台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題 作:まかみつきと
進むべき道は、一つしかない。
他を選んでしまったら、幾万もの民をも巻き添えにしてしまう。
負った責は途方もなく、それを降ろすすべはない。
逃げることは死ぬこととおなじで、闇雲に進むことすら危うくて。
ただひたすらに前を見つめ続けることの、なんと苦しいことか。
◆
道は芳から恭へ。柳を辿り、雁に、そして慶。
最初はただ生き永らえるために。
その次は逃げるため。
捕らえられ、嘲笑われて、根本から否定された。
突き落とされた奈落の底で、自分自身というものを初めて見つめた。
けして楽しいばかりではないそれも、きっと自分には必要なことだった。
◆
流れ着いたのは慶。巧を歩き奏を巡り、行きついたのは才。
惑い、怯え、ただひたすら下を向くだけの百年。
そこから逃げ出すことは、おのれの死を意味したから。
でも、逆らうことを選んだのは、結局自分。
同じ道を戻る旅で、かけがえのない出会いをした。
それは、あまりに悲しい別れに続いていたけれど。
◆
仲間、というものを持ったのは、あれが初めてだった。
血を分けた兄弟でもない。
ずっと昔から一緒だった友人でもない。
ただ志を同じくしたというだけの、不思議な繋がり。
わが身の立場や命をかえりみず、見ず知らずの誰かに差し伸べる手。
己の故郷でもない立場で、義憤を感じ立ちあがる勇気。
今までの自分には、なかったもの。
しんどいんだ、とその人は言った。
誰かが苦しんでいるのを見るのはしんどいんだ。
だから戦うんだと。
そこには高尚な理由などない。
他人の悲嘆を負って、受けなくてもいいはずの傷を受けるために立つのだ。
だからこそ。
武器をやろうか、と笑んだ不敵な顔と。
つかまれ、と引き上げてくれた腕の強さを。
共に戦うか、と差し出してくれた銀の輪に。
戦うことが出来た。
信じることが出来た。
頷くことが出来た。
それは、命の繋がり。
誰かの血が流れても、倒れ伏し立ちあがれなくなっても、その心を継ぐ仲間がいる。
視線を交わしあうそれだけで、進む力をくれる相手がいる。
その
一人じゃないこと。
信じること。
思いをわけあうこと。
絆は剣よりも強く、血よりも温かい。
互いを支えるものは血統でも、生まれた場所でも、育った環境でもない。
天に背くことなく、ただまっすぐ顔をあげられる心。
虐げられる者をいたわる優しさ。
それだけが互いを繋ぐ。
それを忘れなければ。
きっといつまででも、走りつづけることができる。
楽陽だと思った人、ごめんなさい。
和州の乱のメンツは皆好きなんで他のも出したかったんですが、
三人娘視点で終始してしまいました。残念ッ!