風雲の如く   作:楠乃

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追い掛けっこ

 

 

「……何が起きとるんじゃ、これは?」

「あ、天魔様! お久し振りです」

「おぅ文、長旅御苦労……で、これは何がどうなっておるのじゃ?」

「……えーと……詩菜さんが何やら能力を使って『色々と』引き寄せたみたいで……」

「まぁた、何をやらかしておるんじゃ……あいつは……」

「ハハ、ハ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果から言う事にしよう。

 

 幽香との試合結果、0勝14敗1無効試合。

 つまり、また負けた。負けてしまいました!

 

 

 

「……マスタースパークは卑怯だって……」

「貴女の大技の起動が遅いから押し負けるのよ」

「……くそぅ」

 

 格闘やらまだしも、弾幕合戦で私が勝つのは程遠いようだ。

 

「あ~あ……空が蒼、いなぁ……」

「そう? 私には夕焼けにしか見えないけれど?」

「……あ~あ…空が紅いなぁ……」

「そうねぇ」

 

 

 

 ……ゴホン、地面に大の字で寝転がって空を仰ぐ。

 周りにいた雑魚妖怪は、生きていたのは散り散りに逃げてしまったし、私の砲撃に巻き込まれたのは死んだりした。

 ……これ技も封印指定かな……? 破壊力が高すぎ。

 

 よって、近くにいるのはボロクソな私。

 多少の怪我をしている幽香。

 上空に待機している文と、その上司の天魔。

 そして此方に向かっている足音、彩目。

 

 うーん、確かにこれだけ見れば、何が起きたんだか分からない……かな? どうだろ?

 まぁ、どうでもいいや♪ うん……そう思う事にしよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当に、お主は何をしておるのじゃ……」

「いつもの事でしょ」

「いや……まぁ、確かにそうかも知れぬが……」

「……(やっぱりいつもの事なのね……)」

 

 天魔と久々に声を交わす。実に三十年振りぐらいかな?

 途中の文のか細く呟いた声は無視しつつ、話を進めるとしよう。

 十年もあれば人は変わるとは言うけれども、百年経っても妖怪は変わらないものだ。

 

 

 

「それで、いきなり妖力を飛ばしおって何がしたかったのじゃ?」

「いんや、単に彩目が何処に居るかを調べたかっただけだよ?」

 

 そしてその本人は今、かなりの速度で此方に走ってきている。

 うむ、流石は私の娘である。もう少しで音速を超えれるぞ、ファイト!!

 

「さて、私は帰るわ。久々に動けたし」

「いやー、変な衝撃波を放って申し訳御座いませんでした」

「全くよ。まぁ、もっと精進しなさい」

「了解♪」

 

 

 

 そう言って、幽香が日傘をクルクル廻しながら帰っていった。

 

 ……あれだけ言っておきながら、傘を廻している辺り結構機嫌は良さそうに見える。

 まぁ、雑魚妖怪(私を含む)と大乱闘に無双を繰り広げたのだ。気分は良かろう。恐らく。

 

「……あれが本当に、噂の花妖怪なのか?」

「あれ? 天魔も知らないの? 流石にそんな事はないと思ってたけど」

「いや……何事もなく去っていったのじゃぞ?」

「……言いたい事はなんとなく分かった」

 

 つまり、幽香が山の近くに来た時は大概が荒れに荒れるのね……。

 ……なにやってんの幽香……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さーて、

 

「おっひさー♪ 彩目グフォウ!?」

「貴様はまた何をやらかしたんだ!? オイ! 答えろ!!」

「初っぱなから熱烈な肉体言語ですか!?」

「どうせ効いてないだろ?」

「いや、まぁ、そうだけど……」

「なら良いだろ」

「……いつからそんな不良少女になったんだぃ彩目ー? そういう娘は……お仕置きじゃー!!」

「反面教師が何を言う!?」

 

 もう止めてよ……私のHPは幽香の攻撃でもうゼロよ……。

 

「自分から振ってきたんだろうが!!」

「まぁね♪」

「……はぁ」

 

 何はともあれ、

 

「ただいま彩目♪」

「……はぁ。ああ、おかえり」

 

 うん。これでようやく自宅に帰ってきたって気分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして三人で自宅へと戻ってきた。天魔だけは帰っていった。

 アイドルが来たという事で舞い上がっている馬鹿天狗共を静粛するのだとか。

 

 ……あぁあ、いやだいやだ。

 自分が撒いた種だとしても、あぁ嫌だ嫌だ。

 

 

 

「……で、こちら射命丸文さん。弟子?」

「いや、私に訊かれましても……」

「んで、こちら彩目さん。私の娘」

「よろしく頼む」

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」

 

 てな訳で紹介してみた。何が『てな訳で』なのか知らないけど。

 

「……」

「……」

「……」

 

「……」

「……」

「……何か喋りなよ」

「……じゃあ、何故詩菜の弟子に?」

「……成り行き、ですよね?」

「……成り行き、だね」

「……あぁ……そうか」

 

「……」

「……」

「……えーと、じゃあ……文から何か質問は?」

「……では、何故彩目さんは敬語で親と話されないんですか?」

「……昔からの癖、かな?」

「……まぁ、憎んでたしね」

「……そう、ですか」

 

「……」

「……」

「……そういえば、慧音は?」

「ん? 途中で別れた。一人で旅をしてみて、自身の実力を知りたいそうだ」

「ふぅん。なるほどねぇ……」

 

「……」

「……」

「……そういえば、天魔についていかなくて良かったの?」

「ええ、詩菜さんを反面教師にして、組織社会を学んでこい。と天魔様が」

「私を反面教師って……」

 

 

 

「……」

「……」

「……」

 

 

 

 なんか喋れよ!?

 なんでこんな睨み合ってる状態なの!? ねぇ!?

 

「……はい。問題です。なんでこんなにも雰囲気が悪いんでしょうか?」

「「解りません」」

「お前ら仲良いだろホントはよぉぉぉ!?」

 

 もう嫌だよこんなのれないカラオケみたいのはさぁ……。

 こいつら睨み合ったまま、ひとっつも動こうとしないんだもん……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……おっけー、それなら私にも考えがある。

 

「よし……勝負しよう」

「……はい?」

「……何故?」

「こういう気まずい状況はなんやかんなで吹き飛ばす!!」

「なんやかんやって……」

「んー、ルールは……そうだなぁ」

 

 この二人。『もう片方』が来てからやけに機嫌が悪いのだ。

 となると……ハッ!?

 ……もしや私に対する嫉妬!?

 

 ……とかまぁ、こんな阿呆で恥ずかしい勘違いは置いといて。

 

「二対一で鬼ごっこでもしよっか」

「……その『二』というのは」

「勿論、お二人さん」

「「……」」

 

 彩目は私を捕まえる技術を、一時期とは言えかなり頑張っていたヒト。

 文は私に追い付ける程の速度を、一度は負けたが持っているヒト。

 

 双方が協力すれば、絶対に私を捕まえる事が出来るのだ。

 

「まぁ、もう真っ暗だけど……そう、だね。夜明けまでに私を捕まえる事」

「……はぁ、範囲はどれくらいなんだ?」

「とりあえず山一帯、かな?」

「……能力は使用可能ですよね?」

「無論おっけー、でいじょーぶ」

 

 

 

 私の家の玄関を開き、振り向いて、

 

「それじゃ、勝負開始~♪」

 

 

 

 ……ま、実の所、こんな雰囲気から逃げたいだけで私は彼女らの仲を取り持とうとは、あまり考えてなんかいなかったりする。

 いつものように『なるようになるでしょ』と考え、または『どうでもいい』とも考えている。

 それでも嫌い合う知り合い達、ってのはイヤだ。

 

 ……あれこれ言っているけど、要は、

 

 『逃げる!!』

 

 この一言である。

 スキマを開いて身を投じ、二人が驚き動きが止まってる間にさっさと逃げるべし。

 

「ちょっと!? スキマは卑怯でしょう!?」

「知るかバーカ!! 仲違いを続けたかったら協力して捕まえてみろ!!」

「お前の言っている事矛盾してないか!?」

「アディオスアミーゴォ!!」

「あぁ!! こら閉めんな!?」

 

 

 

 知らない知らない! なーんにも聴こえない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな駄々を捏ねる感じで二人から逃げ去った。

 さて、スキマに隠れはしたものの、ゲームを楽しむ為にもいつまでもこうしていても仕方がない。

 ステルスゲーム(かくれんぼ)を楽しもうじゃないのよさ。

 

 まず、身体全体から発せられる衝撃音を封じ込める。

 プラス、妖力と神力を限界まで抑え付ける。

 

 これでほぼ気配は隠した筈。後は視覚情報。

 要は『肉体をどうやって隠すか』だ。ステルス迷彩があれば一番楽。あの技術が完成するのは千年も先だろうけどね。

 

 風・鎌鼬の姿になるのは不味い。彩目には通用するかも知れないけど、文には決して通用しないだろう。

 なんたって彼女の能力は『風を操る程度の能力』である。問答無用で『風』になれば、位置がバレてしまう。

 となると、にボディペイントをして隠れるべきかな?

 

 

 

 そんな事を考えつつ、自宅にスキマを繋ぎ、辺りを充分に警戒しながら外へ飛び出す。

 

 ……うむ、姿も気配もない。予想通り二人は家を飛び出して行ったようだ。

 

 問題があるとしたら、彼女等二人は空を飛べる。という事だ。

 上空から探し回られれば、隠れるスペースはグンと減ってしまう。

 特に、文はその場合は要注意だな。

 

 そんな事を考えながら、家からまっすぐ歩き出す。

 ……ん?

 目の前に細いワイヤーのような物が……って、罠かこれ!?

 

 糸の先を見てみると、断頭台のような刃がズラリと並んでいる。

 完璧に殺す気じゃん……。

 糸を文が持っていた事や、何かの技で糸のような物を使った覚えもないから、これは全部彩目の仕業かな ?……しっかし、いつの間にこんな技術を……。

 

 

 

 これは……私も本気(マジ)でやらなければ……!

 

 糸を潜り抜け、近辺に何も仕掛けられていない木立にまで移動する。ここなら上空からも見えない。

 

 危険な事を犯していると解っているけども、本気でやるならば準備せねば。

 ……先にスキマを開いとくか?

 

 

 何はともあれ、

 能力を使って空間を圧縮。範囲は少なく数は多く。素早く細かく大量に造る。

 

「……ッ!」

 

 その動作だけで、真上から風を切り裂いて突っ込んでくる音がする。

 速い! もう見付かった!

 空間圧縮でおかしく動いた大気の変動を素早く見抜いた、って事は文かな。来ているのは。

 うーん、人間業じゃない!! 妖怪だから当たり前っちゃあ当たり前だけど。

 

「そこッ!! ……って、あら?」

 

 残念、そこにはもう居ないんだなー。既にスキマに隠れちゃったからさ。

 

 人間業じゃないのは、こっちもである。スキマほんと凄い。

 スキマとか、科学で解読出来たらその人を尊敬するね。

 そして解読出来たら、神様を超えれるね。うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 罠を確認して再度スキマから出て、様子見の体勢。

 

 彩目が罠を仕掛けながら私を探しているのなら、迂闊には動けないなぁ。

 つーか、何気に幽香との戦いの負傷が酷い。

 さっきの空間圧縮も結構キツかったし……大丈夫かな? これ?

 

 取り敢えず、さっきから痛かった右肩の打撲をなんとかしないと……。

 

 

 

 ぉぉおっとぉう!? 傷の様子を見ようとしたら、真後ろから槍が飛んできたぁ!?

 

「チッ、外したか!!」

「完全に殺す気満々だよコイツ!?」

「待てッ!!」

「誰が待つんだっての!!」

 

 追ってくる彩目と反対方向にダッシュする。

 

 そして予想通り、罠の大群が私を待ち構えていた。山の追い猟かっての!

 

 

 

 まぁ、突っ込むけどね。

 

「もうちょっと頑丈な糸と刃物にするこった!!」

「……~~~ッ! くそッ!!」

 

 糸を爪で斬って、飛んでくる刃物は衝撃刃や横からの打撃でぶっ壊して、

 

 大体、さっきの罠やこういう罠は、引っ掛かった誰かが罠の存在にすら気付いていない状況の場合で造られていた。

 つまり、対人用の罠なのだ。これ等は。

 対象が走っているか、それとも忍んでいるかによって調節具合が違うのだろうけど、そんなものは調節の範囲外から突破してやれば良い。

 

 そんなもの、人間から見て『常軌を逸した速度』で引っ掛かりまくれば、単なる御荷物となって罠は追ってくる奴等の障害物にしかなりえない、という訳だ。

 

 誰から学んだのか知らないけど、彩目も甘い甘い。

 スパァーツァぐらい持ってこないとねぇ? 

 フフ、まぁ無理だろうけど♪

 

 

 

 さて、これで彩目は問題ないとして、

 

「……問題はこっちの、天狗だなッ!!」

「今度こそ逃がしませんよ!!」

 

 罠をぶち壊したのは良かったとして、その時に出る破壊音が文を引き付けちゃったな。

 こっちは無茶苦茶速いから、振り切るのが大変だ。

 

 

 

 しかし、振り切るのが大変だ、ってね。

 前回の競走で、私は空間圧縮を使って『なんとか勝った』のである。

 一回目の競争は殆ど同じタイミングでゴールしたのだから、文とどちらが速いかというとほぼ同じなのである。

 にも関わらず、文は本気で追っているにも関わらず、私は悠々と前を走れているのは何故か?

 

「……ッ!! 貴女は……飛べないんじゃありませんでしたかッ!?」

「場合によるねッ!! 例えば……こんな感じに『木々を渡り跳ぶ』とかッ!!」

 

 忍者跳び、再び。ってね♪

 

 樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇。その速度で樹を蹴って速度上昇……。

 

 いやー、無限エンドレスって、恐いわぁ……。

 

 

 

 そんな感じで、これまた振り切る事に成功。

 ん~……ちゃんと山の周囲をぐるぐる廻ってたよね? よしよし。

 

 再三。今度はゆっくり確実に自宅に向かう。

 罠を確実迅速、尚且つ破壊せずにすり抜けて、可能な限り腰を曲げて、上空から見付からないようにかつ遅くならないように移動して。

 ようやく到着。

 

 

 

 ……ふぅ……う?

 

 

 

 あれ? 傷が回復してる?

 それどころか、妖力も回復してる?

 

 いつの間に回復したんだ? と考えて、考えるまでもない事だと言う事を思い出す。

 あぁ、今日が私の誕生日か。

 やべー、忘れてた。いかんいかん。鎌鼬の本質を忘れてた。

 

 

 

 ん゛~……ッはぁっ!

 

 よし! 背伸びして、体調良し! 万全!

 さぁさ、まだまだ鬼ごっこは続いてるよ? フフ♪

 

 

 

《夜明けまで、残り六時間》

 

 

 





 もう3時間もありませんけど、皆様良いお年を。



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