台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題   作:まかみつきと

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麒麟は王を選ぶ。
それってどんなかんじ?


||22|| 惚れるより慣れってね。 (三人娘&六太)

 麒麟は王を選ぶ。

 あたかもそれは、と知ったような口で言ったのは、五百年を数える大王朝を築いた雁の名君である。

 曰くところ、

「男が女を選ぶように、もしくは女が男を選ぶように」

 である、らしい。

 

「感覚としちゃあ、まあ間違ってねえのかも知れねえけどさあ」

 梨の実にかぶりつきながら、その名君の宰輔が嘆いた。

「そうすると、アレを選んだオレの立場ってねえだろ」

 同意を求められても、ここは肯定も否定もできないわけで、座を囲む一同は笑ってごまかすしかない。

「例えば景麒とか廉麟とかならともかくだな、同性の王を選んでそんなこと言われたら、立つ瀬ないぜ」

「采麟と泰麒もそうだね」

 笑いを噛み殺しながら陽子が頷いた。

 そうね、と相槌を打って、祥瓊が首を傾げる。

「あらでも、芳はお父様と峯麟だし、元の塙王も男王と塙麟だったのでございましょう? 同性の主従って少のうございますのね」

 おもいもよらぬ一撃に、六太は梨の塊を呑みこんでうめいた。

「祥瓊……」

「あら、申し訳ございません」

 ほほと笑って口元を隠す仕草が実にたおやかで、それ以上文句を言う気もなくなって肩を落とす。

「別にいいけどさ……。オレだってどうせ選ぶなら、陽子みたいに美人の女王の方が良かったよなぁ」

「……女王の方がってところだけ受け取っておく」

「でも実際、天啓ってどんなふうに降りるものなんですか?」

 替わりのお茶を継ぎ足しながら鈴が興味津々の顔で聞くと、天意を受け取った麒麟は大仰なしかめっ面で腕を組んだ。

「それなんだよなぁ。こいつだ、って思ったのは確かなんだけど、稲妻が降ってきたとか、違う物が見えたとか、そういうんじゃないんだよな」

 行儀悪く卓子(つくえ)に頬杖をついて、目を(すが)める。

「……光、みたいのは、多分感じたんだ。けど、あいつはそうじゃなかったみたいだし」

「あいつ?」

「泰麒。昔、ちょっと会ったことがあるんだけど、そんときそんなこと言ってた」

 あの方はただ恐ろしかったのだと、王気は見えなかったと景麒にすがって泣いたという、小さな麒麟。

 そのとき自分はいなかったけれど、あの景麒が血相を変えて嘆願に来たのだから、よほどの様子だったのだろう。

 黒の鬣をした(いとけな)(かお)を切なく思い出して、六太は胸のうちでかぶりをふった。

「たとえ気分的にどんなヤな奴だって、そいつが王なら選んじまうのが麒麟なワケよ。自分の好みとか、そういうのは全然関係ねーの。まあもともと麒麟は王が第一なわけだから、そんな嫌いな奴を王に据えるってこともないんだろうけどさ」

 言って、複雑そうな顔をした慶の女王を見やり笑う。その視線に気づいた鈴と祥慶も顔を見合わせてくすりと笑った。

 ここの麒麟が王と始終喧嘩しているのは、一同のよく知るところである。

「あれだよな、惚れるより慣れっての? そういうもんだろ」

 勝手な結論に、陽子がええ?と渋面を作った。

「それって、お見合いとかでお嫁に行くとき言う台詞じゃないのか?」

「そうだっけか?」

 蓬莱での暮らしの短かった六太はけげんそうだが、陽子の隣で鈴が頷いた。

「近所の小母(おば)さんが、お嫁入りする御寮(ごりょう)さんにそんなこと言ってた覚えがある」

「あの、お見合いって、なに?」

 あちらのしきたりを知らない祥瓊に、今度は陽子が腕組みをして唸った。

「ええと、こちらでいう許配みたいなものかな。もっとも、向こうは土地の割り振りなんてないし、そのまま夫婦になって暮らすけど。本人同士じゃなくて、親とかまわりが結婚を決める方法……で、いいっけ?」

 いかんせん結婚に縁のある年回りでなかったから、同郷の少女に助けを求める。話を振られた鈴が、小首を傾げた。

「あたしの頃はまわりが決める方が普通だったわ。一度も顔を見たことのない人のところへお嫁に行く人も多かった」

 待って、と震える手が上がる。

「そのまま結婚て、見ず知らずの人と? あちらは簡単に別れたりしないって言ってなかった?」

「まあ、お見合いだったら余計そうだね」

「別れるなんてとんでもないわよ」

 多少時代差があるとは言え同じ蓬莱育ちの二人の説明に、祥瓊が信じられないと頬に手を当てた。

「そんなの、冗談じゃないわ。結婚相手を勝手に決められて、それも一生だなんて!」

 真剣に悩む祥瓊を眺めて、陽子が苦笑する。

「相当カルチャーショックだったみたいだな」

「かるちゃーしょっくってなんだ?」

「異文化を知って衝撃を受けるってこと」

 なるほどだいぶん衝撃を受けたらしい同僚の様子にくすくす笑っていた鈴が、ああと一人頷いた。

「そう考えると、王様と麒麟もお見合いみたいなものなんですね」

「……なんだって?」

 唐突に言われて、王と隣国の麒麟が手にしていた茶碗を取り落としそうになる。

「だって、お互い面識のない王様と麒麟を、天がお(めあ)わせなさるのでしょう? 天帝様がお引き合わせになるお見合いって言っていいんじゃあ」

「娶わせるとか言うな!」

「あれとお見合いなんて恐ろしい話はやめてくれ……!」

 想像するだに恐ろしい表現に六太が金の鬣をかきむしり、陽子は頭を抱えて卓子に突っ伏した。

「……いけなかったかしら」

 まだぐるぐる廻っているらしい祥瓊と悶絶する二人に囲まれて、鈴は一人途方に暮れた。

 

 

 




【娶わせる・めあわせる】御存知ない方、辞書引いてください・笑

どうも麒麟が絡むとどたばたしますねえ。
陽子の両親は見合い結婚な気がする。なんとなくだけど。
あ、柳と舜無視しちゃった。あそこんち、主従どうなってんだろう?


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