台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題 作:まかみつきと
金波宮の奥、後宮の園林のなかでもさらに奥まった場所に、それはあった。
一歩足を踏み入れた鈴と祥瓊が、すごい、と言ったきり立ちつくす。
「このあいだ探検してて見つけたんだ」
綺麗だろう、と陽子がにこにこしながら二人の顔を眺めていた。
「綺麗、なんてものじゃないわ。眩暈がするくらい」
目を瞠った祥瓊が、呆然と呟く。
視界一杯、見渡す限りに揺れる花。
百花繚乱という言葉を具現化するとこうなるという見本のような光景だった。
「休憩を邪魔してすまなかったけど、どうしても二人に見せたくて、来てもらったんだ」
「すまないだなんて! あたし、こんなにきれいなもの見たことないわ!」
頬を高潮させた鈴が思いきりかぶりを振る。
「もう、こんな素敵なことってあるかしら!」
いますぐにでも花の海に飛び込みたいと顔に書いてあるが、足は前にでないらしい。
「どうしてそこで止まってるんだ?」
先に立って歩き出した陽子に、二人が揃って悲鳴を上げた。
「花を折ってしまいそうで、怖くて動けないの!」
少女らしい葛藤に、陽子が吹き出した。
「こんなにあるんだから踏まないわけにいかないけど、かきわけながら進めばすこしは大丈夫じゃないか?」
暫し逡巡していた二人だが、ようやく覚悟を決めたらしい。
そろそろとおぼつかない足取りながら、陽子のあとをついて歩き出した。
「すごいわね・・・人の手なんて入っていないでしょうに」
「うん。でもむしろ、手をかけていないからこんなにのびのびしているんだと思う」
高いもので腰下ほどに丈を伸ばした花を撫でながら、三人は香りを楽しんだ。
「そういえば、こちらには花占いってあるのかな?」
花弁の多い花をつまんで、陽子が祥瓊を振り返る。
「はなうらない?」
「そう。恋占いなんだけど、好き、嫌い、好き、嫌い、って繰り返しながら、一枚ずつ花びらを落としていくんだ。最後に残った一枚がどちらかで、相手が自分を好きか嫌いか占うの」
説明された祥瓊が、軽く柳眉を寄せた。
「他は知らないけれど、私は聞いた事がないわねえ・・・」
「あたしも知らないわ。むこうでも、やったことない」
首を傾げた鈴に、陽子が苦笑する。
「そうか、鈴も知らないんだ」
世代の違いなのか育った環境なのか、そのあたりはさだかではないが。
祥瓊が、陽子が触れているのと同じような花を引き寄せた。
「花に託す恋心、か。なんだかいいわね」
「花には迷惑かもしれないけど、素敵よね」
なぜとはわからないが自然と口元の綻んでしまうこそばゆい感覚に、三人は顔を見合わせた。
「・・・やって、みる?」
「なあに、鈴ったら。お目当ての相手でもいるのかしら」
「祥瓊だってその花、どうするつもりなんだ?」
「陽子はいるもんね。それとも、もう占っちゃった?」
「なにいってるの。陽子は占う必要なんてないのよ」
「ああ、それもそうね」
「そんなんじゃないってば!」
額を寄せ合って、小突いたり忍び笑ったり。
思えば、こんな暖かい時間なんて持ったことがなかった。
くだらないお喋りが、こんなに楽しいだなんて。
いつまでも続く娘たちの軽やかな笑い声が、花を渡る風にまぎれた。
花と三人娘。
このトリオも書きやすかったり。
世代から言うと祖母・母・娘、なんだけど・・・。(鈴ごめん)
少なくとも二人は陽子のお姉さん役を自らに任じているでしょう。
三人娘のお母さんは玉葉さんで。
どーでもいいが、こういうのはこそばゆーてよう書けまへんな!