台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題 作:まかみつきと
清水に両足を浸して、子供はただぽかんと空を眺めた。
木々の枝を透かして見える色は、青と藍の中間にあるように見える。暖かかった風は次第に温度を
下げて、柔らかい灰茶の毛を時折強くそよがせた。
足の先を揺らすと、勢いのある水がぱしゃんとはねる。
川の流れに逆らって動かせば、水あめのように水面がもりあがって渦を巻く。
ただ座り込んだまま、もうニ、三刻ばかり小さな鼠の子はそうして水と戯れていた。
無心に水玉をはねあげる左の
水場から離れないでいるのは、それを冷やすためだった。
時折思い出したように痛むけれど、べつにそれがどうとは思わない。ただ、家で待っているだろう母親に見つからなければいいな、と思って冷やしているだけだ。
きゅうう、とちいさく喉が鳴る。
今日の午過ぎ、庠学を出たときのこと。
「半獣のくせに!」
吐き捨てるような言葉と共に
よろめいて膝をつきながら見上げると、同い年の子供が小石を握って突っ立っているのが見えた。
「ちっとくらい本が読めるからって、いい気になるなよ、半獣!」
「
教師の鋭い叱咤に飛びあがった子供が、石を投げ出し一目散に駆け出して行く。
「大丈夫かね、酷いことをする」
「平気です。黄老師」
駆け出してきた老教師の手にすがって立ちながら、明確に頷く。
「すまんな……わしの指導が行き届かんばかりに、お前さんには辛い目を見せる」
溜息をつく白髭の老人に首を振った。
「老師にはこのうえないくらいよくしていただいてます。おいらが半獣なのは、生まれついてのことだから」
そう、誰のせいとかそんなことじゃない。
ただこの姿に生まれたと言うだけであって、誰が悪いとかそんなのは関係ない。
それでも。
半獣を格下と蔑むこの国では、二つ身を持つ者たちが生き辛いのもまた事実。
こればっかりは、しょうがねえけどさ。
川面を蹴るように足を上げれば、水飛沫が陽光を受けてきらきらと輝いた。
王が半獣を嫌うから、民もそれに倣う。
少しでも賢しげな顔を見せれば、職も給田も貰えぬ半獣がと罵られる。
そういうものだと自分に言い含めているからいまさら腹も立たないけれど、溜息は零れてしまう。
「なんでなんだろうなぁ」
どうして、半獣という者が存在するのだろう。
あの空の高みには天があり、世界を統べる天帝がおわすという。
姿を見ることの叶わぬ至高の存在は、何を思って
ぽつんと息をついて、すっかり冷えた足を小川から引き上げた。
日は大きく西を指している。
二、三度足先を振ってみたが、それほど痛みは感じなくなっていた。
大丈夫そうかな、と背を丸めて足元を見ていると、後ろから声がかかった。
「楽俊」
振り返ると、荷籠を負った母親がにこりと笑った。
「母ちゃん」
長い尻尾を揺らす息子に、下げていた包みを渡す。
「
うんとひとつ頷いて歩き出した頭を、節立った掌がそっと撫でた。
「
静かな声に見上げると、しょうがない子だと笑う母親の顔があった。
「こんなところで水につけてたら、体まで冷えちまうだろう。まっすぐ帰ってくればいいんだよ」
「うん……」
頷いた首は下がったまま上げられなくなって、
空は、いつしか茜に染まっていた。
初稿・2005.01.20
【穎曹・えいそう】
【花巻】陽子の言う「蒸パン」てこれなんでしょうか?
中国語だとホアチェン。日本語ならはなまき(ゑ?)
肉まんの皮みたいなの。バー●ヤンでメニューに載ってます・笑
ちっちゃな楽俊バナシ。
お題に添えてないような気も……つーか、どう書いた物やら・苦心惨憺
ちびの楽俊て、み、見てみたい(笑)
『月影・下』で「選士にも選ばれた」と楽俊は言ってましたが、あの巧で半獣を推挙した人物というのは一体どんな人なんでしょうかね。
そりゃまあ、二十そこそこで雁の大学に主席で入れるような頭だったらたとえ半獣でも推薦したくなるのかもしれませんけど。
ものすごい物のわかった人なのかな。
いささか難しいお題でございました。