらしく平伏してみせると、きわめつけに冷たい声が降ってきた。

「そうだな、真面目にやらねえと伝説が完成しちまうもんな」

「だから、それを言うなって!」

「ほほぉ?」

「あ、嘘ですごめんなさい」

 冷たい視線に精一杯の愛想笑いを振りまいて、いそいそと書卓に向かう。

「ええと、明日の講義講義……」 

 わざとらしく本をひっくり返す鳴賢に、灰茶の鼠が深々と溜息をついた。

 

 

初稿・2005.02.28




途中から脱線しちまいました。
失礼失礼・笑

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